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第23話

Author: 歩々花咲
蒼真は窓辺に立っていた。

まっすぐな姿は、外から差し込む光に引き伸ばされ、まるで世界を真っ二つに切り裂く線みたいだった。

片方はにぎやかに華やぎ、もう片方は静かで穏やかだった。

背後から足音が近づいてきて、彼の隣で止まる。

「蒼真、朝倉の奴、まだ帰ってないぞ。今も別荘の外にいる。追い払うか?」

蒼真の暗い瞳は、数十メートル先、顔に血を滲ませたまま立ち尽くす男をじっと見据えた。

「いや……自分の目で最後まで見せてやる。そうしないと、完全に諦められないだろ」

丸岡照平(まるおか しょうへい)は小さくうなずいた。

「心を抉るのは、お前の得意技だもんな」

蒼真の顔には、苑に向けて見せたあの優しさはもうなかった。

細めた目は冷たく鋭く、そこに立っているだけで無言の圧力を放っている。

「客たちは、何か言ってたか?」

蒼真がぼそりと尋ねる。

「さっき、あんだけ大声で言い切ったからな。誰も表向きには何も言わねぇよ。ただ、心の中じゃきっとブツブツ言ってるだろうけど」

そう答えた照平は、少し眉をしかめた。

「蒼真、さっき朝倉の奴がああなったせいで、覚悟しとけよ」

蒼真は何も言わなかった。

身じろぎもせず、そのまま時が止まったみたいに動かない。

まるで上映中の映画が、突然ネットが切れてフリーズしたみたいだった。

照平は自分の腕をつねる。

「なあ蒼真、お前みたいな奴なら、どんな女だって手に入るだろ。なんで、よりにもよって白石苑なんだよ?……しかも、これで朝倉とは本気で敵同士だ」

それでも蒼真は動かなかった。

照平にはわかっていた。

これ以上話すなっていうサインだった。

けど、長年のダチだからこそ、黙ってはいられなかった。

蒼真みたいに星のように輝く人生に、汚れなんてつけさせたくなかったから。

「蒼真、お前が彼女を娶るのって、もしかして――」

照平が言いかけたその瞬間、蒼真がぴたりと横目で睨んできた。

その瞳は冷たく、闇を孕んでいる。

「くだらない詮索はやめろ……それに、自分の口の利き方にも気をつけろ」

「……」

照平は言葉を飲み込んだ。

ちょうどその時、更衣室の扉が開いた。

蒼真が振り返ると、そこには真っ赤な婚礼衣装に身を包んだ苑が立っていた。

彼女の化粧
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