LOGIN氷のように冷徹な夫と結婚し、これまた冷徹な息子を産んだ後、私はようやく待望の女の子を身ごもった。 食事の時、私は息子に「妹は欲しい?」と探りを入れてみた。 しかし、息子は首を横に振った。「僕、もう妹がいるよ」 私は目を丸くし、息子が冗談を言っているのだと思った。 そもそも家にぬいぐるみなんて一つもないのに、妹なんてどこにいるのよ。 次の瞬間、夫が突然口を開いた。「俺、浮気した。あの子が妊娠した」 「昨日羊水検査をしたら、女の子だった」 私はその場に呆然と立ち尽くした。私を見つめながら、夫はゆっくりとした口調で言った。 「子供は産ませるつもりだ。あの子は若くて健康だし、頭のいい子が生まれるはず」 心を鷲掴みにされたような感覚。 背後に隠した妊娠証明書が突然重くのしかかり、息が詰まるような思いがした。
View More涼真の体は激しく震え出した。 「すまない……」 私はそれ以上何も言わず、迷うことなく花屋へと戻った。 一日後、ドアの隙間から、サイン済みの離婚協議書が差し込まれていた。 涼真は進んで財産分与の権利をすべて放棄し、全財産を私に明け渡した。三年後、海辺で結婚式が行われた。 司と私の結婚式。 人生で最も暗いどん底の時期に、彼は私の居場所を作ってくれた。 私の人生に光が差し込み始めた時、彼はありったけの賛辞を贈ってくれた。凍える時には温もりを、満ち足りた時には彩りを。そのすべてを彼一人が与えてくれたのだ。 だから、再び結婚することにも、もはや何の恐れもなかった。 そして二年間付き合った後、私は純白のウェディングドレスを着て、司の腕に手を添え、新しい人生へ歩き出した。 少し離れた場所から、涼真がその光景を見ていた。 彼の目は真っ赤に腫れ上がり、まるで長い間泣き続けていたかのようだった。 「お父さん、まだ止められるよ」涼真の傍らに立つ理人が、焦燥に駆られた顔で言った。 涼真は首を横に振った。「もういいんだ」 「俺があいつを傷つけた。彼女には、自分の幸せを追求する権利がある」 理人はうつむき、その涙が足元の砂浜に落ちた。 「ごめんなさい、お母さん……でも、幸せになってね」 結婚後の生活は、確かにとても幸せだった。 花屋の規模は徐々に大きくなり、近隣の都市にいくつもの支店を出すまでに成長した。 司との愛はさらに深まり、誰もが羨むほど甘く幸せな時間を過ごしていた。再び涼真の消息を耳にしたのは、それから半年後のことだった。 彼は会社をプロの経営者に任せ、一人で山あいの村へ行き、子どもたちに勉強を教える支援活動を始めたという。 その後、理人も彼を追って行ったそうだ。 二人は遠く離れた場所で、懸命に生活していたらしい。 スマホを置くと、心の中にほんのわずかな、言いがたい感情がよぎった。 司が近づいて、私の肩を抱き寄せた。「どうしたの?」 「ううん、なんでもない」私は首を振った。「ちょっと考え事をしてただけ」 司はそれ以上は追及せず、ただ優しく私を抱きしめてくれた。 「過去のことは、もう過去に置いておこう。俺たちには、これから一緒に歩んでいく長い未来があるんだから」
私は頷き、冷ややかな声で言った。 「許すからといって、昔に戻れるわけじゃないわ。 あなたの親権は引き取らない。お金の面では、これからも責任を持つつもりだけど、もうあなたの『お母さん』にはならない」 理人は呆然とした。 「どうして?あんなに僕のことを愛してくれてたのに、お母さん…… 自分がした悪いことはちゃんと分かってる。これからは絶対に直すから……」 理人はすがるように私の手を掴んだ。 私は避けず、手首の傷跡を彼に見せた。 それはあの時、彼に針で刺された痕だった。 「見える?刺さった針は抜けるけれど、この傷跡は消えないのよ。あなたを許すことはできる。でも、もう愛することはできない。 あなたももう大きくなったんだから、自分の人生には自分で責任を持ちなさい」 理人はその場に立ち尽くし、全身を震わせていた。 私はもう彼を見ることはなく、背を向けて立ち去った。 背後では、理人だけが席に残り、胸が裂けるような声で泣いていた。 しばらく歩いた後、私は苛立たしげに振り返り、曲がり角に隠れている人に目を向けた。 「出てきなさい。見えてるわよ」 隅の影が揺れ、顔面を蒼白にした涼真が私の前に歩み出てきた。 「俺が悪かった。佳音、だから頼む、離婚だけは考え直してほしい。これだけ長年連れ添ってきたのに、本当に、全部捨てられるのか?全部俺が悪かった。だから頼む、許してくれ」 彼は焦れば焦るほど早口になり、私の手を掴もうとまでした。 「本当に後悔した。あの女はすでに追い出した。二度とはしないから、許してくれないか?俺たちには理人がいるじゃないか。あいつもずっと君に会いたがってたんだ」 掴まれた手に赤い跡がつくほどだった。私は嫌悪感を露わにして彼を振り払い、冷たく笑った。 「よくもその口で夫婦の情なんて言えるわね?自らの手で十数年の絆を壊したのはあんたよ。自分が大事にしなかったくせに、どうして許してもらえると思えるの?『悪かった』と一言言えば、私はあんたを理解し、無条件に愛さなければならないということ?あんたの心の中では、私は妻じゃなく、ただの所有物だった。 気が向けば拾い上げ、要らなくなれば捨てる。 私に何をしようと、最後は笑って水に流すべきだと思ってるの?この世に、そんな都合のいい
