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第7話

مؤلف: 夢み凛
隼人は、バケツ一杯の氷水をぶちまけられて目を覚ました。

意識が戻った瞬間、自分が広大な地下空間にいることに気づく。

周囲には冷凍庫がずらりと並び、空気にはホルマリンと死臭が混じっていた。

そこは須藤家の地下にある、私設の遺体安置所だった。

杏子は隣の解剖台に縛りつけられ、口にはあのトイプードルの首輪が無理やり押し込まれている。

恐怖で完全に壊れてしまったのか、焦点の合わない目で、よだれを垂らしていた。

私は車椅子に座り、手には湯気の立つ紅茶を持っている。

父は巨大な火葬炉の予熱スイッチを調整していた。

轟音とともに炉が稼働し、熱気が一気に押し寄せる。

隼人は、怯え切った表情で炉の口を見つめた。

「瑠香!正気か!こんなことしたら刑務所行きだぞ!」

私はくすっと笑い、カップを置く。

「隼人、ここは地下十階よ。

電波もないし、監視カメラもない。

あなたを灰にしても、誰もここに来たなんて気づかないわ。

そうそう、言い忘れてた。

あなたのアカウントで遺書、もう投稿しておいたから。

罪悪感に耐えきれなくなって、杏子と心中したって内容よ。

今頃ネットじゃ、最低男だって叩かれまくってるわ。誰も同情なんてしてくれない」

隼人は完全に心が折れた。床に膝をつき、何度も頭を下げる。

「瑠香……夫婦だった情だけでいい、助けてくれ!

死にたくない!本当に死にたくないんだ!」

私は合図を出し、ボディーガードに彼を炉の前まで引きずらせた。

「ほら、嗅いでみなさい。この匂い、覚えがあるでしょ?

昔、私を火事の中に閉じ込めたときも、こんなふうに暖かいって思った?」

熱風にさらされ、隼人の眉毛が縮れ、悲鳴を上げた。

「やだぁぁぁ!もう嫌だ!外に出してくれ!」

私は手を振り、引き戻させた。

「まだよ。死ぬには、まだ早い。

ちゃんと生きて、味わってもらわないと」

母が化粧ブラシを手に近づいてくる。

杏子の前に立ち、その顔に淡々と手を加え始めた。

「動かないで。まだムラがあるから。

表情が硬すぎるわ。ちゃんと陰影つけないと」

それは死人に施す納棺用の化粧だった。

不自然なほど白い肌に、血のように赤い唇。

杏子は鏡に映る自分を見つめ、喉を鳴らすように笑う。

「きれい……すごくきれい……」

完全に壊れていた。

父は弾が一発だけ入った拳銃
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  • 愛は灰にして、もはや温もらず   第8話

    一年後。須藤家で、盛大な「葬儀」が行われた。参列者は私と私の家族だけ。遺体はなく、あるのは骨灰の入った小さな箱が二つ。それが隼人と杏子だった。あの夜のあと、二人は地下室で三日間、生き延びた。そして最後は炉に入れられた。隼人は炉の中で、「瑠香、ごめん……」と叫び続け、やがてその声も途切れた。杏子はずっと子守唄を歌っていた。笑いながら、灰になっていった。啓司は、その二つの骨灰を露骨に嫌悪の目で見下ろした。「不純物が多すぎる。汚いな」そう言うと、骨灰をそのまま排水口へ流し込む。レバーを押す。ごうっという音とともに、水に消えた。――塵は塵へ、土は土へ。屑は、下水の底へ。「こんな灰、畑に撒いたって作物が枯れるだけだ」父は手についた骨灰を払うと、私を振り返った。「気は晴れたか?足りなければ、やつらの先祖の墓でも掘り返すが」私は、言葉を覚え始めた子どもを腕に抱き、微笑んで首を横に振った。「もう、十分よ」こんな人たちのために、これ以上、時間を無駄にする価値はない。子どもはとても健康で、須藤悠人(すどう ゆうと)と名付けた。父親はいないけれど、この世界で一番彼を愛してくれる祖父母と叔父がいる。母は人体模型を使って、子どもに言葉を教えている。「これは頭の骨、これは胸の骨……」少し不気味な光景なのに、不思議と、とてもあたたかい。背中に残る傷痕は、今も消えていない。まるで勲章みたいに。それは常に私に教えてくれる。――もう二度と、簡単に人を信じるな、と。……家族以外は。数日前、若い実業家が私に言い寄ってきた。花を贈り、車を贈り、ダイヤの指輪まで用意した。昔の私なら、心が揺れたかもしれない。でも今は、ただ退屈なだけ。かつて私は、「愛」という言葉を信じて、隼人と一緒になった。家のことを切り盛りし、洗濯も料理も引き受け、彼に尽くして、子どもまで産んだ。それなのに最後は、愛人と金のために、彼自身の手で、私は殺されかけた。一生守るだの、離れないだの。あんな誓いは、女を縛りつけるための、都合のいい嘘でしかない。不確かな感情と、終わりのない打算に縛られて、誰かの付属品になるくらいなら。自分で力を握り、この世界を、自由に生きたほうがいい。

