月が紡ぐ心〜君と僕が再び出会う時

月が紡ぐ心〜君と僕が再び出会う時

last updateLast Updated : 2025-11-09
By:  空蝉ゆあんCompleted
Language: Japanese
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遠い日に貴方と出会った。 心の痛みを和らげるように、あの日の事を忘れようとしたあたし。 彼から貰ったプレゼントが二人を繋ぐ。

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Chapter 1

はじまり

◇◇◇◇◇◇◇◇第一話◇◇◇◇◇◇◇◇

綺麗な声が聞こえる。あたしの名前を呼んでいるその声はどこか悲しそうだ。聞いた事のない声なのに、心臓が貫かれたように痛い、痛い。まるで魔法にかかったように、涙が出てくるのはどうしてだろう。

「やっと見つけた」

誰かがあたしの体を抱きしめて、放さない、放してくれない。視線の先には誰もいないのに、優しい温もりを感じてしまう。そのたびに涙が溢れて、どう止めればいいのか分からずにいる自分がいる。

「なん……でっ、とまら……ないのっ」

ぐしゃぐしゃな声は夜空に響いて、月へと語り続ける。

現実を直視しないように、両手で顔を隠す事しかできなかった。

◇◇◇◇

泣いている貴方がいる。

あたしはアタフタしながら彼の涙を唇ですくう。

「あたしがいるよ?」

一人じゃないからと、ギユッと抱きしめると彼の体は砕け、あたしは一人ぼっちになったの。

第一章~月が繋ぐ心

小さい頃、誰か・・から手鏡を貰った。記憶の中でぼやける人は男の子だった気がする。モノクロで彩られた景色の中であたしの手へと握らせる。彼の顔は真っ黒で、誰だか、どんな子なのか分からない。それでも懐かしさを感じながら、今のあたしは手鏡を大切そうになぞる。

「もう一度会えるよ、手鏡それを持っていれば……きっと」

彼の声は聞こえないはずなのに、心にダイレクトに響いてくる言葉の数々。記憶が曖昧なのに、どうしてだか、その約束は事実だと思った。

忘れていても、無意識に覚えているのだろうか。

大切で大切で、手放す事なんか出来なかった。

【君に出会う為なら、どんな事もいとわない。それが君自身の人生を変える事になっても】

声は繋ぐ、涙が空を創る、君は僕を追いかけてくる。そして僕はこの世界で待ち続ける。

彼女は僕がプレゼントした手鏡それで自分の顔を見つめる。目を腫らしながら、涙を拭く君を愛おしく思う。

これは僕の我儘かもしれない、それでももう一度、君と同じ時を生きていきたい。

「僕のところへとおいで」

鏡を通して見える君へと届くように言葉を創る。僕は大きな鏡にそっと手を翳すと、空間の歪みが少しずつ開いていく。この世界で起こる事は彼女の世界でも起こる。連動している世界はゆっくりと呼吸を取り戻しながら、彼女の体を包み込んだ。

シュンと、風の音と共に消える彼女の姿。今度は成功したようだ。

君に会いたいという願いを月の光が受け取り、現実を混ぜていく。

それはまるで絵具が混ざるように、美しい始まりだった。

◇◇◇◇◇◇◇◇第二話◇◇◇◇◇◇◇◇

遠くから女の人の声が聞こえてくる。優しいお母さんのような声。体をカクカクと揺さぶられているみたい。少し頭が重たい気がする。

導かれるように目を開けると見た事もないドレスに身を包んでいる姿が視界に入ってきた。まるで舞踏会に出るような姿に見とれてしまいそうになる。

「大丈夫ですか?」

心配するように覗き込んでくる女性の顔を見ると、声を失った。どこかで見た事があると思いながら、ぼやけた頭で思い返すとあたしにそっくりだったのだ。

「貴女は……」

まだ状況が掴めないあたしは、とりあえず目の前の女性を見つめる。

彼女も驚いたような顔をし、数秒フリーズする。

(あたしと同じ反応、そりゃそうか)

