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第3話

Author: 春を追って
「お手伝いさんが何十人もいるじゃない。私なんかよりずっとプロ」

しかし次の瞬間、涼真の言葉が私をその場に縫い止めた。

「随分と気が強くなったな。出てもいい、ただ、お義母さんのことを考えろ。

君がやらないなら、代わりにお義母さんにやらせるだけだ」

握りしめていた拳から、力が虚しく抜けていく。

唇を噛み締め、私は自分の荷物をまとめるために主寝室に入った。

だが、後から入ってきた理人は、私の私物をすべてドアの外へと乱暴に投げ捨て始めた。

化粧品の瓶が床に落ちて砕け散る。

理人は私を振り返り、当然のような顔をして言った。

「お母さんの片付けが遅いからだよ。どうせ全部古いんだし、とっくに捨てるべきなんだ」

涼真は場を収めようとするか、私の背中を叩こうと手を伸ばしてきた。

「まあ、佳音(かのん)。港区にあるオーシャンビューの別荘を全部買い上げて、君の名義にしておいた。海が好きだろう?しばらくはそっちに住むといい」

白々しい言葉に吐きそう。

彼の手を避け、私は部屋の掃除だけを済ませると、すぐにその場を離れた。

しかしそれから30分後、主寝室から突然悲鳴が上がった。

私はボディーガードに捕まれ、二階へと引きずり上げられた。

ベッドの上には、鋭い縫い針がきらりと光っていた。

紗良は彼の胸に顔を埋め、痛ましそうに泣きじゃくっている。

「涼真、私怖いよ……針、お腹に当たったみたい。 赤ちゃん無事かしら……」

涼真は優しく彼女を宥めながら、私を振り返った。その目には深い嫌悪感が満ちていた。

「佳音、君いつからこんなに悪辣な女になったんだ?

教師のくせに、人を受け入れる度量もないのか?紗良は君の立場を脅かしたりしないと言っただろう?なぜあの子をそこまで目の敵にする?

あんなに長い針をベッドに隠すなんて、彼女を殺す気だったのか!」

私は何が何だか分からなかった。「……何のこと?」

しかしその時、部屋の隅で黙っていた理人が突然私に向かって突進してきた。

次の瞬間、右手首に激痛が走った。

あの鋭い針が、私の右手首に深く突き刺さっていた。

一瞬、右手の感覚が失われる。

理人はそれでも気が済まないのか、私に向かって拳を振り回してきた。

「悪いお母さん!悪いお母さん!針でお姉ちゃんを刺そうとしたんだ!僕がお姉ちゃんの仇をとってやるんだ!」

子供の力は弱かったが、それでも私の目からはとめどなく涙がこぼれ落ちた。

昔から、理人は大人びすぎていて、小さな子供なのに涼真のように無口だった。

だから私はずっと、彼が本当の子供らしく泣いたり騒いだりしてくれればいいのにと願っていた。

だが、まさか息子の初めての当たり散らしが、あの人のために私に向けられるものだったなんて、夢にも思わなかった。

顔を上げ、私はかつてないほどの絶望を込めて涼真を見つめた。

「本当に私がやったと思ってるわけ?」

涼真は長い間、何も答えなかった。

しかし突然、紗良が痛ましそうな悲鳴を上げた。

「涼真、お腹痛い……赤ちゃんに何かあったらどうしよう……

もしこの子がいなくなったら、私、生きてる意味も……」

涼真は彼女を抱きしめて宥め、眼中に迷いが消えた。

「今日のことは、もともと君が悪い。理人が分別がないのも、君が我慢しろ」

私の手首の傷を見て、彼はこめかみを揉んだ。

「大した傷じゃないだろう。自分で手当てしろ。

お義母さんのことは心配するな。八つ当たりはしない。医療チームを二十四時間体制で付けている。心配はいらない」

そう言い残すと、涼真は紗良を抱き上げて部屋を出て行った。

その時、突然下腹部に絞られるような激痛が走り、私は無意識に彼を呼び止めた。

振り返った男の顔は、不快に満ちていた。

「また何か企んでるの?

紗良があんな状態だっていうのに、まだ嫉妬してるのか?君だって妊娠したことがあるだろう?どうしてそんなに自分勝手なんだ?」

立て続けの叱責に、言葉が喉の奥に詰まった。

下腹部の痛みがどんどん激しくなり、私はもう涼真を引き止めることはできなかった。

ただ息子に向けて手を伸ばし、彼が私を引き起こしてくれることを期待した。

だが理人は、嫌悪感を露わにして私を突き飛ばし、涼真の後を追うように背を向けた。

突き飛ばされた反動で、お腹をローテーブルに強く打ち付けてしまった。両足の間から、温かい血がゆっくりと流れ出すのを感じる。

本能的な恐怖に駆られ、私は最後の力を振り絞って彼を呼び止めた。

「待ちなさい理人!お母さんのお腹には……あなたの妹がいるの!妹を助けて!」

理人の足が確かに止まり、私の心に再び微かな希望が灯った。

優しい声で、救急車を呼んでくれるよう頼み込もうとした。

しかし、理人の口角は嘲るように吊り上がった。

「お母さん嘘つき。お父さんが言ってたよ。お母さんはもう子供が産めないんだって。妹なんているはずないじゃないか。

僕の妹は、お姉ちゃんのお腹の中にいるんだよ。お母さん、もう嘘をつくのはやめてよ、気持ち悪いし」

下腹部を刃物でえぐられるような痛みに耐えながら、私は声を出して説明しようとした。

だが、息子は振り返ることなく、ためらいなく歩き去ってしまった。

結局、私を病院に運んでくれたのは、お手伝いさんだった。

目を覚ますと、医者が気の毒そうな顔をして立っていた。

「残念ですが……遅すぎました。お子さんは助かりませんでした。

奥様、どうか気を落とさないでください。またいつか、お子さんを授かる機会はありますから」

平らになった腹に手を当てたが、なんと心の中に悲しみは残っていなかった。

子供はもう二度とできない。涼真との間にも、もう何も残っていない。

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