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  • 愛は灰にして、もはや温もらず   第6話

    手術室は、もはや処刑場と化した。杏子の悲鳴は、豚を絞め殺す声よりも耳障りだった。母は手慣れていた。太い血管は正確に避け、痛みを強く感じる神経が集中している場所だけを狙って、刃を入れていく。切るたびに血は出るが、命に別状はない。「まだまだだね、この手つき」父が横でそう評しながら、足元にいた空気も読めず吠え続けるトイプードルを、ついでのように蹴り飛ばした。「躾もされていない奴には、それなりの末路がある」その光景を見て、隼人は全身がブルブルと震え、恐怖で動けなくなった。彼は怖くなったのだ。心底、怖かった。自分も杏子と同じ目に遭うのではないか。彼は必死に這い寄り、私の脚にすがろうとした。「瑠香!俺の妻だろ!頼む、俺が悪かった!全部、杏子のせいだ!あいつが俺を誘惑したんだ!火をつけろって言ったのも、あいつだ!犬を助けないなら自殺するって脅されて、仕方なかったんだ!まさか君が怪我するなんて思ってなかった!会社も全部やる!金も全部渡すから!」私は、泣きじゃくるその男を見下ろした。かつては傲慢で、誰よりも偉そうだった隼人。今は、地面に転がる犬と変わらない。吐き気がする。情けなくて、笑えてくる。六億の保険金欲しさに、人の悪意に加担し、火事を見過ごし、私を焼き殺そうとした。それだけじゃない。私に残っていたわずかな無傷の皮膚を剥ぎ取って、杏子というあざとい女の、どうでもいい怪我を治そうとまでした。もし私の両親と兄が、表でも裏でも顔がきく連中じゃなかったら。隼人は、こんなふうに地べたに這いつくばって命乞いしていただろうか。答えは、決まっている。絶対に、しない。世の中には、男のために人生を捧げた挙げ句、枕元の相手に裏切られ、命まで奪われる女が山ほどいる。そう思った瞬間、抑えきれない怒りが胸いっぱいに広がった。啓司が隼人の顔を踏みつけ、ぐりぐりと力を込める。「勝手に身内ヅラするな。誰がお前の妻だ」彼はしゃがみ込み、ノギスを取り出して隼人の身体を測り始めた。「瑠香、この男、鎖骨の形がいいな。削り出して、引き出しの取っ手にしたらどうだ?」隼人は白目をむき、股間をぐっしょり濡らした。隼人が責任を押しつけるのを聞いて、杏子ももう弱者のフリをやめた。

