「大好きなアナタが傍にいないなんて、俺はもう……実際考えられないし。なにも手につかな――」
次の瞬間、懐かしい香りが躰を包み込む。俺の手を振り解き、掻きむしるように二の腕で強く抱きしめてきて。 「稜っ、稜、ゴメン……ゴメン」 涙声で、何度も謝る克巳さん。 「それ、なんに対しての謝罪なのさ? 克巳さんってば謝り倒してまで、俺と別れたいの?」 「や、なんていうか……」 「大概にしてよ。こんなに俺を好きにさせておいて別れたいっていうのは、克巳さんの意地悪にしか感じないんだからね」 「――す、き?」 克巳さんは抱きしめていた腕の力を抜き、呆然とした顔で俺を見下す。 最初に告げた『大好きなアナタ』という言葉をスルーして、あとから告げた好きという二文字に、どうして克巳さんは反応したんだろ? 彼にしたら、俺がリコちゃん以外を好きになれないと思っていたからこそ、信じられない言葉だったのかもしれないな。 「克巳さん、よく聞いて。そうだよ、俺は克巳さんが好きだ。誰よりも愛してる」 涙を拭いて、目の前にある顔をしっかり見つめながら誠心誠意を込めて告白したのに、克巳さんは力なく首を横に振る。俺の言葉を否定しているクセに、どうしてだか顔が真っ赤だった。 「稜、君はきっと勘違いしているんだ。仕事で疲れてしまって、正常な判断ができなくなっているに違いない」 「ああ、確かに疲れているよ。だけどね、神経は正常だから! 何度でも言ってやる。俺は克巳さんが好きっ、アナタだけを毒占したいって思ってる」 言いながらシャープな頬に触れて、そして――。 「この頬も、ふっくらしてる唇も……」 反対の手を使って、克巳さんの胸の中心を撫でてみた。着ているシャツの布地から伝わる、温かいぬくもりに安堵する。ずっと触れたいって思っていたから、否応なしに胸が高鳴ってしまう。 「俺の存在を感じてドキドキしてる、この心臓も」 胸元からゆっくりと人差し指を下し、お腹の中央からもっと下へ――。 「克巳さんの大きなココも、全部俺のモノにしたい。誰にも触れられないように」 「ちょっ、ま、待ってくれ」 克巳さんが腰を引く前に、大事なモノをぎゅっと握りしめてやった。もちろん、容赦なんてしないさ。 「りっ、稜! ダメだって。ここ、人目のある往来なんだから」 「別にいいよ、そんなの。週刊誌に載せたきゃ、載せればいいんだ。恋人同士のイチャイチャをわざわざ撮影してくれてどうもありがとうって、大声で言ってやる!!」 しれっとして言い放つと、心底困ったように太い眉をへの字にした。こういう表情も、結構かわいいんだよな。 反対の手を使って顎を掴み、強引に引き寄せて唇を重ねる。こんなことをしたって、俺の気持ちは伝わらないかもしれない。 「んっ、はぁ……っ」 克巳さんの気持ちもわからないまま、こんな場所で求めても意味はないのかもしれない。それでも、求めずにはいられないんだ。 「ぁ、んっ……ぉ願いぃ、もっと……」 逃げかける彼の唇を迷うことなく追いかけて、さらに深く口づけてやった。握りしめている下半身が形を変え、大きくなっているのを感じただけで、躰の奥の方がじんじんと熱を持つ。 「稜ぉ、くっ、ダメだ。これ以上は」 両方の手を克巳さんの手で捕まれてしまい、呆気なく外されてしまった。 「嫌だ、まだ足りない! 俺の気持ちをわかってくれるまでしていたいんだってば!」 これ以外で自分の気持ちを知らせる方法があるなら、誰か教えてほしい――どうしたら一番好きな人に、この渦巻く気持ちを伝えることができるんだろう? 「稜……そんなことをしてまで無理しなくてもいい」 「無理なんてしてないよ、本当だから。俺は、克巳さんを愛しているのに……」 「それが無理をしていると――」 「そんなことはしてないんだって! 