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10.リリアナがいなくなったら嬉しいか?

last update Last Updated: 2025-07-08 12:37:25

 僕、レオナルド・ストリアとリリアナ・マケーリは政略的な婚約だった。

 ストリア公爵家はカサンデル王家よりも歴史のある家門だ。

 騎士団まで持っていて、邸宅は王宮に匹敵するくらい豪華だ。

 しかし、俺の父が大きな商売で失敗したことで経済的に困窮することとなった。

 貧しいこと、人に嘲笑されることに慣れていない両親はその状況に耐えきれず心中した。

 僕はたった1人残されて、公爵の爵位を早めに継ぐことになった。

 そんな時に婚約話を持って来たのがリリアナの父、ケンテル・マケーリ侯爵だった。

(元はと言えば、父の商売の失敗も彼が原因だ⋯⋯)

 両親の死の原因をも言える男の娘との婚約話を受ける気はなかった。

 彼の目当てはストリア公爵家の権威だろう。

 金を手に入れた後は、権力が欲しくなったと言うことだ。

 彼の連れてきた娘リリアナ・マケーリは彼に似た赤毛に緑色の瞳をしていた。

 彼に似ているだけで不快感がしたが、悪女という評判とは裏腹に大人しい女だった。

 親の駒でしかない人形のような彼女を自分が好きになることはないと思った。

 そんな彼女を見ていると、この婚約をすることでマケーリ侯爵家の莫大な財産をこちらが狙えると考え始めた。

 リリアナと一緒に舞踏会に参加したのは1度だけだ。

 優雅にダンスをこなす間も彼女は無表情だった。

 その舞踏会で出会ったのがミーナだった。

 ミーナは貧乏男爵家の出だからか、野心溢れる女だった。

 明らかに僕に近づいて来たのは家柄目当てだ。

 現在のストリア公爵家は彼女の家と変わらぬくらい困窮しているのに、彼女は必死に僕に媚を売ってきた。

 そんな彼女と過ごす時間は、僕の自尊心を回復させ気分が良かった。

「⋯⋯レオナルド⋯⋯あっすみません、公爵様⋯⋯いつも心では名前で呼んでたのが、つい出てしまいました」

 安っぽいテクニックを使いながら、僕を落とそうと必死のミーナを恋人にすることにした。

 感情を持たないようなリリアナが、僕が恋人を作った時にどう出てくるかに興味が
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  • 悪役令嬢は何故か聖女の力に目覚め、推しに監禁される。   18.なぜリリアナ嬢がいないんだ?

    アッサム・カサンデル、俺は自分を賢い人間だと思っていたが完全に1度目の人生で魔女ミーナにしてやられたらしい。 確かに、俺は魑魅魍魎の渦巻く王宮に住んでる中、漠然と聖女というものに憧れていた。 それでも、下心を持った人間にはすぐ気がつくという自信があったから、ミーナに騙された人生があったという話を聞いた時はショックだった。 その話を俺にして来たのは、リリアナの護衛騎士のカエサルだった。 カエサルはレオナルドがリリアナを連れて行った後、俺に接触して来た。 俺は既にリリアナに好感を持っていたせいか、彼女の信頼する彼の謁見は受け入れた。 「カエサルがアッサム・カサンデル王子殿下にお目にかかります」 彼に人払いをしてほしいと言われ、2人きりで話した内容は信じられないものだった。 彼はマケーリ侯爵邸にあったという古い書物を持ってきて、その中には自らの命と引き換えに時を戻せる魔術があると記してある。 その代償は時が戻った世界で自分自身は存在するが、自分の自我を失っているという事だ。 彼は俺がこの時間を過ごすのは3度目だと言った。 そして、1度目の人生でストリア公爵の恋人であるミーナに溺れ、ストリア公爵が王家に反旗を翻したという。 ミーナは聖女の力に目覚めたと言って、俺に近づいてくるがそれは偽りらしい。 彼女は魔女で、光の魔法と回復魔法を同時発動することで聖女の力を偽造してたという。 確かに俺の暗殺未遂事件の時の彼女のイヤらしい感じを見るに、純粋な心で聖女の力を得られる人間には見えなかった。 それでも、俺は自分が聖女の力を持っているというだけで女に熱を上げて他者への気遣いを忘れるとは思えなかった。 1度目の人生で俺はミーナの言いなりになり、かなり独裁的な政治に舵を切るらしい。 そしてマシケル・カサンデル国王がおそらくミーナにより殺され、彼女の言いなりになった俺も彼女に最終的に殺されていたという。  ミーナを含め魔族の生き残りは3人しかいなくて、3人で世界を堕とすのは難しいと考えたようだ。 それ

