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第3話

お金来い
私が声を潜めてすすり泣いているのに気づくと、靖彦は感動のあまり泣いているのだと勘違いしたようだ。

これまでは毎回、こんなに素敵な夫に出会えた自分の運命に感謝し、感極まっていたから。

けれど今の私は、心の痛みとその場で狂ったように彼を問い詰めたい衝動を、必死に抑え込んでいる。

なぜ、これほど残酷な裏切りができるのか、と。

一時間に及ぶ旅行Vlogがようやく終わった。しかし、それは今の私にとって、心を切り裂かれるような絶望の時間でしかない。

靖彦は手慣れた様子で私を抱きかかえ、寝室へ運んだ。そして、腕の中に等身大ほどの大きなクマのぬいぐるみを押し込んだ。

そうして私の額にキスを落とすと、彼は慎重な動きで部屋を後にした。

ドアの向こうから、微かな物音が聞こえてきた。靖彦の遠ざかっていく足音と、ひそめられた声だ。

「こんな時間に……妻を起こしたら、ただでは済まさないぞ。

自分のことを本物の妻だとでも勘違いしてるのか?俺に甘えたいのか?正気なのか?」

ふと窓の外を見ると、隣の書斎の明かりが一瞬灯ってはすぐに消えるのが見えた。

私の視線は、部屋の隅に置かれたノートパソコンに吸い寄せられた。女の第六感が激しく疼き出した。

私は素早くパソコンを掴むと、義足を装着してベッドを降りて、トイレに駆け込み、中から鍵をかけた。

画面に淡い光が浮かび上がった。映し出されているのは、仕事用のチャットツールを使ってビデオ通話をしている二人の姿だ。

アカウントにログインしていたため、二人の会話がそのまま私の目に飛び込んできた。

靖彦を「先生」と仰ぐ新人看護師の前多心奈(まえた ここな)は、赤い唇を軽く噛み、幼い八重歯をのぞかせた。

「先生、何をそんなに怯えてるんですか?着けてたかどうかなんて、あなたが一番よく知ってるはずでしょう?

まさか……もう忘れちゃったんですか?思い出させてあげましょうか?」

暖色の常夜灯の下で、靖彦の喉仏が微かに動き、その声は掠れている。

「お仕置きが必要なようだな。あまり煽ると、後で後悔することになるぞ。

あの日、俺が我慢できなかったのは、君にも責任がある。

薬を飲まないなら、その後どうなっても俺は知らないからな」

口では突き放しながらも、眼鏡を外した彼の眼差しからは刃物のような鋭さが消え、次第に甘く蕩けていった。

数秒後、心奈は溶けかけた飴細工のように、彼の熱い視線に絡みついていった。

「ふん。用事があるって言って、私をあんな男たちの中に放り出すなんて!

……じゃあ、今から誰とでも寝ちゃうから。悔しがっても知らないんだからね!」

彼女の挑発はエスカレートし、白く柔らかな肌が露わになっていった。

ついに靖彦は自制心を失い、荒い呼吸を漏らしながら低く唸った。

「場所を教えろ。俺が行くまで、勝手な真似はするな」

パタンと音を立てて、私はノートパソコンを閉じ、同時にスマホの録画ボタンをオフにした。

靖彦が部屋に戻り、私にキスをしようとベッドに潜り込んできた時、私は寝ぼけたふりをした。

消え入りそうな手つきで彼の袖を掴み、潤んだ瞳で名残惜しそうに彼を見つめた。

「どこへ行くの?」

彼の瞳の奥に暗い影が差し込み、月の光の届かない闇の中で、思わず後ろに一歩下がった。

「病院から急な呼び出しがあったんだ。先に寝てて。目が覚める頃には、必ずそばにいるから」

彼は誓うように約束を口にした。私を一人残して消えていった、数えきれないほどの夜と同じように。

静まり返った部屋に、再び着信の振動音が響いた。靖彦は電話に出ると、いかにももっともらしく返事をした。

「分かった。人の命がかかってるんだ、すぐに行く」

靖彦は私をなだめる時間さえ惜しむかのように、身代わりの大きなぬいぐるみを再び私の腕に押し込んだ。

もし彼がほんの少しでも注意を払っていれば、私の手が氷のように冷たく、震えていることに気づいたはずだ。

けれど今の彼は、早く愛弟子に会うことだけを考えている。

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