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第36話
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愛も縁も切れました。お元気でどうぞ 第408話
「大久保家？あの一番の物持ちの大久保家？」「そうだ。経済が破綻し、負債が全面的に爆発したらしい。あの富貴はすべて表面を取り繕っていただけだと……」苑の心臓がどきりと跳ねた。すぐに蒼真を見た。「大久保家が大変なことに？」蒼真は眉をひそめた。「聞いていない」苑は多くを語る暇もなく、慌ててパーティー会場の外のテラスへ向かい、美穂の電話をダイヤルした。電話は長い間鳴り続けたが、一向に誰も出なかった。苑の心が少しずつ沈んでいった。苑は誰も出ない携帯を握りしめ、眉を固く結んだ。身を翻してパーティー会場へ戻り、早足で蒼真の元へ向かった。「電話が繋がりません」苑は声を潜めた。「大久保家の件は本当ですか？」蒼真の表情は意外ではなかった。ただ軽く頷いた。「ああ」苑は鋭く、蒼真がとっくに知っていたことに気づいた。「いつ知ったのですか？」「大久保家の資金繰りの問題はもう半年以上続いている」蒼真は苑を隅へ引き寄せ、低い声で説明した。「彼らはずっと苦しいながらも持ちこたえていた。今回の破綻は銀行が突然融資を引き上げたからだ」苑の心臓がきゅっと締まった。「ではどうするのですか？大久保家は破産しますか？」蒼真はすぐには答えず、逆に尋ねた。「君は俺に大久保家を助けてほしいか？」「もちろんです！」苑はためらうことなく頷いた。「お義姉さんは私たちを助けてくれました。今彼女が困っているのに、私たち座視するわけにはいきません」蒼真はため息をついた。「苑、助けたくないわけじゃない。大久保家の穴が大きすぎるんだ」蒼真は一度言葉を切り、声がさらに低くなった。「もし天城グループが全力で大久保家を救えば、俺たちの資金繰りも厳しくなる。今、天城家を狙っている連中は少なくない。もし俺たちが隙を見せたら……」苑は蒼真の懸念を理解し、唇を噛んだ。「ではどうするのですか？ただ大久保家が倒れるのを見ているわけにはいきません」苑は不意に何かを思い出し、目が輝いた。「そうでした！あなた山を持っているでしょう？私に贈ってくれたあの馬走山。それを売却して急場をしのげます」蒼真は眉を上げた。「あれは俺が君に贈った終生の記念の贈り物だぞ。君そんなに簡単に売りたいのか？」苑は焦った。
愛も縁も切れました。お元気でどうぞ 第407話
蒼真は眉をひそめた。「何が違うんだ？」「あなたの表情を見る限り、事はそれほど単純ではないはずです」苑は蒼真の目をじっと見つめ、何かを読み取ろうとしているようだった。蒼真はわざと気楽に笑ってみせた。「もちろん単純ではないさ。先生が言うには、今は目を覚ましたが、脳の損傷後の回復は非常に複雑で、長期間リハビリが必要だそうだ」蒼真は適当にいくつかの医学用語を並べ立て、ごまかそうとした。苑もそれ以上疑わず、ただ同意して頷いた。「目が覚めたのは良いことです。先生は以前、彼が目覚めることはないだろうと判断していました。今、目が覚めたのですから、その後の回復は大きな問題ではないはずです」苑の気分が好転したのを見て、蒼真はそれ以上何も言わず、ただ彼女を腕の中に抱きしめ、顎を彼女の髪のてっぺんに乗せた。苑に見えない角度で、その眼差しは晦渋で不明だった。実は蒼真は事実の一部を隠していた。電話で、美桜は、優紀が目を覚ましたものの、脳に深刻な損傷を負い、記憶が再編成され、今の知能は三歳の子供と同じだと、言っていた。蒼真は最終的に、電話の後半を隠すことを選んだ。苑を動揺させたくなかったし、ましてや優紀のことで自責の念に駆られたくなかった。「あなたの用事はいつ終わるのですか？」蒼真は美桜に帰ると約束したが、それも苑の状況次第だった。「今田和樹の通知次第です。万世のプロジェクトにはまだ後始末の仕事があります。恐らくあと数日はかかるでしょう。あなたが先に帰っては？お兄さんが目を覚ましたばかりで、家はきっと人手が必要でしょう」蒼真は眉をひそめた。「俺は帰れない」苑は蒼真の気持ちを理解した。「どうしたのですか、私が江口良樹に奪われるのが怖いのですか？」苑の顔のからかうような表情を見て、蒼真は危険に目を細めた。「天城夫人、わざとか？」苑は軽く笑い、手を伸ばして蒼真の胸をつついた。「自分にそんなに自信がないのですか？」蒼真はぐっと彼女の手を掴み、彼女を腕の中に引き寄せた。「君に危険が及ぶのが心配なんだ」苑は蒼真の言いたいことを理解した。今の彼女は、四面楚歌とまではいかないが、他人の目の上のたんこぶであることには変わりない。二日後、江口グループ主催のビジネスパーティーで。苑は一着の黒いロ