だってそっくりなんだもの。まるで鏡で自分を見ているようだった。だから彼女の反応は正常。あたしも同じ反応をしていたはずだし、仕方ないわよね。

そんな事を考えていると、ふっと我に返ってきた彼女は困ったように口を開き、こういった。

「サリア……?」

「え?」

「貴女サリアよね、手鏡それダーシャ様と私が貴女にプレゼントしたものだもの」

あたしの名前は伊藤サリア。どうして名前を知っているのだろうと困っていると、急に抱きしめられた。

「やっと会えた。急にいなくなって……私達がどれほど心配したか分かっているの?」

彼女の言葉の意味が理解出来ないあたしは口をあんぐり開け、みっともない表情になっていると思う。この人の事なんて知らないし、どうしてあたしの名前を知っているのか分からずにいる。

「この十年間、どこにいたの……」

「あの……」

人違いだと言いかけた言葉を遮るように、後ろから抱き着かれた。あたしの前には女性がいる。後ろからぬっと出てきた手は男性の手のようで、身動きがとれずにいた。

「ひやっ」

急な出来事に驚いたあたしは変な声を出しながら、ビクリと反応する。後ろ髪をくすぐるように、囁きかける息。力強さを感じながらも、振り向こうとしていた。

「ダーシャ様、サリアが……サリアが」

あたしの後ろの人物の正体が分かったみたいだ。まだ把握出来ていないけど、ダーシャと言う人らしい。

「ヒエン、落ち着け。こうしてサリアが戻ってきたんだ。喜ぶのが先だろう?」

「そうですわね」

「なぁ?サリア」

ダーシャの鼻先があたしの首をくすぐる。どこかで同じ事があったように思いながらも、そのまま身を預けるしかなかった。

あたし達三人を包む景色は、緑色。大草原の中で立ち尽くしながらも、流れに身を任せる事の心地よさを感じているあたしがいたの。

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◇◇◇◇◇◇◇◇第一話◇◇◇◇◇◇◇◇ 綺麗な声が聞こえる。あたしの名前を呼んでいるその声はどこか悲しそうだ。聞いた事のない声なのに、心臓が貫かれたように痛い、痛い。まるで魔法にかかったように、涙が出てくるのはどうしてだろう。 「やっと見つけた」 誰かがあたしの体を抱きしめて、放さない、放してくれない。視線の先には誰もいないのに、優しい温もりを感じてしまう。そのたびに涙が溢れて、どう止めればいいのか分からずにいる自分がいる。 「なん……でっ、とまら……ないのっ」 ぐしゃぐしゃな声は夜空に響いて、月へと語り続ける。 現実を直視しないように、両手で顔を隠す事しかできなかった。 ◇◇◇◇ 泣いている貴方がいる。 あたしはアタフタしながら彼の涙を唇ですくう。 「あたしがいるよ?」 一人じゃないからと、ギユッと抱きしめると彼の体は砕け、あたしは一人ぼっちになったの。 第一章~月が繋ぐ心 小さい頃、誰かから手鏡を貰った。記憶の中でぼやける人は男の子だった気がする。モノクロで彩られた景色の中であたしの手へと握らせる。彼の顔は真っ黒で、誰だか、どんな子なのか分からない。それでも懐かしさを感じながら、今のあたしは手鏡を大切そうになぞる。 「もう一度会えるよ、手鏡を持っていれば……きっと」 彼の声は聞こえないはずなのに、心にダイレクトに響いてくる言葉の数々。記憶が曖昧なのに、どうしてだか、その約束は事実だと思った。 忘れていても、無意識に覚えているのだろうか。 大切で大切で、手放す事なんか出来なかった。 【君に出会う為なら、どんな事も厭わない。それが君自身の人生を変える事になっても】 声は繋ぐ、涙が空を創る、君は僕を追いかけてくる。そして僕はこの世界で待ち続ける。 彼女は僕がプレゼントした手鏡で自分の顔を見つめる。目を腫らしながら、涙を拭く君を愛おしく思う。 これは僕の我儘かもしれない、それでももう一度、君と同じ時を生きていきたい。 「僕のところへとおいで」 鏡を通して見える君へと届くように言葉を創る。僕は大きな鏡にそっと手を翳すと、空間の歪みが少しずつ開いていく。この世界で起こる事は彼女の世界でも起こる。連動している世界はゆっくりと呼吸を取り戻しながら
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