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第1114話

Author: かんもく
彼女はまるで全身の力を抜かれたように、その場に立っていられなくなった。

午後、わざわざ真に「奏があなたを探している」と伝えておいたのに。彼が奏に会いたくないのなら、なぜもっと姿を隠していなかったのか。

とわこは奏の顔をじっと見つめ、新しい傷がないかを確かめた。

「その顔は何?」奏は彼女を支えてベッドに腰掛けさせると、事情を説明した。「昼に真から届いた絵葉書を郵便局に持って行って、消印の日付からその日の監視映像を調べてもらった。さっき連絡があって、投函した人物が映っていたから行ってみたら、真だった」

その説明を聞き、とわこはようやく腑に落ちた。

「じゃあ、あなたが見た真って、監視カメラの映像でってこと?」

「ああ。まさか、俺が実際に真に会ったと思ったのか?本当に会ってたら、一人で戻るわけないだろ」奏はそう言って彼女の額を軽くこつんと叩く。「何ぼんやりしてるんだ」

とわこは小さく笑った。「きっと真に会いたい気持ちが強すぎて、つい本物に会ったのかと思っちゃったの」

「もし会ってたら、一緒に連れてきてたさ。一人で話してたら、我慢できずに殴ってたかもしれないからな」

「奏、もう彼を責めないで。彼がいなかったら、蒼はもうとっくに亡くなってたはず。結菜のことは、彼だって予想できなかった。彼がわざと結菜の命と引き換えに蒼を救ったわけじゃないの」とわこは両手で彼の大きな手を握り、必死に訴える。

彼はとわこの真剣な瞳を見つめ、喉仏を上下させた。「だからこそ、君に会わせようと思ったんだ。理性では、全部の責任を彼に押しつけるべきじゃないって分かってる」

「じゃあ、昼に郵便局へ行ったのは、彼の存在を確かめるため?」

「ああ。絵葉書には署名がなかった。君は彼からだと思ってるが、もし違ったらどうする?自分の目で確認しないと安心できない」

「奏、彼はまだこの辺にいると思う?」

「投函したのは何日も前だ。今もここにいる可能性は低い」

「ちょっとお腹空いたわ。先にお風呂に入ってきて。終わったら夕食にしよう」とわこは手を差し出す。「レラに電話したいから、スマホ貸して」

奏は微妙な表情を見せながら、ポケットからスマホを出して渡した。

「早く行ってきて。着替えも出しておいたわ」

彼は何か言いかけたが、結局黙ってバスルームへ入った。

とわこはスマホを開き、三浦にビデオ通話
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    「いいよ。じゃあ明日は外で食べようか」「うん。先にシャワー浴びてくるね。午後は汗かいたし」とわこはそう言ってスーツケースを開け、パジャマを探す。「夜は出かける?」「夕食のあと、夜景を見に行こう。疲れてたら、ちょっと散歩してすぐ帰ろう」「分かった」とわこがバスルームへ入った後、彼女のスマホが鳴った。画面にはレラからのビデオ通話。奏が応答すると、可愛らしくて美しい娘の顔が映り、目元が柔らかくほころぶ。「パパ、ママは?」「ママはお風呂に入ってる」「そっちは楽しい?」「まあ小さい場所だけど、海はすごくきれいだよ。パパはいろんな海を見てきたけど、ここの海が一番きれいだ」奏はベランダへ出て、外の景色を映す。「ほら、海が見えるだろ?」「パパ、よく見えないよ!海辺まで行って見せて!」「分かった。今から行くよ」奏はスマホを持って部屋を出る前に、執事へ一言伝える。とわこが風呂から出て自分がいないと心配するかもしれないからだ。外へ出て海辺へ向かう。日が傾いて涼しくなり、通りには人が増えていた。奏はしばらく迷った末、娘に真剣な口調で話し始める。「レラ、パパは君に涼太とは距離を置いてほしい。あいつが優しくしてくれるのも、君が彼を好きなのも分かる。でも、もし彼に何か企みがあったら......君が危険な目に遭うかもしれない」レラは言われたことが少し難しくて、首を傾げたあと振り返る。「涼太おじさん、パパの言ってること聞こえた?パパと話してあげて」そう言ってレラはスマホを涼太に渡してしまった。画面には、端正な顔立ちに怒りを帯びた涼太が現れる。気まずい。言葉もない。頭皮がぞわっとする。その息が詰まるような沈黙を断ち切るため、奏は通話を切った。滑稽な話だ。涼太は自分の家がないのか、とわこの家に居座って、これは一体どういうことだ。踵を返そうとしたその時、ポケットのスマホが鳴る。「奏さん、昼にお尋ねいただいた件ですが、結果が出ました。今、お越しいただけますか?」「分かった。すぐ行く」通話を切ると、奏は大股で郵便局へ向かった。昼間、眠れずに真から届いた絵葉書を持ち、消印の日付からその日の監視カメラを確認できないか相談していたのだ。差出人を突き止められるかもしれない。まさか、こんなに早く結果が出るとは

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