胸が苦しいくらいに……神経が焼きついておかしなことになりそうなくらいに、アナタのことで頭がいっぱいなのに、どうしたらこの気が狂いそうな想いをちゃんと伝えられるんだ……」 掠れた声で告げたセリフに、克巳さんの瞳から一筋の涙が零れ落ちた。 「ぅ……稜、俺だって伝えたい。君を見ているだけで、独占欲が雲のように湧いて出てくるんだ。テレビ画面の中の君を、どうしても隠してしまいたくなる」 掴まれている両腕に力が入ったせいで、痛いくらいにびりびりと痺れてきたけれど、それすらも愛おしく感じてしまうよ。 「克巳さんお願いだから、別れるなんて言わないで。アナタのその独占欲で、俺を縛りつけてほしい」 「いいのか? 俺で……」 くちゃっと泣き笑いした克巳さんに、笑顔で応えてあげる。 「俺の毒占欲に対抗できるのは、克巳さんの独占欲だけだよ」 「そう言いながらも、テレビを見ている人のことも独占したいんだろう? だって君は芸能人、葩御稜だから」 「俺がなにをおいても毒占したいのは、この世で一番愛しいアナタだけだ。芸能人の俺じゃなく、ひとりの男として毒占させてください」 どん底にいた俺に優しくしながら甘やかせて、救ってくれた唯一の人。こんな人を捜しても、きっとどこにもいないよ。 「わかった、思う存分に毒占してくれ。その代わり俺も君に思う存分溺れる。俺の独占欲で縛りつけて放さないから、覚悟してほしい」 一重瞼がゆっくりと閉じられて、顔に近付いてくる。 俺たちの気持ちを表すかのような真夏の日差しを浴びながら、誓いの熱いキスを交わした。ここからはじまる、ふたりの毒占欲―― 第一部おわり毒占欲番外編でこれから書く小説【モテ星座】で稜くんの恋人克巳さんが、蠍座であるのをちゃっかり書きます(・∀・)。 蠍座は12星座中、束縛ランキングが第1位! 蠍座の愛は白か黒か、疑わしきは束縛すべし!(うんうん、きちっきちに麻縄で縛りあげるな(´∀`)って、これってば、ただの拘束じゃん!) 研ぎ澄まされた洞察力が、束縛心に火をつける!(そうだね、蝋燭に火を点けてぽたぽたしちゃうかも) 蠍座は「ゼロか100か」「白か黒か」思考が両極端になりがちです。つまり蠍座にとって、愛と憎しみは常に隣り合わせ。 可愛さ余って、憎さ100倍の感情に切り替わることは日常茶飯事。加えて、ほかの追随を許さないほど洞察力に長けているため、恋人のちょっとした変化もすぐに察知します。「もしかして、意識が自分以外に向かっているかも」と気づいた途端に、己の情念に任せたドロドロの束縛感情が、ひょっこりと顔を出すでしょう。 ちなみに恋愛合理主義ランキングは12星座中、最下位です(・∀・) その結果は、上記に現れているから。 蠍座の恋愛は合理主義からかけ離れた、ドロドロ愛憎劇となる傾向が強く、蠍座本人もドロドロでなければ、恋愛している気がしないらしい。 まぁ、こういう洞察力やドロドロの愛憎劇を経験してるからこそ、いろんなモノが書けるんです(ノω`) 面倒くさいヤツでごめんなさいと、謝り倒してばかりの蠍座作者ですが、お付き合い戴けたら嬉しいです。***「バレンタインの日くらい、一緒に過ごしたかったな」 ときとして、自分のやってる仕事がひどく恨めしくなる。それでも克巳さんが『稜が一番よかったよ』なんて褒めてくれるから、文句を言いつつも頑張っちゃうんだよね♪「ただいま~!」 鍵を開けて、家の中に響くように声をかけた。なのに、いつもならすっ飛んでくる克巳さんが、今日に限って出て来ない――。家に明かりがついてるし、テレビの音も聞こえてるから、在宅なのはわかってる。タイミング悪くトイレかも? 何か調子狂う……。離れてた距離を埋めるように、玄関で襲われるのが当たり前になっていたから。 手に持ってるボストンバックが、急に重たく感じた。まるで今の俺の心みたい。「やだな……。いつもと違うだけで、こんなふうに揺らいでしまうなんて。俺らしくもない。明るく振る舞わなきゃ」 リビングへと
