LOGIN西暦2000年に地球外生命体が地球を襲った。宇宙人たちは様々な形態をしているが、狙いは地球人の感情、文化、歴史だった。銃火器は役に立たず、地球人は宇宙人から超常の力を手に入れて、異能で地球外生命体と戦うこととなった。この作品は、チートと呼ばれる主人公の復讐と成長の物語である。
View More西暦2026年。春。
霊園の中を、軍服で歩く二つの影があった。 壮年の男が立ち止まると、まだ少年の面差しのある不知火《しらぬい》カガリも足を止める。 二つあった花束のうち、一つはもう供えてきた。 「ここだね、不知火兵長。君の母上のお墓は……よく手入れされている」 「はっ! 母も喜ぶでしょう。好意で手を入れてくれる方が多いので」 「私が育て、みんなを救ったヒーロー……。今の幹部の多くは不知火名誉中将に救われた面々が多い」 白髪の男――生島《いくしま》慎三郎《しんざぶろう》中佐は、ハンカチを顔にあてる。 過去の思い出が一気に生島の胸に押し寄せてきた。 不知火知世名誉中将は、地球外生命体が押し寄せてきた第一線で活躍していた。 ”撤退する時は味方の死体を担いで逃げろ。絶対に置き去りにするな。テキの手に渡るくらいなら、必ず脳を打て” 今や異界防衛軍の標語である言葉を残した、当人でもある。 そして、その知世《ちせ》中将が瀕死の際に頭を撃ったのも、生島だった。 忘れ形見のカガリを溺愛していたが、この春。 防衛高を主席で卒業して、異界防衛軍に入学したカガリを連れて初めて墓参りにきたのだった。 「……カガリ君は六歳だったか。当時……」 「はい、思い出は少ないですが」 「ほとんど軍に尽くしてくれたからな、知世くんは……」 ――赦してくれるだろうか。 生島の絞り出した声は、カガリには聞かせたくなかった。或いは、聞こえていてほしかった。 「母は、満足していると思います。VFに脳の知識を奪われることを、最も忌避していましたから――もう、苦しまないでください。生島中佐の選択は、母の意思に沿ったものだと自分は信じております」 その言葉に救われてはいけないと分かっていて、生島は涙を必死でハンカチに吸わせる。 軍に入隊した時に覚悟したはずだった。 人の命は儚いことも、同僚と共に死地に赴くことも。 それでも、愛弟子を殺した弾丸は、自分が撃ったのだ。 瀕死で、撤退もままならなかった。生島自身も死のすれすれだった。 パフィオペディルム型の地球外生命体は、まさに知世の頭を呑む瞬間だった。 だとしても、何かやれたのではないか――その思いは十二年、重い枷となって生島を苦しめてきた。 息子のカガリに赦されたとしても、その枷を外して生きることは許されないのだ。 「東京二十三区以外に、久しぶりに出ました。千葉もまだ肌寒いですね」 カガリの手が、生島の背中に触れる。 その手は、温かかった。 葉桜が、静かに風の音を運んでくる。 生島のすすり泣きは、その風の中で静かに流れ出ていった。姫川四葉は、肉の缶詰が入った小箱を持って男女共同ルームをうろうろしていた。 先日、御厨沙良が病気のために長期入院する旨と不知火カガリをオフィリア05部隊の隊長にすることが放送された。 カガリの隊長職は、御厨が戻る間なのかずっとなのかは分からない。 それでもお祝いに、何かしたかった。 「不知火マジで空気読まねえよなぁー、とうとう隊長かよ」 「いやまあ、じゃあSランク二回倒せんの? って言われちゃそりゃ無理だけどさあ。テンポおかしくないか?」 「生島司令に気に入られて、ちょっと贔屓感じる~」 「分かる、五月だよ? 入隊して一年も経たないやつがねぇ……」 「ま、利点があるとしたらテレビにめっちゃ映ることかな。オフィリア05部隊が最近ダントツニュースで流れるもんな」 「いやいやオフィリア05部隊に配属されなくてよかったぁ。あんなスピード出世と比べられたくなーい」 四葉は、意図してカガリへの妬み声を聞かないようにする。 入隊してからずっとこうだ。 むしろ、数は増えている。 以前は阿部と霧山が、二人がかりでそういう雰囲気からカガリをシャットアウトしてきたが、最近はカガリがいようとおかまいなしな気がした。 「けど、本部からお茶の水基地に左遷になって、不知火の部下になってる人可哀そうじゃないか? 准尉で本部勤務ならエリートコースなのに」 「それな……。しかも二十ちょいでしょ、絶対エリート」 「雨宮准尉だっけ、何かミスでもしたのかな」 「俺本部勤務に一度でもなったら、他支部なんか行きたくねーなー」 聞きたくない。 防衛高の時代は、ここまでじゃなかった。 男女共同ルームでカガリを待つのを止めようかと、四葉は思い始めた。 男子寮の中には入れないが、寮母に荷物を頼むことも出来る。 会うことは諦めて、男子寮のほうへ行こうとす
