LOGIN皇太子の夫と、親友に裏切られ、娼婦に堕とされた私を優しく抱きしめるのは… 訳あって、手袋を外せないはずの最強の魔術師団長だった。 ……そんな彼がついに!私、今夜こそ? 傷ついた彼女が手に入れる、極上の愛。 どんでん返しの溺愛ラブストーリー。 ※裏切られた孤高の元皇太子妃×女嫌いの魔術師団長
View More今夜こそ、私は彼に蕩《とろ》けるほどに………
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「リーリエ。頼みがある。 どうか皇太子妃の座を、ロベリアに譲って欲しいのだが。」 「え?……ロベリアですって?」「そうだ。彼女が私の子を妊娠した。
その子を正式な皇子として認知してやりたいのだ。だから、どうか頼む。」穏やかな春の午後の事だった。
いつものように執務室で書類作成を手伝っていると、夫のエドウィン様に背中側から唐突にそう突きつけられた。 振り向くと、見慣れた皇太子の夫がそこにいた。 容姿は珍しい鶸色《ひわいろ》の髪に、灰色の瞳。 いくつになっても上品で見栄えの良い…そんな夫の意味不明な申し出など、いつもと変わらない日を過ごしてきた私には、何の話か全く分からなかった。
だから件《くだん》を飲み込むのに数秒かけ、漸くエドウィン様の言わんとする事を理解した。「本気で彼女を愛しているのだ。」
皇室の法律は一夫一妻制である。
執務机の椅子に座るエドウィン様の表情は、真剣そのものだった。 つまりエドウィン様は私の親友と浮気し、子供ができてしまったから離婚してくれと懇願しているのだ。結婚してもう4年。
いくら政略結婚とはいえ、私達は確かに愛し合っていると思っていた。それなのに———!しかもロベリアと!?
急激に心臓が痛み出して、呼吸困難に陥りそうになる。
だが平静を装い、私はいつも通り淡々と言葉を返した。「エドウィン様、それはできません。
そもそも私達の結婚は政略。 国にとってはもちろん、お互いにとっても重大な利益が関わっています。 それを……今さら解消するなんて」違う。本当はこんな事が言いたいんじゃない。
喉の奥で言いかけていた言葉は。気持ちは。 私の唯一の親友と言えば伯爵令嬢のロベリアだ。 彼女は数年前から皇太子妃つきの女官として私の側に仕えていた。それなのに。一体いつから——————?
私の夫と親友がそれほど深い仲になっていたとは思いもしなかった。ロベリアも、今朝も普段と全く変わった様子はなかったのに。
あの時、一体どんな気持ちで私に仕えていたのだろうか。 ただ分かるのは……二人とも最低の裏切り者だということ!!!
そう言いたかったのに、日頃から皇太子妃として威厳ある行動を取り、合理的に物事を進めようとしてきた習慣のせいで言えなかった。
「はあ。やはり君はそうなんだな。
所詮、損得勘定《そんとくかんじょう》や利益優先《りえきゆうせん》という価値観でしか私を見ていなかったんだ。冷たい人だ。 だから私は君を愛せなくなったんだ。」「王族の結婚など、皆そのようなものです。
結婚に夢を見るのは平民だけですよ。」「私はそんなのは嫌だ。…だからロベリアを愛したんだ。
彼女はとても人間らしくて、可愛いから。」私は可愛くないのね。
「とにかく離婚はできません。
どうしてもロベリアが子を産むというのなら、その時は私の子として育てます。 正式な皇太子妃でもない彼女があなたの子を産むなんて、法律に触れる愚かな行為ですよ。 早めに手を打たなければ、争いの火種に」 「だから君と離婚して……!!ロベリアと一緒になりたいと言っているんだ!! 私はロベリアを愛している!! それに君には子供ができないじゃないか!! だから君さえ!!君さえうんと言ってくれたら全て丸く治るんだ!!」「何と言われようとできません。私達の結婚は絶対に解消させません。」
「リーリエ!!たのむよ!!このままじゃロベリアも、私の子供も可哀想だ!!」
エドウィン様。私は可哀想ではないですか?
精一杯あなたを愛し、結婚してからのこの数年間、側で支えてきたつもりでした。 それなのにあなたは全てを捨てて、私に去れと……?それなら私が愛していると言えば、あなたは信じてくれたのですか?
