Partager

第728話

Auteur: 結奈々
時也は平静を装って言った。「僕が何とか説得してみる」

「私が話してくる」柚香が突然口を開いた。

凛音と時也の視線が一斉に柚香へ向く。時也が尋ねた。「陽翔の親権と財産を、あいつに渡すつもりか?」

「渡さない」柚香はきっぱりと拒んだ。財産にしても陽翔の親権にしても、自分と遥真の間の問題だ。部外者が口を挟むことではない。「別の方法で、情報と交換する」

凛音と時也は眉をひそめた。そんなやり方でうまくいく可能性は低いと思ったのだ。

「私は、どうして彼がこのことを知っているのか、それだけを聞く」短い間に、柚香はすでに腹を決めていた。「話を聞き終わったら、その内容を遥真に伝えて、調べてもらう」

「遥真に言っちゃ駄目だ!」時也が思わず声を上げた。

凛音は何も言わなかった。けれど、その表情は明らかに時也の意見に賛成していた。

「遅かれ早かれ、遥真は知ることになる」柚香はあくまで冷静だった。「違うのは、私たちが教えるか、それとも修司さんと雅人さんが教えるかだけ」

自分たちから話せば、遥真にはまだ気持ちを整理する時間がある。でも修司や雅人から知らされたら、あまりにも突然で、心の支えまで一気
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Dernier chapitre

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第771話

    「何事も絶対に不可能とは限らない」涼介は今、とても冷静だった。「一つ、ずっとお父さんに言ってなかったことがある。この前、お父さんに言われておじいちゃんに会いに行ったとき、俺、お兄さんにも会ったんだ」「蓮司に?」拓海は眉をひそめた。涼介は頷いた。拓海の胸に、嫌な予感がよぎる。「俺たちの計画を話したのか?」「話してない」涼介はいたって冷静だった。どうすれば父親が考えを改めるのかも分かっている。「でも、蓮司には気づかれた。それで、もしこのことで遥真に狙われるようになっても、自分は助けないって念を押された」「口ではそう言っただけだ」拓海はそう言って、わずかに表情を緩めた。「本当に見捨てるわけじゃない」涼介は、父親が楽観的すぎると思った。「もし、本当に見捨てられたら?」拓海の顔色が曇った。今日の涼介はいったいどうしたというのか。さっきから何かにつけて水を差してくる。承輝のことで、そこまで怖くなったのか?「お兄さんは昔から、お父さんやお母さんとはあまり親しくないだろ」涼介は家族の利益を守りたいと思っていた。だが、その利益のために家族の命まで危険にさらすくらいなら、そんなものはいらない。「お兄さんとお父さんたちの間に何があったのか、俺には分からない。でも、お兄さんが俺にあんなことを言った時は、本気だった」「怖くなったのか!」拓海の声に怒気が混じった。「そうだよ」涼介はあっさり認めた。「お父さんに危険な目に遭ってほしくない。俺だって、この家がバラバラになるのは嫌だ。前に俺が修司と話をしに行ったこと、覚えてるだろ?」拓海の顔はますます険しくなり、我慢も限界に近づいていた。「覚えてる」「その時、俺は修司に、遥真を一緒に潰すために手を組もうって持ちかけた。あいつが欲しがってるものを手に入れるのを手伝うってな」あの時のことは今でもはっきり覚えている。「修司は最後まで礼儀正しく接してくれたけど、明らかに俺を見下してる目をしてた」自分という人間を見下していたわけじゃない。自分ごときが遥真を相手にしようとしていること自体を、無謀だと思っていたのだ。食事の席が終わる時、修司はこんなことまで言っていた。「俺の弟は気性が荒い。兄の俺ですらあいつには敵わない。少しでも平穏に暮らしたいなら、あいつを敵に回さないほうがいい」あのとき涼介