痺れるような甘い恋を 君としてみたいから このハートのチョコに 熱い想いを込めて――「不三家のハートチョコ、バレンタインに彼にあげてみてね♪」 絶賛放映中の俺のCM。バレンタインに向けて一月下旬から、テレビのCMでばんばん流れているけれど。「肝心の克巳さんからは、なぁんも反応ないとか、恋人としてすっげぇ寂しいんですけど……」 克巳さんは基本マメな人で、俺が出てる番組をくまなくチェックしている。それがわかっているから、どうだったと感想を訊ねてみるんだ。「そうだね。この間のバラエティは、稜が一段と目立っていたよ」(それ、いつも通りのことなんですけど。もっとこう具体的に、克巳さんならではの感想が聞きたいというのに……)「どうしたんだい、そんな顔をして。稜が一番ステキだと言ってるのに」「……毎度毎度、同じ言葉は聞き飽きた。もっと違う感想が聞きたい!」「そうか。それは困ったな。ほかに思いつく言葉……。テレビの中の君に、視線は釘付けだったよ」『それ、前にも言ってた』なぁんてワガママは言えないか。とにかく褒めてくれてるんだから。 ――そう、彼の視線を俺だけに集めたい―― その一身で仕事をしているけれど、クリスマスやバレンタインなど、恋人にとって大切なイベントは必ずといっていいほど仕事が入って、すべてお流れになってしまう。 現在は関西方面の地方ロケで、克巳さんとは離ればなれの状態だった。 テレビCMがたくさん流れてるおかげで、克巳さんはテレビの中の俺に逢えるけど、俺は彼に逢えずに、指をくわえてるだけとか超絶悲しすぎる! 気がつけば二月十四日、深夜の午前一時過ぎ。寝てるかもしれないけど、サプライズ好きな俺としては、なんとしてでも外せない! 迷わず克巳さんのスマホに、コールしちゃうもんね♪「もしもし」 かけた途端に直ぐ繋がるラインに、ちょっとビビった。克巳さん起きていたんだ――。「あっ、もしも~し! 克巳さんハッピーバレンタイン♪」「まったく……。こんな深夜に電話をかけてくる高いテンションは、さてはお酒を呑んでいるのか?」「呑んでないない。浮気もしてないから」 こんな説明しなくてもいいことくらい、わかってるけどね。とりあえず、疑いはみずから晴らしておく。「浮気してないのはわかってる。あのさ稜……」「なぁに、克巳さん?」「俺と電話
「大好きなアナタが傍にいないなんて、俺はもう……実際考えられないし。なにも手につかな――」 次の瞬間、懐かしい香りが躰を包み込む。俺の手を振り解き、掻きむしるように二の腕で強く抱きしめてきて。「稜っ、稜、ゴメン……ゴメン」 涙声で、何度も謝る克巳さん。「それ、なんに対しての謝罪なのさ? 克巳さんってば謝り倒してまで、俺と別れたいの?」「や、なんていうか……」「大概にしてよ。こんなに俺を好きにさせておいて別れたいっていうのは、克巳さんの意地悪にしか感じないんだからね」「――す、き?」 克巳さんは抱きしめていた腕の力を抜き、呆然とした顔で俺を見下す。 最初に告げた『大好きなアナタ』という言葉をスルーして、あとから告げた好きという二文字に、どうして克巳さんは反応したんだろ? 彼にしたら、俺がリコちゃん以外を好きになれないと思っていたからこそ、信じられない言葉だったのかもしれないな。「克巳さん、よく聞いて。そうだよ、俺は克巳さんが好きだ。誰よりも愛してる」 涙を拭いて、目の前にある顔をしっかり見つめながら誠心誠意を込めて告白したのに、克巳さんは力なく首を横に振る。俺の言葉を否定しているクセに、どうしてだか顔が真っ赤だった。「稜、君はきっと勘違いしているんだ。仕事で疲れてしまって、正常な判断ができなくなっているに違いない」「ああ、確かに疲れているよ。だけどね、神経は正常だから! 何度でも言ってやる。俺は克巳さんが好きっ、アナタだけを毒占したいって思ってる」 言いながらシャープな頬に触れて、そして――。