  • 悪役令嬢は何故か聖女の力に目覚め、推しに監禁される。   17.2度としないでください。

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  • 悪役令嬢は何故か聖女の力に目覚め、推しに監禁される。   16.伝説じゃなかったんだ!

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    「おはよ。リリィ」 軽い口づけをされて、私は目覚める。 ストリア公爵邸で過ごし始めてから半年が経った。 その間、私は貴族令嬢としての礼法を仕込まれ、レオに愛されてきた。 「おはよ。レオ」 私たちはいつの間にか、愛称で呼び合う仲になっていた。 この半年間、レオ以外の人はメイドや家庭教師としか会っていない。 役割があり余計なことを話さない彼らに比べ、私の唯一の楽しみがレオと言葉を交わすことになっていた。 私の中身は彼氏の浮気に傷つき、人間関係で揉まれてきた三十路だ。 だから、愛され過ぎて幸せと頭の中がお花畑にはならない。 彼に対する愛情がいわゆるストックホルム症候群的なものではないかと冷静に分析していた。 他者との関わりを最低限にされて、ほとんど監禁されているような状態で彼の愛情を浴び続けている。(この半年邸宅の外に出ていない⋯⋯どうして誰も私に会いにこないの?) リリアナの父親であるマケーリ侯爵も、アッサム王子との婚約を望んでいたはずなのに来訪がない。 レオの元恋人で以前は頻繁にこの邸宅を訪れていたミーナも見ることがなくなった。 今、私はただレオに溺愛されて悦ぶだけの存在になっている気がする。 それでも、私は前世の経験もあり一途な愛に飢えていた。 浮世離れした生活をしている自覚はあったが、この毎日にすっかり馴染んでしまっていた。「マナーを心配していたけれど、食事の仕方は花嫁修行に入る前から綺麗だったと思うよ」 ビシソワーズの上に乗っていた生クリームが唇の端についていたのか、隣にくっつくように座っていたレオが舐めてきた。 食事の時間も順番にサーブしてくれる人間がついているのが正常なのに、デザート以外は一気に並べられる。 それらの食事をマナーに気をつけながらとっていると、レオがスープを掬い上げ私の口元に当てたのだ。 口の端に生クリームを残したのは、彼が私の唇を舐めたくてわざとやったようにさえ思えてくる。「良かった。今日はアッサム王子の誕生日

