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第4章

last update Data de publicação: 2026-09-03 09:35:31

クリニックを出たあと、ジュリアは階段の途中で数分間立ち止まった。

胸元に医療記録の入ったファイルを強く抱きしめる。

まるで、それだけが彼女を安心させてくれる唯一のもののようだった。

自分のお腹の中で、小さな命が育っている。

その事実を知ったばかりだった。

本当なら、笑顔になっているはずだった。

心が軽くなり、幸せを感じているはずだった。

なのに、胸の奥には大きな空虚感が広がっていた。

数分後、ジュリアはタクシーに乗り込んだ。

車が走り出してからも、彼女は窓の外を流れていく街の明かりを見つめ続けていた。

けれど、その光景はほとんど目に入っていなかった。

車が屋敷の前に止まったとき、時刻はもう午後十一時近くになっていた。

屋敷は静まり返っていた。

静かすぎるほどに。

ロドリゲスは、まだ帰ってきていなかった。

ジュリアはゆっくりと二階へ上がった。

一歩、また一歩。

足取りは、進むほど重くなっていった。

寝室に入ると、鏡の前で何気なくイヤリングを外した。

そのときだった。

彼女の視線が、ベッドの中央に置かれた上品な黒い箱に止まった。

ジュリアはわずかに眉をひそめた。

心臓が少し速く鼓動し始める。

これは……プレゼント?

自分に?

結婚して四年。

ロドリゲスが何かの記念日でもないのに、彼女へ贈り物をしたことなど一度もなかった。

それなのに、なぜ今夜?

