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第3話

Author: かんもく
今のとわこはまるで背中に棘が刺さったかのようで、居ても立ってもいられない気分だった。

「とわこさんはまだ大学生だよね?こんな大事な時期に妊娠したら、学業に支障が出るでしょう…」と悟の妻が心配しているように言った。

悟も重ねて行った。「そうだ、とわこさんはまだ若いし、学業を捨てて、うちで子供を育てるなんて、彼女はきっと嫌だろう!」

大奥さまは長男夫婦の企みを予想していた。だからこそ彼女が意地を張っても奏の血筋を残すことにこだわっていた。

「とわ、奏くんの子を産んでくれるか?」大奥様は率直に尋ねた。「産めば奏くんの遺産を継ぐことになる。あの資産があれば贅沢に暮らせるわ」

とわこは躊躇なく、「喜んで」と答えた。

弥が奏の家業を奪うのを阻止できるなら、手段は択ばない覚悟だった。

それに、拒んだところで、常盤家のやり方を考えれば、無理やりにでも彼女に子供を産ませるだろう。

彼女から返事を聞けた大奥さまは、満足げな笑みを顔に浮かべた。「いい子だわ。さすが私が見込んだ人だ。そとの愚かの女どもとは違うんだとわかっていたよ。あの連中は奏くんが死ぬから何も手に入れないと踏んでいるのよ…愚か者め!」

お茶のもてましを終えて、屋敷から出たとわこは、奏の別荘に戻ろうとするところ、

途中で弥に呼び止められた。

汗ばむ炎天下で、蝉の声がひっきりなしに響いていた。

弥の顔を目にして、とわこは虫唾が走るのを感じた。

「三浦さん、お土産を先に持って帰って」と彼女は三浦婆やに指示した。

頷いた三浦婆やは、お土産を持ち帰った。

周りは誰もいないことを確認して、安心した弥はとわこに向けて話しかけた。「とわちゃん、俺は傷ついたよ!もう長く付き合っていたのに、とわちゃんは一度も触れさせなかったくせに…それなのにどうして、今は喜んで叔父さんの子を産むの」

「彼の子を産めば、遺産が手に入る。これ以上都合のいい話はないでしょう?」彼女はわざと軽い口で返事して、弥の心を抉った。

思った通り、あいつはかなりな刺激を受けたようだった。

「とわちゃん、これは確かにいい考えだ!でも、いっそうのこと俺との子供を作って、叔父さんの子供だと言えばいいんじゃないか?どうせ常盤家の子供だし、お祖母様が怒っても、中絶はきっとさせないだろう」

とわこの顔にあった笑顔が瞬時に消えた。

「常盤弥、野心を持つのはいいことだけど、野心ばかりを膨らませて、頭脳を置き去りにするのは危険よ」まるで相手に忠告をしているように、とわこは続けた。「奏さんの周りの人、皆大物だと聞いたわ。奏さんがまだ息をしている限り、彼の部下たちはきっと彼が意識を取り戻すのを望んでいるはずだ。もし私が別の男の子を孕んだと彼らにバレたら、あなたなんて簡単に葬られる」

とわこの言葉は、まさに冷たい水のようにさしてきて、弥の胸に潜んでいた野心の火花をすべて打ち消した。

奏の手下は冷血で残酷なことを、弥は誰よりもはっきりと知っていた。

叔父が事故に遭ってから、あのものどもはかなり控えめになったが、

存在そのものが消えたわけじゃない。

「冗談だよ!俺の子でも、叔父さんの子でも、皆常盤家の子だ。叔父さんが死んだら、俺が父親代りに…」弥は無理矢理弁解しようとした。

とわこは内心でため息をつき、口を開いた。「その子は、あなたのいとこになるのよ」

まるで蠅でも飲んでしまったようで、弥の顔色は一段と悪くなった。

「とわちゃん、今こんなことで揉めでも仕方がないから、叔父さんが死んでから話そう」

とわこは思わず問い返した。「死ななかったらどうするの?その間、誰とも関係を持たずに私を待っていられるのか?」

とわこの質問に、弥は黙り込んだ。

答えようのない弥を見て、とわこは皮肉を込めて言った。「お祖母様が呼んでくれたお医者さまたちが奏さんの屋敷で待っているので、先に失礼する」

奏の屋敷に戻って間もなく、とわこは医者二人と共に、身体検査を受けるために病院へ行った。

卵細胞が成熟していれば、体内から卵細胞を取り出す予定で、まだ成熟していない場合は、排卵を促す注射を受けることになる。

「奥様、リラックスして。採卵が成功すれば地位は安泰です」と、女医がとわこを励ますように言った。

ベッドで横になっていたとこわは、心臓がドキドキしていた。「成功するまで、どれくらいかかりますか?」

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