プロゲーマーを目指すイケメン高校生(16) × ダウナー系美人でギャップがあるeスポーツ部の先輩(17) ゲームの中で出会ったふたりが高校のeスポーツ部で再会し、お互いをライバル視しながらも絆を深めて夏の大会で優勝するまでを描いたお話です。 【あらすじ】 高校の部活で因縁の相手・小神野悠馬(17)と再会した神谷伊織(16)は、その実力から悠馬のチームに入るものの、性格やプレースタイルの違いからぶつかってしまう。ケンカばかりで連携もできず、練習試合でもボロ負け。時間が必要だと感じた伊織は悠馬の部屋に押しかけ「今日から先輩の家にお世話になりますっ!」と宣言するが、実は悠馬は伊織に好意を抱いていて――。
View More最初はゲームの中で出会った、小神野先輩と俺。プロのプレーヤーを目指す俺をあっという間に倒したくせに、名前さえ教えてくれなかった彼を探すこと1年……。俺は高校のeスポーツ部で先輩と再会した。
先輩は俺のライバルだ。仲良くなろうと思っていたわけじゃないけど、初日から『雑魚』呼ばわりされてケンカになり、同じチームを組むことになっては、またケンカ。一緒にゲームをやっているときだけは楽しいかと思いきや、協力するゲームにもかかわらず、お互いを撃ち合ってばかりだった。
まったくタイプの違う先輩と、共通する部分はゲームが好きなことと、負けず嫌いなこと。試合に負けたのをきっかけに2か月限定の共同生活をすることになった俺は、そこで先輩の意外な一面を知ることになる。家事ができなかったり、意外と不器用だったり、嫌がらせでキスすると顔を赤くしたり――。
「お前にだけは負けたくない」と話す先輩に、自分は先輩にとって特別なのかと聞いたら、「……お前は、俺の特別がいいの?」と唇にキスされた。
くすぶる気持ちに火をつけられた俺は、「先輩って、誰かを好きになったことある?」と立ち上がる先輩の手を取り、強引に口づけて――。
大会で優勝を目指す俺たちの関係は、夏に向けて少しずつ変わっていく。
ゼログラの天才・神谷伊織は本当に身勝手な奴だと思う。俺が高校3年のとき。プロチームへの所属が決まり、もう部活では会えなくなるからと勇気を出して合鍵を渡したら、思いっきり突き返された。理由は「俺だってすぐプロの世界に行くし」みたいな、よくわからないもの。その上、「俺の方が賞金を稼いで、先輩を俺の家に住まわせる」なんてプライドの高そうなことを豪語して、ついには俺の前に姿を見せなくなってしまった。1年以上経った頃に札幌で再会はしたけれど、練習が忙しいのか連絡はたまに来るくらい。向こうが卒業式の日。ようやく部屋にやって来て、久しぶりにキスをした。卒業旅行という名目で温泉にも泊まり、「ああ、これからはこんな風にたまに会えたりするのかな……」なんて思っていたら、『俺はもう、しばらく先輩には会いません』。なんて身勝手な奴だろう、と思った。だけど、そんな身勝手な奴が好きで好きで仕方ない……俺が悪いだけの話なのかもしれない。神谷伊織を――こんな身勝手な後輩を、うっかり好きになってしまったから。結局、「先輩には会わない」なんて言っていたくせに、遠征先のロサンゼルスのホテルには出没するし、こっちの話を遮っていきなり宣戦布告とかしてくるし……。そんな奴に心を乱されて、試合のときにトリガーを引くのが一瞬の遅れたこともまた、途方もなく悔しかった。部屋に戻ってちょっとだけ泣いたら、その泣き顔も見られて……最悪だ。その後、ベッドの上で散々いじわるをされて、また泣かされた。(こんなことされても……まだ好きなのか)目が覚めて、まず最初に呆れがくる。朝日が射し込むホテルの部屋。広いベッド、ぐしゃぐしゃになったシーツの上で俺はまるで抱き枕みたいに伊織の腕の中におさまっていた。無理な態勢もあったから身体はあちこち痛いし、痕だらけだし、喘がされたせいで声は枯れてるし……。伊織が目を開けたので、俺は寝返りを打つようにしてふい、と背中を向けた。「……んー……」まだ寝ぼけてるのか、後ろから強く抱きしめられる。心臓がうるさかった。シャワーを浴びようとベッドを抜け出すと、腰が抜けて床にへたり込んでしまう。気づいた伊織が、ベッドを降りてこっちに近づいてきた。「ごめん……色々しすぎた」「……っ! べつにっ」強がってみるものの力は抜けたままで――俺は伊織に横抱きにされて、シャワー