子どものような戸惑いを抱えながら、ジュリアはゆっくりと箱へ近づいた。

指先でそっと蓋に触れる。

そして、慎重に開けた。

中には、とても美しいネックレスが入っていた。

細いホワイトゴールドのチェーン。

その先には、雫の形をしたペンダントが揺れていた。

中央には大きなダイヤモンドが輝き、その光が部屋の中をきらめかせている。

ジュリアは言葉を失った。

気づけば、唇には小さな笑みが浮かんでいた。

ほんの一瞬だけ。

彼女の心は、ありえない可能性を信じようとした。

もしかしたら……。

もしかしたら、彼は自分のことを考えてくれたのかもしれない。

もしかしたら、二人の関係も少しずつ変わり始めているのかもしれない。

ジュリアはうっとりしながら、そっとネックレスを手に取った。

その瞬間――

ドアが開いた。

ロドリゲスが寝室に入ってきた。

ジャケットをまだ肩に掛けたままだった。

長い一日の疲れが、その顔にははっきりと浮かんでいる。

しかし、ジュリアの手にあるネックレスを見た瞬間、彼の表情が一変した。

顔から温かさが消える。

ロドリゲスは素早く彼女の前まで歩いてきた。

「誰がそれに触っていいと言った?」

冷たい声だった。

まるで氷のように。

ジュリアはびくっと肩を震わせた。

数秒前まで浮かんでいた笑顔が、一瞬で消える。

「わ、私は……てっきり……」

最後まで言い終えることさえできなかった。

ロドリゲスは、ほとんど乱暴に彼女の手から箱を取り上げた。

「それは君のためじゃない」

その言葉が、ジュリアの胸を深く突き刺した。

喉が締めつけられる。

「ごめんなさい……」

それだけを、かすかな声で呟いた。

ロドリゲスは彼女を見ることなく、丁寧に箱を閉じた。

その動作だけは、驚くほど大切そうだった。

「ダイアナへの歓迎の贈り物だ。何年も離れていたんだ。彼女に何か贈るのは当然だろう」

ジュリアの身体が強張った。

そういうことだったのだ。

ダイアナのため。

自分のためではない。

やっぱり、自分ではなかった。

結婚して四年。

ロドリゲスは一度も、彼女のために宝石を選んだことがない。

彼女を喜ばせようと思って、何かを贈ったこともない。

それなのに、ダイアナのためなら……。

こんなにも美しいネックレスを選ぶために、時間をかけたのだ。

ジュリアは、涙がこぼれる前に俯いた。

何度も瞬きをして、涙を必死にこらえる。

「分かったわ」

その声は静かだった。

静かすぎるほどに。

ロドリゲスは、彼女の手が震えていることにさえ気づかなかった。

彼は箱を持って自分の書斎へ向かった。

そして、そこへ大切そうにしまった。

その後、何事もなかったかのように寝室へ戻ってきた。

「明日は帰りが遅くなる」

ロドリゲスが淡々と告げる。

「会社への彼女の復帰準備のために、ダイアナといくつか会議がある」

その言葉を聞いた瞬間、ジュリアの手が無意識にお腹へ伸びた。

ほんの小さな仕草だった。

ほとんど自分でも気づかないほどの。

そこには、彼女の人生に新しく加わった小さな命がいる。

そして、その子の父親はまだ、その存在すら知らない。

ジュリアはゆっくりと息を吸った。

「分かったわ」

ロドリゲスは数秒間、彼女を見つめた。

そして、彼女の顔をじっと見た。

「何か言いたいことがあるのか?」

その瞬間、ジュリアは迷った。

心臓が激しく鼓動し、胸が痛くなるほどだった。

バッグの中に隠している医療記録を思い出す。

そして、自分のお腹の中で育っている赤ちゃんのことを思った。

言葉はもう、喉元まで来ていた。

たった一言、伝えればいい。

――「あなたは父親になるのよ」

でも、すぐにネックレスが脳裏に浮かんだ。

そして、あの冷たい声が耳の奥で蘇った。

――「それは君のためじゃない」

ジュリアは、胸の痛みを飲み込んだ。

そして、疲れ切ったような小さな笑みを浮かべる。

「ううん……何でもないわ」

ロドリゲスはただ頷いた。

それ以上、何も尋ねなかった。

しばらくして、彼は部屋の明かりを消した。

暗闇が二人を包み込む。

やがて、ロドリゲスの呼吸は穏やかで規則正しいものになった。

もう眠っていた。

けれど、ジュリアは目を開けたまま、暗闇を見つめていた。

静かな涙が頬を伝い、枕を濡らしていく。

彼女はようやく理解した。

これまで何年も認めることができなかった現実を。

愛は、乞うものではない。

誰かに心を開くよう強制することもできない。

どれほど自分を犠牲にしても。

どれほど長い年月を待ち続けても。

ジュリアはそっとお腹に手を置いた。

今度は、かすかだけれど心からの笑顔がその顔に浮かんだ。

「私の小さな宝物……」

彼女は小さな声で囁いた。

「約束するわ。ママがここにいる限り、あなたが愛に飢えることなんて絶対にないから」

まだ声は震えていた。

それでも、心の奥底では何かが変わり始めていた。

初めてだった。

彼女はもう、夫婦関係を守ることだけを考えるのをやめた。

これからは、自分の子どもを守らなければならない。

そして、自分自身も守らなければならない。

---

同じ頃。

街の別の場所にある豪華なヴィラでは、ダイアナが届けられたばかりの上品な黒い箱を開けていた。

中に入っていたダイヤモンドのネックレスを見た瞬間、彼女の顔に満足げな笑みが浮かんだ。

指先で、優しくペンダントを撫でる。

「やっぱり……あなたは私を忘れていなかったのね、ロドリゲス……」

ダイアナはゆっくりと箱を閉じた。

そして、自分にはまだこの男の心の中に居場所があるのだと確信していた。

しかし、彼女は知らなかった。

すでに、もっと深く、もっと強い絆が生まれていることを。

誰にも知られない場所で。

ジュリアの胸の中で、小さな命が鼓動を始めていた。

そして、その秘密はやがて、NLE家全員が信じていたものをすべて打ち砕くことになる。

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