見つめあう2人がとっても素敵で……ただでさえ美人の月那が、今までで1番綺麗で可愛く見えた。「笹本さん、月那のこと絶対に幸せにして下さいね。もし泣かしたらこのマッサージ店に二度と来ませんからね」「うわっ、上得意様に来てもらえなくなったら困るしな。わかりました、月那のことは絶対に泣かしません!」「って、私が太一を泣かすかもだけどね~」「そうなんだよ~。月那は怖いから、俺が泣かされるかもなぁ。でも、その時は藍花ちゃんに助けてもらお」楽しく軽快なやり取りの2人を見ていたら、こっちまで幸せな気持ちになる。本当にお似合いのカップルだ。「俺達、絶対に幸せになるからさ。だから藍花ちゃんも必ず幸せになってくれよな。月那の大切な人が不幸になるのは嫌だからさ」筋肉いっぱいの笹本さんからの優しい言葉。そのギャップがちょっと可愛く見える。「ありがとうございます」「月那からちょっと聞いてるけど、今、藍花ちゃん、めちゃくちゃモテモテらしいね」「えっ、モテモテなんて、そんなことないです」月那がどんな風に私の恋愛話をしているのかわからないけれど、この言葉はかなり恥ずかしい。「絶対に良い男を捕まえるんだよ。藍花ちゃんみたいな良い女が妥協したらもったいないし、本当にこいつ!って思えるやつが現れるまでゆっくり待った方がいいよ」笹本さんが真剣な表情で言ってくれた。「良い女じゃないです。でも……ゆっくり待ってたら、このまま一生結婚できないかも知れません」「そんなことはないよ。藍花ちゃんは本当に可愛いんだから自信持った方がいいって」「そうだよ、藍花。本当に自信持たないと損だよ。太一の言う通り、あなたはめちゃくちゃ可愛いんだから」やはりなぜか月那に容姿を褒められるととても嬉しい。「2人に言われたら嬉しいけど……でも……」「でもじゃない!俺達がついてるから大丈夫!ちゃんと良い奴と出会って恋愛して結婚してほしい。俺達はずっとここで店やってるから、何かあったらいつでも飛び込んでくればいいよ」「そうだよ、いつでも来な」この安心感に溢れた優しい2人に勇気をもらえた気がする。明後日、蒼真さんと会って、改めてちゃんと考えようと思う。答えが出せるかはわからないけれど、でも何だか今は前向きになれている。この感情は間違いなく2人のおかげだ。月那……「笹本 月那」になっても、ず
ついにここまで来た。蒼真さんが一人暮らしをしているマンションに――かなり有名な建築家の設計らしく、きっと家賃も高いに違いない。こんな素敵で立派なマンションに、私なんかが足を踏み入れてもいいのだろうか。場違い感が半端ない。私は、フゥーっと大きな息を吐き、意を決して1階ロビーで蒼真さんの部屋の番号を押した。「はい」「あの……は、蓮見です」「上がって来て」「は、はい」オートロックが解除され、目の前の自動ドアが開く。そこを通り、奥のエレベーターで最上階へ。降りるとそこには部屋がひとつしかなく、蒼真さんが待っていてくれた。壁にもたれ、腕組みをしながら――「こ、こんにちは」かっこよ過ぎる……我が目をうたがいたくなる程に美しく、その立ち姿にため息が漏れる。白いシャツとブラックジーンズ。足の長さに改めて驚き、もはや人気雑誌のオシャレなモデルにしか見えない。ここは本当に「白川先生」の部屋なのか?私はどこか違う世界にでも迷い込んだのではないだろうか?「よく来たな、待ってた」体勢を変え、こちらに近寄ってくる蒼真さん。その圧倒的な存在感に思わず2、3歩後ずさる。「あっ、あの、本当に来て良かったんですか?こんな立派なマンションに私なんかが……」「もちろんだ。来てほしくなかったら絶対に呼ばない」「……あ、ありがとうございます」蒼真さんの甘いセリフに戸惑い過ぎて「ありがとうございます」なんて、意味不明なことを言ってしまった。月那にいろいろ言われ過ぎて、昨日からずっとドキドキが止まらない。会ってすぐの蒼真さんの一つ一つの言動に、すでに心が大きく揺れてしまう。きっと今の私は、かなり挙動不審に見えるだろう。「あの、言われたように買ってきました」私は、今夜の食事の材料をすぐ近くのスーパーで揃えた。高級志向のスーパーではあったけれど、蒼真さんに恥ずかしくないものをと、時間をかけて丁寧に選んだ。「悪かったな。ありがとう」蒼真さんは、そう言って大きめのマイバッグをサッと持ってくれた。こういうところがすごくジェントルマンだと思う。