離婚を思い留まってくれましたか。 裏切ってすまないと、少しでも申し訳ないと思ってくれたのでしょうか。 「ごめんなさいね。リーリエ。」それなのに…… 「え?まだあの消えたお二人を探してるの? エドウィン様。 きっと大丈夫ですよ。怖くなって逃げ出したに決まっています。 そんなことまでいちいち気にしていたら、私たちの生まれてくる子供の世話なんて、できませんよ?」 すっかりロベリアの部屋となってしまった、皇太子妃宮。 そこを訪れた私は、いつものようにロベリアの膝に横たわり、彼女に髪を撫でてもらう。 すでに彼女の腹は膨らみ始めている。 あの二人の事を除けば、全てうまくいっている。 とは言え、リーリエを追い出した時期とかぶるので、周辺に悟られないよう気をつけないと。 「そうかな。私があまりに神経質になりすぎなのか?」 「リーリエ様だって大人しく娼館にいるんですよね?だったら何も問題ないではありませんか。怖がりなんですから、もうっ。」 えいっ、とロベリアに悪戯っぽく頬をつねられるが、なぜだかうまく笑えない。 そうだ。ロベリアはアイザック・バロンズが本当は私の兄だという事を知らないし、私がかつて彼の記憶を塗り替えさせて、リーリエを略奪した、という事実も知らない。 知らせるつもりもないが。 それにしても、まさかリーリエと兄が接触していたとは。 どうやら兄さんはまだリーリエに真実を話してないようだったが…… いずれはバラしてしまう可能性もある。 あの時、窓のそばで横並びに立ち、笑っていた二人。 あれこそ美男美女。本当にお似合いで……。 「違う!一体私は何を。」 「エドウィン様?」 「あ、なんでもないよ、ロベリア。」 私は甘えるように彼女に抱きついた。彼女の桜色の横髪を掴み、その匂いを嗅いだ。 「はあ。安心する。」 ロベリアを抱きたい。 しかし、買収した医者に言われてしまったのだ。 妊娠中の情事は、頻繁にするのは避けるようと。 このなんとも言い難い不安を解消したいのに。 それには、頭が真っ白にな
たいして期待もせず、父は兄を死地へ送り出そうとしたのだろう。 しかも、兄に追い打ちをかけるような出来事が降りかかる。 なんと、リーリエが『兄』の記憶だけすっかり忘れてしまったのだ。 彼は見た事もない顔で泣いていたが、これはチャンスだと思った。 「兄さん。万が一リーリエが、兄さんにされた愚かな行為を思い出して傷つかないよう、記憶を変えてください。 魔力で、できるんでしょう?」 リーリエのためだと、私は全ての記憶を塗り替えるように兄に頼んだ。 そう、私は知っていた。 彼がどんな魔力を使い、一体どんなことができるのかを。 ずっと見ていたから。彼が妬ましかったから。 哀れな兄はその提案を受け入れた。 こうやって私は、リーリエが兄と培った記憶全てを塗り替えさせる事に成功した。 卑怯だと罵られようとかまわない。 リーリエが欲しかったんだから仕方ない。 彼女を愛していたから……。 「あの気持ち悪い子がいなくなって、安心したわね、エドウィン。」 「エドウィン。お前が皇太子だ。 期待しているぞ。」 父も母も、兄を追い出して満足気に笑っていた。 もちろん私も自然と笑顔が溢れてしまっていた。 リーリエだけでなく、帝国の皇太子の座まで手に入れたのだから。 「はい、その通りですね。」 この時に、私は分かったのだ。 彼らは『平凡』を愛しているのだと。 『非凡』な兄は父にその才能を妬まれた。 皇帝というものは、常に自分が一番でなければならない。息子にその地位を脅かされるのが、我慢ならない。 それは、母も同じ。皇帝に疎まれた皇子は可愛がる利点がない。可愛い我が子は、皇帝に愛されなければならない。 確かに兄は頭もよく賢かったが、不気味な魔力を持ち、皇帝に嫌われた彼を、彼女もまた愛せなかったのだろう。 彼らが私を選んだのは『平凡』だからという理
ロベリアと幸せを築くはずだったのに。 彼女との結婚が近づくにつれ、あることが私の頭を支配し続けた。 リーリエに姦通の罪を着せるため、嘘の証言をさせたあの下級騎士。 それに、リーリエを不妊にするためのワインを作っていた魔術師。 この二人が失踪した…… こんな偶然があるだろうか? カディス帝国の第二皇子として生まれた私は、とにかく父や母によく愛された。 「本当に若い頃の陛下にそっくり!」 「お前は自慢の息子だ。」 父も母も、何より平凡を愛する人達だった。優秀な兄よりも。 兄のフェリクス・カディスは常に冷静で頭も良かったが、不気味な魔力を持っていたために、母親に化け物扱いされていた。 「近寄らないで!行きましょう、エドウィン!」 母が兄を避け、私だけ可愛がるのも。 「不気味なやつだ。頭がいいのを自慢するな。」 冷たい父の眼差しも。 いつもそれを受けるのは兄で、私だけは何をしても愛されて、正直、気分は良かった。 兄はいつも一人寂しく夜を過ごしたが、何も言わずに耐えていた気がする。 やがてそんな彼が笑顔を見せるようになる。 皇室主催のパーティーの夜。気になって彼の跡をつけた。すると——— 世にも美しい少女が兄の前にいた。 見事な白銀の髪に、サファイアのように青い瞳。 華奢で色白。まるで妖精みたいだ。 私は一瞬でリーリエに目を奪われてしまう。 「好きだよ、リーリエ。 将来は必ず結婚しようね。」 しかも、あの兄がはにかみ笑いをし、甘いプロポーズまでしていたのだ。 「はい。私もフェリクス様が好きです。 ぜったいに結婚しましょう。」 彼女が花のような笑顔を浮かべれば、周囲が月光でキラキラと輝いて見える。 あの子、リーリエっていうんだ。 可愛い……でも、あの子、兄と結婚するのか。
