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第190話
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永遠の毒薬 第382話
「もう電話で手配したよ。明日の夜7時に迎えに来るから、その時に新しいパスポートも渡してくれるって」裕之は美咲の胸元の傷をちらりと見て、眉をひそめた。「もし道中で傷が感染したらどうする？」「薬は多めに持っていくから大丈夫」彼女は今、桜華市を離れることが最優先だ。命がかかっている状況で、傷のことなど気にしていられなかった。ここに長くいるほど危険が増す一方だ。命をかけてでも逃げなければならない。「それと、お前に頼まれた家と車の件、まだ買い手が見つからないけど、先にそのお金を渡すよ。ゆっくり売ればいいから」裕之は財布からカードを取り出し、美咲に渡した。「これが俺が今持っているお金、1億だ。受け取って」美咲はその気持ちに感動した。もし追い詰められていなければ、きっと裕之と結婚していたのだろうと思う。裕之のように全身全霊で自分を愛してくれる人には、もう二度と出会えないことを彼女は理解していた。「これからは一人で、しっかり自分を守ってね」裕之は優しく言った。美咲は胸が締め付けられるような思いで、目を赤くしながら、裕之を強く抱きしめた。「裕之お兄さん、もし来世があるなら、絶対にあなたの妻になる！」この一生、間違えた。次の人生では絶対に同じ過ちを犯さないと誓った。裕之は言葉を詰まらせた。長年愛してきた女性が、とうとう遠くへ行ってしまうのだ。再び会うのがいつになるか、分からない。その頃、古風な茶室の個室で、凌央は悠然とお茶を飲んでいた。まるで何事もなかったかのように。「凌央、最新の情報だ！」扉が開き、男性の焦った声が響いた。凌央は眉をひとつ上げ、振り向きもせずに言った。「どうした？」「今、聞いたんだけど、裕之が明日の夜、桜華市を離れるチケットを取ったらしいよ！」男性は18歳くらいに見える、童顔でカジュアルな服を着た若者だ。凌央は唇を少し動かして、「ふーん」と無関心そうに答えた。「もし彼女が船を使うなら、今まで準備したことが無駄になる」男性はテーブルの向こう側に座り、自分で自分の茶を注ぐと、一気に飲み干した。「でも、正直言って、美咲がお前の指示に従わず、裕之に助けを求めるとは思わなかった。彼女、なかなか賢いな」「じゃあ、今すぐ病院に行って、彼女に褒めてきたらどうだ？」凌央は冷たい目で彼を見つめ
永遠の毒薬 第381話
「知りたいことは、調べられる」凌央は淡々とそう言った。まるでどうでもいいことのように。裕之は、どこか不安な気持ちを抱えた。長い付き合いの凌央との友達関係には、特に争いもなかった。だから、彼はすっかり忘れていた。凌央が本当はとても危険な存在だということを。凶暴で、まるで狼のような男だ。敵に回すと、最後には食い尽くされてしまう。「もしお前が今不便なら、また今度話そう。でも、桜華市は狭いから、思いがけないところで会うかもしれないぞ」凌央はそう言い、電話を切った。裕之は携帯を握りしめ、震える手を感じた。凌央の言葉には、明らかな脅しが込められている。しばらく考えた後、裕之は美咲を送り出す決心をした。賭けてみる価値はある。運が良ければうまくいくかもしれない。その考えが浮かぶと、少し気が楽になった。裕之はタバコを一服吸い、病室に向かって歩き出した。病室では、美咲が携帯を見ながらニュースのトレンドをチェックしていた。顔は怒りで真っ赤になり、体が震えていた。裕之はその姿を見て、思わず声をかけた。「何を見てそんなに怒ってるんだ？」美咲は深呼吸をして、手に持った携帯を見せながら言った。「誰かが私を殺人犯だって誹謗してる！」彼女は自分が人を殺したとは思っていなかった。むしろ、法律に従って罰を受けるべきだと思ったことはなかった。あの人たちは死んで当然だと思っている。だって、ただ助けただけだから。信一、あいつは障害者で変態だから、死んで当然だ。「そんな言葉、見るだけ無駄だよ。見ると余計に辛くなるし、気分も悪くなる」裕之は美咲の横に座り、彼女の目を見つめながら言った。「実は、聞きたいことがあるんだ」美咲の心は一瞬、ざわついた。裕之が電話をかけていた時、何かを聞いてしまったのだろうか？まさか、彼はもう助けてくれないのでは？「緊張しなくていいよ。気軽に聞くだけだから、答えたくなければ無理に答えなくていい」裕之は優しい口調で言った。いつも通りの会話のように。美咲は心を決めて言った。「それなら、質問して。わかる範囲で答えるわ」裕之は少し考えてから言った。「お前が問題に巻き込まれた時、なぜ凌央に頼まなかったんだ？」さっき凌央からの電話で、裕之は気づいた。美咲が言った時、彼は自分が信頼されていると思った。頼り
