All Chapters of 悪役令嬢は何故か聖女の力に目覚め、推しに監禁される。: Chapter 1 - Chapter 10

25 Chapters

1.はぁ、はぁ⋯⋯すみません空気が薄くて。

 初めて夢中になった男は2次元だった。 映像化もされた小説『蠍の毒を持った女』のレオナルド・ストリア。 私は彼のことを心から愛していた。  現実世界の男には不満ばかりだ。「七海、結婚しよう」 目の前でプロポーズしているのは10年以上付き合った男タケルだ。 しかし、私は全くときめかない。 彼は今まで定期的に浮気をしてきた。 その度に泣いて縋られたので、許してきたが全く懲りない。 彼はケチくさく1円単位まで割り勘する。 時間にルーズで1時間くらい待たせても謝りもしない。 彼とずるずると付き合って10年だ。 正直、また新たに男を作るのが面倒で、彼を引っ張ってきた。 しかし、私は本当にこれから死ぬまで彼と付き合うつもりなのだろうか。(でも、私も30歳だしな⋯⋯) 「七海? 返事は?」 自信満々の顔で見つめる彼は断られる可能性を考えていない。 私の女盛りの20代を独占しただけあって自信があるのだろう。「私、好きな人いがいるの⋯⋯」 生まれて初めて本音を人に話した。 結婚するならば、私が如何にオタクかを知って貰っておいた方が良いと思ったのだ。 私が彼に不満を抱きながらずるずる付き合っていたのは、私には本命がいたからだ。 決して、私が触れることを許されない至高の存在レオナルド・ストリアだ。 3次元の私が2次元に触れることはない。 「はあ? 浮気してたのかよ。このビッチ女が」  ここで何人のカップルが成婚したのかと思うような高級レストラン。 目の前のナイフで胸を突かれた女は私が初めてだろう。 モラハラ夫になるかもしれないと思っていた彼氏は、DVヤローになるリスクも持っていたようだ。 意識が途絶えていく。 助産師として私は追われるように仕事をしていた。 小さい頃から夢に見ていた仕事で、念願の命の誕生の現場には立ち会えてきた。 しかし、仕事は私の人生の保証はしてくれない、してくれるのは給料という形での生活保障だ。 幸せが欲しい⋯⋯私の心のオアシス⋯⋯レオナルド。 目を開けると、そこには銀髪に空色の瞳をした男がいた。 まさしく私が思い続けていた人レオナルド・ストリアだ。 「レオナルド! 本当にレオナルド・ストリア?」 (あれ? 私、ナイフで刺されたんじゃ) 私は興奮して彼に近づき、濡れた落ち葉で滑って転ん
last updateLast Updated : 2025-06-26
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2.私、レオナルド様の側にいたいの。

 私はカサンデル王国のセントメール広場まで馬車を走らせた。 1人で行きたいと主張したのに、ある護衛騎士が強引についてきた。 リリアナに取り立てて貰った事に恩義を感じ、何でもいう事を聞くカエサルだ。 彼は茶髪に灰色の瞳をしていて、こざっぱりとした顔をしている。「リリアナ様、後頭部から血が出ております。今すぐ止血を」「放っておいても、大丈夫よ。あんまり痛くないし赤髪だから目立たないでしょ」 後頭部の怪我に痛みはなく私は気にしていなかった。 しかし、心配そうにするカエサルに強引に包帯を頭にぐるぐる巻きにされてしまった。「よし、到着!」 馬車が止まると、カエサルがエスコートしようと出していた手を放って飛び降りてしまった。「ごめんなさい! 私⋯⋯」 貴族令嬢としての振る舞いを気をつけた方が良いかもしれない。(婚約者の私の悪評がたったら、レオナルド様に迷惑をかけるわ⋯⋯)「リリアナ様が謝罪されることは何1つありません」 何事もなかったようにカエサルがまた手を差し出してくれる。「優しい! あなたって素敵な人ね!」 思わず私が発した言葉に彼は目を丸くした。 護衛騎士を褒めるのは不自然だっただろうか。  広場に着くと中央に聖女像が立っていた。 周囲は高級そうな宝飾店がひしめき合っている。 カサンデル王国は関税も安く、ここはいわゆる観光地になっている。  ここにある聖女像に触れた瞬間、ミーナは聖女の力に目覚めるのだ。 今は伝説となっている治癒能力を持つ聖女の力は、聖女が悪人に奪われないようこの像に封印したらしい。 純粋な心を持った人が触ると、その力が付与されるとされている。 聖女像は観光客や色々な人に触れられてツルピカになっていた。(塗装も剥げてしまっている程触れられているのね⋯⋯) 聖女像の前には触れたいと思う人たちが行列を作っている。「カエサル! 私たちも列に並んでみよ! ここは聖地よ!」 小説で読んでいた場所に来た私はとても興奮していた。 円形をした広場にトグロのように作られた列の最後尾に並ぶ。「リリアナ嬢! どうぞ、お先に⋯⋯」 列の最後尾に並んだのに、どんどん前に押しやられた。「あの⋯⋯私、並ぶのも醍醐味だと思っているから並びたいんだけど⋯⋯」 私がいくら言っても誰も聞いてくれない。  リリアナの家が力を
last updateLast Updated : 2025-06-26
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3.私のくびれを見ましたか?