「どうぞ、中に入って」「はいっ、お、お邪魔します」「ああ」まだ全然落ち着かない。早くこの状況に慣れたいのに……それにしても、このワンフロア、全てが蒼真さんの部屋なのか?だとしたら相当すごい。私は、まず広いポーチで靴を脱ぎ揃え、恐る恐る中に入った。まるで未知のジャングルにでも踏み込むかのような緊張感に、帰るまで心臓がもつか心配になった。まだスタートラインに立ったばかりだというのに――用意してあったスリッパを履き、廊下の奧まで進み、ドアを開けると、目の前に広々とした明るいリビングが現れた。「素敵……」そこは、洗練された家具が置かれている、清潔感溢れるオシャレな空間になっていた。アロマディフューザーから良い香りがしている。本当にここは男性の部屋なのだろうか?疑いたくなるくらい綺麗に片付けられていて、蒼真さんの几帳面さが伺えた。「あの、この階は1部屋しかないんですか?」何を話せばいいか迷ったあげく、つい気になることをズバリ聞いてしまった。「ああ」「すごいですね……。広くてびっくりしました」「このマンションはホワイトリバーの不動産だから」「えっ、そうなんですか?こんな素敵なマンションがご実家の持ち物なんてさすがですね」「この部屋の家賃を取るとしたら結構高いだろうな。外科医の給料では全然足りない」外科医のお給料がどれくらいなのか全く想像ができないけれど、蒼真さんはまだ3年目だから……「そうなんですね。でも、お医者さんのお給料でも全然足りないなら、私なんてこんな素敵なお部屋には一生住めないですね」笑いながら言ってはみたけれど、紛れもない現実に、少し残念な気持ちになる。「そうか?そんなこと、わからないだろ」「わ、わかりますよ。普通の看護師がこんな立派なマンションに住めるわけないです。蒼真さんと私は生きる世界が違いますから」少しムキになってしまったせいか、蒼真さんは少し黙ってしまった。「……人生なんて、数秒先のことは何もわからない」ぽつりとつぶやいた言葉と、真っ直ぐに見つめるその潤んだ瞳にドキッとした。「蒼真さん……?」「ここは、元々祖父と祖母が暮らしてた場所なんだ」
「……おじい様とおばあ様が?」「ああ。俺が学生の頃、祖父母がここに住んでいる時にたまに遊びに来てたんだ。2人には特に可愛がってもらってたから、医者になるって決めた時も誰よりも喜んでくれた」「そうだったんですか……素敵なお話しですね」おじい様とおばあ様の話をする時の蒼真さんは、こんな穏やかな表情をするんだ……と、何だか心がポッと温かくなった。祖父母を大事にしようとする気持ちがすごく優しくて、今も、蒼真さんの中に閉まってあった大切な記憶が蘇ってきたんだろう。「外科医になってすぐに祖父が亡くなって、祖母はうちの実家に住むことになった。ここには祖父との思い出がたくさんあるし、病院からも近いから蒼真に住んでほしいって、祖母が言ってくれたんだ。だから、有難く住まわせてもらってる。本当に、2人にはずっと感謝してる」「蒼真さんは、ご家族のみんなに大事にされてるんですね。私も……自分の家族に会いたくなりました」「ご家族にはたまに会ってるのか?」「連絡はしてます。でもなかなか会うとなると……」「たまにはちゃんと顔を見せに帰った方がいい。家族は大切にするんだ」自分のことだけではなく、私の家族のことまで気にしてくれる蒼真さんは、やはりすごく優しくて良い人なのかも知れない。「はい、そうします。でも、応援して下さっていたおじい様が亡くなられたのはつらかったですね……」「ああ。1番の理解者だったからな。優しい人だった。昔は小さな僕を膝に乗せてよく絵本を読んでくれた。外科医になれた時には、もう病気で治しようもなかったけど、それでもすごく喜んでくれた。もう少し早く医師になれてたら、絶対に死なせなかったのに……それだけが悔やまれる」蒼真さんは唇を噛み締めた。「幸せだったと思います。膝に乗せてたお孫さんが、立派な外科医になって……。嬉しくてたまらなかったと思います」不思議だ……なぜだか涙が溢れてくる。「そうだといいな」蒼真さんは、私の頭に手を置いて、見つめながらそう言ってくれた。その笑みに胸を掴まれる。涙を見られ、恥ずかしさもあるけれど、蒼真さんの心が知れた気がして嬉しくなった。まさか自分が「あの白川先生」にこんな風にしてもらえるなんて想像もできなかったのに……今のこの状況は、私には奇跡にも近い出来事だった。
目線を外し、お互いぎこちなく体を離す。だけれど、なぜかほんの少し、心の距離は縮まった気がした。それから、私達は1杯だけお茶を飲んで、私はキッチンを借りたいと蒼真さんに言った。「お腹空いた。早く食べたい」そうねだる蒼真さんはまるで子どもみたいだった。普段とのギャップに心がくすぐられる。「キ、キッチンも綺麗ですね。こんなキッチンで料理できるなんて嬉しいです」本当に、全く使っていないのかと思うほどピカピカだ。憧れのアイランドキッチン。どこを見ても「素敵」としか言いようがなかった。「カレーで良かったんですよね」「ああ。手作りのカレーは久しぶりだから。どうしても食べたくてリクエストした」「わかりました。