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第1話:絶望の果てに

Author: Kaya
last update publish date: 2026-01-15 09:14:26

「朔夜《さくや》…お願い、私を見て!見てよ!どうして……どうして私を見ようとしないの?」

 

喉が裂けそうな声で叫ぶ。

手首を締め付ける手錠が痛む。

警察に囲まれ、冷たい視線が私を突き刺していた。

でも、私が見つめるのはただ一人。

かつて私を“世界のすべて”のように見つめてくれた、彼だけ。

 

だけどその瞳は氷のように冷たく、明らかに私を避けている。

 

――こんなにも、心が痛いなんて。

 

「兄さん、ここに全ての証拠が揃っています。」

朔夜の妹、燈《あかり》の声がした。

柔らかいのに、どこか冷たい声。

彼女は朔夜の隣で、腕に触れながら慰めるように立っている。

 

「辛いのは分かります。彼女はあなたが愛した人ですから。でも凛音は私たち全員を裏切ったんです!」

 

「違う!私は誰も裏切ったりしてない!」

私は前に飛び出そうとしたが、警察の囲む手に押し戻される。

突然の逮捕。頭が真っ白になり、喉の奥が詰まる。

説明も、証明も頑なに拒まれる。

得体の知れない絶望だけが胸を締め付つけた。

 

「もういい。」

朔夜の声が空気を切り裂く。

その一言で、私の心が粉々に砕けた。

 

「高遠凛音《たかとおりお》、お前の部屋の資料だ。

会社の核心データを競合に流し、入札を失敗させ、数百人の努力を踏みにじった。」

朔夜の側近のコンサル、御堂《みどう》が待ち構えていたように書類を広げる。

「言い逃れはできないぞ。」

荒々しく、彼までもが私を犯人だと決めつけ責めた。

 

「違う!私はそんなことしてない!誰かが私を嵌めたの!」

さっきから涙が止まらない。

「朔夜、あなたは私を知ってるでしょう?私がそんなことするはずないって……!」

 

「知っていると思った。でも違った。」

 

ようやく彼が私を見たが、そこに愛情はなかった。

あるのは、ただ冷たい距離と拒絶だけ。

私たちの関係は、この瞬間に崩れ去った。

 

「お願い、聞いて。五分でいい、五分だけで……」

私は朔夜に必死に懇願した。

 

「凛音。話そうと思えば、時間はたっぷりとあったはずよ。」

燈の声は優しいのに、どこか底知れない陰険さを漂わせている。

まさか、嘘よね?燈、あなたが私を――?

「でも、あなたは嘘をつき続け、兄さんを傷つけた。」

 

「嘘なんてついてない!」

喉が潰れるほど叫ぶ。

「嘘ついてるのは、あな——」

 

「連れて行け。」

朔夜は一度も私を見ることなく、背を向けた。

 

いやだ。いやだ。いやだ!

 

「朔夜!!」

私はもがき、警察官の腕から逃れようと必死に足を踏ん張る。

「愛してる!子どもの頃からずっと……!あなたはわかってるはず、私はそんなことしないって……!」

 

でも、彼は振り向かない。

 

数年間愛した人。

すべてを捧げてきた人。

その人が、何も言わずに去っていく。

 

車のそばに立っていた警部が、冷たく私を見下ろしていた。

「高遠凛音。最後に何か言い残すことがあるか?」

 

……最後?

混乱しながらも私は深く息を吸い、強い口調で訴えた。

 

「……私は無実です!」

そして彼以外のここにいる全員に告げた。

「いつか、必ず真実が暴かれます!

その時、自分たちが何をしたのか、思い知るでしょう!」

 

一瞬、もう届かない背中を見たが、声は自ずと小さくなってしまった。

「でも……その時には、もう手遅れかもしれない。」

警察官が肩を押し、私を強引に車の後部座席へと押し込こむ。

 

「さっさと乗れ!」

 

冷たい命令。それが、絶望的な未来を予想させる。

この先私は一体どうなるの?

手錠が手首に食い込み、車のドアがまるで人生の“終わり”のように閉まった。

 

ガラス越しに、朔夜が立っている。

背中は張り詰め、私を見たら崩れてしまうかのようだった。

そんな彼の隣に燈は寄り添い、何かを囁いている。

 

だが朔夜は、何も言わない。

 

エンジンが唸り、パトカーは動き出す。

景色が流れ、胸が締め付けられた。

「こんなの間違ってる。私は無実よ……。」

 

(お願い……もう一度だけでいい。

戻らせて。証明させて。真実を……)

 

次の瞬間――

 

耳をつんざくブレーキ音が響いた。

 

横から衝撃が襲い、車体が激しく揺れる。

意識が飛び、金属が悲鳴を上げる。

 

全身に激痛。

視界が、目の前の世界が、闇へと飲み込まれた。

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