標本にされた妻

私は霊となり、実験室の上空を漂いながら、自分の裸の死体が健二の前に横たわっているのを見下ろしていた。

私の顔は叩き潰され、誰かもわからない状態になっている。

両腕も粉々になって、肉片と化していた。

健二はその場で深くため息をつき、隣で無邪気な顔をしている明菜に視線を向けた。

「どうしてここまでやったんだ？」

健二がそう問いかけると、明菜はほっとしたように息を吐いた。

どうやら、彼はこの死体が私だとは気づいていないようだ。

「健ちゃん、助けてくれるわよね？」

明菜の声は、思わず哀れみを誘うような響きだった。

健二は決意を固めるように深く息を吸い込み、強く言い切った。

「もちろんだ、明菜。僕のすべてをかけて、君を守るよ」

その言葉と共に、健二は手袋をはめ、死体の傷口をきれいに処理し始めた。

そして、丁寧に毛や脂肪一つ一つ剥がし、最後にメスを取り出して、私の腹部を切り開き、内臓を取り除いていった。

メスが腹部に切り込んだ瞬間、健二の手が一瞬震えた。

「この人……妊娠していたのか？」

彼は驚いたように唾を吞み込み、額に滲んだ汗を拭いなから、信じられないような声で明菜に尋ねた。

「そ、そうなの……？」

明菜も目を大きく開き、私の死体を見つめながら、震えた声で答えた。

彼女は自分の動揺を隠すように、わざと声を張り上げた。

健二が子宮を切り開くと、そこには未発達の胎児がいた。

その瞬間、圧倒的な罪悪感が彼を襲い、まるで誰かに喉を締め上げられたかのように、息ができなくなっていった。

「この人が妊娠してるなんて知らなかった。本当に何も知らないの、健ちゃん！私を信じて！私はただ運転してただけで、突然彼女が狂ったように飛び込んできたの」

健二の手が止まったのを見て、明菜は慌てて言い訳を始めた。

明菜は急いで健二の腕を掴み、必死に懇願した。

「健二お願い、助けて。私、刑務所になんて行きたくない。死にたくないの」

健二は、哀れな表情で懇願する彼女の瞳を見つめ、心が一瞬揺らいだ。そして、決意を固め、子宮から胎児を引き剝がし、強酸の溶液に放り込んだ。

「やめて！」

健二がこんな残忍で、私の子供を消そうとするのを見て、私は必死で彼に飛びかかった。

だが、私の魂は彼の身体をすり抜け、ただ虚しく過ぎていった。

私の子供が強酸の中で徐々に形を失い、無惨に溶けていたことを見るしかなかった。

私の魂は叫び続け、形は苦痛と怒りで歪んでいた。

しかし、次第に奇妙な悪意に満ちた快感がじわじわと湧き上がってきた。

力田健二、もしあなたが自分の手で消したのが、ずっと欲しかった、あなたの子供だと知ったら……

あなたはどうなるかな？