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第1266話

Penulis: 夏目八月
玄武と尾張は運び手たちと共に外へ向かった。こちら側の者たちは覆面をしていないため、見知らぬ二人の存在に怪訝な顔をしたが、誰も問いただすことはない。

新入りで、これまで後ろにいただけなのだろう、という程度の認識だった。

大石村の規律正しさとは対照的に、天海側の組織は明らかに統制が取れていなかった。

幹心とさくらたちは来た道を引き返した。前方の一団とは十分な距離を取っている。玄武は前に人影があることには気付いていたが、まさかそれがさくらと師匠たちだとは夢にも思わなかった。

監視役の一団だろうと考えていた。この人足たちが米を盗み出さないよう見張るためのものと。確かにどう見ても臨時で雇われた人足にしか見えなかった。

さくらは何度も振り返ったが、玄武の姿を見つけることはできない。人の頭が黒い影となって揺れ動くばかりで、距離も開きすぎていた。

何度も後ろを向くのは、先ほどの混乱で尾張の声は聞こえたものの、玄武の声が聞こえなかったからだ。

「安心して」紫乃が耳元で囁いた。「あの混乱の時、二人が私たちの列に紛れ込んだわ。はっきりとは見えなかったけど、きっと親王様と尾張さんよ」

紫乃は幹心の方をちらりと見て付け加えた。「それに、師叔があんなに落ち着いているってことは、親王様が中にいるのを確信しているからでしょう。そうでなければ、誰よりも焦っているはずよ」

さくらは心の中で、それは半分しか当たっていないわね、と思った。師叔が自分ほど心配するはずがない。

だが耳の良い師叔のことだ。口に出すのは控えめにした方が賢明だろう。それでも胸の重荷は随分と軽くなった。

帰り道は不思議と近く感じられ、すぐに別邸の粮倉につながる地下道に到着した。

幹心とさくらたちが先に出ると、深水だけが天海を密室に残った。背中に短刀を突きつけられ、足は震えているが立ち続けるしかない。

人足たちが二度目の運搬の準備を始めたとき、深水は声を上げた。「鎮国将軍の命により、本日の作業はここまでだ」

皆が驚いて天海の顔を見つめる。天海は目を泳がせ、自分が脅されていることを伝えようとしたが、背中に短刀が突き刺さる痛みを感じ、慌てて声を上げた。「今日の作業は中止だ。二日後に再開する」

将軍直々の命令と聞いて、人足たちはようやく散っていった。

玄武と尾張は、深水が天海を押さえつけているのを見て意外な表情
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