部屋はひと言で表すと荒れていて、服や書類など雑多なものがあたりに散らばっていた。机の上に倒れているジュースの缶はよく見るとアルコール飲料で、もしかしたら部屋に引きこもって飲んでいたのかもしれない、と思う。薄暗い部屋のテレビには携帯ゲーム機が接続されていて、プレー中のゼログラの画面が表示されていた。「練習、してたんですか?」「……ん」先輩は「そこ座って」と室内にあるひとり掛けのソファーを指す。「つき合えよ」「えっと、練習を……ですか?」「そう。お前を倒す練習がしたい」「べつに、いいですけど……」先輩は掠れた声で言うなり、俺に小さなコントローラーを押しつけてきた。そのまま対戦モードでプレーする。キャラクターの選択画面になり、俺は何となくヴァイパーを選んだ。先輩がルークを選び、旧マップで試合がスタートする。レジェンドランクの野良のプレーヤーはそこそこの強さがあり、味方との連携がいまひとつだと拠点を制圧するのも苦労する。港を本拠地にした先輩と、工業団地を本拠地にした俺が、それぞれ北と東の施設を攻め始めた。「今日のは……お前と最初に出会ったときの一戦に、よく似てた」コントローラーを操作していた先輩が、ぼそりと呟くように言う。どうやら、先輩も同じ印象を抱いていたらしかった。あの広い会場でも、全世界の配信でも……そう思っていたのが俺と先輩のふたりだけなんだと思ったら、胸の奥が熱くなる。「俺も……そう思いましたよ」「キャラクターは逆だったけどな」「結果も逆でしたけどね」いつもならこっちを睨んできそうなところなのに、先輩はモニターを見つめながら淡々と手を動かしていた。それぞれのチームが拠点をひとつずつ占領し、お互いに市街地の真ん中でぶつかり合う。激しい銃撃戦になり、仲間がひとり、またひとりと消えていった。最後に残ったのは――先輩と俺で。先輩の使うルークが、罠と壁を使って動ける範囲を狭め、俺のことをじりじりと追い詰めて
俺の読みはほぼ当たっていたらしく……北の施設に向かってしばらくすると、本拠地のフラッグ周辺は戦場になった。「イオリっ! この要塞基地を攻めて来ているのは、現状4人だ!」「小神野悠馬が来てる。ひどい銃撃戦で、そんなには持たないぞ」敵チームの攻撃を、ゼノさんが扱う鉄壁のブルワークを中心に何とかしのいでいるみたいだが……戦況はなかなか厳しそうだ。「俺が他の拠点を奪還するまで、耐えてください!」「了解、急げよっ!!」いつもはマイペースなノヴァさんの、余裕のなさそうな声が返ってきた。俺は機動力の高いヴァイパーで、北の地下施設までの道を急ぐ。火山のある山岳地帯。目立たない入り口から中へ入ると、奥にフラッグが見えてきた。俺たちの基地を攻めているのが4人ということは、あとひとりはこの堅牢な施設を守っているはずだ。周囲に警戒しつつ進んでいくと、銃弾が飛んでくる。ギリギリで避けて、銃撃戦に突入した。(……っ! さすがに強いな)敵の使っているキャラクターは守りに特化した、鉄壁と呼ばれるブルワーク。まともに弾を受ければ耐久力の差で負けることは必至だった。ただ、幸運なことに、この地下施設と操作キャラであるヴァイパーとの相性は――最高だ。俺は固有のアビリティで毒ガスを出すと、シールドが破壊されて弱った相手をライフルでハチの巣にした。「地下施設のフラッグ、取れましたっ!!」「ナイス! 他の空いた基地も、そのまま占領できるか?」「やってみます!! ……耐えられますか?」「カイがやられたけど、こっちもひとりキルしてるし、何とかするっ!!」「さっきからyumaの姿が見えない。もしかしたらそっちに行ってるかも……気をつけろよっ!」「わかりました!」うちの最強防衛チームふたりが、代わる代わ戦況を伝えてくれる。俺は西の港に走ってフラッグを取り、ついでに南の工業団地へと足を運んだ。(誰もいないはず、だけど……)さっきの忠告が胸をかすめ、ライフ
ゼログラは近年アップデートが頻繁に入るようになり、マップの種類も格段に増えた。ただ、今回の一戦は初期からあったいつものマップで、俺たちは運よく東の要塞基地を本拠地として引き当てた。クエーサーが工業団地、フェニックスフォースが港、そして……。(チームアリゲーターは北の地下施設か……。手ごわいな)火山帯のエリアにある地下施設は、本拠地として最も強固な砦だ。本拠地ガチャとしてはいちばんの当たり。司令塔のカイさんがイヤホン越しに俺たちに指示を出す。「ハルとイオリ、ふたりは南の工業団地へ。俺はチームアリゲーターの攻撃を警戒して防衛部隊とここに残る」「了解」「俺が先行します、ハルさん」「頼んだ」というハルさんの声を聞きながら、俺はクエーサーの本拠地へと走る。途中で手に入れたライフルのスコープをのぞくと、工業団地のフラッグが見えた。防衛部隊の数は2人だ。――いける。「俺がオトリになって、裏側から敵の部隊を引きつけます」「わかった。捕まるなよ」「大丈夫です。