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第60章

作者: Nayko Ayasame
last update publish date: 2026-08-28 06:13:55

朝の空気が、肌に冷たく触れていた。

ネリッサはアステラ・スパイアの入口へ向かって歩いていた。

肩にはバッグ。

ヒールが舗道を叩く音が、規則正しく響く。

目の前にそびえるガラスと鋼鉄の高層ビルが、淡い朝の光を受けて輝いている。

いつもの景色。

慣れ親しんだ場所。

安全な場所。

そのとき――

腕を掴まれた。

ネリッサが振り返る。

ザインだった。

肘の少し上を、彼の手が強く掴んでいる。

顔色は悪く、目の周りは赤く腫れていた。

ほとんど眠っていないのだろう。

冷たい指が肌に食い込んでいる。

ここで待っていたのかもしれない。

夜明けからずっと。

朝の冷気にさらされながら。

「どうして?」

ザインの声は掠れていた。

「どうして、こんなことするんだ?」

ネリッサは彼を見る。

必死に縋るような目。

腕を掴む手の微かな震え。

十四歳の頃から愛していた男が、今は路上で彼女にすがっている。

「頼むよ、ネリッサ」

ザインの指に力が入る。

「こんなこと、やめてくれ。家に帰ろう」

ネリッサは、すぐには離れなかった。

反射的に逃げることもできなかった。

しばらく彼の手を見つめている。

やがて、空いているほうの手を
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