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第770話

    承輝の件が片付いたことで、黒崎家からこれ以上柚香を狙ってくる可能性は低いだろう。奏汰は典型的な遊び人で、陰で何か企むようなタイプでもない。表立った手なら、柚香も簡単に対処できる。ほかの人たちについては。常和が戻れば、おそらく片付けてくれるだろう。そうなると、残る危険は神崎家だけだ。承輝が警察に連行されてから三十分もしないうちに、神崎家にもその知らせが届いた。拓海は涼介を呼び、今回の件について話した。「承輝が逮捕されたっていうのは本当か?」「本当」涼介の顔からは、さっきまでの余裕が消えていた。「啓介本人が指揮を執っている」拓海は眉をひそめた。「この件を啓介が担当するとなると、厄介だな」啓介は蒼海市の名家・藤堂家の跡取りだ。藤堂家は四大名門には及ばないが、その地位は決して低くない。そのため、名家が絡む事件を扱う時でも、彼は一切手加減しない。ほかの相手なら、多少口を利いてもらったり、ツテを頼ったりすることもできる。だが、啓介にはそれが一切通用しない。あの男の頭にあるのは、法律と正義だけだ。「承輝が最終的にどうなるか、分かってるのか?」拓海が尋ねた。「判決が出るまでには、まだしばらくかかる」涼介が答える。「ただ、聞いた話では、承輝の罪状なら死刑になる可能性がかなり高い」拓海「?」拓海は理解できないという顔をした。「あいつがやったのは、せいぜい殺人未遂を依頼したくらいだろ?なんで死刑になる?」涼介は顔を上げ、薄い唇を開いた。「遥真が事前に承輝の犯罪の証拠を提出してた。具体的にどんな証拠なのかは、まだ分からない。でも警察にいる知り合いの話じゃ、罪状はかなり多いらしい。死刑は免れない可能性が高い」拓海の目が険しくなった。いろいろな可能性は考えていた。だが、まさか遥真が承輝をここまで追い詰められるとは思っていなかった。「お父さん」涼介は蓮司からあの話を聞いて以来、ずっと考えていた。「俺たち、もう柚香と争うのをやめないか?」拓海は涼介に目を向けた瞬間、表情をこわばらせた。「今、何て言った?」争うのをやめる?まさか、あれだけのものを全部ただで柚香に渡せというのか。あれは神崎家のものだ。どうして柚香に渡さなきゃならない。「承輝がどうなったか、お父さんも見ただろ。このまま争い続けたら、次

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第769話

    「これは個人的な仕事です」康平がすぐに説明した。「正式な任務とか、そういうのじゃないです」「じゃあ、二人が隊長に会ってから私に話して」柚香はあっさりと言った。康平と慎吾は頷いた。三人が話し終えたところで、リビングにまだ常和が座っていることに気づいた。常和は複雑そうで、申し訳なさそうな目で柚香を見ていたが、口を開いても一言も出てこなかった。しばらくして。ようやく柚香に声をかけた。「柚香……」柚香の態度は何も変わらない。「何でしょう?」「承輝があんなことをするなんて、俺は知らなかった」常和は本当に想像もしていなかったのだ。「すまなかった」「常和さんも大変だったでしょう」柚香は温かいお茶を一杯注いで差し出した。その口調はどこまでもよそよそしかった。「早めに帰って休んでください。承輝のことは、もう気にしなくていいです」常和は胸が詰まるような思いだった。もし承輝がここまで執念深い人間だと知っていたら、柚香を敵に回してまで彼を庇ったりはしなかった。せっかく少しずつ和らいでいた関係まで、こんなにこじらせることもなかった。「君が俺を恨んでいるのは分かっている」その瞬間の常和は、何歳も一気に老け込んだように見えた。「だが、君の父親は本当に君を大切に思っている。このところずっと、君のために俺と対立して、あちこちから証拠を集めて、君にきちんと説明しようとしていた。黒崎家に戻りたくないなら、それでもいい。だが、あいつとはちゃんとうまくやっていけないか?」ここまで来て、常和にはもう分かっていた。自分がこれまでしてきたことも、今していることも、あまりにも間違っていた。結末が決まってしまったのなら、せめて息子のためにできることをしてやろう。「他に用がなければ、もう帰って休んでください」柚香はその話題を避けた。「承輝が逮捕されたことは、もう黒崎家にも伝わっているはずです」常和は、柚香がそれ以上話すつもりがないことを察した。無理に話を続けようとはしなかった。「……分かった」「康平」柚香はいつものように淡々と指示を出した。「常和さんを送ってあげて」「送らなくていい」常和はさっきよりずっと疲れた顔をしていた。「車は外にある。自分で帰れる。今日は本当にすまなかった。まさか承輝が君にまで手を出すとは思わなかった」

