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第5話

Auteur: 年々
悠斗は仕事が忙しいのを理由に、子供の治療費の管理をすべて泉に任せていた。

しかし、泉が支払っていたのは最低限の費用だけで、それ以外のことは気にもしてくれなかった。

経済的に困った彩花は、仕方なく日和と一緒に日雇い労働を始めることにした。

毎朝4時に起きて仕事場へと向かい、朝早くから仕事を始める。

日雇い労働といえど、朝早くから夜遅くまで働いていたおかげもあり、わずかながらお金を貯めることができた。

毎日彩花は日和と狭いベッドで一緒に寝たし、一杯のかけそばを二人で分け合って、1円たりとも無駄にしないよう、必死に切り詰めていた。

そんな生活を送る中、彩花は悠斗がいなくても、自分ひとりで子供の治療費を稼げるかもしれないと思い始めていた。

そんな矢先のこと――

その日、締め作業をしていた時だった。突然、数人のチンピラが仕事場に現れて機材などをめちゃくちゃにし始めた。

「やめて!やめてください!」

日和は泣き叫びながら止めようとしたが、突き飛ばされてコンクリートの地面に後頭部を強く打ちつけてしまった。

「お母さん!」

彩花は悲鳴をあげて日和に駆け寄り、抱き起こす。「一体なんなの?なんでこんなことを!」

スキンヘッドの男が近づいてきてしゃがみこみ、鋭い目つきで彩花を睨んだ。「俺たちを恨むなよ。金をもらって仕事してるだけなんだから」

彩花の心臓がどくんと跳ねると同時に、一人の名前が頭に浮かぶ。

「誰に頼まれたの?」

スキンヘッドの男は、黄ばんだ歯を見せてニヤリと笑った。「河内さんが言ってたぜ。おとなしくしてろってな。今回は機材だけですんだけど、次はどうなるか分からねえぞ」

河内さん?やっぱり泉なのか?

彩花はめちゃくちゃにされた職場と、顔が真っ青になっている腕の中の母を見つめた。泣くことも叫ぶことも、なにもできなかった。

彩花はポケットから、今日一日のなけなしの給料を取り出すと、怪我をした日和を背負って病院へと走った。

薬代を払うだけで精一杯だった。医者は脳震盪がないかレントゲンを撮ったほうがいいと言ったが、彩花にはもう一銭も残っていなかった。

日和を支えながら古い実家に戻り、寝かせつけたあと、彩花は家を飛び出した。

再びあの家の前に立つと、ありったけの力でドアを叩く。

ドアを開けたのは泉だった。「彩花さん?どうして……」

その言葉が終わる前に、彩花は泉の頬に強烈な平手打ちを食らわせた。

バチン――

「私の職場をめちゃくちゃにして、お母さんに怪我までさせて……いったいどういうつもりなの?」

「やってません!」泉は頬を押さえながら、いかにも濡れ衣だという顔で、物音を聞きつけて書斎から出てきた悠斗に訴える。「社長、私じゃありません」

泉の頬に残る平手打ちの跡を見て、悠斗の顔はみるみる険しくなった。

「彩花、気は済んだか?河内さんはずっと俺と一緒にいたんだ。お前の職場を荒らしに行かせるなんて、できるわけないだろう?

それよりお前こそ、なんでそんな日雇い労働なんか始めたんだ?これ以上、まだ俺に恥をかかせたいのか?」

自分をまったく信じていない悠斗の目に、その口から発せられる刺々しい非難の言葉。彩花の心は冷えきって、感覚が麻痺していくようだった。

ひきつった笑みを浮かべる彩花のその顔は、泣き顔よりもずっと惨めに見えた。「あなたが助けてくれる金額じゃ、子供の薬代にすらならないの。私が働かなかったら、お母さんと二人で飢え死にするしかないんだから」

「金は渡しているだろ!」悠斗はイライラしたように彩花の言葉を遮った。「お前が強欲なだけだろ?金金金って!」

悲しみと怒りで彩花の声は震える。「悠斗、病院で明細を確認してきて。それに、お医者さんにも聞いてみてよ。あなた……」

「もういい。お前の言い訳なんか聞きたくない」

すると泉がそっと悠斗の袖を引き、彩花の方を向いた。

「彩花さん。お子さんの病気については、私たちもずっと何とかできないかと考えていたんです」

彩花は疑い深い目で泉を見つめた。また何か企んでいるに違いない。

泉はそっとため息をついてから言った。「知り合いにとても有名な神主さんがいるんですけど、その方がおっしゃるには、あなたとお母さんでその神社へ行って、お子さんのために祈願すればきっと良くなると……」

神社で祈願?

