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第788話

Author: かんもく
彼が突然来るなんて、どういうこと?

彼にはすでに箱を返したはずなのに!

レラは彼が自分に文句を言いに来たのではないかと恐れ、リビングから逃げ出すと同時に叫んだ。

「マイクおじさん!」

レラの悲鳴に、電話の向こうのとわこは驚いた。

レラがスマホを床に落としたので、カメラは天井を映した。

とわこは音声だけを頼りに、何が起こったのかを推測するしかなかった。

しかし、映像が見えない以上、詳細は分からない。

ただ確かなのは、何か危険なことが起こったはずだということ。

「レラ!」とわこはスマホを握りしめ、部屋を飛び出した。

今はアメリカにいるが、もし娘に危険が迫っているのなら、すぐにでも飛んで帰るつもりだった。

奏はレラが怯えて逃げていくのを見て、鋭く眉を寄せた。

レラとは何度も顔を合わせているが、これまで礼儀正しくはなかったとしても、ここまで怯えたことはなかったはずだ。

彼は手を上げ、頬を触った。

別に顔に何か付いているわけではない。では、レラはいったい何を怖がっているんだ?

リビングへ足を踏み入れると、床に落ちたスマホが目に入った。奏はすぐにそれを拾い上げた。

「レラ!」とわこの必死な声がスマホから響いた。先ほどのレラの叫び声に、とわこ自身も怯えていた。

奏は画面に向かって説明した。「俺が驚かせてしまったようだ。今はマイクと一緒にいる」

とわこは彼の声を聞き、見慣れた顔を確認すると、胸の奥に渦巻いていた不安と緊張が少し和らいだ。

しかし、疑問が残る。

「どうしてあんなに怖がらせたの?」とわこは眉をひそめ、問い詰めた。

奏は困惑した表情を浮かべた。彼もその答えを知りたいくらいだった。

「こんな時間に、うちに何の用?」とわこは彼が答えないのを見て、さらに追及した。

「そんなに遅い時間でもない」奏は彼女の攻撃的な視線を受けながら、喉の奥に引っかかった言葉を飲み込んだ。彼女が蒼を連れて出て行った理由を思い出し、言葉を詰まらせる。「ちょうど近くを通ったから、ついでに寄ったんだ」

「あなたの会社も家も、うちの近くじゃないでしょ?」とわこは彼の嘘を見抜いた。「さっき、レラに何をしたの?」

少し離れたところで、マイクがレラを抱え、リビングへと入ってきた。

彼も先ほどレラに同じ質問をしたが、レラはただ首を振るだけで、何も答えなかった。

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    こうすれば、自分の想いが蓮に伝わるはずだ。蓮は黙って延べ棒を受け取り、それをじっと見つめた。「あけましておめでとう」「フン」蓮は冷笑を浮かべながら、延べ棒を箱に押し戻した。「裏にも何か刻まれてるぞ!」マイクが延べ棒を取り出し、彼の手に乗せた。仕方なく蓮は再び延べ棒を見た。「ごめん」延べ棒を通して謝罪だって?バカバカしい!口がついてるのに、なぜ直接謝らない?「蓮、この延べ棒、けっこう重いぞ。結構な価値があるんじゃねえか?せっかくだし、もらっとけよ!」マイクは延べ棒ごと箱を彼の手に押し込んだ。「奏が金を贈ったのは、お前が金みたいな存在だからだよ。キラキラ輝いて、清く正しく」「それって金を指す言葉じゃない」「おっと、そうだったな!じゃあつまり、未来を照らす光のような存在ってことだよ!」「僕の未来は、あいつを超えることだ」蓮はつまらなそうに延べ棒を放り投げた。「謝罪なんか、いらない」数分後、マイクは延べ棒の入った箱を抱えて部屋を出た。蓮はどうしても受け取ろうとしなかったが、奏が傷つくのを見たくないマイクは、代わりに預かることにした。常盤家。奏は風呂から上がり、バスローブ姿のまま寝室へ向かった。ベッドサイドの引き出しを開け、中から薬を取り出した。結菜が亡くなって以来、彼は毎日、決まった時間に薬を飲むようになった。飲まなければ、心の奥からネガティブな感情が溢れ出してしまうから。薬を飲み終えると、スマホを手に取った。蓮の性格からして、絶対にプレゼントを受け取らないはず。そう思っていたのに、マイクからのメッセージにはこう書かれていた。「蓮はお前のプレゼントを気に入らなかったけど、一応受け取ったぞ。次からプレゼント選ぶときは、俺に相談してくれ。いいな?」奏はそのメッセージを見て、口元を緩めた。蓮がプレゼントを受け取った?俺はいい父親じゃない。それでも、蓮は自分に償う機会を与えてくれた。ふと、奏の目が潤んだ。昨夜もそうだった。レラが「パパ」と呼んでくれた夜、彼は帰宅後、こっそり涙を流していた。結菜が亡くなったとき、人生の意味を見失った。だが今、レラと蓮の存在が、自分に生きる意味を与えてくれている。その頃、病院の特別病室。和彦はベッドに横たわり、目の前のノートパソコ