 後頭部の傷も手で触れると、聖女の力である治癒の魔力が働いたのか直ぐに治った。 どうやら私は本当に聖女の力に目覚めたようだ。 翌日、私はアッサム王子とミーナの愛の物語のはじまりの地にカエサルと向かった。 カサンデル歴621年の建国祭のパレードだ。 私は予定通りアッサム暗殺未遂事件の起きるマルスル通りの玩具屋の曲がり角にカエサルといた。 ちょうど、私たちから見えるところにレオナルドとミーナが寄り添いながら笑い合っている。「パレードの観覧場所を変えましょうか⋯⋯」 カエサルが私の心情を心配して語りかけてきた。 私がレオナルドとミーナが一緒にいるところを見て傷つくと思っているのだろう。「ここじゃなきゃ駄目なのよ。それに私はレオナルド様が笑っていれば、それで幸せなの」 私の言葉にカエサルが切なそうな目を向けてきた。 本心からの言葉なのに、婚約者であるレオナルドが他の女といるのだから同情されているのだろう。「ほらっ! 先頭の王宮の騎士たちが来たわよ。カエサルもいつか王宮で勤めたいとか野望はあるの?」「私はずっとリリアナ様に仕えます。あなたの幸せが自分の幸せです」 まるで愛の告白をするかのように真剣に伝えられた言葉に、時が止まったような感覚を覚えた。 原作の中では一回名前が出てきたくらいのリリアナの専属護衛騎士カエサルはかなり忠誠心が強いようだ。「ありがとう。そんな風に思ってくれる人がいるなんてリリアナは幸せね」 私は七海時代、外でも家でも忘れられやすい存在だった。 3姉妹の末っ子に生まれた私は予想外に生まれた存在で、期待も失望もされず育てられた。 外でもモブ顔で大人しい性格のせいか、人にあまり覚えられることはなかった。(私の幸せが自分の幸せ? そんな風に私を特別に思ってくれる人がいるんだ⋯⋯)  感傷に浸りながら、灰色のカエサルの瞳を見つめていると一際大きな歓声が聞こえた。「アッサム王子殿下万歳! カサンデル王国に栄光を!」 周囲が大スターが見えた
last updateLast Updated : 2025-07-01
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4.俺も君の話を聞くよ⋯⋯。

 カサンデル王国の第1王子として育てられた俺、アッサム・カサンデルの血筋は正しくない。 長子相続のルール通り、俺が王位を相続すると思われているが周囲は不満ばかりだ。 俺の母親は踊り子で、第2王子である弟の母親は血筋正しき王妃だ。 俺は王家の広報係だった。 母親の類い稀なる美貌を受け継ぎ、平民の血を継ぐ王子だ。 身分差別に苦しむ人間の救いとでも思われているのか、俺の人気は王家の不満を解消するのに使われてきた。 弟のルドルフはパレードに参加しないという。 彼はそうした人気取りの行事には参加せず、自分のしたいことをする事ができる。 でも、俺は王子という身分でありながら道化のようにパレードに参加しなければならなかった。「アッサム王子殿下万歳! 本当に美しい! この世のものとは思えない」 パレードの最中、皆が俺を羨望の目で見た。(本当に見た目しか取り柄がないと見せしめに合っている気分だ⋯⋯) そんな暗い気分になっていた時に、黒い塊が近づいてきた。 一瞬、赤い髪の女が俺の前に立ち塞がったと思うと倒れた。 よく考えれば俺がいなくなった方が良いと考える者が王宮に多いと思えるほど、薄い警備だった「リリアナ様ー!」 目の前に俺を守るようにいたのはリリアナ・マケーリ侯爵令嬢だった。 俺の暗殺に失敗した暗殺者はすぐに王宮の騎士に囚われた。 先ほど大声で彼女の名前を呼んでいた茶髪の騎士が彼女に近づいてくる。 遅れて、彼女の婚約者であるレイモンド・ストリアとピンク髪の女が近寄ってきた。 「リリアナ!」 「アッサム・カサンデル王子殿下にミーナ・ビクトーがお目に掛かります」  ピンク髪のミーナ嬢は頭がおかしいのではないだろうか。  目の前に出血多量で意識を失っているリリアナ嬢がいるのに、平然と俺に挨拶をしている。  「リリアナ様!」  必死の形相でリリアナ嬢に呼びかけ、止血する騎士だけ
last updateLast Updated : 2025-07-02
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5.足りない男が好きなのか?

