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第2話

Author: サンドクッキー
「本当に離婚する気か?」

私が黙り込みすぎたせいだろうか。いつの間にか、朔也が顔を上げて私を見ていた。

私は彼の顔を見つめ、静かに口を開いた。

「はい」

私と朔也は、家柄、社会的地位、それに見た目、お世辞にも釣り合っているとは言えなかった。

それでも朔也が私を妻に選んだのは、私が従順で、物分かりが良かったからに他ならない。

この数年間、朔也に気に入られようと必死だった。

だから、私はずっと、二つのルールを守ってきた。

朔也を怒らせるようなことは言わない。

朔也を怒らせるようなことはしない。

「お前……」

朔也が言い終わる前に、社長室のドアが不意に開けられた。

予想外のことなことに、そこに立っていたのは凛音だった。

朔也には、家に連れ込んだ女を会社に連れてこないという、妙なこだわりがあったからだ。

でも、凛音は例外だった。

「酒井社長、お邪魔だったかな?」

凛音の顔を見ると、朔也の目つきが少しだけ和らいだ。

「大したことじゃない。少し待っていてくれ。お前と勲との約束は忘れてない」

凛音はにっこり笑って言った。「覚えててくれたならよかったわ」

笑えてくる。私が離婚を切り出しているというのに、朔也の目には取るに足らない「大したことじゃない」用事らしい。

普段は決して頭を下げない朔也が、凛音に急かすような視線を送られると、仕方なく私に折れた。

「昨日の食事会で、酒井家の連中に嫌な思いをさせられたのなら謝る。もう二度とあんなことはさせないと約束する」

凛音も話に乗ってきた。

「加奈子さん、もうすぐ遊園地の開園時間なの。勲くんが車で待ってるよ。

お願いだから、酒井社長を解放してあげてくれないかな?」

指先が微かに震えた。これまで数え切れないほど、勲を遊園地に連れて行こうと提案してきたのに。

勲はいつも、鼻で笑ってあしらうだけだった。

「ママ、いい大人がさ、そんな子供みたいなこと言わないでよ。あんな所に行ったって、時間の無駄だよ」

今、私はこみ上げてくる惨めさをぐっとこらえ、何度も修正を重ねた離婚協議書を指さした。

「サインして。そうすれば、すぐにここからいなくなるわ。もう二度とあなたたちの邪魔はしないから」

そこで凛音は、机の上の離婚協議書に初めて気づき、ぱっと目を輝かせた。

「酒井社長、私、席を外した方がいい?」

口ではそう言いつつも、その場を離れようとする素振りを少しも見せなかった。

朔也は眉をひそめ、タバコの火を消した。

「いや、いい」

それが、彼が本気で怒り始めたときのサインだと分かっていた。

以前の私なら、朔也の顔色をうかがってすぐに謝っていたはずだ。でも、今の私はもう何も感じない。もう、どうでもよかった。

「酒井社長、加奈子さんが離婚したいって騒いでるのって、もしかして私のせいなの?」

凛音は急に悲しそうな顔で唇を噛み、慌てて謝ってみせた。

「ごめんなさい、昨日の夜、私が連絡もなしに酒井社長の家に行ったから……加奈子さんを怒らせてしまったのね。全部、私のせい」

凛音はうつむいて私の手首を強く握りしめ、申し訳なさそうに涙をこぼした。

でも、手首に走る鋭い痛みは、あまりにも強烈だった。

朔也には見えない角度で、凛音は唇の動きだけで挑発してきた。

[夫にも息子にも捨てられたのね、ざまあみろ]

怒りは全く湧いてこなかった。ただ、おかしくて仕方なかった。

凛音の指を一本ずつ剥がしていくと、彼女は突然よろけて床に倒れ込んだ。

こんな下手くそな芝居でも、朔也は信じた。

そして、ちょうどドアを開けて入ってきた勲も。

「いい加減にしろ!」

「ママ、どうかしてるよ!なんで凛音さんに手を上げるんだよ!」

その瞬間、私の夫と息子は、二人そろって別の女のために私を責め立てていた。
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