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第243話

Author: 藤崎 美咲
いや、違う。それだけじゃない。

自分の知らないことが、まだあるのかもしれない。

星乃はいつだって、いいことしか話さない人だった。自分が家に帰るたび、彼女はいつも笑顔で迎えてくれた。

そのとき、自分は何を考えていたんだろう。

結衣が海外で苦労していると聞いていた。毎日が大変で、心身ともに追い詰められていたはずなのに、どうして星乃は、あんなに明るく笑っていられたんだろう。

だから彼はよく冷たい態度を取った。

わざと彼女の機嫌を損ねるようなこともした。

二年前、星乃が「誰かが別荘に侵入した」と必死に訴え、防犯カメラをつけたいと言った。

けれど悠真は即座に却下した。

監視されるような感覚が、どうしても嫌だったのだ。

だが今になって、彼は少しだけ後悔している。

――「後悔」なんて、今までしたことがなかったのに。

どんな決断も、振り返ることはなかった。

星乃との結婚だって、気が進まなかっただけで、後悔なんて感じなかった。

結衣が苦労していたと知ったときも、申し訳なさはあっても、まず考えたのはどう償うか、ということだった。

なのに今、こんなことで後悔している?

悠真はこめかみを押さえた。

頭の中がぐちゃぐちゃにかき乱されている。

「悠真」

背後から結衣の声がした。

振り向くと、彼女は部屋の真ん中に立っていた。

手にはスーツケース。まるで今すぐ出て行くような気配だった。

悠真は一瞬言葉を失った。「何してるんだ?……」

「ごめんなさい、悠真」結衣はそっと目を伏せ、静かに言った。「あの事故のことも、星乃が流産したことも、あなたが私を憎んでるのはわかってる。

車の中に星乃がいたなんて、知らなかった。でも結局、事故を起こしたのは私。私の車が制御を失って、星乃からあの子を奪ってしまった。あなたと星乃の間を壊したのも、私のせい。

最近、あなたが私を避けて会社に泊まり込んでるのも知ってる。でも……そんな姿を見てるのが、もうつらいの。

もし私の存在があなたを苦しめるのなら、私は出て行く」

結衣はかすかに笑って、スーツケースの持ち手を握り直し、玄関のほうへ歩き出した。

悠真はその華奢な背中を見つめながら、眉を寄せた。

今日、彼が戻ってきたのは、もともと結衣を出て行かせるつもりだった。けれど今は、胸の奥に言葉にできないざらついた痛みが残っている
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