  • 悪役令嬢は何故か聖女の力に目覚め、推しに監禁される。   14.好きだけど⋯⋯信用できない⋯⋯。

     あれから1週間の時が経った。 婚約者という仲だから敬語はやめてほしいと言われ、名前も呼び捨てに変えた。 この1週間、家庭教師とメイドとレオナルドにしか会っていない。 ダンスのレッスンが終わり、窓の外を見るとレオナルドが第1騎士団の剣の訓練をしているのが見えた。 太陽光が彼の銀髪と降り積もった雪に反射し、キラキラしていて美しい。 彼は遠くからでも私の視線をキャッチしたのか、振り向いて輝くような笑顔で手を振ってくれる。 私は笑顔で手を振りかえした。 レオナルドは23歳と若いながらに、カサンデル王国の第1騎士団の団長をしていた。 ストリア公爵家が力を持っているのは、王国随一の武力を持つ第1騎士団が実質公爵家のものだからだ。 だからこそ、王家はストリア公爵家に常に気を遣っている。  マケーリ侯爵家は財力で成り上がってきた家で、騎士団を持っていない。 リリアナの父、マケーリ侯爵家の狙いの1つは名門貴族の証とも言える強い騎士団を持つことだ。 実際に1年後には、第1騎士団の優秀な人間をほとんど引き抜きマケーリ侯爵家は強い騎士団を持つことになる。 それにより、マケーリ侯爵家は経済面だけでなく武力により、政治的影響力を持つようになってくる。 それゆえ、小説の中でレオナルドが王家に反旗を翻そうとした時、彼について来ると思われた第1騎士団は人材不足だった。「リリアナ、授業が終わったんだね。お疲れ様」 窓際に佇み考え込んでいたら、いつの間にか後ろからレオナルドに抱きしめられていた。 彼の高めの体温を服越しにも感じる。「レオナルドも、もう剣術の練習は終わり?」 私の質問にゆっくりうなづきながら、首元に彼が顔を埋めてくる。(匂いを嗅がれている気がする⋯⋯やはり、イケメンだけれど変態だわ)「レオナルド! 今日はプレゼントがあるの」 そっと彼の拘束を解いて囁くと、彼が期待の表情を向けてきた。 私は、聖女の力である治癒の魔力を込めながら編んだミサンガをそっと彼の腕に

  • 悪役令嬢は何故か聖女の力に目覚め、推しに監禁される。   13.メイドに私を預けるのが嫌なら、自分で着替えます。

    「レオナルド様、私はあなたと一緒にいます。私は聖女ではありません」 私は自分の前に跪いて愛を乞うレオナルドを拒絶できなかった。  泣いて私に愛を乞うレオナルドに、浮気しては私に縋ったタケルを重ねていた。 私はタケルの数えきれない浮気を、泣きながら縋られる度に許していた。(ミーナとはどうなったの? マケーリ侯爵家の財産が惜しくて私にしがみついている?)  彼を疑う心ばかりだけれど、多くの人が見ている前で彼に恥をかかせたくはなかった。「聖女ではないって⋯⋯リリアナ嬢、君は何を言って⋯⋯」 私を抱きしめている力をそっと緩めたアッサム王子が困惑している。「アッサム王子殿下⋯⋯お願いです。見逃してください。私は聖女の力なんてない事にしてください」 アッサム王子の耳元でそっと囁くが、じっと見つめてくるだけで返事が返ってこない。「えっ? 聖女様ですよね。だって俺は聖女の力である治癒の魔力を感じましたし、赤子だって⋯⋯」 先ほどの妊婦の夫が戸惑ったように問いただしてくる。 確かに自分で聖女と名乗り、聖女の力である治癒の魔力を使ってしまった。「あの、私は⋯⋯」 私はアッサム王子の緩い拘束から逃れ、跪くレオナルド様を立たせた。 瞬間、レオナルドは私を倒れ込むように抱きしめてくる。「リリアナ⋯⋯本当に一緒にいてくれるの? 挽回する⋯⋯絶対に僕を選んでよかったと思わせて見せるから⋯⋯」 彼の言葉はタケルが浮気の後、私と別れたくないと駄々を捏ねた言葉とそっくりだ。(本当に私は彼を受け入れるの? でも、前世で彼の存在には沢山励まされた⋯⋯) 前世で、タケルの浮気に苦しんだり、人間関係で悩んだ時いつも助けてくれたのはレオナルドの存在だった。 一途にたった1人を思う彼のブレなさに励まされていた。 「リリアナ・マケーリ侯爵令嬢! この度は私と私の子をお救い頂きありがとうございます。私は聖女様でも好きな方と一緒にいる権利はあると考えます! ここであなた様のお力を見たことは絶対に誰にも言いま

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