تسجيل الدخول相手が遥真だと分かった瞬間、目の奥にかすかな喜びがよぎった。しかしそれはほんの一瞬で、すぐに隠されて、小さく強がるような表情に変わる。「ちゃんとママの許可はもらってるの?」「プレゼント持ってきたら、中に入れてもらえたよ」遥真は気ままに椅子に腰を下ろした。陽翔「ふーん」遥真は少しからかうような目で彼を見る。「で、君は?」陽翔「?」なにが?「君の『パパたち』は、ママに何を贈ったんだ?」わざと聞いているのが見え見えだ。「パパたちのことは、おじさんが口出しすることじゃないよ」陽翔は幼い顔をきりっと引き締めて、まんまるの目で真剣に言う。「それに、こっそり真似しようなんて思わないでね」遥真の黒い瞳に、かすかな笑みが浮かんだ。彼は手を差し出す。「ほら、こっち来て、ちょっと抱っこさせて」陽翔はちらっと見て、しばらく葛藤したあと、首を振った。「やだ」遥真は長い腕を伸ばして、そのまま彼を引き寄せて抱き上げる。声は相変わらず落ち着いていて心地いい。「こんな小さいのに、なんでそんなにツンとしてるんだ」陽翔は少し抵抗した。遥真はしっかり抱きしめる。その拍子に胸を何度かぶつけられて、思わず眉をひそめた。「もう暴れるな。パパとね、ちょっと大事な話をしよう」遥真は抱いたまま、やさしくなだめるように言う。「『遥真おじさん』でしょ」陽翔が訂正する。遥真は素直に合わせた。「うん、遥真おじさんでいいよ」それから三十分以上、二人はずっと一緒にいた。その間、安江が通りかかって一瞬足を止めたが、特に口出しはしなかった。ここまで来られたのは、きっと柚香が許したからだろう。母親としてできるのは、どんな決断でも支えられるようにしてあげることだけ。あとは彼女がどう選ぶか、それには干渉しない。柚香は下で真帆と近況を話していたとき、ふと、大きな段ボール箱を抱えた慎吾が階段を上がっていくのが目に入った。「それ、なに?」慎吾は整った顔のまま淡々と答える。「お坊ちゃまの荷物です」柚香はうなずき、それ以上は聞かなかった。ただ何か買ってきたのだろうと思った。時間はあっという間に過ぎていく。気づけば午後四時過ぎ。柚香は真帆を連れて上に行き、母に少し相談しようとしたところで、慎吾がさっと入ってきて、きちんと報告した。「お嬢様、外に『黒
うまく話を振られて、遥真も断る理由はなかった。「わかった」こうして、彼は別荘に入ることに成功した。恭介もこれでようやく一安心。本当は、もし社長が入れなかったらどうやって見張ればいいのか悩んでいた。まさかあの別荘で何時間もぼーっと座らせるわけにもいかないし。本当に助かった。柚香さんはやっぱり優しい。「これ、怜人のやつからのプレゼントだわ。預かってきた」リビングに入ると、真帆がバッグから丁寧に包装された箱を取り出して柚香に差し出した。「着けたら写真撮って送れって」柚香「?」なんだか、あの人が言いそうなセリフじゃない。真帆が意味ありげに目配せする。柚香は一瞬で理解した。必要ない気もしたけど、親友の頼みなら仕方ない。箱を開けると、上質なケースの中に、繊細で美しいネックレスが収まっていた。小さなダイヤが星のように散りばめられ、ペンダントのピンクダイヤは思わず見とれてしまうほど可愛い。「これ、あいつが自分でデザインしたんだって」真帆はそれを柚香の首にかけながら、一番大事な言葉を伝えた。「どんなふうに生活が変わっても、あんたはずっと私たち二人のプリンセスだってさ」柚香は目を伏せ、指先に揺れるペンダントを見つめて、ふっと微笑んだ。二人の気持ちはちゃんと分かってる。そして、怜人が本気で自分を大切にしてくれていることも。「はい、写真撮るよ」真帆がスマホを取り出す。柚香も素直にポーズをとった。その様子を見ていた恭介は、内心ヒヤッとする。ちらっと遥真の方を盗み見る。これは完全に、恋敵からの挑発だ。社長、怒るんじゃ……「オーストラリアのピンクダイヤ鉱区とナミビアの宝石鉱区に人を向かわせろ」遥真はまったく怒る様子もなく、むしろ冷静だった。こういう時、彼はただ考えるだけだ。どうして柚香がまだ他人のダイヤを気に入るのか。自分が与えた量が足りないのか、それとも気に入ってもらえていないのか。恭介はすぐに察した。「承知しました」遥真は軽くうなずき、それ以上は何も言わなかった。写真を撮り終えて怜人にメッセージを送る柚香に視線を向け、そのまま立ち上がって歩み寄る。頭上に影が落ち、柚香と真帆は同時に顔を上げた。「お母さんと陽翔は?」遥真は、まだ笑みの残る柚香の顔を見つめたまま尋ねる。「上だよ」柚香が
