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第1556話

Penulis: 夏目八月
調査を進める中で、さくらはある侍従から興味深い話を聞き出していた。三皇子の鉄菱は確かに紛失しており、ある女官が拾い上げているのを目撃したというのだ。

その侍従は鉄菱が拾われる瞬間を見ており、拾った女官のことも知っていた。雲追という名で、敬妃に仕えている。

敬妃に大皇子を害する理由はなく、德妃や定子妃との関係も至って普通だ。そこでさくらは太后に奏上し、後宮で調査を行って雲追が二心を抱いていないか探ることにした。

調べてみると、雲追が入宮した当初は洗衣院の下働きで、日々衣類を洗濯して貧しい暮らしを送っていた。

德妃の侍女である青嵐とは同郷の縁があり、青嵐が管理係の女官に取り入って、雲追を敬妃の宮で掃除係として働けるよう手配したのだった。

逐雲も抜け目のない女で、数年のうちに敬妃の厚い信頼を得て、今やすっかり腹心の地位を築いていた。

内蔵寮の女官名簿では、雲追が敬妃の宮に移った時点で出身地が書き換えられている。さくらが彼女の入宮当時の古い記録を掘り起こしたからこそ、この事実が判明したのだ。

もしさくらがもう少し大雑把に調べていれば、雲追と青嵐の同郷関係など見つからなかっただろう。

この糸口を辿ると、雲追が密かに青嵐と連絡を取っていた証拠が次々に出てきた。それどころか、德妃が各宮に手駒を送り込んでいることまで明らかになる。

長年にわたって德妃が手に入れてきた数々の好物――六宮を取り仕切っていなかった時期でさえ、本来なら手の届かないものまで易々と手に入れていた。

謙遜で従順な人柄を演じることの見返りはこれだった。定子妃は争うことを潔しとせず、皇后は德妃に贈り物をすれば関係を深められ、自分の手駒として使えると考えていた。

身分の低い妃嬪たちも、德妃の人当たりの良さを気に入って、喜んでもらおうと進物を献上していた。

後宮でも朝廷でも、德妃の評判は申し分なかった。

だが誰ひとり疑問に思わなかったのだろうか――なぜこれほど簡単に名声を築けたのか?実際のところ、彼女が慈悲深い行いをした例などほとんどないではないか。

さくらの調査で判明したのは、德妃が各宮に潜ませた間者たちが、それぞれの主人の前で折に触れて德妃を褒め称えていたことだった。彼女は欲のない淡泊な性格で、心根が優しく、争いを好まないのだと。

年月が経つうちに、皆がそう信じるようになっていたのである
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