  • 愛は灰にして、もはや温もらず   第5話

    手にチェーンソーを提げた男を見て、隼人は一瞬、どこから現れたのか分からない狂った工事現場の男かと思った。「このクソジジイ、何する気だ!俺は岩崎隼人だ!この病院の院長は俺の友達だぞ!警備員!警備員はどこ行った!」隼人は地面から這い上がると、手にしたメスを振り回し、必死に虚勢を張った。父の背後に立っていた若い男が動いた。――私の兄、須藤啓司(すどう けいじ)だ。金縁の眼鏡をかけ、きちんとした白衣に身を包み、いかにも知的で穏やかそうな風貌だ。ただし、手に持っているのは細長い骨すき包丁だった。無駄口は一切なく、手首をほんの一瞬ひねらせた。銀色の光が走った。「ああ――!!」隼人は悲鳴を上げ、右手を押さえて地面に膝をつく。人差し指の半分が宙を舞い、そのまま杏子の胸元に落ちた。指には、まだ指輪がはまっていた。それを見た瞬間、杏子の目が白く反転し、気を失いかけた。啓司は眼鏡を軽く押し上げ、淡々と言った。「うるさい。須藤家の仕事中だ。死体は黙っていろ」隼人は激痛にのたうち回り、血が床に飛び散る。「俺の手が!俺は画家なんだぞ!手を返せ!賠償しろ!」父は、その虫けらを一瞥もせず、チェーンソーを放り捨て、まっすぐ私の元へ来た。私の無惨な姿を見た瞬間、父の手が震えた。「瑠香……お父さん遅くなった」父はそっと、私の口に詰められていた布を外してくれた。母が後ろから歩み寄ってくる。手には、上品な化粧ケースがあった。泣いてはいない。ただ、その目は凍りつくほど冷たかった。母はケースから注射器を取り出し、迷いなく私の血管に刺す。「一番いい鎮痛剤よ。すぐ楽になるわ」声は優しいのに、底知れぬ殺気を孕んでいた。鎮痛剤はすぐに効き、私はようやく少し力を取り戻した。壁際で縮こまる杏子と、床で呻く隼人を見比べる。「お父さん……子ども……」かすれる声で、私はドアの外を指さした。啓司がうなずく。「大丈夫。もう確保してる。今は保育器に入って、専門スタッフがついてる。問題ない」その言葉を聞いた瞬間、胸を押さえていた重石が落ちた。――次の瞬間、憎しみが一気に燃え広がる。そこへようやく、警備員と院長がよろよろと駆け込んできた。「やめろ!何をしてるんだ!」隼人は救

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  • 愛は灰にして、もはや温もらず   第3話

    隼人が再び現れたとき、手には手術の同意書があった。杏子の姿はなく、ひとりだけだった。彼はその同意書を、私の胸の上に放り投げた。「サインしろ」必死に眼球を動かし、書かれている文字を読み取る。皮膚移植提供同意書だった。移植を受ける者は杏子、提供部位は両太もも内側・全層皮膚、と記されていた。私は勢いよく顔を上げ、喉の奥から怒りに震えた声を漏らした。隼人はネクタイを整え、いかにも当然という口ぶりで言う。「杏子の腕が火傷している。あの手はピアノを弾く手なんだ。傷跡なんて、絶対に残してはいけない。医者も言ってた。君の太ももの皮膚が一番合うって。どうせ、これからスカートも履かないだろ。瑠香、人として感謝ってものを知るべきだ。あの火事は君が起こした。杏子を驚かせたんだ、これは君の借りだ」感謝?思わず、笑いそうになった。火の中に閉じ込められて、焼け死にかけた私が、今度は自分の皮膚を切り取って、あの愛人の蚊に刺された程度の火傷の埋め合わせをしろというのか。その理屈は、卑劣なんてレベルじゃない。もう狂ってる。私は唇をきつく噛みしめ、顔を横に背けた。――サインなんて、しない。協力しないとわかると、隼人の顔から一瞬で仮面が剥がれ落ちた。彼は焼けただれた私の顎を乱暴につかみ、無理やり彼の方を向かせる。指が私の傷口に食い込み、思わず痛みで全身が跳ね上がった。「瑠香、調子に乗るな。君の家なんて、貧乏でどうしようもない。今回の入院費、一日二十万円だ。全部俺が払ってる。この底なし沼を支える義理はない。皮膚を杏子にやるなら、その金は皮を売った代金ということにしてやる。取引だよ。公平だろ」三年間の夫婦の情なんて、彼にとっては取引でしかなかった。私は商品で、彼は肉屋。歪んだ彼の顔を見つめながら、胸に残っていた最後の愛情が、完全に消えた。私は血の混じった唾を、彼の顔に吐きかけた。隼人は一瞬きょとんとし、次の瞬間、激怒した。反対の手が私を打ち、耳鳴りが頭の中で響き続ける。「いいだろう。上等だ。せっかく優しく言ってやったのに」彼はスマホを取り出し、一本の動画を再生した。画面を、私の目の前に突きつける。薄暗い地下室。灯りは、くすんだ電球がひとつだけ。本来なら「存

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