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150話 全てを燃やす炎

作者: 子猫
last update publish date: 2026-06-23 22:58:00

少しの間不思議な感覚に思いを馳せていたが、当初の目的を思い出す。

「…ナイフはやりすぎたかしら。」

ゆっくり立ち上がりながら、優希は小さく呟いた。

実際、返り討ちに遭う可能性もあるし、揉み合いになった結果2人とも怪我を負う危険性もあった。

怖がらせるためとはいえ、衝動的すぎたと唇を噛み締め、自分を戒める。

(優越感に溺れるのは危険だわ。)

そう反省し、拾ったナイフをお皿に戻すと、お皿の影に置いていた携帯を取り出す。

それは有美に見せたものとは別の、以前老夫人が優希に与えた新しい携帯だった。

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  • 白月光は妹?私が死んでから元夫は泣いて後悔しました   152話 門出

    「あの愛人も、妊婦を階段から突き落としたり、記事をでっち上げたり、頭おかしいよ!あの記事でゆうちゃんがしたって書かれてることって、むしろあの愛人がしたことじゃないの!?」 「どっちも気持ち悪い!!」と吐き捨て、茜は話すごとに怒りを募らせていく。 そんな中でも茜のメイク技術は素晴らしく、メイクを施す手の迷いのなさに、優希はストレスを感じなかった。 「そうね…優希が受けた仕打ちはとても惨いことだわ。」 ようやく開けることができた優希の目に、綾子が目を伏せるのが見えた。 何と声をかけようかと迷っていると、目を上げた綾子が「あら…。」と声を出す。 「そこ、跡が残っちゃったの?」 綾子の視線の先には、昔優希が階段から落ちて怪我をした頭。 そこは怪我の影響か、一部髪の毛が生えていないところがある。 髪を結ぶために、茜が触っているから見えたようだ。 薄毛の範囲も狭く、普段は髪に隠れてわからないので優希自身はあまり気にしていないが、綾子は心配しているように眉を下げている。 気を遣わせてしまったかと思い、優希は普段は見えないので気にしていないことを伝えた。 綾子たちとのまともな会話は初めてだったので、彼らに嫌な気持ちになって欲しくなかったからだ。 「…目立たなくて良かったわね。」 綾子は優しく微笑むとそう言った。 しかしその笑みは、優希には少し切なく見えた。 (傷の跡が気持ち悪かったかしら…。) 理由がわからず、優希も気まずそうに目を伏せる。 車内には微妙な空気が流れるが、気づいていない茜の「できた!!」という元気な声に、優希は小さく息を吐いた。 「うわぁー!!ほら、見てみて!!」 興奮気味な茜から大きな手鏡を渡され、優希は素直に覗き込むと、すぐに何度も助手席の綾子と見比べる。 「嘘…これが私?」 鏡の中にはまさに綾子本人が映っており、輪郭から細部の皺、髪質に至るまで、優希の頭の中が混乱しそうになるほどそっくりだった。 「顔はシリコンでできた特殊パーツで輪郭を変えて、ウィッグは専門の人に、お祖母さんの写真を見せて作ってもらったの!特注品よ!」 得意気に説明する茜。 綾子も驚き、感心したように言う。 「まぁ、松三さんも見分けがつかないんじゃないかしら。」 運転席の松三が鼻で笑う

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    ピロン その時、優希の携帯がひとつの通知音を鳴らした。 優希の意識も過去となった自宅から離れ、未練なくその目を携帯の画面に移す。 その後通知音は立て続けに鳴り続け、それほど広くない車内では耳障りなくらいだったが、それは優希が予約投稿していたものが次々と投稿されている音なので気分は悪くない。 実は前もって新しいアカウントを作り、優希のアカウントをフォローしていた。 投稿が完了していくのを確認している間にもリポストの数は増え続け、同時にコメントも倍増していく。 "これ本物ならヤバくない?" "偽物に決まってるじゃん。記事通りの頭イカれた女だよ。" "ありえない!女神を裏切ってたのか!?" "いや、スクショ見た?女の方も既婚者って知ってるじゃん。" "奥さんが井竜社長の不倫と愛人の挑発に耐えかねて焼身自殺したってこと?" 「上手くいった?」 優希の携帯を覗き込んだ茜は、更新され続けるコメントを読むと手を叩いて笑った。 「いいじゃん!これを見たあの人たちの顔が見れないのが残念ね!」 優希も小さく笑って頷く。 気づけば車は動き出しており、家から遠ざかっていくと、すれ違う消防車や救急車が増えていく。 「優希!」 優希が茜とコメントを読んでいると、運転席から大きな声が聞こえた。

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    少しの間不思議な感覚に思いを馳せていたが、当初の目的を思い出す。 「…ナイフはやりすぎたかしら。」 ゆっくり立ち上がりながら、優希は小さく呟いた。 実際、返り討ちに遭う可能性もあるし、揉み合いになった結果2人とも怪我を負う危険性もあった。 怖がらせるためとはいえ、衝動的すぎたと唇を噛み締め、自分を戒める。 (優越感に溺れるのは危険だわ。) そう反省し、拾ったナイフをお皿に戻すと、お皿の影に置いていた携帯を取り出す。 それは有美に見せたものとは別の、以前老夫人が優希に与えた新しい携帯だった。 家の中を見回った時に引き出しから取り出していたのだ。 携帯を操作して、録音停止ボタンを押す。 もう一度操作すると、携帯から声が流れた。 『単刀直入に言うわね。さっき私が遭遇した暴走タンクローリーは、あなたの差金かしら。』 それは先ほどの有美との会話だった。 少し音が遠いが、雑音もなくきちんと録音されていることを確認すると、優希は満足げに口角を上げる。 有美に確認したかったこと、というより欲しかったものがこれだった。 録音内では、タンクローリーの件は肯定していないが否定もしておらず、むしろ肯定と取れる発言