でも……あんまり上手じゃないですよ。期待はしないでくださいね」「食べられれば何でもいい」何でもいい……それなら私じゃなくてもいいのではないか?どうして私を呼んだのか……全てが未だ謎のまま。とにかく、いつものようにリラックスして……いや、無理やり気持ちを落ち着かせ、私はカレーを作り始めた。手伝うと言ってくれたけれど、近くにいられると心拍数が異常に上がってしまうので、蒼真さんには仕事をしてもらうことにした。テーブルの上にあったパソコンを開いて作業を始めた蒼真さんを見て少しホッとする。それにしても、ただ椅子に座っているだけなのに、どこからどう見ても絵になってしまう。蒼真さんがいる場所が、一瞬でパリのオシャレなカフェのように見えてしまうから不思議だ。カレーを作りながら、ついチラチラと盗み見をしてしまう。パソコンを打つスピードがなんとも早く、ブラインドタッチ選手権があるならば、間違いなく優勝だろう。見た目だけではないこの人の才能は、いったいどこまで広がるのだろうか?最近、蒼真さんがナースステーションの前で困っていた外国人の患者さんと、ペラペラ英語で喋っていたのを目撃し、あの時は看護師のみんながその姿に見とれてしまった。もちろん、私も……英語が話せる人が好きなだけに、思わず「カッコいい」とつぶやいてしまい、中川師長に「心の声が漏れてるよ」と突っ込まれたのを思い出す。蒼真さんが仕事をしている今の間なら、何とか緊張しないでカレーを作れそうだ。集中しよう――息を整え、野菜を刻み、炒め、煮込んだ。「その調子」、私は、自分で自分を応援した
ルーを入れて煮込むと、とたんに良い香りが部屋に充満した。その時、蒼真さんがスっと立ち上がり、私の横に来てお鍋を覗き込んだ。「あ、あの、まだですよ」「いい匂いがしたから」蒼真さんがすぐ隣にいる。身長差、ちょうど20cm。腕が私の肩に触れて、自然に胸が高鳴る。この人は、本当にいつも病院にいる白川先生なのだろうか?と、さっきから何度も思ってしまう。病院にいる時の冷静で淡々とした先生から考えると、今は全くの別人で、醸し出す空気感がまるで違う。もちろんオフなのだから当たり前ではある、それでもやはり、この環境になかなか慣れることはできない。「そ、蒼真さん、本当に中辛で良かったんですか?辛口が好みなら少し甘く感じるかも知れませんよ」私はサッと顔を見上げた。「ああ。中辛でいいんだ」この至近距離で目が合うことの恥ずかしさは、もはや言葉では表現できない。アッシュグレーの前髪がハラっと下がり、目、鼻、口、全てのパーツが私の視界に収まった。こんなのダメだ、近過ぎる――ドキドキがマックスにまで到達し、私は危険回避のため急いで視線を外してカレーをかき混ぜた。今の私は、きっとロボットみたいにガチガチで、関節が上手く動かせず、ぎこちない動きになっているだろう。「も、もう少し煮込みますからね。向こうで待っててもらえますか?」「ここにいたらダメ?」「だ、だ、ダメです!ダメですよ!早く戻って待っててくださいね」額から汗がひとすじ流れる。私は、何事も無かったかのように、ただ鍋だけを一点に見つめ、これでもかというくらいカレーをかき混ぜ続けた。その手はかすかに震えている。「そんな真剣な顔して、鍋に穴が開きそうだな」「えっ……」今のは……冗談なのか?あたふたし過ぎて、何が起こってるのか理解できない。「……向こうで仕事してるから」「は、はい、そうしてください。すみません」蒼真さんは再び椅子に座ってパソコンを使いだした。ホッとして胸を撫で下ろす。そして……長かったカレー作りがようやく終わりの時を迎えた。いつもの100倍の気力と体力を使った気がする。
蒼真さんが出してくれたカレー用の白いお皿。私は、できたてのルーをご飯にかけてテーブルに運んだ。見た目や匂いは良いけれど、肝心の味は気に入ってもらえるだろうか?「熱いですよ。気をつけて下さいね」「ああ。いただきます」「はい、どうぞ……」緊張の瞬間。「……」蒼真さんは、1口食べても何も言わない。美味しくなかったのか、心配になる。「あの……お口に合いませんでしたか?」「美味しい……」ぽつりとつぶやく蒼真さん。「ほ、本当ですか?美味しいですか?」「……これ、本当に藍花が作ったのか?」その疑いの目は何なのか?「もちろんです。私が作ってるところを見てましたよね?」「見ていたけど、これ、俺がずっと食べてきたカレーとは全然違う。病院のカレーとも違う……」正直、病院のカレーよりは自信があるけれど、蒼真さんが今まで食べてきたカレーとはレベルが違うのは仕方ないことだ。「あの、蒼真さんは今までいったいどんなカレーを食べてきたんですか?」「どんなって……家にはフランスで修行してたシェフがいた」「フ、フランス?!い、一流のシェフじゃないですか!