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第216話

Author: 歩々花咲
暗証番号?

苑が蒼真の暗証番号など知るはずがない。

だが苑はやはり試してみたかった。

銀行の職員に何回入力できるか尋ねた後、苑は最初の試みを始めた。

苑は蒼真の誕生日は入力しなかった。

彼ほどの人物だ。

誕生日は元旦のような祝日と同じくらい世間に知られている。

これを暗証番号にするのは設定しないのと同じだ。

苑は佳奈の誕生日を入力した。

男が女を愛する時、その女の誕生日を暗証番号にする。

誰が言ったかは知らないが多くの恋人たちがそうしている。

蒼真はあれほど佳奈を愛しているのだ。

彼女の誕生日が第一候補だろう。

【申し訳ありません。暗証番号が違います】

苑は少し意外だった。

なんと佳奈の誕生日ではない。

まさか蒼真は裏をかいて自分の誕生日を暗証番号にしているのか?

苑は試しに彼の誕生日を入力してみた。

再びエラーが表示された。

そばに立つ職員がすでに注意した。

「奥様、チャンスは三回です。あと一回試せます」

「もし間違えたら?」

苑が尋ねた。

「アカウントは自動的にロックされます。天城様ご本人がいらっしゃらなければ顔認証で解除できません」

もし彼が来られるなら彼女もこんな苦労はしない。

苑は蒼真が他にどんな暗証番号を使いそうか考えた。

ふと以前彼が彼女に人違いじゃないか確認させた時の彼の携帯の暗証番号を思い出した。

二人の結婚記念日だ。

まさかこの銀行の貸金庫の暗証番号もそれなのか。

その考えがよぎった途端、苑はまず自己否定した。

この貸金庫はかなり前からあるものだ。

暗証番号もきっと早くに設定されているはず。

二人の結婚記念日であるはずがない。

だがこれ以外に苑も他の暗証番号は思いつかなかった。

「奥様、まだ試されますか」

職員は彼女が黙っているのを見て自ら尋ねた。

苑は貸金庫を見つめた。

「試します!」

試さなければ開けられるかどうかも分からない。

指輪が中にあるかどうかも分からない。

試してせいぜいロックされるだけだ。

指輪が中にあるかどうかは分からない。

同じ結果なら、なぜこの機会を諦めて試さないことがあるものか。

苑は賭け事を最も恐れない。

でなければネットの相手と結婚するなどということをするはずがない。

苑は彼女と蒼真の結婚記念日を入力した。

最後の数字を押した時
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