会議室には緊張感がみなぎっていた。 駆け付けた夜坂司令と、嶽村副司令は顔色が白くなった鬼山とカガリに言葉を無くす。 後から榎木少佐が入ってきて、中から部屋に鍵をかけた。 「私のことは気になさらず。録音機の代わりだと思ってください」 そういって、一人で部屋の隅に腰かける。 鬼山がまず、ソラから切り出された事実を説明して、司令を呼んだことを説明した。 当事者のソラだけが、わたがしのようにふわふわと低空を舞っている。 「富士山麓にも地球外生命体……? しかも不知火少尉の側の人間……?? どういうことなの、オペレーションルームが捉えられない地球外生命体がいるということ……?」 椅子は出されていたが、榎木少佐以外全員が部屋をうろうろと歩く。 深呼吸してカガリが座ると、ソラがその膝にちょこんと座った。 「ソラ、富士山麓には異界防衛軍の基地がある。それは知ってるのか?」 『ソラのナカマも、あそこにスコシいル。通信してル』 カガリは頷く。 すると、大声で嶽村が遮った。 「M1,022型異星人は地球と協力する約束だ! なんでこんな大事な話をそちらからしなかったのかね!? 富士山麓にはいつ地球外生命体が入り込んだんだ!!」 「嶽村副司令、ソラに時間のことを聞くのは無駄です。ソラからすれば、地球にきたのも最近の感覚です」 ソラと話していると、カガリの幼少期も一昨日くらいの意識でいるのだ。 生命体として、人間と同じ感覚を要求するのは時間の無駄だ。 「しかし――」 「今は聞く時間です、副司令」 鬼山が冷ややかな顔で嶽村の腕をつかむ。 静かに立ち上る威圧に、嶽村は無礼な……と呟きつつも黙った。 「富士山麓の基地にきた宇宙人は、ソラはどの異星人かわかる? そいつらは何をした?」 『なまえ、わからなイ。前からいル宇宙人。乗り物にノ
五百雀《いおさき》月子は、御厨沙良の部屋で笑い転げていた。 初の給料が入り、両親にも送金はしたがお年頃としてはそれで終わりたくない。 ケーキを御厨隊長の元に持参し、おしゃれな服を売っているところや喫茶店などの話を聞きに部屋に上がり込んで一時間。 御厨が、彼氏の末元修司とデートにいって店員に親子に間違われかけたことなどを面白く語るので、遠慮なく笑っていた。 「親子って、さすがに酷すぎるよね~? 私何歳だと思われてたのかなー」 「彼氏さんがふけてるとか?」 「えー? 修司さんがー? ないない」 ケーキをつつきながら、恋バナに花が咲く。 そんなたわいもない平和な午後が、不意に破られることになった。 バン、とノックもなしにドアが開いた。 そこには、テレビやグッズで顔を知る本部の鬼山中佐がいる。 「え?」 「御厨少佐、本部に来てもらおう。残念だが、質問には一切答えられない」 冷ややかな顔の鬼山中佐にひっぱられ、御厨がよろめく。 本部からの何かしらの要請ならば、基本的にオペレーションルームから通達がくるものだ。 直接部屋に乗り込まれて、連れ出されることはない。 しかも鬼山は土足だった。 「鬼山中佐、失礼ですが乱暴すぎませんか!?」 思わず声が尖った月子を見返す鬼山の目は、絶対零度だった。 「大丈夫だよ、五百雀《いおさき》ちゃん! なんかあるんだよ」 そもそもここは女子寮だ。 男の鬼山が、しかも最強の男が乗り込んできて騒ぎにならないはずがない。 腕を引っ張られて連れ出される御厨を、女子の歓声が見送る。 ――なにを呑気な。 月子の唇が悔しさのあまり、歪む。 アレはキャーキャー騒がれるようなことじゃない。 御厨本人のも話せないと言われたことを、月子