「この頬も、ふっくらしてる唇も……」 反対の手を使って、克巳さんの胸の中心を撫でてみた。着ているシャツの布地から伝わる、温かいぬくもりに安堵する。ずっと触れたいって思っていたから、否応なしに胸が高鳴ってしまう。「俺の存在を感じてドキドキしてる、この心臓も」 胸元からゆっくりと人差し指を下し、お腹の中央からもっと下へ――。「克巳さんの大きなココも、全部俺のモノにしたい。誰にも触れられないように」「ちょっ、ま、待ってくれ」 克巳さんが腰を引く前に、大事なモノをぎゅっと握りしめてやった。もちろん、容赦なんてしないさ。「りっ、稜! ダメだって。ここ、人目のある往来なんだから」「別にいいよ、そんなの。週刊誌に載せたきゃ、載せればいいんだ。恋人
右手でサングラスを外し、着ているストライプのシャツの胸ポケットに押し込む。それから顔を上げようと思っていたのに、克巳さんの顔色を窺うのがどうしても怖くて、俯いたままでいるのが精一杯だった。 言葉をかけることもできずに、重たい空気をひしひしと肌で感じていたら、いきなり左手を掴まれ、克巳さんの大きな両手で握りしめる。「……克巳、さん?」 俺の手を包み込んでいるというのに、温かみが感じられない克巳さんの両手――普段しない行動のせいで、否応なしに心臓が早鐘のように高鳴る。「君の姿をテレビで見て、戻るべき場所に戻ったんだなと肩の荷が下りた。心の底から、やっと安心できたというか……」 安心できたと言ってるくせに、いつもより淡々とした口調のせいで、その感じが全然伝わってこない。まるで、俺の不安感をわざと煽っているようにしか思えないよ。「克巳さんってば、番組の冒頭しか見ていないのに、安心し過ぎじゃないの? やりすぎだっていうせいで、暫く仕事がこない可能性だってあるのにさ」「そんなことはない。稜の持つ華やかな存在感は、誰もが持ち合わせているものじゃないからね。番組を作る側としては、喉から手が出るほど欲しいものだろうし」「克巳さんは俺のこと……欲しくはないのっ?」 取り巻く重たい空気を払拭しようと、叫ぶような声で告げてしまった。いつもの俺なら顔を上げて言えるはずなのに、大きな声を出すのがやっとだった。 相変わらず顔があげられない――視線の先にあるのは、自分が履いてるスニーカーと、克巳さんの皮靴の先っぽだけ。「欲しくはない。君と逢えなくなってから、自分の気持ちが日を追うごとに現実に引き戻された。そうだな……夢から醒めたという感じに近いかもしれない」 抑揚のない口調で告げられたセリフは、最初からそれを言おうと狙っていたのかな。「な、なにそれ?」 わなわなと震えてしまった自分の声。克巳さんの言葉に知らず知らずのうちに、躰が竦んでしまう。(――どんな顔をして、克巳さんは今のセリフを言ったんだろう) 俺を掴んでいる手は痛いくらいに握り締められていて、言葉と裏腹な様子に尚さらワケがわからなくなった。 だって克巳さんの両手、最初は冷たかったのに、今はすごく熱いから。その熱に当てられて、俺の躰が疼いてることなんか全然知らないだろうね。 足元から握られている手へ、
テレビ局の裏口からひょっこり顔を出すと、なぜか外に克巳さんが待っていた。「やっぱり……ここから出てくると思った」 柔らかい笑みを浮かべて、俺を出迎えてくれたんだけど――作り笑いみたいなその笑い方に、妙な引っ掛かりを覚える。「あれぇどうしたの? 克巳さん仕事は?」 自分の抱いた違和感を悟られぬように、いつも通りに振る舞うべく、おどけた声を出しながら、かけていたサングラスを頭にズラして、その顔を見上げた。「昨日重大発表するんだって、メッセージをくれたじゃないか。気になって、仕事を休んでしまったよ」 変わりのない俺を見て安心したのか、作り笑いがなくなり、明るい声で返事をしてから、バシンと背中を強く叩かれた。「痛っ! まったく克巳さんってば、俺に容赦ないんだから」 背中の痛みにちょっとだけ顔を歪ませつつ、意味ありげに上目遣いで見つめた。