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第3話

Auteur: 梅干しとポークリーブのお粥
杏実のペンキャップを閉める手が少し止まり、淡々と答えた。

「子供たちのために信託資金を設立するつもりなの」

表情を和らげた直斗を見て、彼女は自嘲気味に笑った。

「どうしたの?私に文句を言いに来たの?」

直斗は彼女の手を握りながら懐に引き寄せた。

「悪かった、病院で感情を抑えきれなくて」彼は取り入るように彼女の左の頬をすり寄せて言った。「監視カメラ映像を確認したんだ。多分子供たちが怖くて記憶を間違えただけだった。

この件はここで終わりにしよう。これからは口に出さなくてもいい?」

彼は身をかがめ、いつものようにキスで問題を解決しようとしたが、今回は、杏実が顔をそらして避けた。

彼の愕然とした表情を見て、杏実は突然報復的な快感を覚えた。

「柚真と柚希を孤児院に戻そう」彼女の声は軽かったが、一字一句ははっきりしている。「私は海外で治療を受けるから、私たち二人の子供を作りましょう」

言い終わった瞬間に直斗の顔色が変わった。

「ありえない!

犬一匹を六年間飼ったって感情がわくし、ましてや二人の子供だよ。どうしてそんなに冷酷にできるんだ?」

彼の手が徐々に力を込め、まるで彼女の手首を折りたいように握り締める。

杏実は痛みに耐えずもがくと、頭が写真立ての角にぶつかった。目眩がして立っていられなくなって、後頭部も一瞬で血肉もろくにつかない状態になった。

痛みのためか、あるいは悔しさのためか、思わず溢れ出た彼女の涙が彼の手の甲に落ちる。

彼女が優しすぎたからこそ、二人の恩知らず子どもを育て上げてしまったのだ。

杏実の涙があまりに熱かったのか、直斗は一瞬で理性を取り戻した。

「杏実、君を大切に思っているからだ。子供を産むのは痛いし、君に苦労をさせたくない」

彼の深い目を通して、彼女はかつての誠実で熱烈な少年の姿を見たような気がする。

高校の保健体育の授業で、彼は進んで分娩陣痛を体験した。授業後には赤い目をして、彼女をきつく抱きしめた。「杏実、俺たちはこれから子供を作らなくていい?」

しかし今、彼はますます成熟していったが、かつての確かな愛は虚ろで偽りのものに変わってしまった。

彼女が彼から逃げ出そうとする時に、直斗の電話の着信音が突然鳴り始めた。

直斗が着信表示を見ると、すぐに彼女を押しのけて隅で電話に出る。

彼の目元まで潤んでいる笑みを見て、さらに「会社に用事がある」と言い訳して慌ただしく立ち去るのを聞く。

痛みはすき間があれば刺す針のように、細かく密に杏実を傷だらけにした。

彼女が顔を上げて見ると、背後にあるウエディングフォトはすでに彼女の血で染まっている。

まるで彼女と直斗のように、悲劇が定まっている。

今夜、彼女は子供たちを寝かせなかった。

そのため、退院したばかりの柚真と柚希は絶えず不満を言っている。

「ママは今夜どうして僕たちに絵本を読んでくれなかったの?嘘をついただけなのにどうしてそんなにケッチなの?」

「悪いママ!パパに追い出させて、麻紀おばさんに私たちの新しいママになってもらうんだ!」

杏実はスマホの電源を切って、ベビーモニターからの声を途絶えさせた。

離婚手続きが終われば、彼らはすぐに願いを叶えるだろう。

翌日、彼女は普段のように六時のアラームで起こされたのではなく、階下の笑い声と楽しげな話し声で目が覚めた。

直斗は麻紀にエプロンをつけてあげながら、麻紀は笑顔で二人の子供に朝食を食べさせている。

彼女よりも、麻紀の方がずっとこの家の女主人に見える。

「麻紀、口元に牛乳がついているよ」直斗は片手で彼女の顔を支えながら、もう片方の手でハンカチを取り出してそっと拭いた。「うん、いい子だ」

「麻紀おばさん、お話すごく上手だね。僕のママはバカだよ」柚真はまばたきをしながら、惜しみなく麻紀を褒めた。

「麻紀おばさん、パパのお嫁さんになってくれない?」柚希は彼女の手を引いて左右に揺さぶれている。杏実はこんなおとなしく可愛らしい娘を一回も見たことがない。

言う者は意図せず、聞く者は心に留める。

まるで以心伝心のように、四人はそろって階段口を見てくる。

杏実を見ると、直斗はすぐに麻紀と距離を置き、彼女の方に向かって歩く。

「杏実、明日の孤児院の募金活動に、麻紀が君の出席を望んでいるのだ」

言葉は誠実だが、断る余地はない。

杏実は軽くうなずいて去ろうとすると、麻紀に呼び止められた。

彼女は杏実の手を握り、感動したように言う。「杏実さん、孤児院へのご支援ありがとうございます」

しかし杏実を抱きしめた瞬間、彼女は挑発的に笑う。「直斗は言ってたよ、子供たちの名前を呼ぶたびに、いつも私のことを思い出すって」

杏実はよろめきながら部屋に戻り、手のひらがひりひりと痛む。

麻紀につねり上げられた痕を見つめながら、彼女は低声で子供たちの名前を呟いた。

柚真、柚希……麻紀。

杏実の涙は静かに指の隙間から溢れて、傷口に触れてさらに痛かった。

彼女は本当に馬鹿だった。

こんなに浅はかな裏切りさえも見抜けなかったなんて。

……

募金活動の当日、杏実は一人で孤児院に向かう。

入場するとすぐ、麻紀が直斗の腕を組んで、甘ったるく笑っているのが見える。

彼女は白いドレスをまとい、上品で美しく。彼はスーツを着て、男前に映えている。

柚真と柚希が彼らの周りにいて、まるで幸せな四人家族のようである。

賓客がへつらって近づいていく。「こちらが斉藤奥様ですね。お二人は本当にお似合いです」

麻紀は恥ずかしそうに顔を赤らめた。直斗は一瞬呆然としたが、否定はしなかった。

杏実は口元に皮肉な笑みが浮かべた。

彼は口を極めて麻紀を心の底から嫌がっていると言っていた。

しかし彼女を見つめる彼の眼差しは、恋人よりも親密である。

間もなく、院長が開会の挨拶をし始めた。

人々の視線は一瞬で彼の背後にあるスクリーンに集まった。

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