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第1388話

Author: 楽恩
来依もやはり思った。真相を突き止めても意味はない。むしろ平穏な水面に大きな石を投げ込むことになるかもしれない。

「じゃあ、もう調べない。私たちは何も知らなかったことにしましょう」

紀香も同意した。「私もお姉ちゃんと同じ気持ち」

海人と清孝は素早く目を合わせた。

清孝は「調べない」と口では答えた。

だが彼は危険の芽を放置できない性格だった。

原因だけは、必ず自分で確かめると心に決めていた。

*

桜坂家に戻ると、清孝は桜坂家の祖父の相手をして囲碁を打った。

雨香叔母は海人に声をかけた。「どうだった?」

海人は薄く笑い、「大丈夫でした。何もありません」と答えた。

「ちゃんと会えたの?」

「ええ」海人は言った。「来依と紀香はこっそり覗いてました。俺と清孝はお祖母さんと少し話しただけです」

雨香叔母の目がかすかに揺れた。「何を話したの?」

「たいしたことじゃありません、世間話です」海人はスマホを取り出し、「雨香叔母さん、俺は仕事の電話をしなきゃ」

「忙しいなら行って」

来依と紀香は雨香叔母の傍でテレビを見ていた。

けれど雨香叔母の瞳の奥には、どうしても隠せない悲しみが滲んでいた。

……

夕飯のあと、みんなで少しだけ祖父と話し、それぞれ自分の部屋へ戻った。

雨香叔母が祖父を部屋まで送る途中で言った。

「お父さん、海人くんも清孝くんも賢い子です」

桜坂家の祖父は静かに答えた。「だからこそだ」

雨香叔母は一瞬言葉を止め、「だから母に会うのを止めなかったんですか?」

桜坂家の祖父は答えず、ただ彼女の手を軽く叩いた。

心配するな、という仕草だった。

……

来依の胸にはまだ好奇心が残っていた。

海人が風呂から出てくると、再びその話題を持ち出した。

海人はベッドで彼女を抱きしめ、腹を優しく撫でた。

彼女はちょうど生理中だった。

そうでなければ、彼が手を出さないはずがなかった。

「詳しいことは、清孝を待たなきゃ分からない」

来依は彼の頬をつまんだ。「またごまかしてるでしょ」

「ごまかしてない。誓う」

「信じられないわ」

来依は彼に抱きつき、声を胸に埋めた。

「もしお祖母さんがしたことなら……もし藤屋家のおじいさんと桜坂家が仇同士だったら……」

海人は小さく笑った。

「母親になってから、前よりずっと考えすぎるようにな
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