真帆「?」柚香「?」「すべての贈り物は至急で名義変更を済ませ、すでに柚香さんの個人財産として確定しております」恭介は残りの内容も続けて説明した。柚香は断ろうとした。「い、いらな……」その言葉を真帆が遮り、不動産の権利書をそのまま手に取る。真帆は書類にざっと目を通し、偽物ではないと確認すると、周囲を見渡した。「車は?」「各地から急いで輸送中です」恭介は真面目に答えた。「隣の二棟の別荘の改装が終わり次第、車はそちらに保管されます。家も車も、すべて柚香様個人の所有になります」「たとえ社長と離婚しても、分けられることはありません」恭介はわざわざ付け加えた。遥真が冷ややかな視線を彼に向けた。――余計なことを言う必要があるか?恭介「……」――だって柚香さんが受け取らないかもしれないから……真帆は不動産の証書や購入履歴を一つ一つ確認した。すべて合わせると数百億は下らない。中でもあのワイナリーは立地が抜群で、ぶどう畑の広さも質も申し分ない。離婚のときは一円も出し渋っていたくせに、誕生日プレゼントでこんなに?遥真、いったい何を考えてるの。「受け取りなさい」真帆はそれを柚香の手に押しつけた。「もともとあなたが受け取るべきものよ。これなら離婚のときの財産分与も省けるし」これらはすべて何重もの手続きを経て、離婚時にも柚香個人の財産として認められるように整えられている。遥真がなぜこんなことをしたのかは分からないが、くれると言うなら受け取らない理由はない。柚香は手にした分厚い不動産証書の束を見下ろした。「誕生日プレゼントも届けたので、これで」遥真はやや血の気の引いた唇でそう言い、横目で恭介を見た。「行くぞ」恭介「?」どこへ!?遥真の視線は真っ黒に沈んでいる。恭介は一瞬で察し、素早く口を開いた。「柚香さん、今夜十時半までは隣の別荘におりますので、誕生日ケーキを切るとき、よろしければ社長がプレゼントをお渡ししたお礼に、一切れ持ってきていただけませんか?」「病院には戻らないの?」柚香は遥真の胸元を見た。「いえ……」恭介が一言だけ言いかけた瞬間、遥真が鋭い視線を向けた。強い圧がこもっている。恭介は思わず唾を飲み込む。遥真は何事もない顔で柚香に視線を戻し、さらりと嘘をついた。「戻る。あっちを少し確認し
柚香の目に、わずかな驚きがよぎった。まさか、陽翔がそんなことを言い出すとは思わなかった。これまでずっと彼女が一番気にしていたのは、離婚が陽翔の心に影響を与えることだった。けれど、だからといって無理に我慢して遥真と夫婦関係を続けることもできない。だからこそ、陽翔の願いは基本的に何でも聞くつもりでいた。遥真に会いたいと言えば止めないし、休みになれば京原に帰りたいと言っても反対しない。とにかく、元気で楽しく育ってくれれば、それでいい。そう思っているから、こういうことは全部受け入れられる。「たぶん来ないと思う」遥真がまだ入院中だと考えて、柚香はそう答えた。陽翔は納得したようにうなずいた。ところがその日の夜、陽翔はスマートウォッチで遥真にボイスメッセージを送った。「さすが遥真おじさん、やっぱりそうだよね」遥真「?」遥真はボイスメッセージで返した。「俺に会いたくなった?」陽翔は素直じゃない。「新しいパパ探しで忙しいから、そんな暇ないよ」遥真はゆっくりと、からかうような口調で言う。「どうやら君はママへの愛も、その程度みたいだな」陽翔は小さく眉をひそめた。どういう意味?「重婚罪っていう罪があるの、知ってるか」遥真の声は低くて落ち着いていて、いつも通り穏やかだった。「君のママはまだ俺と離婚してない。このタイミングで相手を探すって、逆に困らせてることにならないか?」陽翔は少し得意げに言い返す。「新しいパパって、結婚しなきゃダメだって誰が決めたの?」遥真はわずかに目を細めた。陽翔はわざと彼を苛立たせるように続ける。「ママが籍さえ入れなければ、たとえ十人と付き合っても問題ないでしょ。僕、その十人みんなパパって呼ぶし」遥真「……」陽翔はさらにボイスメッセージを送る。「こういうの、遥真おじさんの方が詳しいんじゃない?だってあの玲奈おばさんも、そうやってずっとそばにいるじゃん」「俺と彼女は、君が思ってる関係じゃない」遥真は子どもに誤解されたくなかった。それで価値観まで歪んでほしくないと思っている。「彼女には恩があるだけだ。だから、その恩を返してるだけだ」そのボイスメッセージを送ってから、陽翔は返事をしなかった。あの玲奈おばさんとの関係がどうであれ、あのことでママとケンカになったのは事実。ママが傷ついたのも