彩花は、思わず笑いそうになった。「私が求めているのは、ちゃんとした治療。そんな非科学的なものじゃないの」

泉は心外だという顔をしながら答える。「彩花さん、その神主さんは本当に信頼できるんです。それに、私のこと信じてくれないんですか?それとも、お子さんには元気になってほしくないと?」

「なんてこと言うの!」彩花は言葉を失った。

「いい加減にしろ!」と悠斗が再び声を荒げた。「他にできることもないんだし、試してみればいいだろ?それに、ここで訳のわからないことを言って騒いでいるより、ずっといいじゃないか」

悠斗は少し間を置き、有無を言わせぬ口調で言った。「3日後に迎えを行かせるから、その神社へ行ってこい。母親と一緒に準備しておけよ」

「もし行かないって言ったら?」彩花は悠斗をじっと見つめる。

悠斗の目が鋭く光った。「ということは、子供の命なんてどうでもいいってことだな。なら、もう今後の治療も必要ないよな?」

また子供の治療を盾にする……

彩花は目を閉じ、深く息を吸った。

「分かったわ、行くよ」

彩花は背を向けると、この息が詰まるような場所から、一歩ずつゆっくりと離れた。

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    彩花は思い通りに松浦グループの資産の半分を手に入れた。銀行口座の数字を見て、口の端を上げてにやりと笑う。お金なんてどうでもよかった。しかしこの口座の数字は、悠斗と泉への復讐が成功した証なのだ。それに、悠斗が一切の治療を拒否していて、自分に会いたがっているという内容の電話を病院から受けた。病院へ向かう前に、彩花はまず西山霊園に寄った。そして、母と子供の墓石の前で、声を上げて泣いた。復讐を決意してから、一度も心ゆくまで泣いたことはなかった。しかし、すべてが終わった今、心に溜まっていた悔しさと悲しみが、ようやく解き放たれたのだった。「お母さん、赤ちゃん……二人の仇は、私がとったからね!」病院のベッドに横たわる悠斗は、数日見ないうちに骨と皮ばかりに痩せこけて、まるで死人のようだった。医者によれば、このままでは余命いくばくもないとのこと。彩花が病室に入ってくるのを見て、悠斗の乾ききった目に、ふっとかすかな光が灯った。悠斗は震える手を伸ばして彩花を掴もうとした。しかし、そんな力は残っておらず、ベッドの脇にだらりと垂れてしまった。「彩花、会いに来てくれたのか?やっぱり俺のこと、まだ好きだったんだな、そうなんだろ?」彩花は椅子を引き寄せて腰を下ろす。そして、かつては深く愛し、今は心底憎んでいる男の顔を、じっと見つめた。しばらくしてから、彩花は口を開いた。その声には、何の感情もこもっていない。「悠斗、あなたがこんなふうに自分を痛めつけて死んだとしても、私は絶対に許さないから」悠斗の目からまた光が消えた。「じゃあ、どうすれば許してくれるんだ?」彩花はカバンからファイルを取り出し、悠斗の前に差し出す。「接近禁止令に関する書類よ。もう、なんの関係も持ちたくないからここにサインしてちょうだい」ファイルの表紙にある「接近禁止令」という文字を見て、悠斗の口元がひくひくと痙攣した。「彩花、俺はどうかしてたんだ。河内の口車に乗せられて……お前と離婚する気なんて、一度もなかった。信じてくれ、一度でいいから!」彩花は立ち上がると、悠斗を見下ろしながら、そっとため息をついた。「信じるとか信じないとか、もうどうでもいいの。だって、あなたが死のうが生きて法の裁きを受けようが、もう私には関係ないことだから」彩花はドアまで歩いて行くと

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