たちまち頬を染める顔色に満足する。 こういうところで、自分に対する気持ちを確かめちゃうのは、あまり良くないんだろうけどね。でも確かめずにはいられなかった。久しぶりの再会だったから、なおさら――。 結局、森さんとリコちゃんは殺人未遂で逮捕され、俺は刺されたキズのせいで一ヶ月あまりの入院生活を送った。路上で行われた愛憎劇が周囲にいた人たちのスマホでしっかり撮影されていたらしく、ネットで大量にバラまかれてしまった結果、入院中はテレビや週刊誌に、俺の名前が出ない日はなかった。 失恋やらいろんなことで心が痛んだけれど、そんなボロボロの俺を克巳さんが献身的に傍で支えてくれたおかげで、こうやって立ち直ることができた。 今はそんな彼を心から愛しいと想える、自分がここにいる――。「入院中に克巳さんが差し入れしてくれたジュエリーノベルって雑誌、気に入った作家ができたんだよ。その作家が本を出す関係で今度対談するんだけど、一緒に来ない?」 左腕にそっと腕を回して、大好きな彼に寄り添う。触れたところから伝わってくるぬくもりが、すっごく心地いい。「……仕事の休みが、うまく取れたらね」 ほほ笑み合い、ゆっくりとふたりで歩き出した。人通りが多いところに出るので、顔バレを防ぐべくサングラスをかける。「それにしても稜、君は人の心をいちいちかき乱すのが得意なんだな。お得意のパフォーマンスなんだろうけど、あれじゃあ現場の人たちが大変だろう?
稜が『大事なことをテレビで暴露するかもしれないよ♪』というメッセージを送ってきたせいで、どうにも気になった俺は銀行を休み、テレビ局の裏口で待機していた。ここで待機していても、彼に逢えるかどうかわからない――表の玄関から出てしまったら、そのまますれ違いとなってしまうだろう。 マスコミがおもしろおかしく誇張をした報道のせいで、世間の目がまだ稜に対して冷たい視線を向けている最中に退院。その後、芸能界に復帰するために迷惑をかけた関係各所に、謝罪行脚をしていると電話をもらったきり、連絡が途絶えてしまった。メールをしても返事が来ず、自宅に赴こうかと思ったときに、待ちに待ったメッセージが着て。『こんなに、しっぺ返しを食らうとは思わなかった。毎日お偉いさんに頭を下げる日々に、正直疲れ切ってしまったけど、何とか頑張るから』 これを読んで、稜が住んでいるマンションに向かう足が止まってしまった。いつも明るく振舞う彼が弱音を吐いている姿に、今直ぐに駆けつけたくなったけど、俺が行ったところでなにができるだろうかと……。 逢いたい気持ちをぐっと堪えて、メールの返信をすべく文章を考える。彼にこれ以上の負荷がかからないように、当たり障りのないものにしなければならない。『あまり無理せずに頑張るんだよ。応援してる』 たったこれだけを打ち込むのに、えらく時間がかかってしまった。本当はもっと伝えたいことがあったり、聞きたいこともあったせいで、長い文章を打ち込んでしまった。本当に稜については、貪欲な自分。そこから不要なものを一気に削除し、ここまで短いものに直して送信した。 これの返事が来たのが送信した、一週間後の昨日だった。ありがとうの言葉と一緒にテレビ出演のことが書いてあり、復帰の目途が立ったことに安堵したのだが――稜が出演するという番組をスマホに映して、画面を食い入るように眺めた。久しぶりに目にする彼の姿に、胸が痛いくらいに高鳴る。(また少しだけ、痩せたんじゃないだろうか。ほっそりして見えるのは、小さい画面で彼を見ているせい?)「やっと、君に逢えたというのに――」 カメラ目線でこちらを見る視線と俺の視線は、残念ながら絡んでいないんだね。 君が見つめる先にいるのは、目の前の司会者とテレビ画面のむこう側にいる、視聴者なのだから。俺を魅了したその笑みは、たくさんの人を惹きつけるだろう