「人間の持つ力ってすごいですよね。自然治癒力って人の生きる力そのものなのです!」 必死に俺に目を合わせながら語ってくるリリアナ嬢は、いつからこんな面白い女になったのだろう。 腹に一生残るような切り傷があったのを俺も確認している。「聖女の力を持っているよな⋯⋯」 俺が確認しようとして発した言葉に一瞬顔色を変えたくせに、慌てて顔を作って平静を装う彼女がおかし過ぎる。「聖女の力⋯⋯聖女の力ですか⋯⋯」 どうやら彼女は場当たり的に嘘をつくのが苦手らしい。 必死に考えて何とかして自分の力を隠そうとしているのが丸わかりだ。「なんで、隠そうとするんだ? 俺と結婚するのがそんなに嫌か?」 俺は聖女伝説を信じていなかった。 純粋な心を持った人間が聖女の銅像に触ると、治癒の能力を授かるというふざけた伝説だ。 だから、隣国の皇女との婚約話を跳ね除ける時も自分は聖女と結婚したい夢があると語った。 そして、その話は尾鰭をつけて聖女の力をつければ俺と結婚できると銅像の周りには列ができ始めた。「はい、嫌です。思いがけず銅像に触ってみたら得てしまった力なんです。この力はレオナルド様の為だけに使っていきたいのです」 彼女が美しい緑の瞳をギュッと閉じながら告げてきた言葉は信じられないものだった。 婚約者である彼女を放って、恋人に夢中な男の為に国に繁栄をもたらすという力を使いたいという。「レオナルド・ストリア⋯⋯ミーナ嬢に夢中なようだぞ。君との婚約は君の実家の資産を当てにしたもので、君を尊重しようともしない⋯⋯」 鈍感そうな彼女が気がついているかも分からない真実を伝えてしまった。(傷つくだろうか⋯⋯なぜだか、俺は彼女が傷つく姿を見たくはない)「私を尊重する必要なんてありません。私はレオナルド様のお側にいられるだけで幸せなんです。マケーリ侯爵は恐ろしい方です。金でレオナルド様を誘き寄せましたが、結局はストリア公爵家の権威を食い尽くす事が目的です。レオナルド様は放っておくと、ミーナ様の事ばかり考えている方なんです。側にいて彼が堕ちて行かないように
last updateLast Updated : 2025-07-03
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6.とても素敵な口づけをありがとうございます。

 アッサム王子が差し出してくる手を取った。 彼は本当に良い人のようだ。 彼には私のレオナルド様への重すぎる気持ちは理解できないだろう。 前世で仕事に追われる毎日の中でレオナルド様が私の生きる道標だった。 タケルが出会った頃とは全く違う浮気性な男になっても気にならなかった。 私の心にはいつもレオナルド様がいたからだ。 アッサム王子は泣いている女の子を慰める為にキスができてしまう男なのだろう。 それでも、先ほどのキスは私が今まで受けた中で1番優しいものだった。「アッサム王子殿下⋯⋯先ほどはみっともなく泣いてしまって申し訳ございませんでした。そして、とても素敵な口づけをありがとうございます」「待ってくれ、流石に混乱する。君はストリア公爵を好きなんじゃないのか? それなのに俺との口づけにお礼を言うなんて⋯⋯あれは、俺の勝手でしたものなのに」 アッサム王子は優しい方だ。 慰めるようにプレゼントしてくれたイケメンキスは有り難く頂戴することにした。♢♢♢「ちょっと⋯⋯踊れないとかのレベルじゃなくないか? 簡単なステップだぞ」 アッサム王子の動きに合わせて踊っていたが彼の足を踏んでしまった。 異世界転生の小説では、転生しても社交や礼儀を体が身につけていた。 しかし、私の場合はリリアナだった時の記憶がない。(言葉が通じるだけでも、感謝しないとね⋯⋯)「申し訳ございません。痛かったですよね」「痛くはない。それよりも裸足で踊らせてすまない」  アッサム王子は私をベッドに座らせると、手で足を温めてくれた。 彼の手の体温が冷えた足から伝わって温かい。 きっと、ヒールを履いて足を踏んでしまったら彼の足を怪我させてしまっただろう。「いえ、裸足で良かったです。汚い足を触らせてすみません。でも、気持ち良いです」「綺麗な足だよ。明日はこの足に会う靴と、君に合うドレスを選ぼう。夕刻には舞踏会に一緒に出てもらうことになるからな」 私はアッサム王子の言葉になんと返して
last updateLast Updated : 2025-07-04
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7.婚約はご勘弁頂けませんでしょうか。

