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第4話

Autor: 安田徹
人々の視線を浴びながら、夕月は病室を後にした。数歩も歩かないうちに、手首を強く掴まれる。

追いかけてきた樹が、彼女を強引に抱きしめた。

「すまない、夕月!君を傷つけるつもりはなかったんだ。見ただろ、青音は出産したばかりで情緒が不安定なんだ。これ以上刺激できない」

「放して!樹、放してよ」

必死に抗うが、どうしても振り払えない。

樹は腕に力を込め、まるで骨の中にまで閉じ込めるかのように強く抱きしめる。

「放さない。夕月、俺の妻は君だけだ。一番愛しているのは君なんだ、絶対に離さない!青音との婚姻届は偽物、俺たちの関係こそが真実なんだ。彼女に子供を産ませるために、そうするしかなかったんだ。わかってくれ」

「放してって言ってるの!」

夕月は力いっぱい押し返し、その頬を思い切り平手打ちした。

「樹、あの女とベッドにいた時に、私が何をしていたか知ってる?私は病院の手術室で、体外受精の処置を受けていたのよ!どれだけ怖くて、どれだけ痛いか分かる?手術室を出たらすぐにあなたに会えると思ってた。

でも、あなたは来なかった。家に帰ってもいなかった。仕事で忙しいんだと思ってたのに、他の女と寝るのに忙しかったなんて」

夕月は崩れ落ちるように泣き叫んだ。「子供なんていなくてもいいって言ったじゃない!どうして他の女とは子どもを作る?どうしてこんな残酷なことができる?」

泣きじゃくる彼女を見て、樹はひどく胸を痛めた表情を浮かべる。「母さんからのプレッシャーがどれほどか知っているだろう。俺には跡取りが必要なんだ。青音は母さんが用意した相手で、俺が望んだわけじゃない。母さんは孫が欲しいだけなんだ。彼女の要求に応えなきゃ、母さんの矛先が君に向いてしまうんだよ」

夕月は呆然とする。「お義母さんも知っていた?お義母さんが仕組んだことなの?」

樹はため息をつき、後悔を滲ませる。「ああ、母さんの考えでは、子供を産んだら彼女を追い出す手はずだったんだ。彼女はまだ大学生で金に困ってたから、話に乗っただけだ。

今は休学してるけど、復学したら子どもはお前に任せるつもりだった。俺は彼女を愛してなんていない。ただ母さんに君を苦しめさせたくなかったし、君にあんな辛い体外受精をこれ以上させたくなかったんだ。

夕月、俺が悪かった。欲しいものがあるなら何でも言ってくれ」

その言葉に、夕月の心が揺らぐ。

「今すぐ彼女と別れて、子供は私が引き取って育てる」

樹の顔から、一瞬にして血の気が引いた。

彼は腕を緩め、視線を逸らす。

「青音は二年も俺に尽くして、息子を産んでくれたんだ。夕月、そこまで冷酷にはなれない」

一呼吸置いて、彼は言葉を継いだ。「彼女のことは外で養う。君はこれまで通り、平松家の妻でいればいい。君の地位を揺るがすような真似は絶対にさせない。君は永遠に、俺、平松樹の唯一の妻なんだ」

男のその真っ直ぐな瞳を見て、夕月は言葉を失った。

もう分かっている。樹はもう、あの若い女の子に心を奪われている。

だとしたら、もう何も言うことはない。

「樹さん、夕月さん……あの、青音さんが、そばにいてほしいって呼んでる」

二人が膠着状態にある中、樹の友人が呼びに来た。

樹は手を伸ばし、青音に引っかかれた夕月の顔をそっと撫でた。「大人しくして、もう騒がないでくれ。先に帰って休んでいろ、後で家に帰るから」

そう言い残すと、彼は振り返ることもなく友人と共に去っていった。

彼が行ってしまうと、夕月はスマホを取り出し、弁護士に電話をかけた。

「山崎弁護士、至急、離婚協議書を作成してください。樹と離婚します」

「長野さん、あなたと平松さんの離婚協議書なら、一年前にはもう作成済みのはずですよ。法律上、お二人はもう夫婦ではありませんが」

電話を握る夕月の手が凍りついた。「なんですって?私と樹が、一年前にもう離婚していますか?」

「ええ。平松さんは津田青音という女性と再婚されています。ご存じありませんでしたか。確か、その女性が法定年齢に達してすぐに入籍したと聞いています」

つまり、青音との婚姻届は本物だ。

全身の血が一瞬で凍りつく。唇を震わせ、何かを言おうとしたその時、看護師が血相を変えて走ってきた。

「長野先生、院長がお呼びです!解雇の話が出ているみたいです。すぐに来てください」
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