お茶の水基地は、五月の新緑に満ちていた。 あれ以来、Sランク地球外生命体も出現せず、学者がシェルターから飛び出してくることもない。 双子の椎名上等兵がどこまで活躍しているのか、カガリには分からなかった。 今のところ、生島基地司令に呼び出されることも、本部の夜坂司令に呼び出されることもない。 カガリの中で変わったことといえば、カガリのグッズが販売され、お茶の水基地宛てにファンレターを貰うことが増えた。 討伐の任務があると、偵察ドローンがより接近してくるようになったが、気にしないことにしている。 「おー、おつかれさん。任務かなー?」 「啓心……鬼山中佐、お疲れ様です」 本部についたカガリは、鬼山中佐に速攻で絡まれた。 ぐりぐりとこめかみを攻撃されて、カガリは仏頂面になる。 小さいころは、憧れの兄貴的な存在だった。 こまめに遊んでくれた兄貴は、今や最強となった。 パフィオペディルム型が出現してカガリが暴走した際、手痛い目に入ったことを引っ張り出すような器でないのが、幸いだ。 「そんな他人行儀にしなくったってー。啓心って呼び捨ててた頃はどこ行ったー?」 「任務中だし」 「可愛くないなー、少尉殿は」 「オレに可愛かった時期なんかねぇよ」 本部では、三つ目の異髄力が生まれた後に検査された以来だ。 それより前となると、椎名伊織を護送した時だ。 思えば、討伐依頼はあったものの怪我人を治した記憶がない。 「最近本部は平和なのか?」 「ええ? まあねえ、最近は地球外生命体の出現警戒アラートも少し減ったな」 鬼山とカガリが並ぶと、カガリのほうが背が高い。 鬼山は少し背伸びをするようにして、小声を出した。 「ここだけの話、俺は嵐の前の静けさだって思ってんのよね」 「……根拠は?」
「オフィリア05部隊、出撃します」 「通達、了解。作戦プロトコル起動」 異界防衛軍、お茶の水支部。オペレーションルームで矢継ぎ早に言葉が飛び交う。 「偵察ドローン《スカウトオービット》、現地到着。映像、共有します」 「生体反応感知、偵察ドローン《スカウトオービット》を寄せよ」 渋い男の声が、指揮を執る。 お茶の水基地副指令、剣崎《けんざき》政虎《まさとら》がオペレーションルームの長だ。 剣崎が地球外生命体《ヴォイドフォーク》の異髄から得た力は『ニューロ・
検査室で、カガリは生島中佐と再会した。 会議が終わっての立ち合いだ。 生島の場合は検査結果より、カガリの心配で参加している。 「もう慣れてるので、中佐が立ち会わなくても……」 「いや、ぜひ立ち会わせてくれ。私は普段お茶の水支部から出られないからな」 検査機器を持っている人間、紙の書類を持って行き来する人間、と検査室の中は人が多い。 簡易着替えルームで、カガリは重たい礼服を脱ぎ、バイオメタリック・エクソスーツに着替える。 集団に観察される羞恥は、とうに捨てた。 異血覚醒してからというもの、そんなものは無駄でしかない。 検査台の上に横になると、ケーブル類が
「は~、だりぃな……」 不知火《しらぬい》カガリは、ため息をついた。 母親である知世中将の墓参りのあと、異界防衛軍本部に呼び出されたのだ。 亡くなった母の話題は、カガリには重い。 期待と好奇心を背負い続けて、十八になった。 不知火カガリ、階級は兵長。下から四番目の階級だが、今年防衛高を主席で卒業した身では、かなりの大抜擢だ。 異界防衛軍お茶の水支部、オフィリア05部隊にこの春配属されたばかり。 生島中佐は、お茶の水支部の基地司令でもある。 『ドウシタですか、カガリ。ソラとあうのヒサシブリです、うれしくないカ?』 地球外生命体《ヴォイドフォーク》の中で、
西暦2026年。春。 霊園の中を、軍服で歩く二つの影があった。 壮年の男が立ち止まると、まだ少年の面差しのある不知火《しらぬい》カガリも足を止める。 二つあった花束のうち、一つはもう供えてきた。 「ここだね、不知火兵長。君の母上のお墓は……よく手入れされている」 「はっ! 母も喜ぶでしょう。好意で手を入れてくれる方が多いので」 「私が育て、みんなを救ったヒーロー……。今の幹部の多くは不知火名誉中将に救われた面々が多い」 白髪の男――生島《いくしま》慎三郎《しんざぶろう》中佐は、ハンカチを顔にあてる。 過去の思い出が一気に生島の胸に押し寄せてきた。 不