私がこれらすべての顛末を知ったのは、すでに半年後のことだった。 この半年間、私は母の葬儀や後片付けを済ませた後、海辺の小さな町で花屋を開いた。 教師を辞めてから、私にとって植物の世話をすることが一番の癒しになっていた。 毎日、日が昇れば働き、日が沈めば休む。 あの苦痛に満ちた過去の記憶を思い出すことも、今ではほとんどなくなっていた。 あの男がいつまでも離婚を引き延ばしていることさえ除けば、穏やかで良い日々だった。 今日もいつも通り店を開けて客を待っていると、一番会いたくない人間の姿が目に入った。 なんと、涼真がここまで探し当ててきたのだ。 彼は逆光を背に店の入り口に立っていたが、別人のようにやつれ果てていた。 かつては体にぴったり合っていたスーツも、今ではぶかぶかになって浮いている。 私を見た瞬間、彼の目は真っ赤になった。 「佳音……」 彼は大股で近づいてくると、手を伸ばして私を掴もうとした。 私は眉をひそめ、慌てて大家の鳴海司(なるみ つかさ)さんの背後に隠れ、声を出さずに口パクで「助けて」と伝えた。 司はすぐに意図を察し、私の腰に腕を回して引き寄せた。 思った通り、涼真の手は空中で止まった。 彼が手を引っ込めると、その目は、今にも泣き出しそうなほど赤く充血していた。 「お前は誰だ?」 司は軽く笑った。「僕は彼女の大家で、この花屋の共同経営者ですよ」 彼は少し言葉を区切り、こう付け足した。「それに、佳音さんにアタック中の身でもあります。あなたが例の元旦那さんですね。お会いできて光栄です」涼真の顔色は土気色になった。 だが司は全く気にする素振りもなく、彼の肩をポンと叩いた。 「元旦那さん、早く離婚してくれませんかね。僕、早く正式なパートナーになりたくて待ちきれないんですよ」 涼真の顔色はこれ以上ないほど険悪になった。 私は吹き出しそうになりながら、机の上に置いてあった離婚協議書を手に取り、男に押し付けた。 「さっさとサインして。理人の親権はいらない、その代わりに財産は八割もらう。私に少しでも申し訳ないという気持ちがあるなら、今すぐサインしてね」まるで協議書で火傷でもしたかのように、涼真は手を引っ込め、逃げるように立ち去っていった。 それからの一ヶ月間、涼真
かつて温かかった家は、今やがらんとしていた。佳音の持ち物はすべて姿を消し、代わりに紗良のピンク色で可愛らしい小物が並べられていた。 若い子のセンスが可愛いと思っていた涼真だったが、今や急に吐き気がこみ上げてきた。 涼真はソファに呆然と座り込んだ。突然、目の前に無数の光景がフラッシュバックした。 それは佳音と初めて出会った日のことだ。 学校の桜の木の下で、白いワンピースの裾を揺らす佳音。 彼女は目を三日月のように細め、彼に向かって微笑んでいた。 「こんにちは、藤田佳音(ふじた かのん)です」 彼は彼女に一目惚れしたのだった。 場面は変わり、結婚式の日。 純白のウェディングドレスに身を包んだ佳音は、彼の腕に手を添え、幸せいっぱいの瞳をしていた。 「誓います」 その瞬間、自分が世界で一番幸せな男だと、涼真は思っていた。 そして、理人が生まれた日。 佳音は病室のベッドに横たわり、顔色は蒼白だったが、幸せそうに微笑んでいた。 「あなた、私たちに息子ができたのよ」 突然スマホが鳴り、涼真は回想から引き戻された。 彼は何度も画面をスワイプして、ようやく通話ボタンを押すことができた。 電話の向こうから、アシスタントの口ごもる声が聞こえてきた。 「社長、奥様が先ほど弁護士を通じて、離婚協議書を送ってこられました」 「奥様は坊ちゃんの親権は求めず、財産も折半という条件です。余分なものは一切要求せず、ただ離婚だけを求めておられます」 涼真の心臓は鷲掴みにされたように痛み、息ができなくなった。 彼はスマホに向かって怒鳴りつけた。 「探せ!何としてでも彼女を探し出せ!」 その後の三日間、涼真はすべての人脈を動員して佳音を探した。 しかし、佳音はまるで人間蒸発したかのように、どこにも見当たらなかった。 スマホは電源が切られ、銀行口座も解約されていた。 彼女の友人たちにすら、連絡がつかなかった。 涼真はがらんとした邸宅に立ち尽くし、初めて恐怖を感じた。 佳音は本気で自分から離れようとしているのだと。 「お父さん」 背後から理人の声がした。 振り返ると、理人が眉をひそめて彼を見上げていた。 「お姉ちゃんが、いつ帰ってくるのって。ショートケーキが食べたいんだって」