LOGIN遠い日に貴方と出会った。 心の痛みを和らげるように、あの日の事を忘れようとしたあたし。 彼から貰ったプレゼントが二人を繋ぐ。
View More◇◇◇◇◇◇◇◇第一話◇◇◇◇◇◇◇◇
綺麗な声が聞こえる。あたしの名前を呼んでいるその声はどこか悲しそうだ。聞いた事のない声なのに、心臓が貫かれたように痛い、痛い。まるで魔法にかかったように、涙が出てくるのはどうしてだろう。 「やっと見つけた」 誰かがあたしの体を抱きしめて、放さない、放してくれない。視線の先には誰もいないのに、優しい温もりを感じてしまう。そのたびに涙が溢れて、どう止めればいいのか分からずにいる自分がいる。 「なん……でっ、とまら……ないのっ」 ぐしゃぐしゃな声は夜空に響いて、月へと語り続ける。 現実を直視しないように、両手で顔を隠す事しかできなかった。 ◇◇◇◇ 泣いている貴方がいる。 あたしはアタフタしながら彼の涙を唇ですくう。 「あたしがいるよ?」 一人じゃないからと、ギユッと抱きしめると彼の体は砕け、あたしは一人ぼっちになったの。 第一章~月が繋ぐ心 小さい頃、◇◇◇◇◇◇◇◇第七話◇◇◇◇◇◇◇◇ あたし達はゆっくりと歩いている。歩くのが遅いあたしを気遣いながら歩幅を合わせてくれる。ダーシャは何処かの王子のような服装だ。まるでゲームや漫画に出てくる登場人物のようで、夢を見ているみたいだった。顔も整っている彼は、確実に女性からモテるだろう。彼はあたしを特別視しているようだけれど、きっと美しいお姫様みたいな人が現れると、何処か遠くへ行ってしまうんじゃないかって思ってしまう。 傍にいたくても、手の届かない存在── 頭の中は不安でいっぱい。知らない世界で知らない人々が行き交う街並み。あたしの知っている日常とは全くの別物だから、現実感が全くないの。ふう、と息を吐くと寒さの中で色を取り戻していく。遠くに忘れていた色が映えるように、再び動き出すように、あたしの白い息が目の前に広がってゆく。 「ここはライカの街。他の街には雪は降らないのに、この街だけは違う」 「そうなの?」 「ああ。毎日降っているんだ。寒いけど美しい」 「……貴方みたい」 ポツリと呟くように吐いた言葉は当然彼の耳には届かなかった。ダーシャは「何か言ったかい?」と顔を覗き込むように聞いてきたけど、何も言ってないと断言する。咄嗟に出た言葉は純粋なもので、そこには何の汚れもない。どうしてだか「素直」になれないあたしがいる。 雪がホロホロと舞い散りながら、全身を包み込んでいく。ぶるる、と体を震わすと、ダーシャは自分の羽織っているものを私の背中に回した。 「寒いよね。少しはマシになるといいんだけど……」 「風邪ひいちゃうよ?」 「僕は頑丈なんだ。それに寒さには慣れてる。この街を中心に動いているからね」 「……そうなんだ」 「ありがとう」
◇◇◇◇◇◇◇◇第五話◇◇◇◇◇◇◇◇ 風は星のように降り注ぎながら馬車は走り続いていく。あたしの心を置き去りにしてただ前へ前へと。あたしは男の子の影を追い続けていた。何か大切なものをなくしたようにぽっかり心に穴を開けて。正直ヒエンの事もダーシャの事も、何も覚えていない。10年前にいなくなった子と似ているから、勘違いしているだけじゃないかとか思っても、なんだかしっくり来なかった。 「ダーシャ? 考え事?」 「ん? ああ」 「ふうん」 何を考えているのか知りたかったけど、そこは彼の心の部分に触れる気がして怖かった。だからそっと横顔を見ながら考えてみた。もしあたしがいなくなったサリアだったとして、この世界でいた頃の事を忘れていたとしたら、彼はどんな顔をするのだろう、どんな気持ちになるのだろう。ダーシャは完璧って感じの男性で隙がないように思う。だから余計に考えている自分がいる。 ──ズキン どうしてだろうか、ダーシャの立場をあたしに置き換えて考えてみると心が痛くなる。あの時の涙と同じでポロポロ零れ落ちそうになりそう。正直、泣き顔なんて誰にも見られたくない。自分がどうしてここまで感情的になるのかも分からない。 気づかれないように、髪で顔を隠した。 「サリア、どうした?」 「……」 話すと泣いている事がバレてしまう。それが恥ずかしくて苦しくて、どうしても無言になる。顔も見られたくない、どうしてだか、ダーシャにはこんな表情見られたくないの。 髪で隠していたはずの瞳はダーシャの手によって露わになる。彼は優しくあたしの瞼にキスをし、涙を拭う。こんな事、平気で出来てしまうのはあたしにだけ? それとも他の女性にもしているのだろうか。そう思うと切なくなる。 (どうしてこんな気持ちになるの? あたし何かを知ってるの?) ぐしゃぐしゃになっていく自分、ずっと抱え込んでいた気持ちを放出するように泣きじゃくる。まるで子供のようだ。だけどどうしてだか、ダーシャの手が温かくて、素直なあたしに変えていく。まるで魔法にかかったようで不思議に落ち着く。 「ゆっくりでいい」 そう耳元で呟くダーシャの吐息がくすぐったい。ん、と瞼を閉じてしまう。今のあたしはきっと顔も目も真っ赤なのだろう。馬車の隙間から風が舞い込んでくる。あたしとダーシャを包み
