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第175話
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永遠の毒薬 第620話
晴嵐は眉をひそめ、急いで彼女を追いかけて手を引いた。「どこに行くんだ？体調を良くする気ないの？」璃音はすぐに足を止めて、振り返ると、にっこりと笑って言った。「ごめんね、兄ちゃん。さっき、パパを見てちょっと興奮しちゃって、思わず走っちゃったの」声は柔らかく、少し甘えた感じで、ほんのりと照れた表情を見せた。凌央は眉をひそめ、歩み寄ると晴嵐の手を引き離し、冷たい声で言った。「誰が、璃音にそんなに厳しくしていいって言ったんだ？」乃亜との約束を守れなかったことで、凌央は腹が立っていた。ちょうど晴嵐が璃音に冷たくしているのを見て、感情が爆発した。晴嵐は顔を上げ、鋭い目で凌央を見つめた。その顔に冷徹な表情を浮かべ、まるで小さな大人のような雰囲気を醸し出していた。「凌央、昨日、僕に璃音を妹として大切にするようにって言っただろ？守ったつもりだよ。だから、僕が璃音を心配してるのに、なんで厳しいって言ってくるんだ？」晴嵐は冷ややかに笑い、続けた。「凌央って、本当に面倒くさい人だな」凌央は一瞬、息を呑んだ。三歳の子どもがこんなに鋭い口を利くなんて......乃亜の教育は恐ろしい。「そんなに僕の言動が気に入らないなら、雲間荘に送ってくれ」晴嵐は冷たい目で凌央を睨みつけながら、そう言った。その態度はまるで小さな社長のようだった。凌央は晴嵐の目を見つめ、思わず一瞬戸惑った。こんな小さな子どもが、こんなに強いオーラを持っているなんて......「送らないなら、自分で帰ってもいい。今後もう二度と僕に近づかないでくれ。お互い平和に過ごそう」晴嵐は冷たく言い放ち、ドアの方に歩き始めた。璃音は晴嵐が歩き去るのを見て、急に泣き出した。「お兄ちゃん、行かないで！」と声を上げる。彼女は晴嵐が好きで、離れたくなかった。璃音の小さな体は震え、涙が頬を伝った。凌央は璃音の様子を見て、心配そうに膝を折り、すぐに彼女を抱き上げた。「泣かないで」と、優しく声をかけながら彼女を抱きしめた。璃音は彼の首にしがみつき、涙ながらに言った。「お兄ちゃんを帰さないで！私、泣かないから！」「分かった」凌央は力強く言いながら、晴嵐が走り去ろうとするのを見て驚き、すぐに手を伸ばした。晴嵐は家に帰りたかったが、凌央よりも速く動けなかった。凌央は彼の後ろから一気に追いかけ、晴
永遠の毒薬 第619話
乃亜の言葉を聞いた男は、少し動揺した様子を見せた。顔の表情もわずかに変わり、何かを考え込むように沈黙した。彼は命を懸けて、妻と子どもにいい生活をさせようとしてきた。もし妻が刑務所に入れられ、子どもが施設に送られたら、それは地獄のようなものだ。そんなことは絶対に許せない。だが、彼は生死を賭けた契約を結んでいた。任務がうまくいけば、金をもらってその場を去るだけ。しかし、失敗すれば命はない。紗希が生きていたことを知ったとき、彼は自分の命が尽きるのも時間の問題だと感じた。でも、死にたくない。だから、必死で逃げた。遠くに逃げれば誰にも見つからないと思った。でも、結局ここで捕まってしまった。自分が何も言わなければ、誰にも自分のことはわからないと思っていた。しかし、目の前の女性が、なんと彼の妻と子どもを見つけてしまった。もし何も話さなければ、彼らがどうなるかは目に見えている。どうしよう......乃亜は男が迷っているのを見て、急かすことなく静かに待った。彼女は、こういう決断をするには大きな勇気が必要だと理解していたから。時間が過ぎていき、しばらくしてようやく男が口を開いた。乃亜が部屋を出ると、美しい少女が乃亜の目が少し赤くなっているのに気づいた。「社長、彼は話しました？なんか顔色が悪いけど、大丈夫ですか？」と心配そうに聞いてきた。乃亜は深呼吸をし、感情を落ち着けると、「彼は全て話したわ。これから数日間で、彼の妻と子どもを迎えに行って、一緒に過ごさせるわ。片付け終わったら、次のことを考える」と答えた。「分かりました、社長！それで、今から帰るのですか？もし帰らないのであれば、私たち一杯どうですか？」少女が期待の表情を浮かべた。乃亜は彼女の額を軽く叩きながら、「一口で酔っ払うような人が、毎日酒ばかり飲んでいるんじゃないよ。誰かに攫われてしまうよ」と冗談を言った。「本当に、典型的な酒好きだな」乃亜は心の中でそう思った。少女は額をさすりながら笑顔を見せ、「じゃあ、仕方ないですね」と言った。乃亜が冗談を言える余裕を見せたことで、少女も安心した様子だった。「私はもう行かなきゃ。裕之のところの動き、忘れずに報告してね」乃亜は手を振って、部屋を出た。少女は乃亜の背中を見送りながら、「社長、何を聞き出したんでしょう？