そんなカレーと私が作ったカレーを比べないで下さい!」美味しいなんてやはりお世辞だったんだ。一瞬でも喜んだ自分が恥ずかしくなる。「子どもの時から当たり前のようにシェフがいて、ずいぶんお世話になった。今も実家にいてくれる。彼らの作るカレーももちろん美味しかった。でも、何だろうか。この味は今まで食べた中で1番美味しく感じる……」「えっ……」「どうしてだろう」「ちょっと待って下さい。1番なんてお世辞ですよね?これ、カレールーを入れてちょっと隠し味とかで煮込んだだけですから」「お世辞は嫌いだ。本当に美味しいと思うから言ってる」「で、でも……」「そうか……。きっと、誰が作るのかも重要なんだろうな。このカレーが美味しいのは、藍花が一生懸命作ってくれたからなんだ……」キュン――胸が鳴る音が聞こえる。フランスで修行したシェフよりも、私が作ったカレーを褒めてくれたことに驚きを隠せない。蒼真さんは、私が作るごく平凡なカレーを目の前で美味しそうに食べてくれている。まるでテレビのコマーシャルかと思うくらいだ。
蒼真さんは、食べる姿もとても美しい。上品というのか、育ちの良さが全てから溢れ出ている。改めて思う、蒼真さんは、やはりとんでもなく上流階級の人間なんだ――と。ごく普通の生き方をしてきた私とは全く違う。お抱えのシェフがいるくらい豪華な食事をして、立派なお屋敷に住んで……きっと、お手伝いさんや執事、ばあやさんとか、たくさんの人に守られてきたんだろう。ホワイトリバー不動産の御曹司として、大変なこともあったかも知れないけれど、でも、蒼真さんは紛れもなく本物のセレブなんだ。セレブ中のセレブ――そんな世界に生きてきた人が、私の手作りカレーを食べて美味しいと言ってくれた。もはや、これは奇跡という以外にない。「おかわり」お皿を差し出す蒼真さん。「あ、はい。量はどれくらい……」「さっきと同じでいい」「はい」私は、またご飯の上にルーをかけた。このやり取り……何だか夫婦みたいだ。昔、両親がよくやっていた。「おかわり!」と言う父に、母が「はいはい」と。私は、温かな子どもの頃の食卓の光景を思い出した。「早くして」「あ、すみません!」勝手な妄想に時が止まっていたのかも知れない。それに、きっとニタニタとニヤけていただろう。「お待たせしました」「ありがとう」私達は、2人で向かい合ってカレーを食べた。緊張しながらの食事だったけれど、一緒に食べることができて何だか嬉しかった。そして、食事が終わってから、リビングの大きめのソファに移動し、座るように促された。私は、長いソファの端の方に、蒼真さんとは少し距離を取って座った。たった2人だけの空間――静かな部屋で蒼真さんと話をするのはすごくドキドキする。リラックス、リラックス……そうやってさっきからずっと自分に言い聞かせてはいるけれど、なかなかこの状況を受け入れられない。
翌日、堂本先生が内科の診察前に、私に会いに来てくれた。「済まなかったね、昨日は」「まさか蒼真さんに電話されるとは……びっくりしました」「何だかね……無性に電話しないとって体が勝手に動いてた。自分でもよくわからないけど……そうしなきゃいけないって」「先生は優しい人です」「買いかぶりすぎだよ」「いいえ。じゃなかったら、電話なんかしないですよ。でも……本当にありがとうございました」「え?」「蒼真さん、喜んでいましたよ。堂本先生が電話をくれたこと。そして……堂本先生に申し訳なかったって言っていました」「……そっか……。久しぶりに昨日は学生時代の頃のことを思い出しながら眠った」「そうなんですか?」「ああ。不思議と楽しかった思い出ばかりが浮かんできて……なんだか懐かしかった。いつまでも彼女のことを引きずっているなんて、未練がましくて情けないってことがわかったよ。ほんと、バカだった」先生の顔は、優しくて安堵感に溢れていた。「堂本先生……」「これからは、僕も新しい人生を楽しみたいって思ってる」「よかったです。めいっぱい楽しくて幸せな人生を送ってくださいね。私も蒼真さんも、堂本先生に素敵な未来が訪れるって信じてます」「ありがとう、嬉しいよ」「私も先生に負けないよう、楽しい人生を送れるようにしたいと思います」蒼真さんと蒼太と3人で……「そうだ。新しい病院が決まったんだ。僕の実家がある近くに友達のクリニックがあるんだけど、ずっと前から声をかけてもらっててね。そこで一緒に頑張っていこうと思う」「そうなんですね。寂しいですけど……頑張ってくださいね」「ああ。彼女とならうまくやっていけそうだし」「彼女?女医さんですか?」「僕の幼なじみ。幼稚園の頃からのくされ縁でね。本当に優秀な内科医なんだ。……なんだかね、昔から僕のことが好きみたい」「えっ!」「もちろん、僕にはまだ彼女に対して恋愛感情は無いけどね。まぁ、でも、この先はどうなのかわからないしね」幼なじみの間柄、何だか勝手に恋の予感を巡らせた。堂本先生がとても嬉しそうだからかな。いろんなことが吹っ切れたような爽やかな表情に、私は心からホッとした。「いつかまた……蒼真さんに会いに来てください。いつでも堂本先生のこと大歓迎ですよ。あの人も楽しみにしていると思います」「……そうだね、またいつか