愛も縁も切れました。お元気でどうぞ 第406話
蒼真は苑をそっとベッドに投げ、そして身をかがめて覆いかぶさってきた。両手を苑の身のそばに撐き、彼女を自分の下に閉じ込めた。蒼真の黒い瞳が苑を凝視し、その中には灼熱の赤い光が揺らめいていた……蒼真が本気で来ようとするのを見て、苑は慌てて手を伸ばして彼の胸を押した。「蒼真、やめて……私、ファイルがまだ……」蒼真はゆっくりと頭を下げ、その声は低い。「天城夫人、君はこの口が……本当にしつけが必要だと知らないのか」言い終わるなり、蒼真の唇はすでに覆いかぶさってきた。蒼真のキスは横暴で熱烈で、その掌は苑の腰のラインに沿ってゆっくりと上へ移動し、指先が通る場所ごとに、一陣の戦慄が走った。苑は蒼真にキスされて呼吸が乱れ、拒絶する手は次第に力を失い、指が無意識に彼の服の襟を固く握りしめた。苑の反応を感じて、蒼真の目の奥に一抹の笑みがよぎり、さらに深くキスをした。蒼真がさらに調子に乗ろうとしたその時――ブーン、ブーン、ブーン――携帯が不意に震え出した。蒼真の動きが一瞬止まり、眉をきつく寄せ、目の奥に一抹の不耐がよぎった。「誰だ、こんなに目のない奴は？」苑も瞬間的に我に返り、その隙に蒼真を押しのけ、息を切らしながら言った。「電話に出て」蒼真は黒い顔で手を伸ばして携帯を探り、着信表示も見ずに直接通話ボタンを押し、「大至急の用事があることを願う。さもなければ、明日お前をアフリカの鉱山へ掘りに行かせてやる！」電話の向こうは二秒黙り、そして美桜の怒声が聞こえてきた。「天城蒼真！お前、躾が必要？よくも母親にそんな口の利き方ができるな？！」「……お袋」蒼真ははっと携帯を遠ざけ、表情が一瞬固まり、そして軽く咳払いをして、その口調は瞬間的に和らいだ。苑はその様子を見て、思わず笑い出し、結果として蒼真に睨みつけられた。美桜の声が受話器を通して聞こえてきた。そこには十足の威圧感があった。「この馬鹿息子！随分と偉くなってきたね？数日家を空けて、電話一本もよこさないとは！」蒼真はこめかみを揉んだ。「お袋、この二日間嫁さんと出張中だよ」「出張？お前が苑を追いかけて行ったんだろう？」美桜は容赦なく彼を暴露した。蒼真は無言だった。蒼真が何も言えないのを見て、美桜は冷たくフンと鼻を鳴らした
愛も縁も切れました。お元気でどうぞ 第405話
美穂は一瞬固まり、そして苦笑した。「どうしたの？あなたの初恋が惜しいの？安心して、離婚したら、誰を探そうとあなたの自由よ」優紀は困難に手を上げ、何かを掴もうとしているようだったが、最終的にただ力なく垂れ下がった。医師はその様子を見て、慌てて前に出た。「患者は目を覚ましたばかりで、休息が必要です。ご家族の方は、まず話しかけて刺激しないでください」美穂は最後に優紀を一瞥し、身を翻して去っていった。その眼差しには、どこか言葉にできない感情が宿っていた。廊下で、美桜は美穂の手を引いた。「美穂、本当に、優紀にもう一度チャンスをあげようとは思わないの？」「お義母さん、私は彼に何度もチャンスをあげた。もう何年も、待ちくたびれた」美桜はまだ何かを言おうとしたが、美穂は疲れたようにこめかみを揉み、彼女が口を開く前にその言葉を遮った。「お義母さん、優紀が昏睡状態の間、私はずっと病院で付き添っていた。体が、もう限界。先に帰って休みたい」美桜は彼女の目の下の青黒い隈を見て、心を痛めてため息をついた。「いい子ね。お義母さんが考えなしだったわ。運転手は下にいるから、彼に送らせるわ」美穂はかろうじて笑みを浮かべた。「ありがとう、お義母さん」美穂は身を翻してエレベーターへ向かった。その背中は、ひどく、か細く見えた。美桜はその場に立ち尽くし、この強情な嫁を見て、心の中は複雑で、心の中で優紀を責めずにはいられなかった。美穂が見なかったのは、彼女がエレベーターを待っている時、病室のドアのガラス窓の後ろで、優紀がいつの間にか半ば起き上がっていたことだ。その顔色は依然として青白かったが、その目は、ガラス窓を通して、固く、彼女の背中を、見つめていた。エレベーターのドアがゆっくりと閉まり、美穂の姿が、完全に消えた。優紀は不意に激しく咳き込み始め、看護師を驚かせて慌てて病室へ駆け込ませた。「天城さん！そんなに興奮してはいけません！」美桜は病室から聞こえてくる咳の音を聞き、心の中で密かにため息をついた。家の二人の馬鹿息子、どちらも自分を安心させてくれない。下の息子の方は、ようやく苑と安定したと思ったら、今度は上の息子がまた……ああ……美穂の先ほどの決然とした去っていく背中を思い出し、美桜はただこめかみが、どく