ユディト達が私の肩を組み、ためらいもなく肯定する。 「確かに皇太子妃っていうのは驚いたけど、さっき私がした推理は、間違ってないんでしょ?」 「ええ。その通りよ。 私は彼に裏切られ、罪を着せられて、ここへ来たわ。」 ずっと誰かに話を聞いてもらいたかった。 「やっぱり!先に皇太子が浮気したのね! それに子供まで作っておいて、リリーに罪を着せたのね!本物の悪党じゃない!」 ずっと誰かに私は無実だと知って欲しかった。 「許せないな!そのクソ皇太子!死んでしまえ!」 「権力者にろくな奴はいないわね!」 「悔しかったね、リリー!でも私たちはちゃんと、あんたのことが分かってるから! あんたが本当に男を知らないってことも!」 ただ一人でもいいから、私を信じて欲しかった。 だから、これは……ご褒美なの? 皆一斉にエドウィン様の悪口をいうので、面白くなり、思わず口元に手を当てて微笑した。 「ありがとう。本当に……っ、ありがとう。」 どれだけ感謝してもしたりない。また思いもかけずに涙が溢れる。 人の優しさに触れて。 忘れていた、誰かの温かさ。 少しだけ、すっかり折れていた自尊心を取り戻せた気がした。 きっと私は、何もできないわけじゃない。 諦めなければ大切な人達を守ることも、また誰かを信じたり、愛したりすることもできるのだ。 ………愛? え?私———まさか本当に、アイザック様を? 「さあ、みんな、主人が戻ってくる前に、焦げた床を片付けるよ! 分からないよう絨毯を敷いて、椅子とテーブルで隠そう!」 「了解!」 皆の息ピッタリの掛け声と笑い声が、娼館いっぱいに広がった。ふわふわと羽のように体が軽い。 私も箒を
戸惑う私にアイザック様はどこか可笑しそうに微笑された。 「さあ。リーリエ様。私と共にベッドへ。」 「なぜ私の名前を………」 先程男主人から私には「リリー」という商売名が与えられたばかりだというのに。 それに対してアイザック様は微笑されるのみ。 優しく誘われるように手を差し出され、ドキッと心臓が跳ねる。 何馬鹿な事を。エドウィン様に裏切られてもう男など懲りたはず。 単にこの人は商品である私を買い、欲の発散に抱くだけなのだから。
朝目覚めると。扉を開けて部屋に入ってきたロベリアや、他の女官数名が悲鳴をあげた。 私は裸で、隣には………エドウィン様が寝ているものだとばかり。 「きゃあああ!!皇太子妃様、その男は一体誰ですか!!」 「まさか、皇太子妃ともあろう者が不貞行為を犯すなんて………!!」 ロベリア。貴方にはもう来るなと言っておいたのに、なぜその場にいるの? それに人の夫と不貞行為を犯したのは…… 「申し訳ございません、皇太子妃様!! 誘いを断れずに……殿下に触れた私の罪でございます!!」 床にひれ伏す見慣れない男。 証言が狂気じみてる。 こんな男知らない。何も覚えてないのに。 事態は
かつてこの宮廷で法を犯し、皇帝陛下と不貞行為を働いた子爵夫人は重い罰を与えられこの帝国を追放された。 今度もそうであって欲しかったのに。 ロベリアは全てが暴露され、皇帝陛下が事態を把握したはずなのに私の目の前に堂々と立ち、太々しく言った。 彼の子を妊娠した伯爵令嬢ロベリア。 美しい桜色の髪に金色の瞳。 社交界の花と言われる程の美貌の持ち主。 「陛下が特別に赦免《しゃめん》下さるそうです。 皇太子殿下の血を引く子供の母親だからと。 ……許してね?リーリエ。私、エドウィン様を愛してしまったの。 ここにはすでに愛おしい彼の子が宿っているのよ。」 彼女が大事そうに自身の腹を撫で
もう駄目。逃げられない。遂にあの人の逞《たくま》しい手が伸びてきて…… 今夜こそ、私は彼に蕩《とろ》けるほどに……… *** 「リーリエ。頼みがある。 どうか皇太子妃の座を、ロベリアに譲って欲しいのだが。」 「え?……ロベリアですって?」 「そうだ。彼女が私の子を妊娠した。 その子を正式な皇子として認知してやりたいのだ。だから、どうか頼む。」 穏やかな春の午後の事だった。 いつものように執務室で書類作成を手伝っていると、夫のエドウィン様に背中側から唐突にそう突きつけられた。 振り向くと、見慣れた皇太子の夫がそこにいた。 容姿は珍しい鶸色《ひわいろ》の髪に、灰色の瞳