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第4話

Penulis: ちょうどいい
真昼の太陽が、容赦なく照りつける。

気温は見る間に上がり、屋外にいた学生たちはみな、逃げ出すように冷房の効いた寮へと戻っていった。

アスファルトの熱に焼かれ、放置された私の体は、血だらけのままジリジリと干からびていく。

逃げることも、叫ぶこともできない。

ただ灼熱に晒され、まるでゴミのように野ざらしにされた己の肉体を、私は絶望の中で見つめていることしかできなかった。

熱い。苦しい。……痛いよ。

魂となった私は、必死の思いで母のオフィスへと向かった。けれど、そこで目にしたのは、柚季と楽しげに談笑する母の姿だった。

柚季は感嘆の声を漏らしながら、母のノートをめくっていた。それは、かつて母が私のために綴った愛情の記録だった。

「わあ、蘭子先生。これ、全部あなたが考えた栄養メニューなんですか?

一品一品、作り方や効能まで細かく書き込まれて……これだけの量を記録するのに、何年もかかったんじゃないですか?」

柚季が手にしているそのノートを見て、私の胸は激しく締め付けられた。

私が生まれたその日から綴られ始めた、世界にたった一冊の「私のための記録」。これを頼りにすれば、私は健やかに育つ。かつての母はそう信じて、一字一字に愛を込めていた。

母の瞳が、一瞬だけ揺れた。

黄ばんだ紙面を見つめるその目は、どこか遠い過去を懐かしんでいるようにも見えた。

けれど、彼女はその迷いを振り払うように小さく嘆息すると、慈しむように柚季の頭を撫でた。

「あの子も、あなたのように半分でも物分かりが良ければ、苦労しなくて済んだのに」

そこへ、学長が血相を変えて飛び込んできた。

「桐生先生!お嬢さんはまだ外に倒れたままなのかね?30度を超える猛暑だぞ。体が弱いと聞いているし、万が一熱中症にでもなったら取り返しがつかない!」

撫でていた手を止め、母は平然と言い放った。

「あの子は人一倍自分に甘いんです。倒れてまで自分を痛めつけるような根性はありませんよ。

母親の私には分かります。私を困らせようと意地を張っているだけです。放っておけば、そのうち馬鹿らしくなって自分から起きてきますから」

「……そうですか」

学長はそれだけを絞り出すと、納得のいかない表情を隠そうともせずに部屋を後にした。

数分後、ドアが静かにノックされた。

母の表情が一瞬だけ、目に見えて和らぐ。けれど、扉を開けて入ってきた顔ぶれを確認した瞬間、その瞳に隠しきれない落胆の色が差した。

……分かっている。母は、私がしおらしく謝りに来るのを待っているのだ。

けれど、その願いが叶う日は、もう二度と訪れない。

扉の向こうにいたのは私ではなく、奨学金の証書や表彰状を受け取りに来た学生たちだった。

母は瞬時に「仕事用」の笑みを張り付けると、事務的に証書を手渡し、形式的な激励を口にする。

「おめでとう。これからも努力を怠らないようにね」

学生たちは証書を受け取ったものの、顔を見合わせ、どこか申し訳なさそうに視線を落とした。

「……ありがとうございます。でも、私たちが本当にお礼を言うべき相手は、詩凪さんなんです。これは彼女が、自分を犠牲にして私たちに譲ってくれた枠ですから」

母の顔から、笑みが消えた。

部屋の空気が、一瞬で凍りつく。

私はその強張った母の顔を見つめ、自嘲ぎみに笑った。

母は、自分が行ってきた「身内を切り捨てる行為」こそが公正だと信じて疑わなかった。

けれど現実は、娘の努力を奪い、自分のプライドという名の偽りの「公平」を飾るための道具にしていただけだ。

それを今、皮肉にも彼女自身が評価した学生たちが、冷酷に証明している。

母の顔が氷のように冷たく引き締まり、その声には明らかな嫌悪が混じっていた。

「……あの子にお礼など不要です。そもそも、あの子の成績は正当なものではありませんから。私のパソコンのデータを盗み見て一番になっただけのこと。あなたたちこそ、この賞にふさわしいのよ」

学生たちは気まずそうに顔を見合わせ、証書を抱えるようにして足早に部屋から逃げ出していった。

私のすべての努力を、母は「不正」という名の泥で塗りつぶした。その残酷な言葉が、見えない刃となって私の心はずたずたに切り裂かれた。

再び、オフィスの扉がノックされる。

柚季が、思い通りになったとばかりに目を輝かせた。

「蘭子先生、きっと詩凪さんですよ。やっと反省したんじゃないですか?」

母は小さく咳払いをして姿勢を正し、勝者の余裕を漂わせながら扉に向かって声を張った。

「さっきまでの強気はどうしたの?自分がどれほど愚かな真似をしたか、やっと理解できた?

詩凪、自分の過ちを認めて許しを乞うつもりなら、明日の全校集会で一条さんに謝罪しなさい。それから、身勝手な振る舞いで学校全体の名誉を汚したことについて、五千文字の反省文を掲示板に貼り出すこと。それができないなら、もう二度と私を『お母さん』なんて呼ばなくていいわ!」

母が言い終えても、返ってくる言葉はなかった。

ただ、それまで控えめだったノックの音が、こちらの反応を待ちきれないかのように、焦燥を孕んでいっそう激しく打ち鳴らされる。

業を煮やした母が、苛立った様子で自ら扉を荒々しく開け放った。

「……いつまで黙っているの!自分の口で言いなさ――」

けれど、扉の向こうにいた人物を見て、彼女の言葉は凍りついた。

そこに立っていたのは、神妙な面持ちをした二名の警察官だった。

「あなたが、桐生詩凪さんの……お母様ですか?」

不意の訪問者に、母は一瞬目を白黒させたが、すぐにうんざりしたようにため息をついた。

「……ええ。あの子がまた何かやらかしましたか?地べたに寝転がったまま起きないからって、誰かが通報したのですね?」

年配の警察官は、母の言葉に一切同調することなく、ただ重苦しい視線を向けたまま深く頭を下げた。

「……桐生さん。心から、お悔やみ申し上げます。

詩凪さんは、亡くなられました」

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