初めて夢中になった男は2次元だった。 映像化もされた小説『蠍の毒を持った女』のレオナルド・ストリア。 私は彼のことを心から愛していた。 現実世界の男には不満ばかりだ。「七海、結婚しよう」 目の前でプロポーズしているのは10年以上付き合った男タケルだ。 しかし、私は全くときめかない。 彼は今まで定期的に浮気をしてきた。 その度に泣いて縋られたので、許してきたが全く懲りない。 彼はケチくさく1円単位まで割り勘する。 時間にルーズで1時間くらい待たせても謝りもしない。 彼とずるずると付き合って10年だ。 正直、また新たに男を作るのが面倒で、彼を引っ張ってきた。 しかし、私は本当にこれから死ぬまで彼と付き合うつもりなのだろうか。(でも、私も30歳だしな⋯⋯) 「七海? 返事は?」 自信満々の顔で見つめる彼は断られる可能性を考えていない。 私の女盛りの20代を独占しただけあって自信があるのだろう。「私、好きな人いがいるの⋯⋯」 生まれて初めて本音を人に話した。 結婚するならば、私が如何にオタクかを知って貰っておいた方が良いと思ったのだ。 私が彼に不満を抱きながらずるずる付き合っていたのは、私には本命がいたからだ。 決して、私が触れることを許されない至高の存在レオナルド・ストリアだ。 3次元の私が2次元に触れることはない。 「はあ? 浮気してたのかよ。このビッチ女が」 ここで何人のカップルが成婚したのかと思うような高級レストラン。 目の前のナイフで胸を突かれた女は私が初めてだろう。 モラハラ夫になるかもしれないと思っていた彼氏は、DVヤローになるリスクも持っていたようだ。 意識が途絶えていく。 助産師として私は追われるように仕事をしていた。 小さい頃から夢に見ていた仕事で、念願の命の誕生の現場には立ち会えてきた。 しかし、仕事は私の人生の保証はしてくれない、してくれるのは給料という形での生活保障だ。 幸せが欲しい⋯⋯私の心のオアシス⋯⋯レオナルド。 目を開けると、そこには銀髪に空色の瞳をした男がいた。 まさしく私が思い続けていた人レオナルド・ストリアだ。 「レオナルド! 本当にレオナルド・ストリア?」 (あれ? 私、ナイフで刺されたんじゃ) 私は興奮して彼に近づき、濡れた落ち葉で滑って転ん
Last Updated : 2025-06-26 Read more