最後の電話

「しず、助けて、私の夫が私を殺そうとしている！」

電話の向こうの阿部志保は、意味のない一言を言っただけで、電話が切れた。

私は呆然とし、再度電話をかけようとしたが、向こうでは誰も応答しなかった。

三日後、私は警察からの電話を受け取った。

阿部志保は交通事故で命を落とした。

私と志保は、十年の親友。あまりにも深い絆で、彼女に彼氏さえ譲ることができるほどだった。

そう、今、志保の夫である阿部敦司は、私の大学時代の元彼だった。

あの頃、私と阿部敦司は金融学科で有名なカップルだった。卒業後、一緒に会社を設立した。

だが、阿部敦司は会社が上場してから一年が経ち、私の親友の志保と一緒になることを選んだ。

彼らは急いで結婚し、そして六ヶ月後に可愛い娘の有紗をもうけた。

本来、私は阿部敦司の突然の心変わりに深い嫌悪感を抱いていたが、志保との関係を考えると、私の感情は複雑になった。

一人の男性のために、死ぬまで関わりを断ち切るなんて、本当に意味がない。

志保も私たちの関係を和らげるため、私に有紗の名義の母になるよう頼んできた。

５年間、特に問題もなく、会社で偶然会うと、たまに挨拶を交わすこともあった。

今日、私たちは同時に警察署に現れ、筆録を終えた後、私は心情がとても良さそうな阿部敦司を見かけた。

「志保が亡くなったのに、そんなに嬉しそうなの？」私は阿部敦司の口元にわずかな笑みが浮かんでいるのに気づいた。

阿部敦司は、どこか全身から不快な雰囲気を漂わせているように感じた。

阿部敦司の表情は非常に速く変わり、その速さに私は先程彼が見せた喜びが果たして自分の幻覚だったのではないかと思わずにはいられなかった。

彼は胸を打ちながら言った。「志保が亡くなった。俺はお前よりも悲しいけれど、今は倒れるわけにはいかないんだ」

「それならいいんだ、有紗は母親を失ったんだから、もう父親まで失ってはダメだ」

私はその言葉を残して、急いで車を運転し会社に向かった。

志保の死の知らせを受けて、私は仕事のリズムを乱され、机の上に積み上がった書類を見て、途方もないプレッシャーを感じた。

一週間忙しく働き、午後になって、私は志保からの電話を受けた。それは有紗が志保の携帯電話からかけてきたものだった。

「おばちゃん、早く迎えに来て、怖いよ」

有紗の泣き声を伴った頼みを聞いて、私の心は崩れ落ちた。

仕事を終えた後、有紗が通う学校に行き、放課後に迎えに行った。

「今日は学校でいい子にしてたか、有紗？」

有紗は不機嫌そうに見え、顔の表情が歪んでいた。彼女はぶつぶつと呟いた。「おばちゃん、これから一緒に住んでもいい？」

「どうして？」

私は不思議に思った。普段の有紗はとてもお利口で、いつも笑顔を見せていた。

でも、志保が亡くなってから、有紗はあまり笑わなくなった。彼女はまるで霜で打たれたナスのようで、以前のような元気さを失ってしまった。

有紗の次の言葉に、私は背筋が凍るような思いをした。

「だって、パパがママを殺したから」

「パパは、私も殺すかもしれない」

もし自分の耳で聞かなかったら、これは四歳の女の子の言葉だなんて信じられなかっただろう。

私は有紗を自分の家に連れて帰り、その後、阿部敦司に電話をかけて尋ねた。「志保はどうして亡くなったんだ？」

「警察が言っていたじゃないか？事故だ、偶然だって！」電話の向こうで、阿部敦司の声が急に高くなった。

「有紗は私のところに住みたいと言っている。志保の死については、私は徹底的に調べるつもりだ」

その向こうから軽蔑の笑い声が聞こえ、阿部敦司は淡々と言った。「お好きにどうぞ」

私の中で、阿部敦司への疑念が深まった。

しかし、私はなぜ阿部敦司が志保を殺したのか、全くわからなかった。

感情がなくなったとしても、志保は彼に娘を産み、阿部敦司を何年も支え続けていたのだ。