◇◇◇◇◇◇◇◇第三話◇◇◇◇◇◇◇◇歩くのは大変だからとダーシャの馬車へと乗る。ヒエンは別の馬車だ。ここが何処だか分からない。見た事もない景色。あたしは自分の家でいたはずなのに、どうしてこんな事になっているのかと頭を悩ませてしまう。 うろ覚えだけど、あの男の子から貰った手鏡で自分の顔を見ていたら、吸い込まれるようにこの訳の分からない状況になってしまったようだ。これは夢なの……かな?そう思う事で現実を見ようとしてなかった。 ダーシャと名乗る男、初めて見る人なのに、どうしてだか懐かしさを覚えてしまう。変な感じ。どこかで会った事があるような違和感を覚えながらも、抵抗をするより、二人についていく事に決めたの。自分の状況を確認するってより、これは夢だろうから、少し冒険したい気持ちが膨れたんだと思う。 ふうとため息をつきながら、景色を見つめた。綺麗な草原の中に牧場らしき場所がある。先ほどまで緑一色だったのに、急に表れた牧場光景を見ていると、なんだか癒されている自分がいた。 「綺麗な景色だろう?」 急に話しかけてくるダーシャの声が体を包み込んでくる。まるで抱きしめられているような錯覚を覚えたあたしは、顔を真っ赤に染めながら、コクンと頷いた。 「ヒエンは君の事を理解出来てない。君があちら側の世界から来た住人だと気づく事もないだろうから、安心しなさい」 「えっ……」 その言葉を聞いて、彼の方に視線を向けた。すると彼の瞳はジイッとあたしを見つめて離さない。柔らかな表情を向けるダーシャにドキドキしてしまう。 (知らない人なのよ?何ときめいてんの、あたし) 心の中で邪念を振り払う。これは夢、そうよ夢なんだからと言い聞かせてみるけど、現実の出来事のような気がして、心音は加速していくばかりだ。 「夢なんかじゃない。これは現実だ」 「なんで」 「君の考えている事ならなんでも分かるさ。だって僕がこの世界に君を連れてきたんだから」 夢だと思うのなら、自分の頬を抓ってみるといい、そうダーシャは言った。あたしは疑心暗鬼になりながら、右頬を抓る。 「痛い」 夢の中でこんな痛み感じるの?それとも寝ぼけているだけかしら?寝ながらつねっているかもしれないと思い、もう一度確かめてみる。うん、痛い。 「分か
◇◇◇◇◇◇◇◇第一話◇◇◇◇◇◇◇◇ 綺麗な声が聞こえる。あたしの名前を呼んでいるその声はどこか悲しそうだ。聞いた事のない声なのに、心臓が貫かれたように痛い、痛い。まるで魔法にかかったように、涙が出てくるのはどうしてだろう。 「やっと見つけた」 誰かがあたしの体を抱きしめて、放さない、放してくれない。視線の先には誰もいないのに、優しい温もりを感じてしまう。そのたびに涙が溢れて、どう止めればいいのか分からずにいる自分がいる。 「なん……でっ、とまら……ないのっ」 ぐしゃぐしゃな声は夜空に響いて、月へと語り続ける。 現実を直視しないように、両手で顔を隠す事しかできなかった。 ◇◇◇◇ 泣いている貴方がいる。 あたしはアタフタしながら彼の涙を唇ですくう。 「あたしがいるよ?」 一人じゃないからと、ギユッと抱きしめると彼の体は砕け、あたしは一人ぼっちになったの。 第一章~月が繋ぐ心 小さい頃、誰かから手鏡を貰った。記憶の中でぼやける人は男の子だった気がする。モノクロで彩られた景色の中であたしの手へと握らせる。彼の顔は真っ黒で、誰だか、どんな子なのか分からない。それでも懐かしさを感じながら、今のあたしは手鏡を大切そうになぞる。 「もう一度会えるよ、手鏡を持っていれば……きっと」 彼の声は聞こえないはずなのに、心にダイレクトに響いてくる言葉の数々。記憶が曖昧なのに、どうしてだか、その約束は事実だと思った。 忘れていても、無意識に覚えているのだろうか。 大切で大切で、手放す事なんか出来なかった。 【君に出会う為なら、どんな事も厭わない。それが君自身の人生を変える事になっても】 声は繋ぐ、涙が空を創る、君は僕を追いかけてくる。そして僕はこの世界で待ち続ける。 彼女は僕がプレゼントした手鏡で自分の顔を見つめる。目を腫らしながら、涙を拭く君を愛おしく思う。 これは僕の我儘かもしれない、それでももう一度、君と同じ時を生きていきたい。 「僕のところへとおいで」 鏡を通して見える君へと届くように言葉を創る。僕は大きな鏡にそっと手を翳すと、空間の歪みが少しずつ開いていく。この世界で起こる事は彼女の世界でも起こる。連動している世界はゆっくりと呼吸を取り戻しながら
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