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  • 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた   第862話

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    日本。今日は奏と直美の結婚式の日だった。ホテルの入り口では、和彦と直美の母親がゲストを迎えていた。すべては和彦の計画通り、滞りなく進んでいる。和彦が奏に直美と結婚させたのは、ひとつには奏を辱めるため、もうひとつは、三木家と常盤グループが縁戚関係になったことを世間に知らしめるためだった。三木家に常盤グループの後ろ盾があれば、これからは誰も軽んじられない。和彦さえ、自分の手札をしっかり握っていれば、何事も起こらないはずだった。瞳は宴会場に入るとすぐ、人混みの中から裕之を見つけた。裕之は一郎たちと一緒にいて、何かを楽しそうに話していた。表情は穏やかで、リラックスしている様子だった。瞳はシャンパンの入ったグラスを手に取り、目立つ位置に腰を下ろした。すぐに一郎が彼女に気づき、裕之に耳打ちした。裕之も彼女がひとりで座っているのを見ると、すぐに歩み寄ってきた。その姿を見て、瞳はなんとも言えない気まずさを感じた。話したい気持ちはあるけれど、いざ顔を合わせると何を言えばいいのか分からない。「彼氏できたって聞いたけど?なんで一緒に来なかったの?」裕之は彼女の横に立ち、笑いながら言った。その言葉に、瞳は思わず言い返した。「そっちこそ婚約したって聞いたけど?婚約者はどこに?」「会いたいなら呼んでくるよ。ちゃんと挨拶させるから」そう言って、裕之は着飾った女性たちのグループの方へと歩いていった。瞳「......」本当に婚約者を連れてきてたなんて!ふん、そんなことなら、こっちも誰か連れてくるんだった。1分もしないうちに、裕之は知的で上品な雰囲気の女性と腕を組んで戻ってきた。「瞳さん、こんにちは。私は......」その婚約者が自己紹介を始めた瞬間、瞳はグラスを「ガンッ」と音を立ててテーブルの上に置き、バッグを掴んでその場を去った。裕之はその反応に驚いた。まさか、瞳がこんなにも子供っぽい態度を取るなんて。みんなが見ている前で、礼儀も何もあったもんじゃない。完全に予想外だった。「裕之、ちょっとやりすぎじゃない?」一郎が肩をポンと叩きながら近づいてきた。「瞳、あんな仕打ち受けたことないよ。離婚したとはいえ、そこまでしなくてもいいじゃん」裕之の中の怒りはまだ収まらない。「彼女が本当に僕の結婚式に来る勇気があるの