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第768話

    「当ててみろ」康平は答えなかった。啓介は興味なさそうに言った。「興味ない」康平は顎を上げ、承輝を指差した。「こっちは興味あるだろ」「蒼海市警察署の藤堂啓介です。こちらは逮捕状です」啓介は淡々とした口調で逮捕状を取り出し、承輝に見せた。「あなたには、違法な資金集めによる詐欺や手形詐欺など、複数の容疑がかかっています。これより法律に基づいて逮捕します。こちらの指示に従い、無駄な抵抗はしないでください」「来るな!」承輝は、呆然としている間に自分が警察に囲まれていたことに気づき、声を荒らげた。「それ以上近づいたら、こいつを殺すぞ!」啓介は承輝の後ろにいる警察官に目配せした。承輝がこれで相手をひるませたと思った、その瞬間だった。刃物を握っていた手を、背後から素早くひねり上げられた。同時に、真正面に立っていた啓介も動いた。その動きはあまりにも速かった。五秒もかからないうちに、承輝の手には手錠がかけられていた。「さすが啓介隊長」康平は親指を立てた。「仕事が早いな」「あなたたちの隊長は、三日後に蒼海市へ来る」啓介の話し方は、慎吾と同じように抑揚がほとんどない。ただ一つ違うのは、啓介には表情の変化があることだ。「彼女から伝言を預かっている。まだ終わっていない任務があるなら、急いで片づけろ」康平「……」慎吾「……」「この人、俺たちの隊長と知り合いなのか?」慎吾は無表情のまま尋ねた。康平「聞いたことないな」慎吾「隊長の出張先は機密だろ。どうしてこいつが知ってるんだ?」康平「一つ、大胆な推測がある」慎吾「言ってみろよ」康平は、啓介のすっきりとした顔立ちと、光を弾くような白い肌を見ながら言った。「まさか、隊長が言ってた『顔だけはやたら綺麗なのに、感情がまるでない、幼なじみであり宿敵でもある男』って、こいつじゃないか?」慎吾「隊長は、幼なじみの宿敵について『俗世離れしているかのように淡々としていて、繊細な心の持ち主』って言ってた。目の前のこの人と、確かに少し似てる」康平「だろ?」康平が言うと、慎吾も頷いた。二人の会話を聞いていた啓介は、表情を変えることなく、淡々と一言だけ告げた。「撤収する」警察官たちは承輝を連れて、その場を後にした。外へ連れ出される間も、承輝はずっと喚き続けていた。