「藍花……」「蒼真さん……?」「もっともっと俺のことを好きになって……」「……あっ……」蒼真さんの手のひらが私の頬に触れる。そこから直に伝わってくる愛情。蒼真さんへのどうしようもない愛しさが、私の体を巡る。「でも、どれだけ俺を好きになっても、俺が君を好きな気持ちには勝てないけどね」キュンと胸を貫く甘い言葉。自然に唇を塞がれて、蕩けそうになる。こんなことが私の日常にあることが今でもまだ不思議で仕方ない。上から下まで、とてつもなく美しい蒼真さん。年齢を少し重ねた私達。それでも、この妖艶な魅力を醸し出す蒼真さんに、私はいつだって心を奪われる。「堂本先生の話を聞いて、改めて思った。君の心は、誰にも奪わせない。どんな宝石をも盗み出す怪盗にだって……この体と心は盗ませない」「蒼真さん……」「何があっても俺のそばから離れるな」「はい。絶対に離れません……」幸せだった。いくつになっても蒼真さんに抱かれる幸せは、私の最上の喜びだ。「藍花のこと気持ちよくしてやるから」その言葉をきっかけに、蒼真さんの愛撫が始まった。嬉しい……本当に……嬉しい。「ああんっ……はぁ……っ」「ここ、気持ちいいんだろ?」「はあっ、ダ、ダメっ」「ダメじゃないだろ……こんなに濡らしてるくせに」「で、でも……っ」「もっとしてほしい……って、言って」耳元にかかる熱い吐息。蒼真さんの唇がそっと耳に触れると、体が勝手に身震いした。「ああっ、も、もっと……して……」体中がしびれ、我慢できないほどの快感に包まれる。言葉で表すことのできない刺激的な快楽が押し寄せる。「藍花……可愛いよ」「蒼真さん……はぁっ、い、いいっ、気持ち……いい」蒼真さんの舌が私のいやらしい部分に這う。どうしようもなく濡れている場所をさらに愛撫され、私はもうどうなってもいいと思った。「イキたい?」「は、はい……もう……我慢できないっ」蒼真さんは、人差し指で私の秘部の奥を何度も突いた。こんなことをされたら……「ああっ!ダ、ダメぇ!もう……イッちゃう……」案の定、私は簡単にあっけなく絶頂を迎えた。蒼真さんに私の敏感な部分を全て知られ、逃げることなんてできない。もちろん……逃げたいなんて思わないけれど。「蒼真さん……」「ん?」「蒼真さんは……本当に私の体で満足してます
「……残念だな。確かに……嘘だよ」「……う、嘘?」「彼は、僕の彼女の告白を見事に断った。僕のことを裏切った彼女にも腹が立つけど、1番憎いのは白川先生だよ。彼は何もかも持っているのに、誰1人女性を相手にしようとしなかった。そういうところがめちゃくちゃ嫌いだったよ。余裕があるっていうか……」嘘だったと聞いて、信じていたとは言え、心からホッとした自分がいた。「蒼真さんは誠実な人なのに、勝手に悪者にしないでください。そんな理由……ひどいです」「……君はほんとに彼のことが好きなんだね。よくわかったよ。それに、白川先生も……嘘偽りなく藍花さんのことが好きなんだろうね」「……」そうだといいなと、一瞬考えてしまった。蒼真さんに嘘偽りなく愛されたい――私は心からそう思った。「どんな女も寄せつけない男が選んだんだ、君は相当良い女なんだろう」「そ、それは……。で、でも、これ以上、蒼真さんに何か言ったり変なことしたら私、許しませんよ」「強いな、君は。別に、今まで彼に何かをしようと思った事はないよ。もう忘れていたし、僕は僕の道を進んでいた。なのに、白川先生が突然連絡してきて……。あれだけ女性を相手にしなかったくせに、君みたいなとても素敵な女性を奥さんにしていたから……。結局、ああいう男が、君みたいないい女を手に入れるんだと思うと、なんだか無性に腹が立ってきて……。あの時彼女を奪われた僕の気持ちを白川先生にも味合わせてやろうと思ってね」「そんな……」「僕の密かな企みは結局失敗に終わったけどね。残念だけど、僕じゃ、彼には到底かなわないってことだな」堂本先生は苦笑いした。「僕はね、あれから誰かを好きになることができなくなってしまったんだ」「えっ?そんな……」「本当のことだよ。彼女ができても、またフラれるんじゃないか、誰かに盗られるんじゃないかって思うと怖くてね。情けないけど、誰かを好きになることができなくなってしまって」「堂本先生……」何だかその告白に胸が痛くなった。トラウマになってしまった先生の気持ちはわからなくはない。でも、それは蒼真さんのせいではない。彼氏がいながら、他の男性に告白した女性が悪いと思う。「今の病院すごくいいでしょ?働きやすくて、みんないい人ばかりだ。正直、そんな中でこんな歪んだ心を持った自分が、これから先、うまくやっていける自信は