……俺は今日、ヴァイパーですから」キャラクターの選択については、俺は今でもルークが好きだ。上手く裏をかけたときは特に気分がいいし、相手の先回りをするような攻撃の仕方は俺の性にも合っている。でも、色んなキャラクターを練習していくうちに、先輩がいつも使っていたヴァイパーの良さにも気がついて――。今では2番目によく使うキャラクターになっていた。体力がない代わりに機動力が高く、素早い動きができる。俺は工業団地のフラッグに裏から侵入し、防衛チームをライフルで陽動した。ヘイトが十分に集まったところで、『スナイパー』という長距離射撃のキャラを使ったハルさんが次々とヘッドショットを決めていく。「ナイスです、ハルさん!」「イオリもナイス! ……で、この後どうする? カイ」「……っ! 本拠地が攻撃されてる! 悪いけど、戻れそうか?」「わかった。イオリ、行ける?」「はいっ!」
煌びやかなライトの装飾に彩られた、アリーナでのプレーオフが始まった。オフラインでの開催ということもあって、会場内はゼログラが好きな人たちや、各チームのファンで賑わっている。プレーオフは全世界の地区大会を勝ち抜いた計32チームで争われ、Aグループに振り分けられた俺たちは初日の試合、8チームの中で上位6チームを目指すことになった。(チームアリゲーターとは……離れたな)グループ分けガチャではゼログラで日本最強と言われるチーム、イグニスとも離れたみたいだ。戦ってみたい気持ちもあったから、ちょっと残念な気もする。「まぁ、勝ち抜いていけば、そのうち当たるでしょ」明るく言うゼノさん。俺たちは初日の5試合を総合3位で勝ち抜け、無事に2日目の試合に進めることになった。「あのさ……ちょっと、みんなに話しておきたいことがあるんだけど」試合後、チームのメンバーを集めたのはリーダーのカイさんだ。「どしたの、急に」マイペースを崩さないノヴァさんの問いかけにも、彼は真剣な表情を崩さない。「……もう、契約絡みの話は済んでるから、あとはメンバーだけなんだけどさ……。俺、この大会が終わったらチームを抜けようと思ってるんだ」「はぁ!!?」「ちょっ……なんで、いきなりっ」「これは前から話してたと思うけど……単純に力量の話だよ。俺が隊長で、国内では成績を残せても、たぶん世界では難しいと思うんだ」淡々と話す彼に、ハルさんが珍しく声を荒らげる。「……だとしても、それはさすがに今する話じゃないだろ!? 大会の途中だぞ!? ここまで、みんながどれだけ頑張ってきたか……」「だな。それに、今日だって成績は3位で……決して悪くないんじゃないかと思うけど」ゼノさんがフォロ
楽しかった休みも終わり、ワールドチャンピオンシリーズの本戦が本格的に始まった。この段階ではまだオンラインの試合だけど、プレーオフになれば世界のどこか広い会場での試合になる。(去年は出場できなかったけれど、今年こそは……!)そう思っているのはチームのメンバーも同じらしく、ハルさんもサブリーダーとして仕事に気合いが入っているようだった。「次に対戦する韓国チームの情報、送っておくから各自見といてー」チームのオンラインミーティング中、ハルさんが独自に集めた情報を全員に共有してくれた。「ありがとうございます、ハルさん」「今年は韓国が強いもんな。現時点でうちが12位、チームアリゲーターは5位か……」そう呟いたのは、防衛のチームの要であるxenofireことゼノさん。ハルさんと同い年で、最年少の俺にも丁寧に教えてくれるいい人だ。彼の言葉に皮肉っぽい笑みを浮かべたのは、今年チームに入ったばかりのNovaさん。「見るなら、上を見ようぜ。ゼログラで日本最強のイグニスは2位だよ」「どの道、上位8位までに入らなきゃ、プレーオフには出られないからな……。練習時間、少し増やそうか」最年長のリーダーであり、カシラゲームズ歴の長いKaiことカイさんがそう話す。攻撃チームがハルさん、カイさんと俺の3人で、防衛チームがノヴァさんとゼノさんの2人。この5人がカシラゲームズの今のメンバーだ。プロのチームは色んな理由があって入れ替わりが激しかったりするけれど、去年からはずっとこのメンバーで頑張っている。「練習時間増やすの、賛成です。次の試合も勝ちたいし」俺が言うと、ゼノさんがにやけた顔で笑った。「おっ。最年少がやる気だ~」「からかわないでくださいよ。……本戦プレーオフの舞台なんて、みんな出たいに決まってるんですから」「今年はアメリカのロサンゼルス開催らしいからな」「あっ! 俺、カジノ行きたいか
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