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第3話

Penulis: 愛夢
午後の勤務が始まってようやく、蒼介は私を階段の踊り場に呼び出した。

ポケットに手を突っ込み、いつになく険しい顔をしている。

「心優、俺が誤解を解く投稿をしないと言ったら、今度は別れると脅すのか?いつからそんな駄々っ子みたいな、恥知らずな真似を覚えたんだ?」

私は腕時計の文字盤を指さした。

「2時半よ」

彼は一瞬、言葉に詰まった。

私は青白い顔で、かすかに笑った。

「私がメッセージを送ったのは、昼の12時40分。

そのとき、あなたは莉々と4階にいた。メッセージを受け取っていたくせに、わざと2時まで放っておいて、ようやく私と話し合う気になった。

私と別れる話をする時間でさえ、あなたたちが一緒に過ごす昼休みと重ならないようにしたかったのね」

蒼介は返す言葉を失い、たちまち勢いをなくした。口調も少し柔らかくなる。

「莉々の会社と俺の会社は業種が近いし、話も合う。それは共通の話題があるってだけで、何の証拠にもならないだろ」

そのとき、莉々がドアを開けて入ってきた。

その言葉を聞いた途端、口元の笑みが消え、その場に立ち尽くした。

「蒼介、私とあなたは、確かに何でもない関係だものね」

蒼介は一瞬、慌てた様子を見せた。

「莉々、そういう意味じゃ……」

莉々は目を伏せた。

「いいの。心優ちゃんをなだめるほうが大事でしょ。私はどうでもいい存在なんだから。

心優ちゃん、もし私と蒼介が友達でいることが嫌なら、私だってここであなたの目障りになりたくない。仕事を辞めて、実家に帰るわ」

蒼介の顔から表情が消え、怒りをにじませながら私を見た。

「これがお前の望みなのか?莉々を追い出して、俺の友達を全員遠ざけて、俺がお前だけを見ているようにしたいのか?

心優、お前は俺を何だと思ってる?ペットか?それとも自分の所有物か?」

彼は莉々の手を取ると、防火扉を押し開けた。

「俺たちにはやましいことなんて何もない。勝手に疑って、心が狭いのはあいつだ。出ていくべきなのは、あいつのほうだろ」

その声は、周囲に聞こえるのもお構いなしだった。

人目があるにもかかわらず、二人は手をつないだまま離そうともしなかった。

私は階段の踊り場を後にした。

同僚たちの冷たい視線が、針のように私の体に突き刺さる。

「綾瀬って、SNSにも投稿してたらしいよ。桐生社長が自分の秘密の恋人だって匂わせてたんだって」

「どんだけ恥知らずなの?仲のいい二人を見て嫉妬して、人の恋愛をぶち壊そうとしてるわけ?」

「桐生社長と手をつないでる合成写真まで何枚も作ったらしいよ。オーロラの下で告白されたとか、そんな話まででっち上げてたって」

「桐生社長が自分をかばって車にぶつかられて、肋骨を一部失ったとかも言ってるらしい。よくそこまで本当っぽく作れるよね」

私が大切に、大切にしまっていた思い出の数々は、いつの間にか人々の笑い話のネタになっていた。

自分のデスクに戻ると、机から椅子まで、「キモい夢女子」と書かれた付箋だらけになっていた。

私を挑発するためなのか、誰ともわからない同僚から、蒼介と莉々のツーショットが次々と送りつけられてきた。

ようやく退勤時間になり、私はエレベーターに乗り込もうとした。

すると、ある同僚が長い脚を突き出し、横暴に私を追い払った。

「綾瀬さん、もう満員だから。次のエレベーターに乗って」

私は中を見た。蒼介と莉々がエレベーターの壁にもたれ、頭を寄せ合いながら、夕食をどこで食べるか相談していた。

私は無理やり中に入り、かすれた声で言った。「まだ乗れるでしょ」

同僚はわざと体を押しつけてきた。

「どこに乗る隙間があるっていうの?二人はぴったりくっついてるんだから、あんたが割り込む余地なんてないでしょ」

エレベーターの中に、くすくすと含み笑いが広がった。

莉々も顔を上げて笑いながら尋ねた。「何の話をしてるの?」

同僚が私を指さした。

すると莉々は、たちまち表情を曇らせ、鼻にかかった声で言った。

「みんな、心優ちゃんにそんなこと言わないであげて。私が3人の関係をうまく整理できなかったせいなんだから。

実は私、今日の午後にはもう退職を申し出たの。心優ちゃん、これで満足?」

いかにも自分が身を引いているかのような言い方だった。

けれど、その言葉が、まるで私に追い詰められたのだと訴えているようだった。

周囲の人たちが慰めの言葉をかけるより先に、蒼介が優しい声で彼女をなだめた。

「莉々、お前は何も悪くない。関係のない人間のために譲歩する必要なんてないんだ。

ちょうど俺のところでアシスタントが必要なんだ。辞めるなら、うちに来ればいい」

彼は冷たい怒りをにじませながら、私の腕を乱暴に押しのけ、エレベーターの開ボタンを押した。

周囲から羨望と称賛の声が上がる中、彼は莉々の手を引いてエレベーターを降りていった。

莉々は去り際に振り返り、私を見た。

その一瞬、彼女の瞳に、思いどおりになったことへの喜びが浮かんでいるのが見えた。

エレベーターの扉が閉まった。

同僚たちの嘲笑は、さらに激しくなった。

「綾瀬さん、あんたみたいな夢女子がいるから、本物の二人が早く告白しなきゃいけなくなるんだよね!代わりにお礼を言ってあげる!」

「これからはこそこそ秘密の恋をしなくて済むね。オフィスで毎日顔を合わせられるんだから!」

嘲笑が耳に流れ込んでくる。

何度も頬を叩かれるより、ずっと痛かった。

誰かに背中を押された。

私はエレベーターの外へ突き飛ばされ、磨き上げられた床に足をもつれさせながら転んだ。

バッグの中身が床一面に散らばった。

ずっとバッグの奥に隠していた指輪まで、転がり出てしまった。

それはペアリングだった。

蒼介がわざわざヨーロッパでオーダーメイドしたものだ。

彼は地面にひざまずき、私の指に指輪をはめながら、笑って言った。「心優、これでもう逃げられないぞ」

けれど、出社初日。

私が指輪をつけていたのに、蒼介は外してしまった。

彼が出社するなり指輪を外し、ポケットにしまったことに気づいてから、私も怖くてつけられなくなった。

私は身をかがめて指輪を拾い上げると、振り返り、ゴミ箱に投げ捨てた。

日の当たらない場所にしか置けないものなんて、もういらない。

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