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第1216話

Author: 金招き
──こういうのも悪くない。

憲一は足を進め、化粧室の方へ向かった。

ちょうどその時、瑞樹が駆け寄ってきた。「憲一、席の配置はどうしてる?」

「どうかしたのか?」憲一が聞き返した。

「何人か、座る場所がしっくりきてない」

「じゃあ、一緒に見に行こう」

瑞樹は手元のリストを見せた。「この人たち、メインテーブルの下座に置いた方がいいと思う」

憲一は頷いた。

「そうだな。……会社の人たちとはお前が一緒に座ってくれ。余計なことをしないように見張っていてくれれば助かる」

「わかってる。任せろ」

席の配置が整い、式の時も間近に迫ってきた。

憲一は先に披露宴会場へ向かった。

すべての準備が整っていた。

あとは時刻を待ち、式が始まるだけだった。

双は待ちきれず、香織に問いかけた。「ねえママ、由美おばさんはいつ来るの?僕、もう待ちくたびれたよ」

誠が苦笑して言った。「双、これは君の結婚式じゃないぞ。焦るのは憲一おじさんの役目だ」

双は意味がわからず、真剣に答えた。「だって、由美おばさん今日すごくきれいなんだよ。早くお嫁さんを見たいんだ」

「将来お前が結婚するときも、そんなに焦るのかな?」誠はからかうように言った。

双はきっぱり返した。「僕はまだ子どもだもん。それより誠おじさんこそ、いつになったらお嫁さんができるの?」

「……」

誠はぐっと言葉を詰まらせ、親指を立てた。

「君、本当に人の急所を突いてくるな」

双は得意げに笑った。「大丈夫、大丈夫。僕もまだ独り身だし」

香織は呆れながら息子の頭を撫でた。

「何を言ってるの。まだ子どもでしょ」

──どう考えても「独り身」なんて言葉が似合う年じゃない。

愛美も笑みを浮かべて言った。「うちの双は、大きくなったら絶対ハンサムになるわよ。お嫁さんに困るどころか、きっと縁談が殺到して玄関先が大変なことになるわ」

「……」誠は肩を落とした。

「つまり君たちの言い分は、俺が不細工だから相手がいないってことか?今日はおめでたい日だぞ。もう俺の心を傷つけないでくれないか」

「じゃあ、早く誰か見つければいいじゃない?」

愛美が軽く笑いながら言った。

「そうすれば私たちもあなたの結婚式でお酒が飲めるのに。まさか私たちに祝宴すら飲ませたくないなんていうケチじゃないでしょうね?」

「……」誠は言葉に詰まっ
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