  • 白月光は妹?私が死んでから元夫は泣いて後悔しました   149話 衝動

    「その時はその時ですね。何かあればまた子供を作ればいいんです。」 その言葉で優希の頭の中は異常なほど静かになり「そう。」と言うと手だけは機械的に食べかけのオレンジを口に運び出す。 しかしその顔からは一切の表情が消え、ゾッとする冷たさを放っていた。 「まぁ色々話しましたけど、つまり私にとってお姉さんは立場もその抱えているモノも邪魔なので、いなくなってほしいと言うことです。」 「正妻の座を降りて子供も堕して、二度と目の前に現れないと契約書にサインするなら、これ以上は見逃しますよ。」 この女は人の心がない。 人の痛みがわからない、否、わかろうとしない悪魔だ。 口をついて出そうな言葉を、オレンジと一緒に飲み込む。 (…少し、邪魔と切り捨てられる気持ちをわかってもらおうかしら。) このままでは、老夫人や美緒にも危険が向かうかもしれない。 それ以前に有美のお腹の子が心配だ。 優希の胸に冷たい決意が固まる。 (卑劣な悪魔は私じゃない…あなたよ。) 「有美ちゃん、前に私が言ったことを覚えている?私を攻撃したらそれ相応の対応をするって。」 オレンジを食べ終え、汚れた指を拭きながら静かに言う。 感情を揺さぶられた様子のない優希に、有美の眉が僅かに反応したが、優希の問いには返事をしなかった。 「私は聖女じゃないから、納得できない不当な扱いを黙って受け入れることはできないわ。私の子供への侮辱でもあるもの。」 爪の中まで綺麗になったことを確認すると、ティッシュを捨てて椅子から立ち上がる。 「それでもあなたが私を排したいと言うなら、私は私と子供を守るために抵抗するわ。」 立ち上がった優希を見る有美の怪訝そうな目は、優希の手に握られたものに気づくとぎょっと見開かれた。 優希の手に握られているものは、オレンジを切ったフルーツナイフ。 余裕の表情が恐怖に塗り替わり、近づいてくる優希から逃げようとソファの上を後ずさる。 「お、お姉さんにそんな度胸はないわ!暁春に負い目があるんでしょう!?あ、暁春の大切な人である私への暴力は、暁春に楯突くことと同じよ!!」 「おかげさまで、私の子供を侮辱したあなたたち2人への怒りと嫌悪感で、暁春への罪悪感もだいぶ影が薄くなったみたい。」 ソファの肘掛けにぶつかって逃げ場がな

  • 白月光は妹?私が死んでから元夫は泣いて後悔しました   148話 確認

    「有美ちゃんはここで私とお留守番していましょう。」 優希がそう言うと、2人は驚いた表情で見てくる。 「大丈夫よ、取って食べたりしないわ。道路は危険がいっぱいだもの、家で待っていた方が安全だわ。」 訝しむ2人に「さっきの私みたいに。」と言えば、だいぶ迷った暁春も渋々玄関に向かった。 それを追いかけ、靴を履く背中に言い慣れた言葉を言う。 「行ってらっしゃい、気をつけてね。」 何百回も行ったこの言葉を同じ表情、同じトーンで言いながらも、優希は初めて心を込めていなくても言えるのだと思った。 しかしそれに顔を歪ませた暁春は、珍しく言葉に詰まった後「…後で話そう。」と言って出ていった。 (後なんてもうないのよ。) 心配と寂しさで見送っていた背中を、最後は無関心で見送ることにすら何も感じず、扉が閉まった瞬間、お面が外れたように優希の表情も消える。 エンジン音が聞こえなくなるのを確認してからリビングに戻ると、有美はソファに座って爪を弄っていた。 有美を残したのは、確認しなければいけない

  • 白月光は妹?私が死んでから元夫は泣いて後悔しました   147話 幸せの庭

    1人になった優希は玄関を振り返ると、何となく家を眺める。 4年間暮らした家は見慣れているようで、でも違う家のように感じた。 庭に足を伸ばしてみると、1か月前まで綺麗に咲き誇っていた石楠花の花はすっかり落ちており、今は緑の葉だけだった。 (広い庭…。) 庭には季節ごとに咲く草木が植えられ、とても広い。 初めてこの庭を見た時、将来の子供の遊び場を用意するためだと思った。 滑り台、ブランコ、砂場。 少し大きくなったら秘密基地のようなツリーハウス。 ぼんやりと庭を見つめていると、子供が暁春と楽しそうに遊んでいる光景が浮かんだ。 優希が夢見た、しかし幻と消えた光景。 優希はゆっくりと目を閉じる。 耳にはまだ子供の笑い声が聞こえるようである。 頬を撫でる風を心地よく感じ、嗅ぎなれた空気を肺いっぱいに吸い込んだ。 そしてまたゆっくりと目を開けると、そこにはただ広い芝生が広がっているだけ。 (ここにこだわる必要はないの。新天地でこの子が好きなものを揃えればいいのよ。)

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