「アッサム・カサンデル王子殿下と、リリアナ・マケーリ侯爵令嬢の入場です」 私は建国祭の舞踏会にアッサム王子と出席した。 前世でも赤いドレスのような派手な色のものは着なかったので、妙に緊張した。「リリアナ嬢、そのドレスすごい似合っている」「アッサム王子殿下も赤い礼服姿が素敵です。」 今日のアッサム王子殿下は私のドレスとペアになっている赤い礼服を来ていた。(まるでパートナーみたい⋯⋯) 舞踏会会場にいるみんなが私とアッサム王子のペアに驚いたような顔をしている。 その時、ミーナといるレオナルド様と目が合って思わず目を逸らした。 舞踏会の開始を告げるダンスをアッサム王子と私が踊る。 アッサム王子のリードが抜群に上手い為、体を預けていると何となく形になる所までは持ってこれた。 周囲を見ると様々な髪色をした人がいる。 豪華絢爛とした王宮にある舞踏会会場は前世では一生縁がなかったような場所だ。 大学の卒業旅行で行ったフランスのベルサイユ宮殿のような場所。 このような場所で夜な夜な人々が踊っているような世界に私は来たのだ。「大丈夫か⋯⋯具合が悪いんじゃ⋯⋯」「めちゃくちゃ元気です! 後少しヘマしないように集中しますね!」 心配そうに声をかけてくれたアッサム王子に私は笑顔で返した。 彼に心配させてはいけないのに、私の不安はバレてしまってたようだ。 私は今、高位貴族のリリアナになっているが、そんなブルジョワな生活は経験がない。 貴族令嬢としてのマナーも不足しているだろう。「どうしたら、私ごときがレオナルド様を幸せにできるの?」 私がそう呟くと同時に、アッサム王子のダンスのステップが止まり彼の足を思いっきり踏んでしまった。「あ、あの、申し訳ございま⋯⋯」 私の謝罪は最後までさせて貰うことはできず、彼に口を塞がれていた。(ふわ⋯⋯いくら、アッサム王子が好色と有名でもこんなキスをしたら!)「アッサム王子⋯⋯今のは⋯⋯」「リリアナ
last updateLast Updated : 2025-07-05
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8.婚約破棄しましょう。どうぞ、ミーナ様とお幸せに。

 まだ、夜明け前だろうか。 カーテンの隙間から見える空が暗い。 うっすらと目を開けると、アッサム王子がまだ夢の中にいるようだった。(寝顔幼い⋯⋯可愛い) 私はそっと彼の頭を太ももからベッドの上に乗せると部屋を出た。 やや痺れている太ももに右手を当てて聖女の力を流す。(太もも枕って初めてやったわ)「リリアナ様、いかがなさいましたか?」 部屋の前には久しぶりのカエサルがいた。 寝ずに私の部屋の前を守っていたのだろう。 カエサルの肩に手を当てて、そっと聖女の力を流した。 すると、私がした事に気が付いたのか彼が柔らかい顔をして私に微笑んできた。「どうもしてないんだけれど⋯⋯マケーリ侯爵邸に帰ろうかと思って⋯⋯」 アッサム王子が私と婚約すると言っている。(それって私に聖女の力があるからよね) 彼は聖女の力に目覚めたミーナと恋に落ちる予定だった。 もしかしたら、この世界で聖女は特別視されているから彼も漠然とした憧れを持っていたのかもしれない。(漠然とした憧れか⋯⋯) 私は自分がレオナルド様の事を詳しく知るわけでもなく、漠然と憧れのような恋をしていた事に気がついていた。 アッサム王子がレオナルド様に言う言葉は、最初は意地悪に聞こえていたが全て事実だ。 レオナルド様はヒロインミーナには一途だが、リリアナに対しては非常に失礼な存在だ。(財産目当てで婚約した癖に⋯⋯冷遇して自分は恋人を思い続けるんだものね)「リリアナ様、帰ってゆっくりしましょうか」 カエサルは私がアッサム王子と2人きりの部屋から出てきたのに、何も聞かない。 きっと、彼は私とアッサム王子の事がスキャンダルにならないように見張りをしてくれていたのだ。 私は部屋に残したアッサム王子に後ろ髪をひかれつつもその場を後にした。♢♢♢ 「リリアナ、アッサム王子殿下とはどうなんているんだ? まだ、建国祭の期間中だろ。仲違いしたのではあるまいな」 リ
last updateLast Updated : 2025-07-06
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9.今朝は勝手にいなくなってすみませんでした。

