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第2話:別人になった私

Autor: Kaya
last update Última actualización: 2026-01-15 09:14:35

……冷たい。

骨の芯まで凍りつくような寒さで、全身が震えていた。

「っ……!」

肺に空気を吸い込んだ瞬間、眩しい白光と消毒液の匂いが押し寄せてくる。

ここは……病院?

 

真っ白な天井。

心電図モニターの電子音が、やけに大きく響いてる。

 

私、あの時……

パトカーの中で、衝撃に飲み込まれて――

私は死んだはずじゃなかったの?

 

「……嘘。」

思わず上体を起こすと、視界がぐらりと揺れた。

額を押さえつつ、震える手を見る。

その瞬間――呼吸が止まった。

 

この手……私のじゃない。

細くて白くて、手の形まで違う。

 

「な、に……これ……?」

声まで軽い。

聞き慣れない、他人の声。

 

胸の奥がざわつき、私はベッドから飛び降りた。

裸足のまま洗面所へ駆け込み、鏡の前に立つ。

……そこに映っていたのは“私”ではなかった。

影のように黒い髪が肩にかかり、ところどころ赤いハイライトが入っている。

目の色も違う。

輪郭も表情も、すべてが別人。

 

「嘘……でしょ……?ありえない……!」

震える指で頬に触れる。

鏡の中の“彼女”も同じ動きを返す。

 

そのとき――

「ようやく気づいたみたいね。」

 

背後から声がした。

「っ!」

振り向くと、洗面所の扉が静かに開いていて、
見たこともない初老の女性が立っていた。

白い髪は雪のように滑らかで、瞳は不自然なほど深い緑色《エメラルドグリーン》をしていた。

古い時代の香りをまとったような、異質な存在感。

病院という現代的な空間と噛み合わず、彼女の周囲だけ空気が歪んで見えた。

 

「……あなた、誰?」

思わず一歩後ずさる。

その女性はゆっくりと会釈した。

 

「私は時雨《しぐれ》。霊感を生業とする占い師よ。

けれど今のあなたには……“知らせを届ける者”とでも名乗るべきかしら。」

「知らせ……?」

「そう。

あなたは――二度目の人生を与えられたの。」

心臓が止まりそうになる。

 

「パトカーの中で、あなたは祈ったでしょう。

“もう一度やり直したい”と。」

女性の声は穏やかだが、拒むことを許さないといった不思議な威圧感があった。

「その願い、確かに届いたわ。」

「なんで……私なんですか。私は……ただ、全部奪われて……」

喉が詰まった。

時雨と名乗った女性は、悲しげに目を細める。

「あなたの死は、あまりにも理不尽だった。

だから終わらせてはいけなかったの。」

そして、懐から革製の封筒を取り出し、洗面台に置いた。

 

「ここに、必要なお金、そして――あなたの“新しい身分”が入っている。」

「新しい……身分?」

「そう。今日からあなたは、月島光咲《つきしまみさき》という、新しい人物になった。

ただし、一つだけ破ってはいけないルールがある。」

女性の声が鋭くなった。

「もし、あなたが前世のあなたを知る人に“正体”を明かせば――
あなたは再び死ぬ。

そして、もう戻ることもない。」

 

背筋に冷たいものが走る。

 

「でも、それじゃ……どうやって自分の無実を証明すれば……?」

「証明したいのなら、証拠も仲間も、あなた自身で探すしかないわ。」

女性は踵を返す。もう用は済んだとばかりに。

しかし、私は慌ててその袖をつかんだ。

「待って!私は……復讐するために生き返ったんですか?

それとも潔白を証明するため……?」

 

彼女は微笑を浮かべて振り返る。

「それは、あなたが決めること。

正義のためか。

奪われた全てを取り戻すためか。

あるいは――本当の人生を歩むためか。」

さらに彼女は驚くべきことを告げた。

「あなたがこの世に戻れたのは、誰かがあなたの死を望まなかったから。

そして、あなたを傷つけた者は――あなたのそばにいる。」

「私を傷つけた人と……私の死を望まなかった人が、そばに……?」

 

ぎゅっと胸が締めつけられた。

 

「知りたい真実は、死よりも辛いかもしれない。

でも、すべてを取り戻したいなら――

あの男のそばに戻るしかない。」

 

言い終えると、彼女の輪郭が淡く揺らぎ、まるで風に溶けるように消えていった。

残されていたのは、鏡に映る“別人の私”。

封筒に入ったカードと暗証番号、そして名前の書かれた身分証。

全身から一気に力が抜け、床に崩れ落ちる。

「一体、今のは何だったの?これは……夢?

……いいえ。夢だろうが、何だろうが構わない。

私は戻ってきた――。」

どれだけ考えても、頭に浮かぶ答えはひとつだけだった。

 

私の新しい名前は――月島光咲。

そして、私のこれからの目的は――復讐なのだと。

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