乃亜のあの言葉は、一体何だったのだろう。 あれから数日が経っても、私の頭の片隅には、彼女の真剣な眼差しがこびりついていた。「やたらイケメンに見つめられてる」なんて、そんなことあるわけがない。きっと、乃亜が見たイケメンは、彼女の隣にいた私ではなく、その背後のショーウィンドウに映った自分自身に見惚れていたに違いない。うん、そうに決まっている。自己肯定感の高い美男子は、たまにそういうことがあるのだ。 私は一人で納得して、いつものように大教室の後方の席に陣取っていた。今日の講義は社会心理学。教授の話はそれなりに面白いけれど、やはり私の脳の大部分は、来たる『Fallen Covenant』の次回イベント、「聖夜に誓う永遠の愛(エターナル・ラブ)」の考察に費やされている。「今回の報酬は、ジークの限定SSR……絶対に手に入れなければ……」 誰にも聞こえない声で決意を固め、バッグの中でそっとスマホを握りしめた、その時だった。 ざわっ、と教室の空気が揺れた。 入口のドアから、一人、また一人と学生が入ってくるだけの光景。それなのに、さっきまで気怠い空気に満たされていた空間が、まるで色鮮やかなフィルターでもかかったかのように、急に華やいで見えた。 その原因は、すぐに分かった。「あ、天王寺くんだ」「今日もかっこいい……」「隣の氷室くんもヤバくない?」 ひそひそと交わされる女子学生たちの甘い溜息。その視線の先には、あまりにも現実離れした二人の男子学生が立っていた。 一人は、天王寺 輝。 キラキラと光を反射する、明るい茶色の髪。誰に対しても分け隔てなく向けられる、爽やかで人好きのする笑顔。非の打ち所がない顔立ちに、モデルのように長い手足。彼が歩くだけで、そこだけスポットライトが当たっているかのように見える。経営学部に所属する彼は、大企業の御曹司で、成績も常にトップクラス。まさに、学園の太陽の名を欲しいままにする、完璧すぎる王子様だ。 私のような日陰の住人からすれば、直視するのも憚られる、眩しすぎる存在。住む世界が違いすぎる。 そして、彼のすぐ後ろに控えるように立っているのが――氷室 奏。 サラサラの黒髪が片目にかかり、どこかミステリアスな雰囲気を纏っている。透き通るような白い肌と、全てを見透かすような
Last Updated : 2025-10-23 Read more