  • 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた   第860話

    マイクは彼女をそっと抱き寄せ、低い声で慰めた。「男と女じゃ、考え方が違うんだよ。彼はたぶん、とわこと子どもたちへの影響を恐れたんだ。でも、君たちの受け止める力を、彼は間違って判断したんだと思う」「彼がどう考えてるかなんて、もう知りたくない。だって彼、私に自分の気持ちを一度だって話してくれたことないんだよ」とわこは嗚咽混じりに言った。「もし私が、いつも他人やニュースから彼のことを知るしかないなら、そんなの、バカみたいじゃない!同情なんてできるわけない! たとえ今すぐ死にそうでも、私は絶対に同情なんかしない!」「とわこ、もう泣くなよ」マイクは言いたいことが山ほどあったのに、結局なにも言えなかった。恋愛って、簡単な言葉で片付けられるようなもんじゃない。今、奏は脅されていて、顔に大きな傷がある直美と結婚させられようとしている。あれほど華やかな人生を送ってきた彼にとって、こんな屈辱は初めてのはず。でもとわこは何も悪くない。涙を流しながら、やがて彼女はそのまま眠りについた。夢を見ることもなく、静かな夜だった。朝起きると、少し目が腫れていたが、気分は悪くなかった。今日は白鳥家と約束していた手術の日だ。午前十時、とわこは車で病院へ向かった。「先生、大丈夫?」病院で迎えたのは、黒介の父だった。彼は鋭い眼差しでとわこを見つめた。「君と奏の件、今回の手術に影響はないか?」その言葉に、とわこは思わず眉をひそめた。自分と奏の関係は、そこまで世間に公になっていたわけじゃない。なのに、この人は妙に詳しそうだ。「白鳥さん、もし私の体調に問題があって手術ができないなら、事前にちゃんとお知らせしてます。でも今ここにいるってことは、大丈夫って意味です」とわこは彼の顔をじっと見つめながら、はっきりと答えた。それにしても、この顔、近くで見るたび、どこかで見たような気がする。「疑っているわけではない。ただ奏が君にした仕打ちが、どうしても納得できなくてね」黒介の父は穏やかに微笑んだ。「これは私と彼の問題です」とわこは少し驚いたように問い返した。「あなた、奏と親しいんですか?」黒介の父は笑って首を振った。「まさか。あんな大物、俺なんかと知り合いなわけがない。一年で稼ぐ額だって、彼の一日分にも及ばないんじゃないか」その言い方、冗談めいている

  • 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた   第859話

    「とわこは、どういう反応だったんだ?」一郎はそう尋ねながら、少しだけ躊躇した。答えは、奏の顔からわかる。奏はタバコケースを開け、一本取り出して火をつけた。「奏、タバコ控えろよ」一郎は彼が新しいライターを使っているのを見て、この数日でかなり吸っているのだろうと察した。「子どもに恥をかかせたくないんだ」その言葉を吐いたとき、奏の血のように赤くなった瞳には、強い憎しみの光が宿っていた。「和彦、絶対にただでは済まさない」「子どもに恥をかかせたくない」その一言で、一郎は彼の気持ちをすぐに理解した。レラと蓮はもう小学生だ。三歳の幼子ではない。今の子どもたちは、世間で話題になっていることを、クラスメイトや先生から簡単に耳にする。もしこの件が大きく取り沙汰されたらクラスメイトは彼女たちを変な目で見るかもしれない。「お父さん、頭おかしいんでしょ?」ってそんな風に言われたら、どうする?アメリカ。今日、涼太はとわこと二人の子どもを連れてスキーに出かけた。とわこは最初あまり乗り気ではなかったが、子どもたちが行きたがったので、仕方なく一緒に出かけた。滑るのが苦手なとわこのために、涼太がずっと付き添ってくれた。新しいことに挑戦すると、一時的に気が紛れる。一日外で遊んで帰ってきたときには、身体はクタクタで、余計なことを考える余裕もなかった。「涼太、今日は本当にお疲れ!」マイクが声をかけた。「でもさ、お前、今日の写真をTwitterにあげたろ?あれって、絶対わざとでしょ。誰かさんに見せつけるためにさ?」涼太は微笑んだ。「ただファンに日常をシェアしただけだよ」マイクは、涼太がたまらなく好きだった。裏で何を画策していても、表ではまるで正義の味方のような顔をしていられるのだ。夕食後、とわこは部屋に戻ってシャワーを浴びた。シャワーから出てくると、なんとマイクが彼女の部屋にいた。「あんたは男よ」とわこはさっと上着を羽織りながら言った。「最近、どんどん無遠慮になってきてるわよ」「お前だって俺の部屋にノックなしで入ってくるじゃん」マイクは机の椅子に座ったまま、ストレートに切り出した。「とわこ、日本で起きたこともう知ってるんだろ?瞳から聞いたよな?」「わざわざ部屋で待ち構えてまで、その話をしたいわけ?」とわこはベッドの端に

