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第3話

Author: 十三という素数
その夜、私は周平からの説明を待ちわびたが、彼はついに現れなかった。

代わりに、我慢しきれなくなった汐織が家のドアを叩いた。

「和穂、私が妊娠したって知ってるんでしょ?さっさと周平と離婚しなさいよ。じゃないと、今後家から叩き出されても、私が情けかけなかったって文句言わないでね!」

私は返事をしなかった。ただ、彼女の首元をぼんやりと見つめていた。

彼女のつけているネックレスは、私のものと全く同じだった。

あれは一昨年の記念日に、周平が「これ一つだけだ」と特注してくれたもの。

なるほど、彼の贈り物は量産できるらしい。愛情も、同じく氾濫しているようだ。

いつまでたっても私が反応しないので、汐織は苛立ち始めた。「聞こえないの?あなたに言ってるんだけど!」

彼女の整った顔が怒りで歪んでいくのを見ながら、私はふっと笑ってしまった。「あなたが妊娠したのは周平の子であって、私の子じゃないわよ。

聞く相手を間違ってるんじゃない?いつ彼があなたを娶るつもりなのか、そっちを質問すべきでしょ」

汐織は一瞬で言葉を失った。

彼女もきっと、周平の適当な口調に気づいていたのだろう。周平は彼女自身を大切にしているのではなく、ただ彼女のお腹の子を欲しているだけだ。

私は妙にすっとしていた。

周平は私を愛していない。だが、汐織のことも愛していない。

正確に言えば、周平は誰も愛してなどいない。ただの自分本位な男だ。

外面だけを取り繕った獣は、仮面を外せば内側は腐り切っている。

「変なこと言って仲を裂こうとしないで!」

汐織はついに怒鳴り始めた。「あなたは恩を盾に、彼にしがみついて離れないって、私が知らないと思ってるの?」

私は呆然とした。周平は彼女にいったい何を吹き込んだのだろう。

確かに彼は父親が支援していた貧乏な学生で、父親が最も目をかけていた教え子だった。

私は昔から勉強が嫌いだったから、父親は頭のいい周平を実の息子のように扱っていた。

もし恩を言うのなら、本当は私が十八歳の時に、すべて清算されている。

あの年、私は拉致され、三日間地下室に監禁された。私を命がけで助け出したのは、周平だった。

刃物が振り下ろされた瞬間、彼はふらつきながら私の前に飛び込み、血が滴り落ちても、一度たりとも目をそらさなかった。

「和穂、もう絶対に君を傷つけさせない」

その言葉は暗闇を裂く光のように、私の心を照らした。

けれど私はもともと、恋愛は両想いであってこそ成立するものだと思っていた。

彼に恩を感じ、好意を抱いていても、無理に縛りつけようとは思ったことはない。

むしろ彼の方こそ、目を真っ赤にして父親に頼み込んだのだ。

二十二歳の彼は、自分の出自が卑しく、私との家柄の差が大きいことをよく分かっていた。

それでも私の家の前で、三日間跪き続けた。

「江崎先生、どうか和穂をお嫁にください。彼女を一生大切にしますから!」

結婚して間もなく、彼は私の体にどうしても反応できないことを自覚した。何度試しても、薬を飲んでも駄目だった。

そのとき彼は卑屈なほどに懇願した。「和穂、俺を嫌わないで……置いていかないで……君を愛してるんだ」

当時の私は、ただ彼が痛ましく、そして離れがたかった。

あの頃の私は、彼の愛を信じていた。

汐織の声が、私を現実に引き戻した。「何黙ってんのよ、早く答えなさい!」

汐織が腹に手を当てて見せている虚勢を見ると、私は分かった。

周平の愛は、最初から砂糖衣をまとった毒だった。私はただ、その最初の被害者だったにすぎない。

私はもう彼女と口論する気もなく、さっさと追い出した。

その夜、周平は帰ってこず、深夜に電話をしてきて私をなじった。

「和穂!お前がこんなに酷い女だったとはな!今日、汐織は取り乱して、子どもが危ういところだったんだぞ!」

私は寝起きで頭が回らないうちに、彼は続けた。「お前、子ども好きだろ?だから汐織の子をお前の養子にしてやろうと思ってたんだ。ずっとお前のことを考えてたのに……本当にがっかりだ」

浮気はまだしも、愛人の子どもを私に育てさせるつもり?

苦笑するしかなく、私は電話を切った。

間もなく、スマホにネットショップのシステム通知が表示された。

【匿名による通報を受けました。御店舗は規約違反の疑いがあるため、調査の間運営を停止いたします】

次の瞬間、店内の商品はすべて強制的に削除された。

混乱する暇もなく、別のプラットフォームからも悪い知らせが届く。

二年間連載し、受賞目前だった小説が、盗作だと通報され、アカウントも凍結されてしまった。

誰の仕業か、考えるまでもない。

私のネットショップのことも、筆名のことも、最初から最後まで打ち明けていたのは、たった一人だけだった。

私がすべてを預け、生涯守ると約束してくれた、その周平だった。

深く息を吸い、私は弁護士に電話をかけた。「すみません、夫が婚姻中に不倫しました。離婚したいです。財産は一銭も持たせずに追い出してください」
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