蒼太が小学校の高学年になり、私は蒼真さんの勧めで、近くの病院で看護師として働きだした。蒼真さんの知り合いの内科の先生がいる地元では有名な総合病院。松下総合病院と比べると、かなり規模は小さいがそれなりに立派な病院だった。いろいろ教えてくれる中川師長のような頼りになる先輩がいてくれて、とてもありがたかった。私は、外科の病棟に勤務していた。「藍花さん。少しは慣れましたか?」「あっ、堂本先生。はい……と言いたいところですが、まだまだです。堂本先生がこちらの病院を紹介していただいたおかげで本当に助かりました。ありがとうございました」「いえいえ。白川先生から頼まれると断れません。彼は僕の学生時代の友達ですから」「主人からも聞いています。堂本先生はとても優秀だから、勉強させてもらいなさいと」スラット背が高く、白衣も似合っていて、とても落ち着いた雰囲気のある真面目な先生だ。病院内の評判もとても良い。看護師達からの信頼も厚く、患者さんにも人気がある。松下総合病院で頑張っている蒼真さんと同じだ。「とんでもない。学生時代から彼の方がとても優秀で、僕なんか足元にも及ばないですよ」「……あっ、いえ。短期間ですが、先生を見ていて立派な方だとわかります」「ありがとうございます。あなたにそう言ってもらえると嬉しいです」「よかったら、1度、食事でもいかがですか?」「本当ですか?主人も喜びます」「……あ、いや。できれば、藍花さんと2人で話がしたいんですけど……。いろいろと……」えっ、2人きりで?……と、心の声が口から出そうになった。堂本先生の突然の誘いに驚き、なんと答えればいいのかわからなかった。「……ダメかな?」「す、すみません。2人きりはちょっと……。ナースステーションの誰かを誘ってみんなで行きませんか?」そう言った途端、堂本先生の顔つきが険しくなった。「みんなでワイワイするのは好きじゃないんだ。落ち着いたところで、白川先生の学生時代の話とか……できたらいいんだけど……」「主人の学生時代の話ですか?」そう言われると、とても興味がある。それでも蒼真さんに内緒で行くことはできない。「ああ、そうだよ。学生時代の白川先生のことを君に教えてあげたくて。聞きたくないの?」「き、聞きたくないことはないです。でも……」「とても興味が湧く話だと思うけどね」
僕はその結果に心からホッとしながらも、正直、自分を情けなく思った。自分にとって何よりも大切な人がこんなになるまで頑張っていたのに……無理していることに気づいてあげることができなかった。結果、桜子に不安を与えてしまい、痛い思いをさせてしまった。医師として、そして、彼氏として本当に申し訳ないことをしたと心底反省した。医師だから、体も心も強いわけではない。もがきながら、苦しみながら、逃げ出したい気持ちもある中で、みんな必死に患者さんのために頑張っている。僕も今回の事を教訓にして、桜子の体調も気にしながら、お互い励ましあって、支え合って生きていきたいと思った。もう二度と桜子を不安にさせないと、心に誓った。「ごめんね。本当に心配かけて。何だかみんなに心配をかけてしまって……恥ずかしい。これからは、一生懸命、妊婦さんや婦人科の病気を抱えている人のために頑張っていくね。あ、でも、自分の体にも気をつけていきます」「……うん。そうだね。僕もたくさんの人の命を守りたい。その気持ちを永遠に持ち続けて、そして、桜子のこと、必ず……幸せにしたい」「蒼太さん……?」「本当はもっとロマンチックな形で言いたかったけど、今どうしても君に伝えたいから」「えっ?」「桜子。僕たち結婚して、夫婦にならないか?」「……蒼太……さん?」「お互いに支え合って、いつまでもずっと一緒にいよう。絶対幸せにするから、僕についてきてほしい」「……嬉しい。蒼太さん、私、とっても嬉しいよ」「ほんと?」「うん、私を選んでくれて本当に本当にありがとう」「こちらこそ……。うわっ、すごくドキドキした」あまりの緊張に思わず心臓を抑えた。「私もドキドキしたよ。ありがとう、ほんとに嬉しい」「うん、僕も嬉しい。良かった……」病院の片隅、僕たちは永遠の愛を誓った。泣きながら笑うなんて変だけど……でも、こんなに幸せでいられることに感謝しかなかった。***それからしばらくして、両親と僕たちは川の近くにあるキャンプ場にやってきた。流れる水がとても綺麗で、心地よい風が吹いている。最高のキャンプ日和だ。早速、近くにテントを張ってバーベキューの準備をする。父も母も、桜子の元気な姿を見て、とても嬉しそうだった。「何だか蒼太の子供の頃を思い出すわね。川辺で遊んでいる姿がとても可愛かったわよね。ほ