  • 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた   第858話

    とわこは数秒考えた後、冷たく返した。「関係ないわ」とわこのその口調から、彼女の奏との決別に対する強い思いがひしひしと伝わってきた。そうだ。今さら奏に何が起ころうと、とわこが同情する理由なんてどこにもない。一夜明けて、ネット上の奏に関する噂は完全に消されていた。表立っては語れないものの、社内では今もこの話題で持ちきりだった。「うちの社長って、やっぱどこか変だと思うんだよね」常盤グループのある社員が口を開いた。「むしろ地球人じゃない気がする。宇宙から来たとか。あんな若さであれだけ優秀って、どう考えてもおかしいでしょ」周りは爆笑していた。「でもさ、仮にうちの社長がメンタルやばいとしても、ナイフ振り回すようなタイプじゃないと思うよ?私もう何年もここで働いてるけど、彼についての悪い噂なんて聞いたことないし。しかも毎年昇給率は業界トップクラス!あんな完璧な社長、文句のつけどころないでしょ!」「ほんとそれ!和彦が社長を陥れようとしてるんだと思ってる。アカウント乗っ取られたとか、さすがに言い訳が苦しすぎ!」一郎は給湯室のそばを通りかかり、社員たちの噂話を耳にして、足早に奏のオフィスへと向かった。ノックもせずに、ドアを勢いよく開けた。奏は椅子の上に静かに座っており、デスクのパソコンはついたままだったが、視線は別の場所に向いていた。「どうして家で休まない?」一郎は彼の向かいに座りながら、じっと顔を見つめた。「今は就業時間だ」奏は無表情でそう返した。「ネットの噂、本当なんだろ?」一郎は、出来事が起きてから情報が封鎖されるまでの流れを思い返し、嫌な予感を抱えていた。「和彦はそれで君を脅したんだな?」奏は淡々とうなずいた。一郎の表情が険しくなった。「奏、俺たちどれだけ長く付き合いがあると思ってるんだ?こんなこと、一度も聞いたことなかったぞ。ふざけるなよ。本当にそんな病気があるなら、僕が気づかないはずがない!」「昔、お前はまったく同じことを言った」奏が静かに言った。一郎は一瞬固まり、すぐに何を指しているのか察した。結菜のことだった。結菜の存在が公になったとき、それまで誰も彼女の存在を知らなかった。「その病気ってもう昔の話だよな?今はもう大丈夫なんだろ?」一郎はまだ信じきれずに問い続ける。「毎年の健康診断だって、

  • 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた   第857話

    「社長、さっきマイクに連絡を取りました。和彦のアカウントをハッキングしたのは彼じゃないそうです」子遠は眼鏡を押し上げながら、続けた。「マイクによると、やったのは蓮だそうです」奏は電話の受話器を握ったまま、しばらく無言だった。そして、そのまま静かに通話を切った。蓮がやったのか。ならば、驚くことではない。箱を持ち去ったのはレラだった。だが、蓮はずっとそのことを知っていた。つまり、すでに箱の中身を確認していたということだ。ふと、記憶が蘇る。あの日、自分が蓮の首を締めかけた時、彼は、こう言った。「お前は病気だ」当時は、その言葉を深く考えなかった。だが、今思い返せば、自分の愚かさが身にしみる。蓮は、最初から全てを知っていたのだ。たとえ、あの時手を下さなかったとしても、彼が自分を父親として認めることはなかっただろう。なぜなら、蓮は、自分を軽蔑している。だからこそ、和彦のアカウントを盗み、躊躇なく秘密を暴露したのだ。まるで、取るに足らないことのように。「社長、蓮がしたのはただのいたずらですよ」子遠は、蓮がなぜそんなことをしたのかまでは知らない。「違う。いたずらじゃない」奏は断言した。「たとえわざとだとしても、そんなに気にすることじゃありません。彼はまだ子供ですし、それに、これは母親のためにやったことなんじゃないですか?」子遠は、蓮の立場から考えようとした。奏はノートパソコンを閉じ、デスクを離れた。子遠の横を通り過ぎる際、低く言った。「もう上がれ」これは、蓮の宣戦布告だったのだ。「秘密を、すべて知っている」「昔から、眼中にないし、今もそうだ」「恐れているものなんて、簡単に暴露できるし、たとえ報復されたとしても、何も怖くない」蓮の行動の真意は、そんなところだろう。奏は、怒るどころか、むしろ、納得していた。子遠の言う通りだ。蓮は、とわこのために動いた。そして、とわこの悔しげな顔を思い出して、自分で自分を殴りたくなるほど、腹が立った。奏が去った後、子遠は困惑した表情を浮かべていた。奏はあまりにも、冷静すぎる。蓮に精神障害だって言われても怒らないどころか、ネットでここまで騒がれているのに、どうしてあんなに落ち着いていられるんだ?アメリカ。朝食の時間、マイクは、何度も蓮をちらりと見た。

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