 自分の部屋に戻り、リリアナの日記の続きを読んだ。 読めば読む程、彼女はレオナルドが自分を鬱屈した毎日から連れ出してくれる人と期待していた事がわかった。 彼と会う日が来る度に、彼に期待しては裏切られ苦しんでいた。 彼女はとても繊細で誹謗中傷に深く傷ついていた。 しかし、それを相談する相手も、彼女を守ってくれる相手もいなかった。 カーテンを開けて、外を見ると昨晩から降り続いていた雪は止んだようだった。  部屋をノックする音に反応して顔を出すと、戸惑ったような執事とカエサルがいた。 「王宮より、アッサム王子殿下の今宵の舞踏会のパートナーとして出席するよう御連絡がございました」  執事が赤い箱に金色のリボンが巻かれたものを渡してくる。  これは大きさから見て、今晩着てきて欲しいドレスだろう。  「このドレスは着ないわ。これから、王宮に出向きます」   私は、入り口付近に掛けてあった暖かそうな紺色のマントをドレスの上から身に纏い部屋を出る。  私が今朝帰宅した時と同じ赤いドレスをマントの下に着ているからだろうか、遠目に見ているメイドが慌てたような顔をした。 (2日連続同じドレスを着ているなんて恥だものね⋯⋯)   しかし、私は今日の舞踏会に出席する予定はない。   アッサム王子は朝起きたら私がいなくて驚いたのだろう   勝手に帰宅してしまったことを彼に詫びに王宮へ出向こうと思っていた。  (書き置きくらいしてくれば良かったわ)     「リリアナ様、お待ちください。まだ、外に⋯⋯」  カエサルの声を背に、私は小走りでマケーリ侯爵邸の外に出た。  ストリア公爵家の家紋のついた馬車が止まっていて、そこにはレオナルド様が立っていた。   昨晩降り積もった雪が風で舞い上
last updateLast Updated : 2025-07-07
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10.リリアナがいなくなったら嬉しいか?

 僕、レオナルド・ストリアとリリアナ・マケーリは政略的な婚約だった。 ストリア公爵家はカサンデル王家よりも歴史のある家門だ。 騎士団まで持っていて、邸宅は王宮に匹敵するくらい豪華だ。 しかし、俺の父が大きな商売で失敗したことで経済的に困窮することとなった。 貧しいこと、人に嘲笑されることに慣れていない両親はその状況に耐えきれず心中した。 僕はたった1人残されて、公爵の爵位を早めに継ぐことになった。 そんな時に婚約話を持って来たのがリリアナの父、ケンテル・マケーリ侯爵だった。(元はと言えば、父の商売の失敗も彼が原因だ⋯⋯) 両親の死の原因をも言える男の娘との婚約話を受ける気はなかった。 彼の目当てはストリア公爵家の権威だろう。 金を手に入れた後は、権力が欲しくなったと言うことだ。 彼の連れてきた娘リリアナ・マケーリは彼に似た赤毛に緑色の瞳をしていた。 彼に似ているだけで不快感がしたが、悪女という評判とは裏腹に大人しい女だった。 親の駒でしかない人形のような彼女を自分が好きになることはないと思った。 そんな彼女を見ていると、この婚約をすることでマケーリ侯爵家の莫大な財産をこちらが狙えると考え始めた。 リリアナと一緒に舞踏会に参加したのは1度だけだ。 優雅にダンスをこなす間も彼女は無表情だった。 その舞踏会で出会ったのがミーナだった。 ミーナは貧乏男爵家の出だからか、野心溢れる女だった。 明らかに僕に近づいて来たのは家柄目当てだ。 現在のストリア公爵家は彼女の家と変わらぬくらい困窮しているのに、彼女は必死に僕に媚を売ってきた。 そんな彼女と過ごす時間は、僕の自尊心を回復させ気分が良かった。「⋯⋯レオナルド⋯⋯あっすみません、公爵様⋯⋯いつも心では名前で呼んでたのが、つい出てしまいました」 安っぽいテクニックを使いながら、僕を落とそうと必死のミーナを恋人にすることにした。 感情を持たないようなリリアナが、僕が恋人を作った時にどう出てくるかに興味が
last updateLast Updated : 2025-07-08
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