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第5話

作者: 満々
――轟音。

何の前触れもなく、「子どもの家」の半分の塀が崩れ落ちた。

子供たちの悲鳴と泣き声が、辺り一面に響き渡った。

晩夏も涙を流しながら、必死に研の手を掴んだ。「やめて……止めさせて。どれだけ私を憎んでいても、それは私とあなたの問題でしょう。施設長も関係ない。この子たちだって、何も悪くないの」

だが研は何も言わず、ただ微笑んで彼女を見つめていた。

――轟音。

さらにもう一面の壁が崩れ落ちる。

晩夏は乱暴に涙を拭いながら、震える声で訴えた。「やめて……あなたの言うことは全部聞く。離婚も……あなたの側に残ることも、全部従うから……」

ブルドーザーがぴたりと動きを止めた。

研は満足そうに人差し指で彼女の頬をなぞる。

「それでいい。手配が整ったら離婚手続きに連れて行く。奈々は最近情緒が不安定なんだ。しばらくホテルに泊まって、彼女の前に現れるな。

奈々との婚姻届を出し終えたら戻って来い。これからは、家では奈々を怒らせないようにしろ。

それから――もうこれ以上、俺を試すな。俺が気の長い人間じゃないことくらい、分かっているはずだ」

晩夏は激しい眩暈に耐えながら、研の高級車が視界から消えるのを見送った。

意識を手放す直前、智香が泣きながら自分の崩れ落ちる体を抱き止める姿が見えた。

だが晩夏には、笑みを返す力すら残っていなかった。

かすかな声で呟く。「智香……私って、本当にだめね……」

その言葉を最後に、押し寄せる痛みと眩暈に、晩夏の意識は飲み込まれていった。

……

二日間、病院で懸命な救命処置が行われた。

まばゆい手術灯の光の中で、晩夏の意識は再びあの古びたスラム街へと引き戻される。

研の母である美沙が、必死に扉を押さえながら叫んでいた。「晩夏、逃げて。警察を呼びなさい。早く」

晩夏は必死に走った。

走れなくなると、這いながら進み続けた。

ようやく警察署へ辿り着いたとき、胸の奥から解き放たれるように叫んだ。「どうか……助けてください……」

次に目を開けたとき、骨まで砕かれるような激痛に襲われた。視界に映ったのは、泣き腫らした目をした智香の姿だった。

看護師がモルヒネを注射する。

鋭い痛みが鈍い痛みへと変わるのを待ってから、晩夏はかろうじて微笑んだ。「智香……少し水を……」

智香はそっと水を口元へ運ぶ。

だが一口飲んだだけで、晩夏はすぐに吐き戻してしまった。

目を赤くした智香が、晩夏の口元を拭いながら言う。「晩夏ちゃん……四日間も目を覚まさなかったのよ。お医者さんが言ってた……晩夏ちゃんの体……遠野原まで持たないかもしれないって……」

「だめ」晩夏の声は弱々しく、それでも確かだった。「智香……絶対に行きたいの。約束して……何があっても、連れて行って」

「分かった、連れて行く。だから落ち着いて、少し休もう。

画廊の損害は榊原家がかなり賠償したの。晩夏ちゃんは遠野原が好きでしょう?

小さな家を買って、風の音を聞きながら、羊を眺めて暮らすのもいいと思うの」

智香の語る未来は穏やかで美しかった。

だが晩夏には、そこまで生きる力が残っていないと分かっていた。

それでも智香を悲しませたくなくて、胸の奥の苦しさを押し込め、微笑む。「いいね。京北市から離れられるなら……きっと幸せになれるわ」

研が病室へ入ったとき、耳に入ったのは「離れられる」という言葉だった。

彼の表情が、みるみるうちに陰を帯びる。「離れられる?この前、はっきり言ったはずだ。晩夏、お前はどこにも行けないぞ」

その姿を見た瞬間、智香は雛を守る親鳥のように、細い腕を広げて晩夏の前に立った。「何しに来たの?まだ晩夏ちゃんを苦しめるつもり?帰って、もう顔も見たくない!」

晩夏は小さな声で言った。「智香……彼と話があるの。少し外してくれる?」

研の視線は一瞬たりとも晩夏から離れない。

青白くやせ細った顔を見つめ、眉をひそめる。「お前……そんなに弱かったか?少し具合が悪いだけで入院とはな。それで、どこへ行くつもりだ?」

晩夏の顔から、わずかに浮かんでいた笑みが消えた。

彼の問いには答えない。「私に何か用?」

胸の奥に、息苦しいほどの苛立ちが込み上げる。

だが研は、それを晩夏への嫌悪のせいだと決めつけた。

子供の頃から彼女はそうだった。

冷たく無感情で、他人を寄せつけないような態度。

その冷酷さがあったからこそ――

彼女は逃げ出したあと、一人で身を隠し、彼女の姉と自分の母を見殺しにしたのだ。

そう思った瞬間、迷いは消えた。

彼は直接、晩夏をベッドから引きずり下ろした。

その衝撃で、激しい眩暈が晩夏に襲った。

胃の中にはもう何もなく、わずかな胃酸だけを吐き出す。

「死にそうなふりをするのはやめろ。その様子、本当に気持ち悪い。身なりを整えろ。

俺は外で待ってる。奈々が、俺と結婚するのを楽しみにしてるんだ」

晩夏はゆっくりと体を起こした。

荒々しく閉められた扉と、研の遠ざかる背中を見つめる。

こらえていた涙が、静かに溢れた。

「研……演技なんかじゃない……本当に……もう死ぬのよ……」

あまりにも軽いその一言は、空気の中へと消えていった。
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