永遠の毒薬 第618話
彼らはもう、戻れない。息子を迎えに行くと、明日には拓海と一緒に市役所で婚姻届を出す予定だ。「凌央、晴嵐はどこにいる？今すぐ迎えに行くから」乃亜はできるだけ冷静に、でもどこか強い口調で言った。「俺の家にいるよ。昔、お前が住んでた場所だ。来るなら、来い」凌央は淡々と言った後、電話を切った。乃亜は携帯を握りしめて、歯を食いしばり、怒りが胸の中でふつふつと沸き上がった。凌央、あの男、ほんとうにムカつく！心の中で凌央を散々罵りながら、乃亜は車を走らせた。別荘を出たばかりで、携帯が鳴った。凌央だと思って、乃亜は電話を取ると冷たく言った。「すぐ行くから」でも、心の中では行ったら少しだけ彼に仕返ししてやろうと思っていた。「社長、あの日、小林さんを車で轢いたのは誰か分かりましたよ！」乃亜は驚いて急ブレーキをかけた。「その人、今どこにいる？」「ここにいます。急いで来てください」乃亜は迷わず決断した。「分かった、すぐ行く」そして車をUターンさせ、再び急いで向かう。凌央はシャワーを浴びて、バスローブを着てソファに座って待っていた。雲間荘までは20分程度。少しだけ仕事を片付けた後、乃亜が到着する時間が近づいていた。彼は乃亜が戻ってくることを考えると、何故か胸が高鳴り始めた。乃亜と別れてから、女性と関わることはなかった。仕事が忙しくて、欲求も薄れていたが、たまには自分で解消することもあった。だけど、乃亜が戻ってきたら、きっとそんなことも自然に再開するだろう。一緒にいた時の熱い想いがよみがえり、体が自然に反応し始める。今すぐにでも彼女とあの感覚を味わいたくてたまらない。その間、乃亜はすぐに目的地に到着した。「社長、感情を抑えてくださいね。手を出すとしても、顔だけは殴らないようにしてください」可愛らしい少女が、乃亜に話しかけながら資料を渡してきた。「この男の情報を全部集めました。正直、かなり冷酷で危険な人物ですよ」乃亜はその少女の真剣な表情に微笑んだ。「忘れないで、私は弁護士だよ」と言いながら、資料を受け取り、素早く目を通した。少女はようやく安心したようで、「そうですね、忘れてました。じゃあ、あなたが聞いてみて」と言った。乃亜は扉を開け、部屋に入った。男が冷ややかな目で彼女を見つめている。その目には「お
永遠の毒薬 第617話
乃亜は驚きのあまり、目を大きく見開いた。「え、何？」凌央、あの人、どういうつもり？拓海は乃亜の顔をじっと見つめてから、静かに言った。「竹中さんが言うには、今日は娘さんを連れて遊びに来ていたんだそう。だから、彼が晴嵐を迎えに来たとき、ただの友達だと思って、止めなかったって」乃亜は少し考えてから、ため息を着いた。璃音が可哀想だと思って、凌央に来てもらっただけなの。病院で一人ぼっちだったし、友達もいないだろうから。まさか、凌央が私の同情心を利用して、晴嵐を連れて行くなんて、全く予想してなかった。乃亜の反応を見て、拓海は理解した。彼は乃亜を責める権利があるわけではなかった。この家は彼女のものであり、晴嵐も彼女のものだ。彼女に決定する権利がある。ただ、心の中に少しだけ失望感が残った。彼らの間には、どうしても何かが足りないのだと感じた。乃亜は少し立ち止まり、深呼吸をしてから答えた。「前に、晴嵐が女の子用のドレスを買って、凌央の娘に渡したいって言ってたの。彼女と遊びたかったみたいで、急いで出かけるつもりだったから、つい凌央に来てもらうことにしたけど......こんなことになるなんて、考えもしなかったわ」彼女は苦笑を浮かべながら言った。14年も一緒にいたのに、いまだに彼を完全には理解できていなかった。拓海は乃亜の頭を優しく揉みながら、静かに言った。「心配しないで、彼は晴嵐を傷つけたりしないよ。さあ、晴嵐を迎えに行こう」でも心の中で、凌央が晴嵐を連れて行く目的はただの親子のことではない気がした。まさか......彼は晴嵐を利用して乃亜を自分の元に引き寄せようとしているのか？そうだとすれば、彼らが行っても、晴嵐を取り戻すのは難しいだろう。乃亜は深く息を吸い込み、拓海の手を軽く握った。「拓海、私一人で行くよ。あなたは家で待ってて」少し間を置いて、乃亜は続けた。「凌央とのことは、私が解決しなきゃならない。あなたが一緒に行ったら、きっと彼があなたに八つ当たりする。私はあなたに傷ついてほしくない」彼女は、もし凌央が拓海に手を出したら、自分がそのせいで彼に迷惑をかけてしまうことを恐れていた。拓海は彼女の心配そうな顔を見て、軽く笑って言った。「乃亜、もっと......僕に頼ってもいいんだよ」君を支えるためにいる
