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弟に勝った僕、格闘コーチの母に殺された
弟に勝った僕、格闘コーチの母に殺された
Author: 匿名

第1話

Author: 匿名
ただ、学校の短距離走大会で、弟・黒木翔太(くろき しょうた)から一位を奪ってしまった。

それだけの理由で。

格闘技のコーチをしている母・黒木麗奈(くろき れいな)に、僕・黒木健人(くろき けんと)は肝臓が破裂するほど痛めつけられた。

息ができなくなり、薄れゆく意識の中で必死に母さんに助けを求めた。

けれど母は、僕を数メートル先まで蹴り飛ばすと、憎悪に満ちた顔で怒鳴りつけたんだ。

「どうしてあんたみたいなクズが育っちまったのかね!弟を泣かせてまで一位を奪って、そんなに嬉しいのかい!?」

意識が消えかける最後の数秒間、母が僕を激しく罵る声が聞こえていた。

僕は懇願した。

「母さん、助けて……もう、ダメだ……」

母が少しでも慈悲をかけて、救急車を呼んでくれさえすれば、僕は助かったかもしれないのに。

けれど返ってきたのは、憎悪に満ちた母の眼差しだけだった。

最後の助けを求める言葉は喉に詰まり、遠ざかっていく母と弟の背中を見つめながら……

僕は永遠に目を閉じた。

再び目を開けると、僕の魂は体から抜け出していた。

魂は僕の意志とは無関係に、母の後をついてふわふわと漂い始めた。

結局、母は病院にいた。弟の翔太が短距離走大会で腕にかすり傷を負ったからだ。

ただそれだけで、母はまるで大惨事でも起きたかのように慌てふためき、翔太を救急外来に連れ込んでいたのだ。

僕は思わず苦笑してしまった。

僕は死にかけていたのに、母は見向きもしなかった。それなのに今、弟のただのかすり傷を見て、まるで空が落ちてきたかのように騒いでいる。

医者が消毒用アルコールを塗ると少し沁みたのか、翔太は我慢できずに声を上げた。

それを見た母は胸を痛め、僕に向かって罵詈雑言を吐き始めた。

「っ、あのクズめ。短距離走なんかに出て、あんたを転ばせて怪我させるなんて……本当に死ねばいいのに。覚えてなさい、あいつが帰ってきたら、ただじゃおかないからね!」

言葉が終わるや否や、翔太はいつもの「悲劇の主役」ぶった演技を始めた。

「母さん、違うよ。僕が不注意で兄さんにぶつかっちゃっただけなんだ。この怪我は兄さんのせいじゃないよ」

翔太の言葉を聞くと、母はさらに彼を庇い立てた。

「翔太、これからは何でもかんでも兄に譲るんじゃないよ。わかったかい?そんなに優しくしてたら、あいつはますますつけ上がるんだから。

あの性根の腐ったクズめ。私が説教してる間も、地面でじっと私を見つめて、微動だにせず死んだふりなんかしてさ。あいつが帰ってきたら見てなさい、たっぷりお仕置きしてやるから!」

その後、翔太はうつむいた。

母からは見えない角度で、口の端を歪め、意地悪く笑ったのを僕は見た。

しばらくして、母のスマホがけたたましく鳴った。

「もしもし、健人さんのご家族ですか?こちら病院の救急救命室です……残念ですが、健人さんが亡くなりました。手続きが必要ですので、至急いらしてください」

それを聞いても、母は全く信じようとしなかった。

「はあ?死んだ?あんたたち頭おかしいんじゃないの!暇だからってあのクズと一緒になって私を騙そうとしても無駄だよ!言っとくけどね、私忙しいんだから!

それと!あのクズにさっさと家に帰るように伝えな!兄のくせに兄らしい振る舞いもできないなんて……帰ってきたらタダじゃ済まさないってね!」

相手が口を開く間もなく、母は一方的に電話を切った。そしてすぐに翔太に向かって言った。

「翔太、今の腹いせは母さんがしてやるからね。あのクズが帰ってきたら、あんたの前に土下座させて謝らせてやる!」

その時、椅子に座って足を組んでいた翔太は、白々しく言った。

「いいよ母さん、僕そんなこと全然気にしてないし」

ずっと傍観していた僕は、また笑ってしまった。

昔からそうだ。翔太はいつも悪いことをやり尽くした後で、そうやって無実の被害者を演じる。

そうすれば両親は彼をより一層愛し、憐れみ、そして僕への憎悪を募らせるのだ。

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