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第108話 それぞれの出発

Author: 花柳響
last update publish date: 2026-01-22 18:01:06
 大学三年生の、冬を迎える頃。

 それは、モラトリアムという名のぬるま湯に浸かっていた学生たちが、一斉に社会という冷たい海へ放り出される季節。

 そう、就職活動の本格化である。

「大丈夫だよ、栞。似合ってる」

 背後から伸びてきた腕が、私の腰をふわりと抱きしめる。

 鏡越しに目が合うと、天王寺輝くんが、とろけるような甘い笑顔を向けていた。

「……輝くん」

「スーツ姿も新鮮で可愛いな。……なんだか、禁欲的な色気がある」

 彼が私の首筋に顔を埋め、深く息を吸い込む。

 くすぐったいような、それでいて背筋がぞくりと甘く痺れるような感触。

 彼の腕は温かく、その体温に触れるだけで、張り詰めていた緊張の糸がふっと緩むのがわかった。

 あれから、数ヶ月。

 私たちは、この狭いワンルームで、貧しくも幸せな同棲生活を続けていた。

 秋のうちに大家さんへ二人で頭を下げ、暮らし方の約束を決めた。私の両親にも話した。電話の向こうの沈黙は長かったけれど、輝くんは途中で私に代わらず、学費のことも、卒業までのことも、自分で答えた。

 天王寺総帥の放った監視の目は、相変わらずアパートの周
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  • 攻略対象は私じゃない! ~腐女子が神視点で推しカプ見てたら、いつの間にか逆ハーレムの中心にいた件~   第139話 彼女からの言葉

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