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第14話

Auteur: 鯉樹鳴
のぞみは治療の結果、大事には至らず、夜には退院できることになった。

学校からの通知を受けて、午後には西村が病院に到着していた。

私はガラス越しにのぞみを見守っていた。

「西村、私たちはもう別れたんです。私は悠真の母親ではないので、悠真の教育に干渉することはありません。でも、あなたが父親として、彼の習慣や認識を正さないのであれば、今日のようなことはまた起こるかもしれません」

西村はスーツを着ていたが、どうやら急いできたようで、着替える暇もなかったようだ。

若い頃、彼はTシャツを着ている姿だけで、私は目を離せなかった。しかし今は、どんなに格好良く見えても、もう一度も彼を見ようとは思わない。

愛と無関心は、時に非常に明確だ。

彼は私の言葉に答えず、静かに尋ねた。「本当に戻らないのか?」

「戻る場所はありません。私は自分の家、そして自分の家族がいます。今後、私たちには交わることはありません。西村さん、どうかあなたの息子が私と再び出会う機会を作らないでください」

その後、私は病室に戻り、のぞみの元へ向かった。

夏令営の引率の先生が、私を少しでも安心させようと教えてくれた。実は悠真のお父さんがこの撮影を提案し、私たちの写真スタジオを推薦したということだった。

それを聞いて、私は西村が悠真を使って、私の心を和らげようとしたことに気づいた。

翌日、撮影は予定通り進行した。

子どもたちはロボット館に集まり、名門の先生たちがロボットの原理やデザインなどを指導していた。

「悠真くん、カメラばかり目を向けないで」

先生に注意され、私はそちらを見ることなく仕事に集中した。

最初から撮影が始まるまで、悠真はもう私を呼ぶことはなかったが、無意識に私を見続けていた。私はずっとそれを無視していた。

悠真は私を見続けることはやめた。ただロボットの組み立てを続けていた。彼はとても賢く、いつも最初に完成し、しかも、類推する力が抜群で、他の人よりもかなり速く進んでいた。

彼が私に気づいて欲しくて、自慢させて、わざと目立つようにしていることがわかっていた。

昔のように泣くことはなくなり、顔にはどこか寂しげな表情が浮かんでいた。

悠真を嫌っているわけではない、ましてや憎んでいるわけでもない。

彼は私が幾度の妊娠の苦しみと流産の危機を乗り越えて産んだ子だから、血は繋がって
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