永遠の毒薬 第616話
堅達は、まるで何も気にしていないかのような態度で、得意げに直人を見つめながら、無言の挑発として目を細めていた。紗希がいる限り、俺は何も怖くない。直人は怒りを抑えきれず、堅達に殴りかかりたい衝動に駆られた。だが、紗希が目の前にいるから、手を伸ばせなかった。「病院に連れて行ってください」紗希はこの場を堪えきれなくて、声が小さく震えた。心の中は不安でいっぱいだった。直人が無理矢理でも自分をここに残してしまうのではないかと、胸の奥が痛んだ。「わかった。病院に行こう」乃亜は静かに言った。直人が手を伸ばして紗希を抱き上げようとした瞬間、堅達が先に彼女を抱きかかえた。そして、穏やかな口調で言った。「車まで抱いていくね、行こう」紗希は何か言おうとしたが、堅達が耳元に寄って優しく囁いた。「もしあいつに抱かれたいなら、すぐ放すよ」紗希は軽いが、流石に乃亜では持ち上がらなかった。紗希は言いかけた言葉を飲み込み、黙っていた。直人と堅達の間で、彼女は堅達を選んだ。直人はあまりにも怖かった。彼に対する恐怖があまりにも強く、顔を見るだけで心がふるえて止まらなかった。堅達は紗希を抱きかかえながら、わざと直人の方を見て笑った。直人の顔は腫れ上がっていて、なんだか滑稽だった。乃亜は紗希の足元を気にしながら前に進み、あの二人の駆け引きにはまるで気づいていなかった。直人は怒りを抑えきれなかった。どっと怒りが湧き上がって、止められなかった。くそ、こいつ！堅達の挑発に、もう冷静さを失っていた。直人はボディーガードに合図を送った。するとすぐに、堅達は取り囲まれた。堅達はそれを察知し、眉をひそめた。「まさか、こんな手を使うつもり？」紗希を抱いている今、こんなに多くのボディーガードに囲まれては、独りではどうにもならない。紗希の顔色はさらに青白くなり、深く息を吸った。「放して。あなた、早く逃げて。私なんかもう役に立たないし、ここにいても無駄だから」彼女は堅達に向かって、冷静に言ったように見えたが、声の震えが隠せなかった。だが堅達は、その言葉に不安を覚えた。「ダメだ。君をあいつに渡すわけにはいかない。俺は君と一緒にここから逃げる！」紗希は唇を噛んだ。本当は、直人と一緒にいるのは絶望的だった。今の彼は冷酷で、一緒に
永遠の毒薬 第615話
乃亜は驚いて頭を振り向けると、紗希のまぶたがわずかに震え、まるで蝶の羽が動くように、少しずつ目を開けているのが見えた。乃亜はほぼ反射的に駆け寄り、膝をついて紗希の横に座った。優しさと心配が込められた目で、「どう？痛いところはない？教えて」と尋ねた。紗希の目がゆっくり開き、朝日のようにぼんやりとした光の中にわずかな痛みが見え隠れしていた。彼女の指が微かに動き、震えながら唇を指し示すと、ゆっくりと首を横に振った。その動きには、無力感と必死に耐えようとする気持ちが見て取れた。乃亜はその瞬間、胸が重くなり、紗希が指を向けたのが「舌の痛み」を意味していると理解した。「大丈夫、後で病院に行って治療しようね」紗希は無言で頷き、彼女の胸に顔をうずめた。「うん」その時、直人は紗希が目を覚ましたのを見て、まるで風のように駆け寄り、紗希の前にしゃがんだ。焦りと不安がにじみ出ている。彼はほとんど迷わず、手を伸ばして紗希の手を取ろうとした。紗希はすぐに手を引っ込め、鋭く彼を睨みつけた。「離して！あなたなんか、見たくもない！」話すたびに舌が激しく痛み、その痛みは胸を引き裂くように感じた。直人は彼女の顔を見つめ、目には決意と優しさを込め、低い声で急かした。「紗希、戻って来て。俺はお前を一生幸せにする。結婚しよう」その声には、頼んでいるようで、どこか誓いのような響きがあった。紗希は彼の顔をじっと見つめた。彼女は彼が鉄の鎖で手首を縛っていた記憶を思い出し、体が微かに震えた。拒絶しようとしたその時、突然聞こえた声があった。「紗希、もう彼と話すな！」紗希は振り返ると、堅達がいつの間にか後ろに現れていた。顔には青あざができ、口元から血が垂れていた。堅達とは三年も知り合いだったが、いつも清潔で大人しい印象の彼が、こんなにも無様に見えるとは思わなかった。直人はすぐに振り向き、堅達を鋭く睨みつけた。二人の間に張り詰めた空気が漂い、火薬の匂いが感じられた。紗希は無意識に乃亜に抱きつき、「乃亜、病室に戻りたい」と言った。彼女はこのままここにいたら、直人が許さないだろうと感じていた。直人は堅達をじっと見つめ、拳を握りしめた。青筋が浮かび、内心の怒りを必死に抑えつつ、低く力強い声を発した。「堅達、どういうつもりだ？」