永遠の毒薬 第380話
彼女のためなら、すべてを捨てる覚悟がある。どうして？「美咲、すまない」裕之は悔しそうな顔をしていた。美咲を失ったとしても、また好きな人に出会うかもしれない。でも、母親を失ったら、もう誰も彼に心から愛を注ぐことはないだろう。美咲は笑って言った。「何謝ってるの、バカね！」未来が突然、不安に感じるようになった。「少し休んでて、電話をかけてすぐに手配するから」裕之は彼女を抱き、そっと顔にキスをした。もしかしたら、もう二度と一緒にはいられないかもしれない。美咲の目元が急に赤くなった。もしあの時、裕之を選んでいれば、今頃は幸せな日々を送っていたのだろうか？でも、「もしも」という言葉は、この世界には存在しない。自分で選んだ道だ。どんなに辛くても、最後まで歩き続けるしかない。「泣かないでくれ！二年後、こっちの状況が落ち着いたら、こっそり迎えに行くから、な？」裕之は彼女の涙を見て、胸が痛んだ。美咲は涙を拭い、強く頷いた。「うん！」明日がどうなるか、誰にもわからない。「もう、無駄なこと考えないで」裕之は優しく言って、彼女の顔を軽くつねった。美咲は頷いた。「電話かけてきてね」裕之は「うん」と言い、ドアの外に向かって歩き出した。美咲は彼の背中を見ながら、心の中で言いようのない感情を抱えていた。初めて会った時から今まで、裕之は美咲に関することを一度も聞かなかった。彼は興味がないのだろうか？それとも、彼女を信じているのだろうか？それとも......彼は実は、美咲の前で演技をしているのだろうか？美咲はそんなことを考えていると、裕之はもう洗面所に入り、電話をかけていた。低い声で、「明日、誰かを海外に送ってくれ」と言った。電話を切った後、裕之は壁にもたれかかり、タバコを取り出して火をつけた。煙の中で、美咲が涙を流している姿が浮かんだ。子供の頃から、美咲はよく蓮見家に遊びに行っていた。裕之は、もう自分にはチャンスはないと知っていた。しかしその後、美咲の夫が亡くなった。裕之は、自分がついにチャンスを手に入れたと思った。しかし、美咲は言ったのだ。「愛しているのは凌央なの、彼と一緒にいたい」その言葉で、裕之の心は再び引き裂かれた。生きているのも辛
永遠の毒薬 第379話
美奈子は裕之の言葉を聞いて、泣き崩れた。「裕之、私はあなたの母親よ！どうしてこんな風に私を扱うの！」この数日、夫の浮気で精神的に追い詰められていた美奈子は、ますます支配的になっていた。夫を失いたくない。そして息子をしっかり自分のものにしなければ、他の女に奪われてしまうのではないかという恐怖が強くなっていた。裕之は、この状況に心の中で不満を抱えていた。美奈子からの過剰な干渉に苛立ちを感じ、無意識に眉をひそめて言った。「黙れ！」父親の浮気を母親が怒るのは理解できるが、なぜ毎回自分に当たり散らすのか。もう耐えられなかった。「言っとくけど、裕之、お前は莉子と結婚するの。他の女なんてダメよ！特に美咲なんて絶対にダメ！もし彼女を家に迎えたら、その場で死んでやるから！」ここ数日、ネット上で美咲の話題が多く、彼女は見るたびに罵倒していた。美咲が愛人であり、ここまで悪質だとは思いもよらなかった。「母さん、俺のことは放っておいて。俺には自分の考えがあるんだ」裕之は美咲を悪く言われるのを聞きたくなかった。心の中のイライラが募り、無意識に声に怒りを込めて言った。「今、あの最低な女と一緒にいるんでしょ？私にこんなに冷たく接して！」美奈子は顔を真っ赤にして、容赦なく罵倒を浴びせる。「あんな女が！自分の夫を殺し、義弟を誘惑し、乃亜のおばあさんを死に追いやったのよ、！そんな悪意に満ちた女を、なぜ好きなの？」理解できなかった。裕之が美咲を好きでい続けることが、まるで病気のようだと感じていた。「母さん、あまりにもひどすぎるだろ！」裕之は言い終わるとすぐに電話を切り、これ以上母親が干渉しないようにした。温柔だった母親が、どうしてこんな風に変わってしまったのか、裕之には理解できなかった。「裕之お兄さん、もしかしてお母さんに会いに来るなって言われた？それなら、早く帰ったほうがいいわ。私のことは気にしないで」美咲は目を赤くし、胸を押さえながら可愛く頼んだ。裕之は唇を噛みしめ、心から心配そうに言った。「傷が痛いなら、無理に話さずに休んでいてくれ」美咲は彼に手を伸ばし、優しく言った。「じゃあ、あなたはどうするの？ここを離れるつもり？」美咲は心の中で少し考えた。もし彼女が逃げ出せたら、しばらくは隠れて生活