柚香はスマホの画面を消し、返信しなかった。隼人は三十分待っても返事が来ず、舌打ちしてつぶやく。「ほんと、柚香姉ちゃんって冷たいよな」裕樹「……」裕樹「さっき和雄様から電話があって、あなたと連絡が取れないって言っていました」隼人「マナーモードにしてた」裕樹「和雄様、怒りますよ」「そんなわけないだろ」隼人はその場で電話をかけ、繋がった瞬間、甘ったるい声で呼びかけた。「おじいちゃん」和雄は何も言わなかった。隼人はすでに言い訳を用意していた。「さっき、安江おばさんと柚香姉ちゃんに会ってきたんだ。明日柚香姉ちゃんの誕生日でさ、プレゼント送る?」和雄の注意は見事にそっちへ向いた。「明日か?」「うん」庭に座っていた和雄はひげを撫でながら、何を贈るか考え始める。「迷うなら、とにかく高いのにしとけばいいよ」隼人は気楽な口調で続けた。「例えば不動産とか、別荘とか、クルーズ船とかさ。気に入らなくても売れば現金になるし」和雄はうなずいた。――たしかに一理ある。同じ頃。昭彦のほうでも、柚香の誕生日プレゼントを準備していた。遥真は彼らが用意しているものを聞いて、眉間にうっすらと影を落とす。これまでに同じようなものは一通り贈ってきたとはいえ、まだ正式に別れていない夫として、見劣りするわけにはいかない。「この前買ったワイナリーと島、あれを柚香に贈れ」遥真は静かに言った。「それと、今年出た限定モデルのスポーツカーも全部送れ」恭介は一瞬言葉を失う。それでも気を利かせて言った。「柚香さんたちが買った別荘、車は六台までしか停められません」「じゃあ隣の土地も買って拡張して、一緒に贈ればいいだろ」恭介はうなずいた。――それも一理ある。「準備と同時に、この話は外にも流せ」遥真の瞳の奥は暗く沈んでいた。「和雄と昭彦に知らせるんだ」柚香が蒼海市に来て最初に手にする大金。しっかり増やしてやらないとな。結果から言えば。この策は見事に当たった。和雄も昭彦も、彼が贈るものを知るやいなや、さらに高価な贈り物を用意し始めた。祖父としても、父としても、考えていることはただ一つ。あんな男より見劣りするわけにはいかない。当の柚香は、そんなことは何も知らない。隼人が帰ったあと、彼女は陽翔を連れて新しい幼稚園へ
「うん」柚香は一切迷わず頷いた。「じゃあ、先に失礼しますね」隼人は立ち上がる。若々しく整った佇まいのまま続けた。「おばさん、何か知りたいことがあればいつでも連絡ください。知っていることは全部お話しします」安江はそれに答えなかった。お互い利用し合っているだけだと、分かっているからだ。隼人も気にした様子はなく、口元に笑みを浮かべて柚香に声をかける。「柚香姉ちゃん、じゃあまた」柚香「……」彼が去ったあと、柚香はさっきの話をさらに詳しく聞いた。「お母さん、どうしてあの人たちはあなたを狙ったの?」安江は株のことを一通り話してくれた。自分の子どもなら当時の価格で株を買い戻せる代わりに、彼女自身は神崎家のことに一切関わってはいけない。柚香が正式に株と関わるようになった時点で、安江はもう手出しも助言もできなくなる。あのとき彼らが動いたのは、おそらく柚香が資金を手に入れて株を買い戻し、さらに遥真が動けば、神崎グループが完全に彼らの手に落ちると恐れたからだ。「そんな株のためにあなたを傷つけるなんて……実の妹なんでしょ?」柚香には理解できなかった。「実の妹なんて関係ないわ」安江はあの家の人間をあっさり切り捨てる。「利益のためなら、身内だって平気で切り捨てるのよ」柚香は眉をひそめた。母がそんな環境で育ってきたなんて、想像もしていなかった。「でも、あなたが言う『そんな株』ね、今は数兆円の価値があるのよ」安江は淡々と、とんでもないことを口にする。「私が売ったときの百倍以上にはなってるわ」柚香「???」数兆円?思わず口を開いたまま固まる。「じゃあ、どうして売っちゃったの?」「女がそんな大きな株を持つのはふさわしくないって思われたのよ」安江はもう感情を乗せることもなく言った。「あらゆる手で追い詰められて、面倒になって売ったの」柚香の胸は複雑な思いでいっぱいになる。その軽い一言の裏で、母はどんな思いをしてきたのか。「でもあの人たちの性格なら、簡単にあなたに株を渡すはずがないわ」安江はよく分かっていた。「怖い?」「怖くない」柚香は、それが本来母のものを取り戻すことだと思うと、不思議と何も怖くない。安江はそっと手を伸ばし、彼女の頭を撫でる。これまで柚香に経営や金融を学ばせなかったのは、前に話した理由もあるけれど、一番の理