数日して、桜子が胃カメラを受ける日がやってきた。一旦腹痛も治まり、翌日には退院して、仕事にも戻っていた。僕の両親と桜子、4人でその話をしたら、父も母もとても心配していた。父は外科医、母は看護師、2人とも熱い志を持って今も仕事をしている。2人とも可愛い桜子に対して何かしてあげたいとの思いを語ってくれた。「お父さん、お母さん。私のことをそんなに心配してくださって、本当にありがとうございます。産婦人科医として働いている自分が病気になるなんて……すごく情けないです」桜子は沈痛な面持ちで頭を下げた。「何を言ってるの。人間は病気になるものよ。でも病院に行って治療を受ければ大丈夫。病院と先生を信じてね。きっと良くなるわ。情けないなんて言っちゃだめよ」母が丁寧に諭すように言った。看護師としての母も、普段の母も、とても穏やかで優しい人だ。「お母さん……。励ましていただいてとっても心強いです」「いえいえ、私は昔、外科医である主人によく怒られていたのよ。笑顔で患者さんに接して、決して不安にさせてはいけないって」「別に怒っていたわけじゃないよ」父が照れながら言う。僕にはわかるけどね、父は母のことが大好きで、でも、うまく気持ちを伝えられずに、そういう態度で接してしまっていたんだって――「とにかく患者さんに優しく不安を与えずに治療を続ける主人を見て、とても感動したの。患者さんは先生に頼るしかない。わからないから不安になる、だから、先生に優しくされたら心から安心するのよね。主人と関わる患者さんは皆そうだったわ」「……そのくらいでいいから」「お父さん、照れすぎだよ。お母さんはそんなお父さんのことをいつだって尊敬していた。僕もその姿を見ていたから、お医者さんになりたいって子供の時から決めてたよ。無事に父さんと同じ外科医になれて本当に良かったと思ってる」「そうよね。だってそのおかげで蒼太は、桜子さんと出会うことができたんだもの」「お母さんがお父さんと出会ったように……ですね」桜子が少し目を潤ませて、そう言った。「そうね。私も主人と出会えて本当に幸せよ。可愛い桜子さん、本当に蒼太と出会ってくれてありがとうね。病気の事はきっと大丈夫だから。信じましょう。元気になったら、みんなでバーベキューでも行きましょう」「うわぁ、楽しみです。バーベキューなんて小学生の時以来で
優秀な外科医である父の背中を見て育った僕は、昨年研修医を経て、無事に父と同じ外科医となった。まだまだ未熟だけれど、志は熱い。これからたくさんのことを学んで、多くの患者さんを救いたいと心に誓っている。大学病院の外科での仕事は大変だけれど、それを支えてくれる父や母、そして、僕の彼女の「相川 桜子」、みんなのおかげでモチベーション高く頑張れている。桜子は同じ大学で医学を学んだ同士であり、現在は産婦人科医として頑張っている。父や母の知り合いの七海先生の話はよく聞いていたが、僕も、産婦人科医はとても大変で尊い仕事だと認識している。桜子とは新米の医者同士、励ましあったり、知識を共有したりして、お互い尊敬しあっていてとても良い関係だ。そう、彼女は、僕の最高のパートナー。来年あたり結婚して、仲の良い楽しい家庭を作りたいと思っている。もちろん、授かることができれば、かわいい赤ちゃんも欲しい。僕の両親もそのことをとても喜んでくれていて、優しくて品があって、努力家の桜子のことをすでに娘みたいに可愛がってくれている。***そんなある日のこと。桜子はいつものように実家から大学病院に向かった。電車を降りて病院まで歩いている途中の事だった。桜子が急に腹痛を訴えて倒れ込み、たまたま近くにいた人が救急車を呼んでくれ、僕たちが勤める大学病院に運ばれた。知らせを聞いて、僕は慌てて桜子の元に飛んでいった。桜子はお腹を押さえ、冷や汗をかいてベッドに横たわっていた。「桜子!大丈夫か?」「あっ、ごめんね。仕事中なのに」「何言ってるんだ。そんなこと気にするな。それより大丈夫なのか?」「……うん、急にお腹を刺すような痛みがして……」僕は目の前にいる桜子を見て、胸が張り裂けそうなくらい不安になった。一体何が起こったのかと心配で心配でたまらない。なのに、今の自分には何もしてあげることができず、医師として情けなくて悲しくて、無力さを痛感した。「蒼太先生。桜子先生は今から検査に入ります。すみませんが、しばらく待っていて下さいね」「わかりました。先生、どうかよろしくお願いします」 「大丈夫ですよ。しっかり検査させていただきます。終わったらまた連絡しますね」「お世話になります。ありがとうございます」僕はそう言って、担当の先生に頭を下げ、不安な気持ちを抱えたまま外科に戻った
