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第964話

Penulis: 夏目八月
玄武は温かい食事を少し口にしてから、その日の交渉について話し始めた。

さくらは彼の傍らに座り、いささか後ろ盾を得た様子だった。少なくとも師叔の心に沿わない発言をしても、白い目で見られる心配はなさそうだった。結局、玄武のすぐ隣に座っているのだから。

「陛下は彼らの条件をご存知でございますか?どのようなお考えでしょうか?」有田先生が尋ねた。

「清家本宗が宮中に報告に行ったよ。賓客司に戻ってきた時、陛下の意向も伝えてきた。国境線は譲れないが、他の点については話し合いの余地があるってさ。向こうの提示した条件だけじゃなく、別の補償も考えられるという意向だった」

皆無はしばらく考え込んでから言った。「国境線を譲らないということは、平安京側に葉月琴音が署名した和約の有効性を認めさせることになる。もし彼女の署名した協定が無効なら、以前の国境線に戻すべきだ。だがこの国境問題は長年の争いだ。さらに元々は我が国が混乱している時に彼らが侵略してきたものだ。どう考えても難しい問題だな」

「今夜、賓客司で議論したのはまさにこの問題です」玄武は言った。「平安京側に葉月の和約を認めさせるのは不可能ですし、我々自身も気が咎めています。しかし国境線を後退させれば、民衆は我々の背を指して罵るでしょう。さらには葉月を英雄として祭り上げかねない。あれほどの罪を重ねた者が、どうして英雄になれようか」

「確かに難しい問題だ」皆無も一時的にはこれといった解決策が浮かばなかった。しかし、こういった事態で完全な解決策などあるはずもない。

「先祖の時代の国境図と両国の最初の協定書をすでに整理しております。平安京側を説得して、葉月琴音の署名した協定の代わりに初期の協定を採用してもらえればと考えております。彼らが侵略してきた際、我々は同意していませんでしたから、新たな国境協定は存在しないはずです」玄武は静かに述べた。

「でも、そう簡単にはいかないわよね」さくらは眉を寄せた。

皆無は冷ややかに言った。「それは当然だろう。容易なら、天皇がわざわざ玄武を交渉に行かせるか?功績をただで与えるようなものだ」

さくらは一言で一気に言い返されて黙り込んだ。どうせ彼女には新しい見識もなかった。

「現状では戦うこともできず、退くこともできず、しかも理不尽な状況です。こんな窮地にありながら対応せざるを得ない......ど
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