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第234話

Author: 歩々花咲
「私とあなたは馬が合うのかしら、それとも合わないのかしら。どうしてどこへ行ってもあなたは付きまとうの?」

苑は琴音に対してこれまで容赦がなかった。

今も同じだ。

「以前は合わないと思っていたけど今は合うと思ってるわ。私たち二人って本当に縁があるのね。同じ男を好きになって、今また……」

琴音は言いかけてやめた。

琴音はいつもこの調子だ。

苑はひどく反感を覚えた。

だがやはり琴音がどうしてここにいるのか気になった。

美穂は天の手に会うのは難しいと言っていた。

だが琴音がここに泊まれるとは。

関係がただならぬことが伺える。

「琴音。私はあなたと関わりたくないしこの異国の地であなたと揉めたくもない。だから私を挑発しないで。あなたも私が最近少し短気なのは知っているでしょう」

苑は親切に注意した。

琴音は笑った。

「ちょうどあなたを褒めたいと思っていたところよ。本当に勇敢で、親族さえも裏切って自分の親友と旦那を一緒に売ったんですもの。最も毒々しいのは婦人の心とは言うけれど、白石苑、あなたには今回感心させられたわ」

その言葉は陰湿で皮肉がたっぷりだった。

苑はそんな痒いような攻撃はもうどうでもよかった。

「言い終わりましたか。終わったなら本題を。私は中に入れますか、入れませんか」

琴音が出てきたのは伝言のためだ。

あの執事の代わりに。

琴音はここで得意げにしているが実質的にはただの使い走りだ。

だが琴音は自分がすごいとでも思っている。

その思考回路は時々本当におかしくて言葉も出ない。

「入れるわよ。私がいるのにどうしてあなたをずっと立たせておくなんてことがあるの」

琴音は優越感を漂わせ施しのような意味合いさえあった。

その態度に苑は思わずある言葉を思い出した。

少しでも甘い顔をすると、すぐにつけあがる、と。

だが琴音は何を根拠につけあがっているのだろうか。

本当に不思議だ。

苑も急いで知ろうとは思わなかった。

それにわざと言った。

「では朝倉夫人、ご案内をお願いします」

その言葉は丁寧だった。

だがよく味わうとニュアンスが違う。

苑は琴音を執事か下人のように扱っているのか。

琴音は不満げにフンと鼻を鳴らした。

「あなたって本当にそうやって人に嫌われるのよね」

「あなたの好きが金になるとでも?」

苑はそう言
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