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第2話

Author: 鳳小安
研司は壁にもたれ、深い眼差しで雲乃を見つめていた。

長い沈黙の末、ようやく低い声が聞こえてきた。

「彼女は香坂若菜(こうさか わかな)。俺が外で囲っている女だ。23歳で、大学を卒業したばかり。大学2年のとき、クラブ・ルーセントで酒を売るバイトをしていて客に絡まれていたところを、俺が助けた。

ちょうどその日、俺は誰かに薬を盛られていて、彼女に助けてもらった……それから、彼女を外に住まわせて面倒を見るようになった。

若菜は素直で、聞き分けがよくて、純粋な子だ。俺が結婚していることも知らない。俺も最初は別れようと思って、一度別れを切り出したことがある。でも、彼女が泣きじゃくるのを見た瞬間、俺はもう一生この子を捨てられないんだと分かった。

9か月前、妊娠したと聞かされたときも、最初は堕ろしてもらおうと思った。でも、あんなに幸せそうな顔を見たら、どうしてもできなかった……

雲乃、もう起きてしまったことなんだ。信じてくれ。たとえ俺に外で別の女がいたとしても、一番愛しているのはお前だ。俺の妻は、お前だけだ!」

目尻から涙がこぼれ落ちた。それなのに雲乃は笑った。「つまり、あなたはもう丸2年も浮気してたってこと?しかもこの2年間、あなたの周りの人はみんな知ってた。雅美まで知っていて、知らなかったのは私だけ……そういうこと?」

「若菜は一人で妊婦健診を受けるのが怖いって言うから、雅美には話したんだ。彼女はお前の親友だろ?その雅美だって受け入れてくれたんだから、お前だって受け入れられるだろ?」

雲乃は首を横に振り、全身を震わせながら泣いた。「研司、自分が何を言ってるか分かってるの?私にあなたの浮気を受け入れろって言ってるの?それとも、外で囲ってる女と、その子供まで受け入れろっていうの?」

あまりにも取り乱している雲乃を見て、研司は手を伸ばして彼女を抱き寄せ、宥めるように優しく言った。「もういい、泣くな。つらいのは分かってる。でも若菜には何の罪もない。彼女は何も知らないんだ。だから、彼女の前で騒ぐのだけはやめてくれ。出産したばかりで体も弱ってる。俺は彼女を悲しませたくない」

「彼女には罪がない?じゃあ私は?私は何も悪くないのに、傷つけられて当然だっていうの?」

雲乃は力いっぱい彼を突き放した。「研司、お腹にあなたの子供がいるから、最後に一度だけチャンスをあげる。私を選ぶの?それとも香坂若菜を選ぶの?私のお腹の子を選ぶの?それとも香坂若菜の子供を選ぶの!」

「もうよせ」

研司は困ったような口調で言った。「どちらか一人を選べなんて、そんな子供じみたことを言う歳じゃないだろ。俺たちの周りには、外に何人も女を囲ってる男だって珍しくない。俺にはお前と若菜の二人しかいない。それすら受け入れられないのか?」

真剣そのものの男の顔を見つめながら、雲乃はふと気づいた。

自分が愛していた男は、いつからか、もうすっかり変わり果てていたのだ。

二人が初めて京浜市へやって来た頃のことを、彼女は今でも覚えている。

当時二人が借りていたのは、わずか12畳ほどの小さな部屋だった。

窓ガラスまで割れていて、夜になるといつも隙間から冷たい風が吹き込んできた。

それでも二人で抱き合っていれば、何も怖くなかった。

研司が起業して2年目、雲乃は病気になった。

肺がんの疑いがあり、生検を受けるには家族の同意と署名が必要だった。

しかし彼女の両親はすでに他界しており、署名してくれる家族はいなかった。

すると研司は何の迷いもなく彼女を連れて婚姻届を出し、その日の午後には病院へ行って同意書に署名してくれた。

幸い、検査の結果は良性だった。

あの日から、雲乃はこの男と一生を共にすると心に決めた。

その後、彼女には何でも話せる親友ができ、信頼できる友人たちもできた。

研司の事業も軌道に乗り、彼女もようやく子供を授かった。

何もかもが、想像していた以上に順調だった。

自分は世界で一番幸せな人間なのだと思っていたそのとき、現実は容赦なく彼女を打ちのめした。

男は金を手にすると、本当に変わってしまうのだ。

欲深くなり、もっと多くのものを求めるようになる。

そして自分が心から愛していた男は、2年も前からすでに自分を裏切っていた。

今さら、どんな言葉を口にしたところで虚しいだけだった。

「覚えておいて。今日こうなったのは、全部あなた自身が選んだことだから。あとで後悔しないでね」雲乃は力なく背を向け、その場を立ち去った。

研司は心配になって追いかけようとしたが、そのとき電話がかかってきた。

「もう俺に会いたくなったのか?さっき別れたばかりだろ?いい子で待ってろ、すぐ行くから」

彼はもう雲乃を追ってこなかった。

そのまま彼女とは反対の方向へ歩いていった。

ちょうどその時、心配になったのか、雅美が研司を探しにやって来た。「どうだった?雲乃、大丈夫?」

「全部話した。たぶん、受け入れたと思う」

「大丈夫よ、きっと受け入れられるって。だってお腹にはあなたの子供もいるんだし。ただ、気持ちを整理するのに少し時間が必要なだけよ」

二人の会話は、一言残らず雲乃の耳に届いていた。

雲乃は足を止めると、そのまま踵を返して産婦人科へ向かった。

彼らが、子供さえいれば自分は必ず研司のそばに残るとそこまで信じ切っているのなら――その子供を堕ろしてしまえばいい。

中絶手術の予約を済ませたあと、彼女は二本の電話をかけた。

一本目は、研司の会社の人事担当者へ。「退職するわ」

「奥様、社長はそのことをご存じでしょうか?」

「妊娠したから、しっかり休んでほしいって言われてるの。退職の手続きを進めておいて」

「では、企画部のほうは……」

「あとで引き継ぐ人が来るから」

「承知しました、奥様」

二本目は、以前から何度も好条件を提示して彼女を引き抜こうとしていた会社にかけた。

「もしもし。以前お話しいただいた仕事の件ですが、お受けします」

「本当ですか!水城さん、以前拝見した企画書はどれも社内で非常に評判がよかったんです。ぜひ一日も早く弊社に加わっていただけることを楽しみにしています」

「ええ。7日後、予定どおり入社します」

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