永遠の毒薬 第378話
美咲の目には、これまでにない決意と不安が入り乱れていた。彼女はシーツを強く握りしめていた。まるでそれが今の唯一の支えであるかのようだった。病床の脇に立つ裕之は、彼女を見つめながら、表情を見るが、表情は読めなかった。「裕之、お願い、ここから連れ出して......」美咲の声は低く震え、言葉一つ一つが心の奥から絞り出されたように、強い切実さが感じられた。美咲の目は赤く腫れ、涙が溢れそうになったが、必死にこらえていた。その目には未来への恐怖と、今の状況に対する無力さが混ざり合っていた。裕之は病床の前に立ち、彼女の存在を感じながら、静かに見守っていた。その大きな背中が、薄暗い病室に重い影を落とす。裕之は美咲をじっと見つめ、その深い瞳には複雑な感情が一瞬だけ浮かんだ痛み、無力感、そして何か言葉では言い表せない決意があった。「美咲、約束する。でも、これは簡単では無いことを理解して欲しい。国際的な問題は、俺たちが思っているよりずっと複雑だ。できる限りのことをして、お前を守る道を作るよ」その言葉は低く、力強かった。一つ一つが約束のように美咲の心に響いた。美咲はその言葉を聞いて、ついに涙があふれた。涙は真珠のように頬を伝い、次々と落ちた。彼女は体力を無視して急に起き上がり、裕之を強く抱きしめた。その瞬間、二人の体は一つになり、共に重い運命を背負っているように感じられた。「裕之、ごめん......本当にあなたの妻になりたかったの。あなたと共に生きたかったわ。でも現実は残酷すぎて、私はここを離れなければならないの。この後悔は、きっと私の心にずっと残る痛みになるわ」美咲の声は震え、言葉一つ一つが深い愛情と未練を込めていた。美咲は裕之の腰を強く抱きしめ、まるでその温もりを永遠に心に刻もうとしているかのようだった。裕之は美咲の体温を感じ、その胸に広がる酸っぱい痛みを抑えきれなかった。裕之は優しく美咲の背中を撫で、慰めるように言った。「美咲、そんなこと言わないで。君がどこにいても、俺は君の一番の支えだよ。君の幸せが、俺の一番の願いだ」病室の中、時間が一瞬止まったように感じられた。外から聞こえる風の音さえも、今は耳障りに感じられる。そして狭い空間の中、二つの心はしっかりと繋がり、共にこれからの未来と困難に
永遠の毒薬 第377話
凌央は眉をひそめ、少し苛立ちながら言った。「何を言っているんだ！俺と美咲の間に何もない！寝たこともない！」凌央は、以前乃亜に説明したことをはっきり覚えている。それなのに、どうしてこんなことを言うんだ？乃亜は、どうやら自分の言ったことをまったく覚えていないようだ。「あの日、美咲がたくさんの自撮りを送ってきたしあんな格好していたのに、あなたは彼女に手を出さなかったの？」乃亜は信じていない様子で言った。どうせ凌央は何度も嘘をついてきたから、今さら信じるわけがない。「出さなかった！俺は書斎にいたんだ！それに、彼女が来たことも知らなかったんだ！」以前の凌央なら、説明なんてしなかっただろう。でも、乃亜と離婚してから、少しは夫婦としての関係を見直すようになった。疑問があれば、ちゃんと聞くべきだと。長い間心に抱えていると、やがて矛盾が生まれてしまう。もし、昔これを理解していれば、乃亜と離婚せずに済んだかもしれない。「乃亜、前にも言っただろう？俺にはお前だけだって」凌央は、何も恥ずかしがることなく、堂々とそう言った。乃亜は彼の言葉を聞きたくなかった。まるで彼が自分に関係を持ちたがっているように感じた。でも、今の乃亜は、すでに心が冷えていて、何も感じなかった。「クローゼットの中の服はそのままだ。触ってないから、自分で着替えを探せ！」凌央がそう言い終わると、携帯が鳴った。彼は簡単に伝え、急いで部屋を出て行った。部屋のドアが閉まると、乃亜は素早く走って鍵をかけた。鍵をかけた後、クローゼットに向かい、服を探し始めた。すると、クローゼットの中にいくつかのセクシーな下着が見つかった。それが美咲のものだとすぐに分かり、嫌な気持ちがこみ上げてきた。乃亜は急いで、控えめな服を選んで部屋を出た。階下のリビングは静まり返っていて、凌央の姿は見当たらなかった。どうやら、先ほどの電話は美咲からかかってきたようだ。美咲に関することには、凌央はいつも即対応する。小林が水を持ってきてくれたその時、啓太の電話がかかってきた。乃亜は急いで電話を取り、軽く「先輩！」と呼びかけた。「乃亜、重要な話があるんだ！」啓太の声には、少し焦りが感じられた。「何ですか？」乃亜はまだ何のことか分から
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