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第767話

    「そんな……ありえない……」承輝は、目の前の光景を信じられない様子で見つめた。あまりにも短い距離だった。それなのに、あまりにも速かった。普通の人間に、あの刃を受け止められるはずがない。常和も驚きを隠せず、顔にはまだ動揺が残っていた。「君!なんて馬鹿なことをしたんだ!」承輝を助けるために、どう頭を下げて頼めばいいかまで考えていた。そのためなら、人に借りを作ることさえ厭わなかった。それなのに、まさかこんなことになるとは。「俺がこんなことをするのは、そんなにおかしいか?」承輝はすべてをぶちまけるように、常和を睨みつけた。「お兄さんが会社の経営権を息子に渡したから、俺はこんな惨めな立場になったんだろうが!」「会社の経営権は、取締役たちの投票で決まった。俺が勝手に決めたわけじゃない」まさか二十年以上経った今でも、まだそのことを根に持っているとは思わなかった。「自分の力不足を恨むんだな」「力不足、ね」承輝は笑った。常和は眉をひそめる。「じゃあ、どうして君が先代の黒崎グループを任されることになった?」承輝は一歩ずつ常和に近づいていく。「俺たち二人を比べたら、どう考えたって俺のほうが能力は上だろ。それなのに、どうしてお兄さんが選ばれた?ただ、お兄さんのほうが俺より二十年近く早く生まれたからか?」常和は、言いかけた言葉を失った。策を巡らせることなら、承輝のほうが上だった。だが、会社を長く続けていくことに関しては、自分のほうがずっと上だった。「今さらそんなことを言っても仕方がない」承輝の目つきが、ふっと険しくなる。「だったら、昔俺から奪ったものを、今度は返してもらう」そう言い終わると同時に、承輝は突然、常和の目の前まで迫り、ナイフを常和の首元に突きつけた。海外で追われていた一件のあと、帰国して真っ先に用意させたのがこのナイフだった。何かあったときに備えるためだ。「何をするつもりだ!」常和の顔に、初めて明らかな焦りが浮かんだ。柚香の目にも緊張が走った。まさか、こんな展開になるとは思っていなかった。「心配するな」康平が柚香に声をかけ、外へ視線を向けた。「何も起きない」「もうすぐ死ぬ身だ。何だってやれるさ」承輝は常和を押さえつけながら、最初から自分の目的を見失ってはいなかった。「今すぐ昭彦に電話しろ。俺に専用

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第766話

    「二つ目。この件を報道しないでほしい。俺の行動が、あの親子の生活に影響するのは避けたい」その言葉を聞き終えると、常和の表情が険しくなった。それでも彼は迷うことなく口を開いた。「分かった。問題ない」柚香の表情は少しも変わらなかった。こんなことを承輝が自分から言い出すなんて、信じられない。この男が土壇場で本当に考えるのは、自分の身を守ることだけだ。今このタイミングでこんなことを言うのも、こちらの警戒心を解くために決まっている。「そんな話、信じるわけないでしょう」康平は面白がるように口を挟んだ。「犬と猫が子供を作れるって言われたほうが、まだ信じられますね。あなたが家族のことを考える人間だなんて、絶対に信じません」「本当に自分の子供のことを考えてるなら、一方では奏汰を公的な組織に放り込もうとしながら、裏ではあんなに違法なことをしてたわけないでしょう」凛音は容赦なく承輝の嘘を暴いた。慎吾も頷いた。「そうです」承輝は腹を立てる様子もなかった。「今の俺が何を言っても、君たちが信じないことは分かってる。時間が経てば、すべて分かる」常和には、その言葉も態度もすっかり本物に思えた。常和にとって、道を踏み外した人間が心を入れ替えることほど、喜ばしいことはない。承輝が自分の間違いに気づいて、本気で改めようとしているのなら、まだ遅くはない。「あなたが証明するのを待ってます」柚香も、もちろん信じてはいなかった。「康平、慎吾。お帰りいただいて」二人はすぐに前へ出た。承輝が顔を上げる。「待ってくれ」その場にいた全員の視線が、彼に集まった。承輝が柚香に向かって二歩ほど歩き出す。だが、三歩目を踏み出す前に、康平と慎吾がすぐさま彼の前に立ちはだかった。進むのを阻むだけでなく、柚香の姿まで見えないようにする。「ただ、柚香にちゃんと謝りたいだけだ」承輝は一言一言、噛みしめるように言った。「謝ったら、そのまま自首する」「うちのお嬢様、耳はちゃんと聞こえてますから」康平は腕を組み、少しふざけたような口調で言った。「さっきの場所に立ったまま話しても、ちゃんと聞こえますよ」以前、柚香を襲った前例がある。そんな男を、お嬢様のそばに近づけるわけにはいかない。悪巧みをしているのは、見え透いている。もしかしたら、隙を見てお嬢

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status