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第4話

Penulis: 夜凪
last update Terakhir Diperbarui: 2026-01-15 13:48:45

カフェを出ると、夜風が思ったよりも冷たかった。

「寒くないですか?」

白石さんが、こちらを見て言う。

「……大丈夫です」

そう答えたけれど、少しだけ嘘だった。

そのことに気づいたのか、白石さんは自分のコートの前を軽く押さえながら、歩く速度をわたしに合わせてくる。

並んで歩く道。

会社から駅までの、いつも通っているはずの道なのに、景色が違って見えた。

沈黙はあった。

でも、それは居心地の悪いものじゃない。

「さっきの話なんですけど」

白石さんが、前を見たまま口を開く。

「視線、感じるって言ったじゃないですか」

「……はい」

心臓が、また少しだけ速くなる。

「最初は、たまたまかなって思ってたんです。でも」

白石さんは、ちらりとこちらを見る。

「だんだん、分かるようになってきて」

「……」

「篠原さんが、どんなときにこっちを見るのか」

そんなところまで、見られていた。

「仕事してるときとか、集中してるときは、全然見ないんですよね」

「……」

「でも、誰かと話してるとき」

言葉が、止まる。

わたしは、思わず足を止めていた。

白石さんも、それに気づいて立ち止まる。

「……嫌でしたか?」

少しだけ、不安そうな声。

「……違います」

慌てて首を振る。

「ただ……そんなふうに、見られてるとは思ってなくて」

正直な気持ちだった。

白石さんは、ほっとしたように息を吐く。

「よかった」

その表情を見て、胸がきゅっとなる。

「篠原さんって、分かりやすいです」

「え……?」

「目が」

白石さんは、自分の目元を指で示す。

「すごく正直」

そんなふうに言われたことはなかった。

「……褒めてます?」

「はい」

即答だった。

「ちゃんと、気持ちがある人の目をしてるなって」

それ以上、何も言えなかった。

駅が見えてくる。

改札の明かりが、少し眩しい。

「……ここで」

白石さんが言う。

「別れですね」

「……はい」

そう答えながら、内心では、もう少し一緒にいたいと思っていた。

「今日は、ありがとうございました」

白石さんは、少しだけ頭を下げる。

「こちらこそ」

言葉が、形式的になってしまう。

一歩、踏み出そうとして、白石さんが足を止めた。

「……あの」

「はい」

「また、こうやって話してもいいですか?」

問いかける声は、控えめで、でも真剣だった。

「……もちろんです」

そう答えた瞬間、白石さんの表情が、ふっと柔らぐ。

「よかった」

それだけ言って、白石さんは改札の向こうへ歩いていった。

背中を見送りながら、胸の奥がじんわりと温かくなる。

——また。

その言葉が、頭の中で何度も繰り返される。

帰りの電車の中。

窓に映る自分は、少しだけ表情が違っていた。

口元が、ほんのわずかに緩んでいる。

家に着いても、すぐには眠れなかった。

ベッドに横になり、天井を見つめる。

白石さんの声。

視線。

笑い方。

一つ一つを思い出しては、胸が静かにざわつく。

——彼女には、彼氏がいない。

その事実を知った日から、世界が少し変わった。

そして、今日。

彼女が、わたしを見ていたこと。

気づいていて、それでも嫌じゃなかったこと。

それが、何を意味するのか。

まだ、答えは出ない。

でも。

目を閉じると、白石さんの横目が浮かんだ。

男性と話しながら、こちらを見る、あの視線。

——あれは、ただの癖じゃない。

そう思ってしまう自分がいる。

翌朝、会社に向かう足取りは、いつもより少しだけ軽かった。

オフィスに入ると、白石さんはもう席にいた。

わたしに気づくと、ほんの一瞬、こちらを見る。

そして、口元だけで、そっと笑った。

その瞬間、胸の奥が、確かに高鳴った。

わたしは、自分の席に座りながら、思う。

これから、どうなっていくのだろう。

怖さは、ある。

踏み込めば、今の距離は壊れてしまうかもしれない。

それでも。

少しずつでいいから、近づいてみたい。

彼女を、見るだけじゃなく。

ちゃんと、向き合ってみたい。

そんな気持ちが、確かに芽生え始めていた。

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