伯母さんに結婚をせかされてから数日後、僕は、いつものように松下総合病院で仕事をしていた。「歩夢さん。あの……私、もうすぐ退院ですよね」「そうですね。よく頑張りましたね」「あの……退院する前に話しておきたいことがあって……」しばらく入院していた田川 紗英さんに、突然話しかけられてびっくりした。「……どうかしましたか?田川さん」「……入院中、仲良くしてくれてありがとうございました。すごく不安で仕方なかったけど、歩夢さんのおかげでリラックスして手術も受けれたし、術後もいっぱい励ましてもらったから今日まで頑張れました」僕より2つ年下の彼女。気づけば、田川さんは僕のことを名前で呼んでくれていた。「ありがとうございます。そう言ってもらえたら嬉しいです。少しでも田川さんのお役に立てたならよかったです」「少しだなんて。歩夢さんにはたくさんたくさん励ましてもらいました。私、すごく……幸せでした」「そんな大げさですよ、幸せだなんて。これから先、あなたにはたくさん幸せなことが待っていますから」「そうですかね……。私にも何か良いことありますかね」「もちろんですよ。絶対あります。田川さんは、退院したらやりたいこととかあるんですか?」田川さんは、小柄で女性らしいふんわりとした印象のある、とても可愛らしい人だ。しかも、性格が良い。趣味の話や、テレビや食べ物の話など、いろいろなことを話している中で意気投合することも多かった。きっと、こんな人と結婚したら毎日楽しんだろうなと、ほんの少し思ったりもした。「……やりたい事はたくさんありますよ。映画も見たいし、ショッピングもしたい。キャンプに行ってバーベキューもしてみたいし、夜空の星を見るツアーにも参加してみたい。あっ、遊園地にも行きたいですね。あとは……う~ん、まだまだやりたい事がいっぱいあってまとまりません」必死に語る田川さんが可愛く思えた。「いいじゃないですか。楽しみがいっぱいですね」「でも……」「でも?」「どれもこれも1人では寂しいです。2人でなら楽しいことばかりですけど……」田川さんは目を閉じて、そして、何かを想像するかのように微笑んだ。「ん?仲良しの友達がいるんですか?」「……友達はいますけど……そういう楽しいことを一緒にしたいと思うのは、やっぱり……」田川さんは、急に僕から視線を外し戸惑
「歩夢、いい加減、そろそろあなたも結婚とか考えたらどうなの?いつまでも1人じゃ寂しいでしょ」伯母の中川師長にまた同じ質問をされた。もう何度目だろう。もちろん、伯母さんだって本当は言いたくないだろうけど……「だから、いつも言ってるように、僕には彼女がいないんだから結婚なんてできないよ。相手がいなきゃ、結婚はできないんだからね」「当たり前でしょ。そんなことわかってるわ。ほんとに毎回毎回同じことばかり。歩夢にはその気がないの?」今日の伯母さんはいつも以上に必死だ。「その気がないわけじゃないよ。でも……病院にいたら出会いなんてないよ」「そうはいうけど、今どきネットとか出会いはたくさんああるんでしょ?何か試して前に進んでみたら?この間も、私の知り合いの娘さんが、その……なんて言うのかしら?マッチングアプリ?そういうので、素敵な人と出会ったらしいわよ。いろんな相手がいてね、こちらが興味を示したらボタンを押すんですって。それを見て相手も興味を持ってくれたら、会ったりするんですって~。すごいわよねぇ~」伯母さんの口からマッチングアプリなんていう言葉が飛び出すとは思ってもみなかった。確かに……伯母さんの助言は有難いと思う。だけど、今の僕には誰かと付き合うなんてまだ考えられない。正直、藍花さんと離れて数年、他の誰かを好きになることはなかった。無理して誰かを好きになろうとも思わなかった。僕は……きっとこのまま独身のまま人生を終えるのだと……そんな気がしていた。それでもいいとさえ思っていた。「伯母さんの気持ちは本当にありがたいけど、もう少し今は仕事を頑張っていたいんだ。まだまだ未熟だし、仕事が1番楽しい。もっと勉強して、いろんなことを知りたいから。そうだ、伯母さんこそマッチングアプリとかしてみれば?良い相手が見つかるかも知れないよ」「な、な、何を言ってるのよ!伯母さんをからかわないで。ま、全く何を言ってるのかしらね。私がマッチングアプリなんてするわけないでしょ」かなり慌ててる伯母さんをみたら、さらにからかいたくなった。「伯母さんも第2の人生を楽しんでみたら?イケメンでお金持ちの人もいるかも、僕、断然応援するよ」「私のことはいいのよ、ほんとにもう。歩夢……。あなた、もしかして、まだ藍花ちゃんのことを?」伯母さんにはとっくの昔から僕の気持ちを見抜かれ