愛も縁も切れました。お元気でどうぞ 第404話
章一はまだ自制できていたが、震える手が今の彼の興奮を物語っていた。「この馬鹿息子め、もう少しで俺たちをびっくりさせて死ぬところだったぞ」茉凜がすぐ後に続き、目を覚ました兄を見て驚いて目を大きく見開いた。がらんとした病室は一気に人でごった返し、美穂は何も言わず黙って隅へ退き、この家族団欒の光景を見て、口元が無意識に上がった。「今回は美穂のおかげよ」美桜は美穂の功績を忘れておらず、不意に振り返りぐっと彼女の手を引いてベッドのそばへ連れてきた。「先生が言うには、もしあなたがずっと彼に話しかけていなかったら、彼はもしかしたら……」美穂は首を振った。「実は何もしていない。ただ……一言言ったら、ちょうど彼を刺激しただけ」「どんな言葉がそんなに不思議なの？」茉凜は興味津々に尋ねた。「別の男を探しに行くって言ったの。しかも何人も」美穂はいつも思ったことをそのまま言う。何の躊躇もなく、先ほどの言葉をそのまま繰り返した。病室は瞬間的に静まり返った。茉凜が真っ先に笑い出した。「どうやら兄貴はやっぱりあなたのことが気になるのね！」「彼が私を気にかけるわけないじゃない。彼の心には自分の初恋がいるんだから。たぶん私に浮気されたら恥をかくのが嫌で目を覚ましたんでしょう」その言葉を聞いて、美穂は白目をむき、無意識に反論した。その言葉を聞いて、ベッドの上の天城優紀が唇を動かした。何かを言おうとしているようだったが、目を覚ましたばかりでまだひどく衰弱しており、声が出なかった。美桜は彼の状況に気づき、心を痛めて息子の手を握り、振り返って美穂に言った。「いずれにせよ、今回はあなたのおかげよ」美桜は一度言葉を切り、また二人の間のことを思い出した。「優紀が目を覚ましたからには、あなたたち……」美穂は平然と言った。「私たちは離婚届を出す。お義父さん、お義母さん、ここ数年お世話になった。だがこの結婚はもともと間違いだった。とっくに損切りすべきだったのだ」章一はため息をついた。「いい子だ。ここ数年、苦労をかけたな」美桜の眼眶は赤くなったが、これも二人の若者のことだと分かっていた。自分が彼らの代わりに決める資格はない。「私たちはあなたを止めないわ。でも離婚する前に、私たち、直接あなたのご両親に謝
愛も縁も切れました。お元気でどうぞ 第403話
美穂の半分真面目で半分冗談めかした口調を聞き、苑は思わず笑った。「お義姉さん、どうしてそんなに達観しているのですか？二十代の若さで、まるで八十歳のお年寄りのようです」「それはもちろん、わたくしが世の様々な出来事を見尽くした結論というものですわ」美穂は戯けた。小さな冗談の後、美穂の口調はまた軽やかさに戻った。「さて、本題に入りましょう。私にどうしてほしいの？」苑はしばらく考え込み、自分が和樹に対して抱いている疑いと、元々立てていた計画を簡単に説明した。美穂は聞き終えると、ためらうことなくきっぱりと応じた。「分かったわ。その件は私に任せて。必ず、きちんと片付けてあげる」電話を切った後、美穂はベッドのそばに座り、相変わらず昏睡状態の優紀を見つめ、不意にいたずらっぽく手を伸ばして彼の顔をつついた。「優紀、聞こえてる？あなたがまだ目を覚まさないなら、私、本当に別の男を探しに行くわよ」美穂はただ何気なく言っただけだったが、視線の隅で優紀のまぶたがわずかに動いたのが見えた。美穂ははっと立ち上がり、目を大きく見開いた。「まさか！本当に？あなた、本当に目を覚ましたの？」美穂はベッドに近づき、優紀の顔を見つめた。その声にはどこか信じられないという響きがあった。「あなたは私を愛していないんじゃないの？どうして私が別の男を探すと言ったら、そんなに反応が大きいの？」優紀が本当に聞こえたのか、それとも偶然だったのかは分からない。美穂が言い終わるなり、優紀のまぶたがまた動いた。今回の動きは、前回よりずっとはっきりしていた。美穂はそれを目の当たりにし、心臓が不意に速くなった。同時に身をかがめて優紀の耳元で静かに言った。「優紀、もし目を覚まして寝たふりをしているなら、私、本当に別の男を探しに行くわよ。二人、三人、たくさんたくさん見つけて、バスケットボールチームでも作って、あなたに浮気されたのをしっかり味わってあげる……」今回、優紀のまぶたは動かなかった。美穂は思わず少しがっかりした。どうやら先ほどのは、ただの偶然だったらしい。だが美穂が視線を逸らして別の場所を見た時、明らかに優紀の指が痙攣したのが見えた。美穂の涙が、不意に、こぼれ落ち、ちょうど優紀の顔に滴り落ちた。ただ今回、優紀は何の反応
